時は少し戻り、地下の堅固な魔術要塞の中、冬木教会の戦いを使い魔の目を通して
水晶球で見つめている一人の女性の姿があった。
ライダーのマスターであるソラウである。
「ふふ、やっぱり後方に隠れているだけでは望むものは手に入らないわね。
私自ら出ないと。そのためには戦略が必要ね。」
そう彼女は呟くと自らの顎に指を当てて彼女なりの戦略を考えこむ。
「そうね……。
まずはセイバーはバーサーカーと共食いさせればいいかしら。
アーチャーはライダーをぶつければいい。
欲を言えばその前にライダーである程度ランサーをいためつけて、
ランサーのマスターを無力化しておけばランサーを確実に手に入れられるのだけれど……。」
だが、彼女は気づくことはなかった。
それは戦略でも戦術でもなく、ただの都合のいい妄想だということに。
戦場においては状況は刻一刻と変化している。
そんなに都合よく自分の思いとおりになるなどと考える楽天家は破滅あるのみだ。
もし当初からライダーを信頼し、色々な事を打ち明けていればライダーも
あきれ果てながらもその持ち前の戦略眼を使用して彼女の力になっていたかもしれない。
だが、最早手遅れだ。
彼女は、ランサーを手にいれるという妄執しか残っていない。
彼女にとっては、ライダーですら、『使い勝手が悪いが強い手駒』でしかない。
自分のサーヴァントの特性を把握し、その能力を十分生かすのではなく、
ただの自分にとっての障害を排除するだけの手駒としてしか考えていないのだ。
そして、ランサーを手に入れられるのなら、その手駒を使い潰そうが一向に構いはしない。
それがやがて決定的な破滅をもたらすであろう事は、
今の妄執に捉われた彼女では想像する事はできなかった。
一方、また場面は変わりエーデルフェルトの双子館。
人が住める程度住めるように改修した彼らは、まずは状況を把握するために
使い魔を使用したりして様々な情報収集を行っていた。
館に結界を張ったり派手な事をしては、せっかく見つけた隠れ家がまたばれてしまう可能性が高い。
ゆえに、目立たないように地味な活動しかできないのだ。
目立たないように、外から見えないようにそうそう明かりは使えない。
明かりが外に漏れないにように、廃屋に見えるようにさりげなくボロ布などで
窓を隠してあるからばれる可能性は低いが、それでも用心に越したことはない。
窓などない、館の中心部分の部屋で、ウェイバーは使い魔からの集めた情報を解析を行っていた。
「主よ。あまり魔力を消耗してはいざという時に対応できません。ほどほどに。」
ことん、とランサーはウェイバーの机の上にコーヒーカップを置く。
それを飲みながら、ちらりと彼はランサーの顔を見る。
最早聖杯戦争が終盤に差し掛かりつつあるのは誰の目から見ても明らかだ。
だからこそ、この時間がお互いの最後になるかもしれない。
ならば、気になることは今のうちに聞いておこう、とウェイバーはそう判断した。
「そういえば……話は全く変わるが、お前は、今で満足しているのか？
マスターが……僕で満足しているのか？」
「はい。当然です。少なくともこの聖杯戦争の中で、
貴方ほど我が主にふさわしい者はおりません。」
さすがにその即答ぶりには問いかけたウェイバーの方が驚いた。
「……おいおい。
僕よりももっと優れた能力をもったマスターは山ほどいるだろう。
何でそこまで断言できるんだ？」
「能力や才能の有無など問題ではありません。
臣下にとって主に求めるのは、
『自らを信頼してくれる事』そして『自らの能力を十二分に発揮させてくれる事』です。
貴方の元なら、俺を信頼してくれる貴方なら俺は存分に思うがまま戦える。
それ以外に望むことなどありません。」
