The sage cries out.
"Open, Gates of Heaven. Bless us and bestow miracles upon us!"
The sage cries out in regret.
"Close, Gates of Heaven. Save us from all our sins and evil!"
賢人が叫んだ。
「開け、天の門よ。我々を祝福し、奇跡を我々に授けよ！」
賢人が後悔に叫んだ。
「閉じろ、天の門よ。我々を罪と悪から救ってくれ！」
―――深い暗闇と粘りつくような濃密な魔力の中、歩いていた凛達は巨大な空洞へと足を踏み入れる。
その場に足を踏み込んだ凛とセイバーは絶句していた。
彼女たちの前に広がるのは、果てしのない天蓋と黒い太陽。そして、それを祭る祭壇のような生々しい造型の塔。
そこはまるで月面のような荒涼とした大地。
その空洞は直径にして２〜３キロはあるだろう。
これこそが二百年続いたシステム、半径５０ｍ以上、すり鉢状の岩壁に刻まれた何十もの多重層刻印。
何十もの魔術回路と魔法陣。
―――これこそ、聖杯戦争の中心、あらゆる願いを叶える願望機。
その名を大聖杯。テンノサカヅキ。
かつて冬の聖女と詠われた彼女が自らの身を犠牲に作り上げた大魔術の根源である。
だが、かつては清浄な空気に包まれていた聖地は、穢れた魔力によって侵し尽くされた不浄の地へと変貌していた。
その生々しく忌まわしい魔力の根源こそが、大聖杯上空に存在する黒い太陽。
忌まわしいそのその闇は、何となくだが、胎児の形を模しているようにも思える。
これこそ、『この世全ての悪』アンリ・マユ。
彼はとうとう聖杯の内部から孵化しようとしているのだ。
その彼の放つ魔力はもはや瘴気というよりは濃密な毒にも等しい。
魔術師である凛やセイバーならともかく、並の人間ならば当に魔力に当てられ、最悪の場合発狂するほどの濃密さだ。
そんな体内を冒す魔力に耐えながら、凛は上を見上げる。
そこには、まるで磔にされているような姿で孔の中心に浮かんでいる全裸のイリヤと。
同じくその付き添いのように空中にたたずんている黒衣の神父の姿だった。
「綺礼……！アンタ……！！」
「ほう、貴様が来るとはな。凛。まあ、誰がこようか大して問題でもないが。」
孔から這い出る泥の塊、否、凝縮され、物質化した呪いの塊である数十の触手をまるでペットのように手で撫でながら、言峰は呟く。
その顔に張り付いているのは限りない歓喜。
今まで長い付き合いである凛ですらも、彼のこれほどの歓びを見るのは初めてだ。
ふと脳裏によぎる考えに凛の背筋が凍りつく。彼は本当に人間の範囲なのだろうか。
しかし、そんな凛に構わず、言峰は嬉々としながら言葉を放つ。
「聖杯は現れたがその『孔』は今だ不安定だ。
何せ、私は聖杯の偽者のさらに粗悪品だからな。
せいぜい出来る事と言えば、『この世全ての悪』を孵化させる事と、多少コレの力を扱える程度でしかない。
このように本物の聖杯を借りねば『孔』は開けられぬのだよ。」
言峰はそういいながら、とても嬉しそうに歪みきった邪悪な笑みを浮かべる。
人の不幸や負の側面に喜びを感じる彼にとっては、この人類全ての呪いが収束したこの呪いの塊に支配された場は
とても心地のいい場所なのだろう。
恍惚とした笑みを浮かべながら、さらに言峰は言葉を続ける。
「そう、『孔』を開け、そしてその中から孵化した『この世全ての悪』を取り出す。
神父として、生まれ出でる命を祝福するなど光栄の極みだよ。」
そして、次に言峰は凛を楽しそうに真上から見下しながら、冷徹に言葉を放つ。
「凛、お前の数多くの傷を切開するのも楽しそうではあるが―――あいにくながら御覧の通り私は手が塞がっていてな。
楽しんでいる余裕は無い。ふむ、父親だけでなく、お前もこの手にかかるとはな。
随分と因果な話だ。では凛。お前も父親と同じ場所に送ってくれよう。
兄弟子としてのせめてもの慈悲だ。」
「ふざけるんじゃないわよ……！エセ神父が……！」
思わず激高して叫ぶ凛。
だが、ここで理性を失って突撃しては勝てるものも勝てない。
慎重に己の中の怒りをコントロールし、冷静に分析をする。
恐らく、話からすると、聖杯の『孔』を作り上げているのは言峰ではなくイリヤの方だ。
ならば、イリヤを奪還すればアンリマユが出てくる『孔』は塞がれる事になる。
だが、それだけではダメだ。最早孵化し、受胎してしまった『この世全ての悪』は自力で『孔』を空けて聖杯から這い出てくる可能性もある。
ならば話は簡単だ。『この世全ての悪』ごと大聖杯を破壊してしまえばいい。
それを為す宝具が凛のサーヴァント、セイバーには存在する。
