四日目の夜。
それは今までとは全く雰囲気が異なっていた。
まるで全く人がいないような無人の地。
そしていきなり湧き出したあの正体不明の半人半獣の存在。
以前、大聖杯に侵入しようとしていたウェイバーたちを阻止した謎の存在だ。
それは、まるで堰を切ったかのように溢れ出し、夜の探索をしていたウェイバーとディルムッドに襲いかかった。
「くそっ！ディルムッドめ！僕だけ避難しろだなんて……！」
自分のルーンストーンを全て使い果たしたウェイバーに対して、ディルムッドは自分が足止め役を引き受け、
先に避難するようにと言い放った。
その言葉に従い、懸命に走って逃れようとする彼だったが、その選択は間違ったものだったらしい。
「―――ッ！！」
見ると周囲はすでに無数の獣たちで覆われている。
ディルムッドでさえ足止めできなかったのか。
……いや、何かおかしい。
いくら無数の数であろうが、少なくともディルムッドの戦力ならば大半は討ち果たせるはず。
ここまでの数を見逃すとは考えにくい。
だが、その微かな違和感も、現実の前には無意味だ。
「――――！！」
ウェイバーの体は無数の爪によって引き裂かれた。
これが、彼らの四日間の終わりだった。
「――――ッ！！はあっ！はあっ！！」
と、ウェイバーは突然飛び起きた。
そして周囲を確認する。
ここは……自分が拠点にしている双子館だ。
以前にも経験したコンティニューというやつだろう。
だが、今回は『何か』が違う。
そして、急速にその違和感の元を思いついたウェイバーはそばにいるディルムッドに疑問を投げかける。
「ディルムッド。今日は何日だ？」
「は、今日は■■■■■ですが。」
やはり、思った通りだ。
以前のコンティニューとは異なり、今の自分は、『ループしている』
四日目に獣にやられて、一日目へと戻ってきているのだ。
普通からすれば全く信じられない話ではあるが、
この世界では何があっても全く不思議ではない。
いかに膨大な魔力を保有している大聖杯と言えど魔力には限界がある。
こんな架空世界を作り出しているとなればなおさらだ。
要は「魔力の関係上４日分の世界しか再現できない」と考えたほうが自然だろう。
そこまで考えたウェイバーは、とりあえずディルムッドに今の状況などをありのまま説明する。
「……なるほど。
にわかには信じがたい話ですが、主がおっしゃるのならばそうなのでしょう。
ですが……となればどうやれば解決するのかがまだ分からない。
それのヒントを探り出さなくてはならないということですな。」
説得には苦戦するかと思ったが、ディルムッドはあっさりとウェイバーの語る非現実的な真実を受け入れていた。
元々常識では囚われない神話の世界の住人だ。
これぐらいの柔軟性がなくては生きていけなかったし、到底英雄にはなれなかったのだろう。
そのディルムッドの言葉に、これから先の困難さを思い浮かべて彼は溜息をついた。
「まあ、それが分かったら苦労ないしな。
大聖杯に直接行けたのなら話は早いんだが……まあ、色々やってみよう。
「……ふむ。」
―――昼間、ウェイバーは双子館を出て、公園から少し入った森内部から衛宮邸に向かって使い魔を飛ばす。
凛が冷酷な魔女から普通の遠坂凛に変貌していたのと同じく、恐らくあの士郎も今回は変貌している可能性が高い。
そして、そこに切嗣がいるといないとでは、また全く彼の推測が異なってくる。
使い魔は衛宮邸を外からじっくりと観察する。
だがおかしい。
切嗣がいるならば、確実に使い魔を迎撃に来るはずだ。
そして、衛宮邸内部には、以前顔を合わせたとは全く異なるごく普通の少年に見える衛宮 士郎。
そして第五次セイバーに第五次ライダー。
さらには、凛からの資料にあったイリヤスフィール、そしてウェイバー自身も見た事のあるアイリスフィール。
さらにはかの衛宮切嗣までもが和やかに談笑していたのだ。
……しかも、以前の悪名高い彼とは違い、今の彼は穏やかに微笑みすら浮かべている。
そのあまりの違いに、ウェイバー自身も愕然とする。
しかも、こちらの監視している使い魔の迎撃すらしないのだ。
戦力的に考えれば、セイバーにライダー、
そしてイリヤスフィールにアイリスフィールに切嗣が揃っているこの状況で
攻撃を仕掛けるなど無謀もいいところだろうが
、監視をしている使い魔を迎撃すらしないとは明らかにおかしい。
さらにおかしい点としては、使い魔の目を通してみただけだが、切嗣の魔力は目に見えて衰えている。
実際に顔を合わせた第四次では、あんな物ではなかったはずだ。
色々疑問は多いが、だが、今回はこれだけの情報が得られただけで良しとしよう。
そう判断した彼は使い魔を破棄すると、そうそうに霊体化したディルムッドを引き連れて双子館に戻ろうとする。