そのランサーの言葉に、ランサーの昔の事を思い出してウェイバーは眉を潜める。
「……そうか。お前、昔……。」
「……はい。かつての私はある女性のゲッシュにより彼女を連れ去り、
主と、同胞である騎士団たちと戦わざえるを得なかった。
主に忠誠を誓った騎士でありながら、主に忠誠を誓えなかった。
だから思うのです。新しい主の下で俺は忠誠を誓いたい、と。
主に忠誠を、忠義を認めてもらえるまで、俺は戦いつづける、と。」
そう、ディルムッド・オディナは主君の婚約者と結ばれ、主君の騎士団と戦うことになり、
恋愛と忠誠の板ばさみに苦しむことになった。
だから、二度目の生があるのならば、今度は忠誠を貫く生き方をしたいと思い、サーヴァントになったのだ。
「……何行ってるんだよ。お前。」
「……え？」
「お前、もう僕に十分忠誠を尽くしてるじゃないかよ。
お前がいなけりゃ、僕はとっくの昔に命を落としていた。
お前は僕のために戦ってくれた。僕の命を護ってくれた。
それが『忠誠を尽くす』って奴なんじゃないのか？違うか？」
「か……感謝いたします。我が主よ。」
そうだ。俺は戦った。他のマスターに比べて、決して能力が優れているとは
言えない主のために懸命に戦った。
そして、主も懸命に打開策を考えて、俺の力を頼りにして窮地を潜り抜けていった。
その充実感。信頼を置かれているという充実感。
他の能力の優れたマスターに召喚されていれば決して味わう事のできない事だ。
ああ―――そうか。
俺の望みは、もうすでに叶っていたのか。
この主に召喚されたその瞬間から。
「お、おいおい。そんな変な顔してしんみりするなよ。
お前に何かあったら僕が困るだけなんだからな。それだけなんだからな。
そ、それでも不満なら、お前を僕の騎士団として任命してやる。
まあ、たった一人だけの騎士団なんて様にならないけれどな。」
「あ……ありがとう……ございます……。」
消え去りそうな声で、ランサーはそう呟いた。
これが、彼らの安息の時間の最後だとは知るよしもなく。
「―――まさか戦ったばかりの相手である俺に接触してくるとは。
何を考えている言峰？」
時臣を葬り、アーチャーと契約を交わした言峰は、
その脚でほんの少し前に戦ったばかりの間桐陣営と接触すべく、間桐邸へと訪れていた。
雁夜のそのいぶかしげな発言も当然と言えるだろう。
「……俺はお前の父親の命を奪ったのだぞ？憎くないのか？」
「過去の事にこだわっても仕方あるまい？
貴様にとっては、私は力になると思うが？」
さすがに戦ったばかりの相手、しかも自分の父親の命を奪った陣営に
すぐ接触してくるとは雁夜も予想外だったが、
その戦闘能力、そして彼が持っている予備令呪や情報収集能力は極めて頼りになる。
信頼はおけないが、身内すら信じられない雁夜によってその力は喉から手が出るほどほしいものだ、
「確かに……そうだが……。
それで、俺に何を望むのだ？」
「何簡単なことだ。ライダーへと変身させたバーサーカーをけしかければいいだけの話だ。
その隙に、私が聖杯の護り手を奪い取る。実に簡単なプランだろう？
上手く行けば、聖杯の護り手を手に入れられる上に、全てをライダー陣営の責任にできる。
そこまで上手くいかずともバーサーカーによってセイバーを護り手から引き剥がせばいいのだ。
その信頼として貴様に使用した令呪の補充をしてやろう。
これでは不満か？」
「………いいや。」
それでもいぶかしげな雁夜に対して、言峰は警戒を解くように説得を行う。
「何、お互い利用しあえばいいのだ。
私は貴様を利用する。その代償として貴様に令呪を分け与える。それでよかろう。
私には聖杯にかける望みなどない。願望機は貴様が使用すればよかろう。」
「……解った。そうしよう。」