エクスカリバー
《約束された勝利の剣》
人々の幻想が星によって鍛えられた宝具であるこの剣は、神霊が行使する魔術レベルの破壊力を放つ。
この剣の真の力さえ開放すれば大聖杯ごと、アンリマユを滅ぼせるだろう。
「ふむ、私も所詮偽物のさらに紛いモノの聖杯なのでな。
真の聖杯や黒い聖杯のような能力は持ち合わせていない。
だが、今の貴様らには十分すぎるほどだ。せいぜい足掻くがいい。凛。」
次の瞬間、まるで呪いの束が触手のように凛とセイバーに対して襲い掛かる。
大気を引き裂きながら彼女たちを飲み込みもうと迫りくる数十の触手。
「リン！下がってください！！」
かつては影すらをも切り裂いたセイバーの剣、約束された勝利の剣。
この剣ならばあの泥程度易々と切り裂く事ができる。
上下左右前後。あらゆる場所から伸びてくる触手を、セイバーは斬って斬って斬り捨てる。
正英雄であるセイバーは、あの泥に触れられるだけで存在が危うい。
だが、その泥はセイバーに触れることすらできない。
前から右から左から上からあらゆる角度から大気を引き裂き、襲い掛かる呪いの束を
セイバーは凄まじい速度の斬撃で斬って斬って斬って斬り捨てる。
それはまさしく剣舞。振るわれる剣によって構成される輪舞曲（ロンド）だ。
凛もセイバーの背中を護るように、セイバーの後ろからせまり来る呪いの触手を浄化の効果を持つ宝石『クリスタル』に
ありったけの魔力を注ぎ込み、ぶつける事により打ち消す。
その背中合わせにお互いをかばいあい戦うセイバーと凛を見下しながら、言峰は顔に笑みを作りながら呟く。
「だが解らぬな。凛。何故、お前は聖杯を破壊しようとする。
魔術師にとって根源に到達する事は悲願のはず。
この聖杯とお前の能力さえあれば、根源に到達する事も不可能ではなかろう。
私の望みは『この世全ての悪』を孵化させる事のみ。
その後ならば聖杯を使用させても良いが……どうするかね？」
「ふん、笑わせるんじゃないわよ。エセ神父が。
そんなモノが受胎したら人間達は全て殲滅されるじゃない。
大体、そんな歪んだ聖杯を使ってまで根源に到達しようとは思わない。
私は私自身の力で根源に到達してみせるわ。そんなモノには頼らない。」
その名の通り、凛とした表情で言葉を言い放つ凛の姿は決意に満ちた物だった。
そう、それこそが己の誇り。
いかに目の前に望みに近づける物があろうとも、安易にそれに縋ろうとせず、自分自身で望みを叶えようとする。
それこそが、遠坂凛であるための誇りなのである。
「ふむ、なるほど。
自らの悲願よりも自らの願望を優先させるか。
いいぞ凛。その矛盾は実に人間らしい。
だが、それならば、この少女、イリヤスフィールごと大聖杯を破壊すればよかろう。何故そうせぬ？」
確かに、それは非情だが論理的だ。
セイバーの宝具、約束された勝利の剣ならば、大聖杯ごと『この世全ての悪』を一刀両断する事も可能だろう。
だが、それは理論を重んじる魔術師ではなく「人間」としての遠坂凛が許しはしない。
「はっ。笑わせるんじゃないわよ。
例え敵マスターだったからといっても、そんな状態の女の子を葬って聖杯を破壊するのなんて、後味悪いじゃない……！！」
そう不敵に微笑んで凛は呟きながら、内面では自嘲していた。
まったく、これではあの正義の味方、衛宮士郎みたいではないか。
自分も、随分とあのランサーと士郎に毒されつつあるらしい。
それを聞いた言峰の表情は先ほどの笑みではなく、つまらない物を見る失望の表情へと変わる。
「……つまらんな。凛。お前はもっと魔術師の理論を重んじる人間だと思っていたぞ。
兄弟子として、正しく教えられなかったのは不徳の至りではあるが……まあかまうまい。」
さらに襲い掛かる無数の触手触手触手。
いかにセイバーが卓越した剣の使い手であろうとも限界は来る。
このままではいずれセイバーごとあの呪いの束に飲み込まれてしまうだろう。
―――だが、策はある。
凛には身体強化と重力制御の魔術がある。
それを利用すれば、あの天空に磔になっているイリヤの元まで飛翔し、彼女をかっさらう事も可能だ。
だが、それにはあの泥が邪魔だ。
下手に飛べばあの泥のいい的になりかねない。
そんな歯噛みする凛をせせら笑うかのように言峰は両腕を広げて朗々と宣言する。
「生きるという事が罪であり、生きているからこその罰がある。
生あってこその善であり、生あってこその悪だ。
故に───生まれ出でぬモノに罪科は問えぬ。
この世で最も重い罪があるとするのならば、今だ生まれえぬ者を葬る事だろう。
神父として、それを許すわけにはいかぬな。」
そう言いながら、言峰は溢れ出る呪いの中からもっとも収束された漆黒の呪いを取り出す。