言峰は、彼に対してすでに時臣が命を落としている事は言ってはいない。
時臣の存在こそが、彼の戦う理由であり、それがなくなったと知った時に
恐らく彼は自己崩壊してしまうだろう。
それでは困る。困るのだが……それを想像するだけで自身の中に■■がこみ上げてくるのを
言峰は微かながら自覚してしまっていた。
と、間桐邸から帰ろうとした言峰は、間桐邸の中庭に脚を運ぶ。
そして、そんな彼に対して間桐邸の中庭にある樹からくぐもった声が聞こえる。
いや、それは樹からではない。
樹に張り付いた異型の魔蟲から声が響き渡っているのだ。
ギチギチ、と音を立てながら、魔蟲から臓硯のくぐもった声が響き渡る。
『カカカ、ほう。戦ったばかりの敵である雁夜に接触してくるとはのう。
しかも、自らの父親の命を奪ったワシらに対してとは。
くくく、よいよい。お主も自らの本質に気づいてきたようじゃな。
お主の言うとおり協力してやろうではないか。
もっともっとその腐った本性を肥え太らせるがいい。楽しみにしておるぞ。』
それだけをいうと、臓硯の使い魔である魔蟲は間桐邸へと飛び立っていった。
ぎり、と言峰は握り拳を血がにじむほど強く握り締める。
やはりこいつとは相容れない宿敵同士だ。
いつか必ず決着をつけなければならない。だが、今はその時ではない。
今は、切嗣と接触することが第一だ。彼ならば、己の疑問に答えを与えてくれるかもしれない。
それこそが、言峰にとって最も重要なことなのだ。
―――言峰が暗躍している一方。
セイバーやアイリスフィールは和風の家の土倉の中に存在していた。
これは、切嗣がアイリスのために買い上げた予備拠点である。
「……ここは？」
「ええ、キリツグが私のために購入してくれた隠れ家よ。
アインツベルン城は確かに鉄壁の防御を誇るけれど、
歴史上そういっておいて落とされた城は非常に多い。
念のために姿を隠す事ができるセーブハウスが必要だとキリツグが。」
これは、あのランサーのマスターの戦術を応用したものである。
彼はあえて魔術的な要塞に身を隠すのではなく、
一般の家に潜り込んで他のマスターから身をくらますという手段を高く評価していた。
いかに倒しやすい敵であろうと、一般人に紛れて見つけられなければ意味がない。
ゲリラ戦の基本である。
セイバーの手によって、土倉に描かれた魔法陣。
そこには、聖杯を体内に宿したアイリスフィールが横たわってセイバーと言葉を交わしていた。
アサシンとキャスターという二つのサーヴァントの魂を身に宿して、
今の彼女は聖杯へと変貌しつつある。
そして、それを食い止めていた「全て遠き理想郷」はすでに切嗣へと返却してある。
切嗣は、他のサーヴァントやマスターの行動を掴むために
冬木の街を走り回っている。
とりわけ、彼が気にするのは、言峰の不可解な行動である。
アサシンのマスターであり、もはやアサシンは倒されて無力化されたマスターだと彼の調査では分かっている。
だが、奇妙な胸騒ぎが、彼に情報収集を行わせていた。
それゆえ、アイリスの護衛を舞弥とセイバーに行わせていたのである。
と、その瞬間、土倉の鉄扉が凄まじい音と共に大きく歪む。
サーヴァントによる何らかの攻撃に他ならない。
セイバーや舞弥もとっさに構えるが、その歪んだ鉄扉から出てきた影を見てセイバーは絶句する。
「ライダー……！！まさか貴方ほどの英霊がこのような真似を！？
いや……違う！！」
確かに姿形こそまぎれもなくライダーなのだが、その爛々と紅く輝く瞳だった。
その狂気に囚われた瞳は、あの豪放なライダーではありえない。
それを、瞬時にセイバーは見抜いたのだ。
「正体を現せ！下郎！！」
セイバーは瞬時に鎧を纏うと、風王結界に封じられたエクスカリバーを横凪に振るう。