それは『孔』から取り出した『この世全ての悪』の一部である。
呪いの中でも最も濃い呪いの源泉。
それに比べれば今表に出ている呪いの触手などただの残りかすでしかない。
この呪いの前に耐え切れるモノなど存在するはずはない。
そう信じながら、言峰はその呪いの力を解き放つ。
ア ン リ マ ユ
「―――この世、全ての悪―――。」
その瞬間、脳裏に地獄が印刷された。
凄まじい憎悪と怨念。膨大な量の恨み。
脳裏に刻み込まれる無数の呪い。
それは人類６０億の発する呪いの凝縮である。
その前にはいかに英霊であるサーヴァントであろうとも対抗できはしない。
ましてやただの人間である凛など到底無理であろう。
とっさに凛は十個あるうちの宝石を使用して自分とセイバーの周囲に防御壁を張る。
だが、それも無意味。
避ける事は出来ず、空間そのものを塗り潰していく呪いには『防ぐ』という概念は通用しない。
飲み込まれた者は、塗り潰された空間、同様闇に食われて同化していくのみ。
「つ――――。」
凛の作り出した結界は紙より容易く泥に押し潰されそうになっていく。
人の身でこの汚濁に抗う術はない。
だが―――。
「セイバー、タイミングを合わせるわよ。」
「……はい。」
泥に必死に抗いながらも、彼女たちはそう声を掛け合わせた。
―――瞬間、黄金の光が周囲の空間全てを埋め尽くした。
大気を引き裂く轟音を上げながら飛来する無数の宝具。
そして、それを迎え撃ち、迎撃する士郎が作り出した宝具。
ギルガメッシュの放った宝具は、士郎の宝具によって弾かれ、逸らされ、迎撃される。
ソレに対して、士郎の作った宝具は砕かれ塵と消えてしまう。
だが問題はない。
この固有結界の中ならば、士郎はいくらでも瞬時に宝具を模造できるのから。
消え去っても再び作り直せばいいだけの事。
ただひたすらに作りだし造りだし創りだし打ち消し打ち消し打ち消す。
それはまさしく宝具の軍隊と軍隊との激突。
お互いの剣群はお互いを滅ぼすために激突し、ぶつかり合い、そして消えてゆく。
その無数の宝具がぶつかり合う音はよくできた楽器のような金属音を響かせる。
「おおおおおおっ！」
そして、ギルガメッシュの宝具が打ち消されている隙を見計らって、ランサーと士郎が突進し、二人とも同時に接近戦を挑む。
ランサーは手にした魔槍ゲイボルクで、士郎は投影したカラドボルクでそれぞれ攻撃を仕掛けるため突進する。
今のギルガメッシュには動揺など微塵もない。ましてやいつもの黄金の鎧を纏っている。
いくらアンリミデッド・ブレイド・ワークスによってギルガメッシュの宝具を迎撃できるとは言え、所詮はそこ止まりだ。
固有結界には莫大な魔力を消費する。
このままでは魔力切れを起こしてしまうだけだろう。そう、今のままなら、だ。
「は―――っ！！」
士郎とランサーに対して降り注ぐ無数の宝具。
彼らの命を奪うために飛翔する宝具は、ことごとくが士郎が生み出した宝具によって迎撃される。
正面からの剣、左翼からの槍、下方、および頭上同時によるポールウェポンは
士郎の投影によって作り出された同等の宝具によって迎撃される。
弧を描いて後方から奇襲する三枚刃は振り向きもせずにゲイボルクで叩き落し、
ランサーを上回るほどの巨大な鉄槌の薙ぎ払いを回避する――！！
ギルガメッシュの放つ無数の宝具は全て士郎の作り出す宝具によって迎撃される。
この地点で、物量戦闘においては互角とも行っていい。
そして、ついに宝具の乱射をしのいでギルガメッシュの近くまで接近した二人は、ランサーはゲイボルクで、
士郎は投影した干将・莫耶で攻撃を開始する。
「く……！この雑種どもが――！！」
右からは士郎が、左からはランサーが同時に襲い掛かる。それぞれ手にした莫耶と干将を振るい、ゲイボルクを突く。
それに大してギルガメッシュは左手には『世界滅ぼす害なす魔杖（レーヴァテイン）』
右手には『唄い踊る切り裂く煌き（スクレップ）』を手にしながら慣れない二刀流で迎撃する。
「ぐ……ぬ……！」
元々彼はアーチャーだ。
その戦い方は有り余る宝具で遠距離から相手を殲滅する事。
このように近距離戦は得手とは言えない。
それもこのような二刀流など初めての戦いとも言える。
だが、それでも彼は健闘していたといってもいい。
右手にいる最速を誇るランサーは神速の業を持って手にした魔槍を突き、薙ぎ、切り裂く。
紅い軌跡を引きながら敵を引き裂き、撃ち貫こうとする神速の穂先に敵う物などない。
左上腕を、右太腿を、胸の中心を、肩の付けねを、その神速の魔槍は貫かんと遅いくる。
左手にいる士郎は二刀の干将と莫耶の変幻自在な攻撃によってギルガメッシュを追い詰める。
右の刃が襲い掛かってくると思えば、それはフェイント。
今度は左の刃かと思えば右と左両方の刃が挟むように襲いくる。
その変幻自在の動きは、見切るのにかなりの労力を必要とする。
それらをギルガメッシュはランサーに対してはスクレップの歌うような変幻自在の刃で迎撃し、
士郎に対してはレーヴァテインの世界を滅ぼしたというほどの刃に纏わせた魔炎で迎撃する。
あまりに激しいぶつかり合い。
エーテルがぶつかりあい悲鳴を上げ、お互いの宝具の金属音が楽器のように周囲に響き渡る。
それでも彼ら二人の刃、特にランサーのエーテルと大気を切り裂く神速の魔槍が、ギルガメッシュの身を纏った黄金の鎧へと届く。
キイン、キインと鎧の表面で刃が弾かれる金属音が木霊する。
今はその鎧の防御力によって防がれているものの、それも絶対ではない。
だが、このまま慣れない戦いを続けていては恐らくはジリ貧になってしまうだけだろう。
「ぬ……ああああああっ！！」
そう判断したギルガメッシュは士郎とランサーを渾身の力で弾き飛ばすとバックステップをし、大きく距離を取る。
そして、表面に傷のついた黄金の鎧を忌々しげに見つめると、ランサーと士郎へと高慢な口調で言い放つ。
「ふん、我をここまで追い詰めるとはな。どうやら口先だけではないようだ。
だが褒めてやろう雑種、クーフーリン。この我にこの剣を振るわせるとはな！！」
そう言いながら、彼は背後の空間の歪みに手を突っ込む。
そこから取り出されたのはあのバーサーカーを葬り去った円柱にも見える異様な剣。
ギルガメッシュの最終兵器、乖離剣・エア。
擬似的な空間断層すら引き起こすあの神剣の前には、士郎達など塵芥にすぎない。
それは絶対だ。いかに英霊であるランサーにも、ましてや人間である士郎に、あのエアの力を食らって生き延びられる手段などはない。
……そう、ほんの少し前なら、の話だ。
だが、今の士郎にはもう一つの『奥の手』がある―――。
「ランサー！俺の後ろに！」
あらかじめそう打ち合わせていたのか、その声と共にランサーは士郎の後ろへと下がる。
まるで、士郎がランサーの盾となってあの暴風を防ぎきらんと言わんばかりに。
そのあまりに愚かな選択に、ギルガメッシュは二人を嘲笑する。
「は！何をトチ狂ったか―――！」
暴風の中、ギルガメッシュは乖離剣の力を全開にしながらせせら笑う。
わざわざ己の槍であり盾でもあるサーヴァントを下がらせて何をしようというのか。
エーテルで構築されている英雄の体に比べれば、単なる肉でしか出来てない人間の体など戦車の主砲の前の紙切れも同然だ。
それで防ぎきれるはずなど到底ありえない。
手にするはかつて天地を切り裂いたとも言われている乖離剣。
この剣の前で滅ぼされない英霊など存在するはずもない―――。
そう確信しているギルガメッシュは剣の力を全開にし、一歩だけ踏み込むと、前に突き出しその真実の力を解放する。
エヌマ
《天地乖離なす―――》
エリシュ
《――――開闢の星！！》
それは全ての存在に滅びを齎す絶対的な暴力。
存在する全てを噛み砕き、引き千切り、粉微塵に還して無へと帰す暴風。
擬似的な次元断層すら引き起こすその暴風の前では、あの大英雄ヘラクレスすら抵抗を許されず滅ぼされたのだ。
いかに宝具を投影できる士郎といえど、その攻撃力を防げる宝具など存在しない。
―――そう、ほんの少し前までは、の話だ。
荒れ狂う暴風の中、士郎はそれに構わず一言だけ小さく呟く。
トレース・オン
「―――投影・開始」
瞬間、周囲は黄金の光に包まれた。
光は士郎の固有結界すらをも打ち消し、周囲一面を黄金の光で埋め尽くす。
精神集中も呪文詠唱もすっ飛ばして作り上げたそのカタチを手にする。
世界は一転し、世界を引き裂くほどの暴風は黄金の光に遮られ、士郎が作り出していた固有結界ですらも消え去っていく。
そして――衛宮士郎の手には、彼女の鞘が握られていた。
外界の汚れを一切寄せ付けぬ妖精郷。この世界と遮断された一つの世界。
それは、五つの魔法すら完全に防ぎきるこの世界の最強の守り。
何者にも決して侵食されぬ究極の防御。
故に、その名を―――
アヴァロン
《全て遠き理想郷―――！！》
故に、その名は全て遠き理想郷。
騎士王が探し求めた、最早見果てぬ幻想郷―――！！
「ぬ―――！？雑種がぁああああああっ……！！」
剣の力を全開にしながら、ギルガメッシュは信じられないモノを見る表情で歯を食い縛りながら呻く。
よもや、これほどの一撃を防ぎきるなど誰が思おう。
元々全て遠き理想郷は一人しか防御できない個人要塞のようなモノだ。
だが、士郎が盾になる事により、エヌマエリシュの暴風からランサーをほぼ完全に護っているのである。