それをとっさに回避するライダーだが、僅かながらそのライダーの表面が切り裂かれ、
ライダーの『偽装』が剥がれおちる。
「ガ……ガアアアアアアアアアアアアアっ！！」
―――バーサーカー。
その黒いフルプレートアーマーを纏った姿は見間違えようもない。
雁夜は令呪を使用する事によりバーサーカーの姿を変化させてセイバーに襲わせたのだ。
バーサーカーは本来ならば任意の人物の外見を模倣する能力を備えていたのだが、
それを令呪により無理矢理再現させたのである。
偽装が剥ぎ取られたバーサーカーは同様に偽装によって隠されていた
後ろに装備されていた大型の銃……ミニミ軽機関銃を両手に装備し、その引き金を引く。
それと同時に、ガガガガ！と無数の漆黒の瘴気を纏った弾丸がセイバーに襲い掛かる。
―――面制圧。
バーサーカーはミニミ軽機関銃を連射してセイバーへと攻撃を仕掛ける。
銃火器による点攻撃ではなく、無数の弾丸による面制圧。
これほど厄介なものはない。
通常の弾丸では、サーヴァントであるセイバーにダメージを与える事はできない。
だが、バーサーカーの宝具の影響により、擬似的な宝具へと変貌しているのだ。
そして、そこから放たれる弾丸も当然のごとく擬似的な宝具となってセイバーへと襲い掛かる。
これは、言峰が独自のコネを使って手に入れたミニミ軽機関銃を、バーサーカーに与えたものである。
「く……っ！！これでは……っ！！」
セイバーはその攻撃を回避するが、それでも回避しきれない弾丸は、
エクスカリバーと自らの手甲を盾代わりにして漆黒の弾丸を受け止める。
セイバーは魔力の多くを守りのために固定している。
対して、バーサーカーの擬似的な宝具はＤランク。
だが、その恐るべきは威力ではなく、量である。
いかにセイバーの鎧が堅固であろうが、擬似的な宝具となった弾丸を受け続ければ
当然撃ち抜かれてしまう。
ましてや、鎧のない部分や、頭部に受けてしまってはそれだけで勝負は決してしまう。
だが、これでは周囲に与える被害も甚大だ。
バーサーカーの手によって擬似的な宝具となった弾丸は、土倉の壁ですら数発で貫通してしまうだろう。
実際、流れ弾が何発も土倉の壁へと叩き込まれている。
最悪の場合、土倉にいるアイリスフィールにまでその被害が及んでしまう。
ならば、バーサーカーをここから引き剥がすしかない。
「こっちだ！狂犬め！！」
セイバーは大きく真横に跳躍すると、そのまま疾走しながら土倉から距離を取り、
塀を飛び越えてさらに疾走する。
自身がアイリスフィールから離れる心配はあるが、彼女の護衛は舞弥に任せるしかない。
自身があそこにいれば、流れ弾が土倉を貫通してアイリスフィールに襲い掛かる可能性が非常に高い。
そうなってしまえばまさしく本末転倒だ。
ならば、護衛を舞弥に任せて自分が囮となってバーサーカーを引き付けるのが最上の手だと彼女は判断したのだ。
彼女を信じて、セイバーは跳躍した。
そして、セイバーを追いかけて、バーサーカーも跳躍し、疾走しながらセイバーを追いかける。
「―――ッ！！」
そして、一方の舞弥だが、こちらはさらに予想外の人物の姿に戦慄していた。
「言峰……綺礼……！！」
黒い神父服を纏ったその姿はまぎれもなく言峰綺礼である。
彼女にとっては二度目の言峰の遭遇でもある。
その恐るべき戦闘能力は彼女も知っている。
だが彼女とて言峰に対して何も対策を取らなかったわけではない。
防弾加工され、さらに呪的防護処理を施された彼の法衣を貫くために、
錬金術のマテリアル合成によって調合された特別製の弾頭で作られた弾丸が彼女のマガジンには装備されている。
ケプラー繊維であろうが、何らかの魔術によって強化されていようが、