そして、『鞘』を展開し歯を食い縛りながら、士郎はランサーに対して残り二つしかない令呪に魔力を込める。
そう、この場でランサーに命じる事はただ一つ、彼の全身全霊の力をもってして、目の前の英雄王を葬り去る事のみ。
士郎は、鞘を展開させながら、令呪に渾身の魔力を込め、絶叫する。
「【ヤツの心臓を貫け、ランサー――――っ！！！】」
消えていく士郎の令呪。だが、それと代償として、ランサーに莫大な魔力が装填されていく。
瞬間、士郎の後ろでエヌマ・エリシュの暴風を防いでいたランサーが上空に跳躍する。
それはまるで凶鳥が舞い上がるようなそんな動き。
そして、彼は自らの相棒であるゲイボルクに軽くキスをすると、上空に舞い上がりながら投擲体制に入る。
『―――頼むぜ、相棒。』
「王者の槍は。」
ギリ、と投擲体制のまま軋む筋肉。そして彼の周囲で渦巻く魔力。
彼の肉体には彼の所有する全てのルーンが光り輝いている。
これらのルーンの力により、さらに攻撃力を高めようというのだ。
さらに士郎の令呪の力により、今の彼の宝具には攻撃力と因果逆転の必中の呪いがさらに強化される。
これならば、いかに幸運Ａを持つギルガメッシュであろうとも外せる道理がない。
今や彼は全身全霊の力を持って、士郎が作りだしたたった一度のチャンスを使い、あの黄金の王を葬ろうとしているのだ。
そう、王を滅ぼせるモノは、それ以上の王だけなのだから。
ランサーはこの上ない歓喜に満ちた獰猛な笑みを浮かべ―――。
「王に当たる――――！！」
爆発する魔力。そして紡がれる真名。
今の宝具の力は令呪の力、そして自らのルーンの力を解放する事によってさらに上乗せされ、
そのランクたるやＡ、否、Ａ＋にすら匹敵する―――！！
ゲ イ
《刺し穿つ―――！！》
ボ ル グ
《――――死翔の槍！！》
凄まじい勢いで英雄王へと飛翔する真紅の魔槍。
それは瞬時に音速の壁を突き破り、超音速の世界へと到達し、異常な機動を描きながらギルガメッシュへと肉薄する。
それは純粋な貫通力の塊。いかなる存在をも突き通すまさしく魔の穂先だ。
いかにギルガメッシュが幸運Ａとは言え、令呪で強化された心臓を必ず射抜く因果の逆転、必中の呪いを逃れる事は出来ない―――！
「――――！！」
全開のエヌマ・エリシュを放った今の英雄王には回避する時間も防御用の宝具を展開する時間もない。
呆然とする中、ギルガメッシュはただ呆然と己の滅びを告げる紅い魔槍を見つめ―――。
次の瞬間、胸を貫かれた。
それはまさしく全てを貫く貫通力の塊。
その威力に耐えられるモノなど存在しない。例えそれが英雄王の纏う鎧であってもだ。
凄まじい爆音。
それは音速の壁を突き抜けた事による衝撃波と、ゲイボルクが英雄王を貫き、彼の後ろの地面に突き刺さった衝撃によるものだ。
舞い散る土煙の中、からん、とギルガメッシュの手にした乖離剣エアが地面に落ちる音が響き渡る。
ギルガメッシュは呆然とした表情で、己の胸の中央に大きく空いた穴を眺める。
《王者の槍は王に当たる。》
この言葉は最早真実となった。
ランサーのゲイボルクは英雄王の心臓のみならず、鎧を突き破り胸自体に大穴を空けていたのだから。
ごふり、と喉から逆流し、溢れ出た血を拭いもせずに、英雄王は呟く。
「見事だ。クーフーリン、雑種。この我を打ち破るとはな。
……『王者の槍は王に当たる』か。なるほど、王を討ち滅ぼすは王の槍、か。」
ぼやける視界の中、眼に映るは古代の昔。
真の友、エルキドゥと肩を並べ、神すらも敵に回し戦い抜いたあの昔。
あの光景が、眼の前の二人に重なったのは何故だろうか。
それを連想し、英雄王は忌々しげに一つ舌打ちをする。
「ふん、ならば、我が敗れるは必然であったか。」
「久しぶりに昔の事を思い出させてくれた。さらばだ。光の神の御子。そして士郎。
いや、なかなか悪くない戦いであった―――。」
さらさらと、体を塵に変え、何処となく楽しそうに呟きながら、英雄王ギルガメッシュは塵へと還っていった。
呪いの泥に飲み込まれたセイバーと凛を眺めていた言峰は、驚愕の表情を浮かべる。
瞬間、大聖杯の漆黒を光が切り裂いた。
「――――！」
彼女達を侵食していた泥が全て打ち払われていく。
それは遮断。外界の汚れを寄せ付けぬ妖精郷の壁。
聖剣の鞘に守られたセイバーと凛は、この一瞬のみ、この世の全てのことわりから断絶される。
この世界における最強の守り。
五つの魔法すら寄せ付けぬ何者にも侵食される究極の一。
アヴァロン
故に、鞘の名は『全て遠き理想郷』
アーサー王が目指した最早見果てぬ理想郷――！
セット
『Anfang……！』
言峰は呪いの塊が黄金の光によって駆逐させるのを見て呆然とする。