まるで紙切れのように貫通できる代物である。
言峰の恐るべき戦闘能力については、彼女自身がよく知っている。
彼女では、言峰の近接戦闘では対抗できようはずもない。
ならば―――近づかせずにケリをつける！！
そう判断した彼女は、言峰に向けて、キャリコM100を連射する。
特殊弾丸はマガジン一つしか用意されていないが、残弾数など気にしている余裕などない。
戦力に決定的な差があるのだ。少しでも油断すればそれで終わりである。
だが、言峰は、銃口の向きから弾道を予測してそれを回避すると、
懐から五つの黒鍵の柄を取り出し、瞬時に黒鍵を実体化させると、
それを舞弥に向かって投げつける。
猛烈な勢いで投げつけられた黒鍵は、舞弥のキャリコＭ１００を貫通し、
さらにもう一つの黒鍵は、舞弥の肩に深々と突き刺さり、貫通する。
「が……はっ！！」
そして、さらに舞弥の体に残りの三本の黒鍵が次々と突き刺さっていく。
あれでは、助かるまい、と言峰は冷静な判断をし、
土倉の中に横たわるアイリスフィールへとゆっくりと近づいていく。
そのゆっくりと近づいてくる漆黒の影を、アイリスフィールは絶望の眼差しで見つめていた。
――――キリツグ。
その思考を最後に、彼女の意識は一旦途絶えた。
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一方その頃、セイバーのマスターである切嗣は他のサーヴァントについての情報を収集するために
冬木市を探索していた。
特に、重点をおいていたのがランサーとそのマスターである。
隠れ家が探られた今、他の隠れ家を探すために懸命になっているだろう。
あのマスターがいくつものセーブハウスを用意しているとは思えない。
起源弾が破られたのは驚いたが、通常の銃火器で攻めればあのマスターは十分倒せる、と彼は判断した。
そして、ランサーにはセイバーをぶつければ変な騎士道などなんだの言い出さなければ確実に倒せる。
今が格好の狩り時である、と彼は判断して色々な廃屋の探索を行っていた。
とある廃屋の中を探索している彼の耳にキチキチキチという奇妙な音が響き渡る。
と、とっさに彼は戦闘体勢に入る。
彼の戦闘経験から、これは明らかに魔術で作られた蟲の動く音だ、と判断した。
資料によれば、ウェイバーは使い魔を操れるが、蟲は操っていない。
となれば、別にマスターが攻撃を仕掛けてきたか。
蟲を扱うマスターで可能性が高いといえば……。
「マキリの老人か……！！」
うめくような切嗣の言葉に、廃屋の各地から数十体はくだらない魔蟲が姿を現す。
そして、その魔蟲たちから彼の想像通り臓硯の言葉が響き渡る。
『カ、カカカカカ！おお怖い怖い。
さすが魔術師狩りといったところかのう。
じゃがな、お主ご自慢の起源弾とやらは今のワシには通用せぬぞ？
何せこやつらは使い魔じゃからな。独自の魔術回路で動いておる。』
チ、と切嗣は舌打ちをする。
どうやら、あのランサーのマスターとの戦いなどに起源弾を見られていたらしい。
いかに切り札といえど知られてしまっては対応はいくらでもできる。
あのランサーのマスターが良い例だ。
蟲の塊に対しては切嗣の所有するアサルトライフルやハンドガンでは対抗は難しい。
ここに火炎放射器でもあったのなら、容赦なく蟲どもを一気に焼き払えられるのだが、
そんな重量のあるものなど持ち歩くことができるはずもない。
だが、おかしな点がある。
向こうはこちらを襲ってこず、まるで時間を稼ぐようにこちらを遠巻きに―――！
その瞬間、切嗣の脳内に最悪の想像が浮かび上がる。
そして、それを肯定するかのように、切嗣の指にある舞弥の髪の毛が焼ききれてしまう。