当然だ。この呪いの束、人類６０億の呪いを防げるモノなど存在しないはずなのに―――。
その言峰が動じている隙をつき、凛は己自身に軽量化と重力制御の魔術をかける。
二番 強 化
『stark――Groβ zwei』
軽量 重圧
『Es ist gros, Es ist klein…………！』
瞬間、凛は跳躍した。
凛は黄金の光を撒き散らしながら、天空のイリヤへと高く跳躍する。
否、それはもはや跳躍ではなく飛翔にも等しい。
呪いの触手が反応する暇もないほど凄まじい勢いで風を切り裂きながら、空高く舞い上がった凛は呆然とする言峰の脇をすり抜け、
天空に吊り下げされているイリヤを片手でかっさらう。
イリヤを片手でかっさらった凛は、そのまま大空洞の壁を足場にして膝を使ってショックを吸収し、地面へと着地する。
「やりなさい！セイバー！大聖杯ごと、アイツをぶちのめせ―――！！」
消えていく凛の令呪。
彼女は令呪を使用する事により、威力を倍増させたのだ。
彼女の剣は、人々の願いが星によって鍛えられた最強の聖剣である。
所有者の魔力を光に変換し、収束・加速させる事により、その威力は神霊レベルの魔術行使にも匹敵する。
その真の威力が、今ここに解き放たれる―――！！
エクス
《約束された―――！！》
カリバー
《――――勝利の剣！！》
それは究極の斬撃。
凄まじい轟音。単純な破壊力でいえば神霊レベルの威力を誇るエクスカリバーの前に存在できる物などない。
大空洞の淀んだ大気と魔力を引き裂きながら光の束は宙に浮かぶ言峰と黒い太陽、そして大聖杯へと迫り来る。
「――――！！」
ありとあらゆる存在を切り裂く光の奔流は、言峰と『この世全ての悪』である暗黒の太陽を光の刃で切り裂き、大聖杯をも完全に破壊していく。
膨大な光の束に飲み込まれ、何も言い残す事無く、言峰綺礼はアンリマユと共に無へと還っていった。
凄まじい音を立てながら岩壁が崩れ、無数の石が下へと落ちてくる。
エクスカリバーにより大聖杯は完全に破壊され、その余波により大空洞までは崩れ始めているのだ。
まだ完全に崩れるまで時間があるとは言え、もう崩壊は免れない。
その崩れ行く大空洞の中、セイバーはぼんやりと空を見つめていた。
その脳裏によぎるのは士郎とランサー、そして駆け抜けて行く凛の姿。
そう、ただの一度も振り返らず後悔もせず。
ただひたすらに前だけを向いて駆け抜けたその姿。
あの士郎とランサーのその綺麗な在り方を見て、彼女はその姿に憧れていたのだ―――。
「ああ―――。なるほど。」
「私は―――間違えていたのですね。」
ぽつり、とセイバーは呟き静かに瞳を閉じる。
その頬には、つうと一筋の涙がつたう。
後悔と懺悔ばかりの人生。やり直したいと常におもっていた日々。
けれど、それは間違いなのだと、やり直しなどできない。
自分のやってきた事を受け入れるしかないなど、そんな当たり前の事を士郎や凛やランサーの無言の行動によって教えられたのだ。
そんな落ち来る岩石の中、片手に裸のイリヤを抱えた凛はその真っ只中にいるセイバーにむかって叫んだ。
「セイバー！何してるの！早く戻ってきなさい！」
「いいえ、リン。私はこれまでです。
私は求めていた答えを得た。もうこれ以上現世に留まっている理由がない。」
瞳を閉じながら静かに呟くセイバー。そんなセイバーに対して凛は怒ったようにさらにこちらに来るように呼びかける。
「セイバー！！」
「さようならです。リン。貴方と、そしてシロウに感謝を。
貴方達は、私に答えと救いを与えてくれた。
貴方達と―――出会えて良かった。」
最後に、セイバーは凛の方を向くと、にこりとまるで聖女のような綺麗な笑みを浮かべて。
そして、静かにさらさらと消え去っていった。
「セイバぁあああああ―――――！！！」
落ちてくる岩壁が、凛の叫びも忌まわしき願望機も、何もかも全てを押し潰していった。
柳洞寺の境内が一瞬陥没した後、光の刃が岩盤を突き破り天空へと伸びていく。
そして、その後、地下の大空洞を埋め尽くすように、境内が地下へ向かって陥没していく。
恐らくは、セイバーの宝具によって地下の大聖杯が完全に破壊されたのだろう。
それを離れた場所から見ていたランサーは呆れたような声をあげる。
「全く、あのお嬢ちゃん達も随分とハデにやってやがるぜ。
ホント、後先考えてねえな。」
そういうランサーの足元には完全に傷の手当てをされたバゼットの姿がある。
確かに深手ではあるが、魔術師はそう簡単にくたばるものではない。
ましてや彼女は歴戦の執行者だ。命には別状はないだろう。
そんな風に気軽に呟くランサーは士郎とお互いのボロボロの姿を見て、口元に笑みを形作る。
「ハ、全く、お互いにボロボロだな。俺もお前も随分と生き汚いらしい。」
地平線から立ち上る夜明けの光を浴びて、楽しそうに笑いながら呟くランサーの姿は少しづつ薄れていく。
出会った時と変わらぬ気楽さそのままに、彼は足元から少しづつ消え去っていた。
彼らサーヴァントをこの世界に現界させているのは聖杯の膨大な魔力ゆえだ。
存在を支える膨大な魔力がなくなった以上、もはや英霊は消えさるしかない。
そう、それはすでに知っていた。それがもうどうしようもない事も。
けれど、それでもこの瞳から溢れる涙は止まらない。
視界が涙でぼやける。それでも、士郎は震える声で言葉を紡ぐ。
「――――ラン、サー。俺、さ。」
「は、心気臭いのは無しだぜ。相棒。
どうせなら笑顔で別れようや。……願いを叶えた英霊は現世に存在すべきではない。
俺は最早願いを叶えた。俺の戦いは、これで終わりだ。」
そう、彼にとってこの戦いはとても意義のある戦いだった。
強者との戦いを存分に楽しみ、己の好んだ者と最後には敵対するというジンクスすらをも打ち破った。
非業の人生を送ったクーフーリンにとっては、自分自身の運命は打ち破られる事のできるモノだという事を、証明できたのだから。
それは彼にとって何より意義のある事だった。
ランサーは何かを成し遂げた清々しい顔をし、口元に笑みを浮かべながらさらに言葉を続ける。
「お嬢ちゃんの事は任せたぜ。
何せ無鉄砲でどうしようもないほどお人好しな魔術師だからな。
お前が、護ってやれ。」
士郎は涙を拭うとそのランサーの言葉に、自然な笑みを浮かべて答える。
「ああ、ランサー。俺、頑張るから。頑張って遠坂を護るから。大事な家族を護っていくから。だから―――」
だから、心配しないでくれ。
そういう士郎の心の声が聞こえたのか、ランサーは不敵に微笑むと、片手で挨拶をする。
「はっ、それだけ言えれば後は大丈夫か。
―――じゃあな戦友。お前と一緒に戦えて、なかなか楽しかったぜ。」
ただ一度だけ、彼は精悍な顔に悪戯っぽい無邪気な笑みを浮かべた後、すっと一瞬の内に消え去っていった。
その何も残さない鮮やかさは、まるで彼自身の人生を象徴しているようだった。
そんな消え去ったランサーに向かって、士郎は空中を見つめながら一つ呟く。
「―――ああ。俺もさ。相棒。」
いつか夢の中で見た笑顔。
その笑顔は、あのハシバミの少年の笑顔だった―――。
Walking with the wind blowing on your face.
Walking towards the future.
Busy days with no compass to guide you.
After traveling to distant exotie countries...
You will return to where you belong, one sunny day.
風が顔に吹きつけるなかを歩く。
未来に向かい歩く。
前途多難な忙しい日々。
遠く離れた異国の地を旅して……
君は君のいた場所に帰ってくるだろう、ある晴れた暖かい日に。
―――それから数週間後、普段の日常が戻ってきた。
聖杯戦争の傷痕も癒え、人々も少しづつ痛みを忘れて前に進もうとする。
それは聖杯戦争の当事者である凛や士郎も同じだ。
彼らももうすでに学校へと戻り、普通の日常生活に戻っている。
そう、良きにしろ悪きにしろ、人間は前を向いて歩いていく生物なのだから。
「そういえば、凛。桜の方はどうなんだ？」
学校帰りの夕日の光に包まれた通学路。
士郎は一緒に帰っている凛にそう問いかける。
「いきなり仲良くなったらまずいでしょう？」という凛の提案によりあまり学園内では親しくしない二人だったが、
今では一緒に登下校をする程度にはなっている。
「ええ。移植された心臓の具合もいいみたい。
今は学校を休んでいるけれど、その内普通に暮らせるようになるわ。
イリヤとも意外と仲よさそうだしね。」
あの後、凛によって助けられたイリヤスフィールは士郎の義父、衛宮切嗣の娘である事が解った。
当然驚いた士郎であったが、それを理由に彼女を拒むような士郎ではない。
アインツベルン城も半壊し、半ば行く先を無くした彼女は、お付きのメイド達と共に、一時衛宮邸に身を寄せている。
桜の方も間桐一族がほぼ滅んでしまった以上、
いい思い出のない間桐邸でたった一人でいるよりは、と凛の提案で遠坂邸で凛と一緒に暮らし始めた。
まだお互いに慣れずぎくしゃくしているが、何とかやっているようだ。
仲良くやれる日も遠くは無いだろう。
バゼットは傷を癒し、義手を何とか修復すると魔術協会へと報告に帰っていった。
「今回の聖杯は汚染されており、願望機としての機能は不可。