最悪の想像が当たったのだ。
その瞬間、切嗣は叫んだ。
「セイバー……！！令呪により命じる！！土倉に戻れ！！」
彼は、令呪を使用してセイバーを土倉へと戻す。
恐らくはバーサーカーを使用してセイバーを引き寄せて、その隙にアイリスフィールを奪うという作戦なのだろう。
もし、もうセイバーがやられていれば令呪は消え去っているはずだ。
『ほう、時間稼ぎに気づくとは……。さすがじゃのう。
だが、この魔蟲どもを突破するのは時間が……』
最後まで言わさずに、切嗣はキャリコで魔蟲を貫く。
そして、自らの傷を恐れずに、魔蟲の群れへと突っ込んでいく。
彼の体は『全て遠き理想郷』が保護している。傷を恐れる必要はない。
ならば、ただ突破するだけの話である。
だが―――それでも間に合わないであろうことは、彼の冷静な機械の部分が告げていた。
一方、バーサーカーは軽機関銃を乱射しながら高速で疾走するセイバーを追い掛け回していた。
周りに被害が出ても一向にお構いなしに攻撃を仕掛けるその姿は、
まさしく狂戦士である。
だが、そんなに連射して弾丸が持つはずもない。
かちり、とついにミニミ軽機関銃は弾切れを起こす。
「ア……アアアアアアアアア！！」
まるで癇癪を起こしたかのように、バーサーカーは弾切れを起こした
ミニミ軽機関銃をセイバーに向かって投げつける。
それを、セイバーはとっさに回避するが、そのセイバーに対してバーサーカーは
さらに武器なしの素手で攻撃を仕掛けようとする。
だが、次の瞬間、バーサーカーが悲鳴を上げると次第にその姿は空中に掻き消えていく、
恐らく、令呪ではなく純粋に魔力供給が断ち切られたせいだろう。
あれだけの能力を誇るバーサーカーは当然魔力消費が激しい。
マスターからの魔力消費が断ち切られれば当然霊体に戻るしかない。
だが、消える寸前までバーサーカーはセイバーに挑みかかろうとする。
その姿、その執念は尋常ではない。
しかし、それも空しくすう、とバーサーカーはついに消え去ってしまう。
だが、セイバーには一つ引っかかるところがあった。
数回戦って解ったことだが、バーサーカーのあの動き、どこかで見たような気がするのだ。
「しかし……前からも思っていましたがあの動き……。
いや、まさか。『彼』が狂戦士などに身を落とすわけがない。」
その可能性を頭を振ってセイバーは打ち消す。
そう、湖の騎士と謡われた『彼』が狂戦士になるはずがない。
セイバーはそう信じていたかったのだ。
「そうだ。それよりもアイリスフィール……！無事でいてください……！！」
そう呟き、セイバーは踵を返す。
あの状況だと、バーサーカーは囮の可能性が高い。
舞弥も護衛についているが、もし他のサーヴァントや戦闘能力の高いマスターが襲い掛かってくれば、
アイリスフィールを護ることはできない。
その瞬間、セイバーはその場から令呪による瞬間移動によって姿を消した。
舞弥の異変を、指に埋め込まれた舞弥の髪の毛によって知った切嗣は
令呪を使用して瞬時に彼女をアイリスフィールの元へと移動させたのだ。
それは、セイバーの予想が最悪の形であたったことを意味するものだった。
こんにちわ。零です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
お待たせして申し訳ありません。
何か最近アイデアが浮かばないというかスランプぎみだったのですが、
何とか頑張って書き上げました。
感想などいただけるととても嬉しいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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