しかも戦いの余波により完全に破壊され、もはや冬木の聖杯は失われた。」
と凛と一緒に口裏を合わせて報告した。
当然、お偉いさんは激怒したが、この聖杯は結局本物にはなれず、
しかも完全に破壊されているという事、戦いの余波というどさくさ紛れなので責める人間もいないという事から、
彼らもしぶしぶ納得せざるを得なかった。
（もし、聖杯を破壊したのが凛のセイバーだと知れたら大事だったのだが、
幸運な事にそれを示す証拠はもはや瓦礫の中だ）
バゼットは、これから魔術協会を離れ、フリーになり世界中を巡るのだという。
キャスターの残してくれた義手を装備しながら。
そんな事を思いながら、凛はさらに気にしていた事を士郎に問いかける。
「ランサーの事、あれで良かったの？随分とさっぱりしていたけれど。」
凛とてセイバーがいなくなったのは寂しいし悲しい事だが、彼女が自らの答えを見つけ出したのならそれでもいいと思っている。
だが、士郎とランサーはどうなのか。それが気になる所だった。
「ランサーはさ、湿っぽいのは似合わないからな。
アイツは、いつでもさっぱりとした性格のいい男だからな。
いつまでもめそめそ泣いていちゃアイツに殴り飛ばされてしまう。
アイツに約束した通り、俺は大切な人を護り続けていくさ。」
返ってきたのは実にあっさりと、さっぱりとした回答だった。
何処となく彼のサーヴァント、ランサーを彷彿とさせるその言葉。
ほんの少しの間だけだったが、彼の言動は確実に士郎に影響を及ぼしたらしい。
それを聞いて凛は満足そうに一つ頷く。
「ええ、士郎は『自分の大切な人を護る正義の味方』だものね。
それでいいんじゃないの。」
「ああ、まずは大切な人達を護らないとな。
それさえできなくて何が正義の味方だってランサーに怒られてしまう。」
「……で、士郎はこれからどうするの？」
逆に凛は士郎にこう聞き返す。
彼女にとって士郎の動向は人事ではない。
凛自身は将来は魔術師の総本山であるロンドンの時計塔に留学するつもりであり、士郎にもそれは伝えてあるが、
やはり士郎がどうするかは気になってしまう。
「そうだな、凛と一緒にロンドンの時計塔に行こうかと思っている。
まだまだ俺は正義の味方を名乗るのには力不足だからな。
本場で鍛えるのも悪くないかな、と思っている。」
その言葉に意外そうな顔を浮かべたのは他ならぬ凛だった。
士郎の事だから、一緒にロンドンには行かず、冬木に留まるのか、と思っていたからだ。
「へえ、意外ね。士郎はてっきり冬木に残るんだと思っていたわ。」
「ああ、いずれは必ず戻ってくる。
けれど、その前に一番大切な人の傍にいて、護ってやりたいんだ。
何せ、ここ一番の所でうっかりするヤツだからな。
目を離すととんでもない事をしでかしそうで怖い。」
「……う、あ、アンタね。口まで上手になったんじゃないの？」
凛は、赤みかがった頬を隠すように、とん、と士郎の前に飛び出ると、そのままスカートを翻し、
くるりと華麗に一回転し、その名の通り凛とした笑顔を浮かべながら、士郎に告げる。
「ええ、士郎がその気なら容赦はしないわ。
覚悟しておきなさい。士郎。
私がこれから貴方を世界で一番幸せにしてみせるんだから。」
赤く染められた夕日の中。
にこやかな、見ているだけでこちらまで気持ちが晴れ晴れとする微笑み。
それこそが、この戦いの終わりを象徴した綺麗な笑顔だった―――。
というわけで「Fate/if」最終回です。
ここまで読んで下さってどうもありがとうございました。
ちなみに、「全て遠き理想郷」は一人しか護れないという設定ですが、
作品中では士郎やセイバーが盾になって護ったという設定になっています。
セイバーとランサーは残留させようか迷ったのですが、
セイバーは自分で答えを見つけ出したし、ランサーも本編のように一瞬の煌きのように生きる人間でしたので、
こちらの方が物語の流れ的に美しいかな、と思ってこういうラストになりました。
ちなみにセイバーとの縁が薄いのに「全て遠き理想郷」を投影できるのか、というつっこみは勘弁してくださいお願いします。（土下座）
それとセラとリズはギルガメッシュが葬るのがめんどくさいという理由で、
適度にダメージを与えた後、アインツベルン城に絶賛放置プレイだったという事でお願いします。
ここまで読んでくださった皆様方に最大限の感謝を。
よろしければ感想などを送っていただけると嬉しいです。
作者が特に狂喜乱舞して大喜びいたします。
それでは。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
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