と、そんな状況で、彼は予想外の人物と出くわしてしまう。
「おう、小僧ではないか。
こんなところで会うとは奇遇よな。」
「―――ッ！！第四次ライダー！！」
そう、それは紙袋を両手に下げたTシャツとズボン姿の第四次ライダー、征服王イスカンダルだ。
こんな真昼間に真正面から実体化したサーヴァントに出くわす事は一応は予期してはいたが、
可能性がかなり低いと思っていたのだ。
ここはやはり撤退しかないか。だが、イスカンダルのあの神威の戦車から逃れられるか……？
とウェイバーが思考している間、イスカンダルは呆れたような声を出す。
「おいおい落ち着かんかい。
さすがに真昼間に派手にやりあうほど頭のネジは外れちゃおらんわい。
それはほかのサーヴァント達とて同様だろう。
ま、頭のネジの外れたヤツはどこかの誰かさんたちが排除したから問題はなかろう。」
そう言いながら、イスカンダルはじろじろと遠慮なくウェイバーと実体化して警戒しているディルムッドを眺める。
「ふむ、しかし小僧。貴様はなかなか面白いな。
余を打倒したその判断力といい、洞察力といい貴様自身は非力だが、そこは目を見張るものがある。
どうだ？貴様ランサーと共に余の配下にならぬか？
好条件は保証するぞ？」
そのイスカンダルの言葉に、ウェイバーはイスカンダルを真正面から見据えながら、はっきりと言葉を返す。
「―――断る。
僕はランサーの主であり、王だ。
どんなに非力でも、王である以上ほかの王に膝をつくわけにはいかない。
それが……僕の王道だ。」
―――しばしの沈黙。
さすがにこの言葉はイスカンダルに対する宣戦布告と捉えかねない。
それに対応すべく、ディルムッドは身構えるが、その予想に反して、イスカンダルは天に向かって呵呵大笑する。
「ははははは！この征服王の前でそこまで言い放つとは小気味よい！
なるほど。確かに王にとって王道は唯一無二。
余に従っては貴様は貴様自身の王道を捨てる事になろうからな。
うむ、気に入ったぞ。ならば一つ忠告をしておこう。
先ほども言ったが昼間はサーヴァントたちとの戦闘はほぼないと言ってもよい。
ならば、昼間に様々なサーヴァントやマスターたちとの会話をすることで
異変の解決の糸口が掴めるやもしれぬ。
ま、それは余の推測混じりではあるがな。」
「ではさらばだ。弱小の王よ。
機会があらば正々堂々、余の王道が正しいか貴様の王道が正しいか力で示してみせよう。」
それだけを言い放つと、
イスカンダルは呵呵大笑しながらその場を歩き去っていった。
―――その後、夜の探索のために、仮眠を取ったり、ディルムッドの作った食事を取ったりして
状況を整えたウェイバーは再び夜の探索に出る事にした。
「主よ。今日はどうしますか？」
「うん、今日は冬木大橋を通って向こう側を探索してみよう。
何でも噂によると冬木の幽霊館……恐らくは双子館のもう一つの方に夜人影が現れたとかいう噂を聞いた。
何かの手がかりが掴めるかもしれない。
とりあえず行ってみよう。」
エーデルフェルトの双子館は、その名前の通り二つ存在しており、
一つは遠坂邸の近くに、そしてもう一つは新都の教会付近の森近くに存在している。
ウェイバーたちが拠点にしているのは、教会付近の双子館だが、もう一つの遠坂邸近くの双子館に
夜に、人影が見えただの、幽霊を見ただのそんな噂が広まっているらしい。
となると、マスターとサーヴァントがそこを拠点にしている可能性が十分ある。
ならば、探索するしかあるまい、と彼らは夜の冬木大橋を通って深山町へと向かおうとする。
「―――ッ！！マスターッ！！」
「……え？」
風切り音と共に、高速で飛来した『何か』を瞬時に実体化したディルムッドの双槍が弾き飛ばす。
彼の所有する心眼（真）が、ここは狙撃に最適なポイントである事を伝え、狙撃に警戒していたからこそ出来た技である。
そして、矢の飛来した方向を見ると、そこにはあのゴルゴンの怪物に螺旋剣を叩き込んだ第五次アーチャーの姿、
凛の資料にも彼のことは「正体不明」としてしか書かれていなかった。
正直、今の状態では対応が難しい。こんな相手にとって優位な状況で狙撃されているとなればなおさらだ。
「―――ッ！引くぞ！ランサー！！」
だが、それを許すほどあのアーチャーは甘くない。
続いて、アーチャーは剣……もとい剣のように見える矢を弓に当て引き絞る。
そして、迷うことなくこちらに向けて発射する。
音速を超えてこちらに飛来する矢。
それを迎撃しようと双槍を構えるディルムッド。
普通の矢であれば彼ならば普通に迎撃できただろう。
そう、普通であるならば、だ。
「な―――に！？」
ディルムッドが迎撃しようとした瞬間、音速で飛来した矢は瞬時に軌道を変えて彼の双槍を逃れる。
そして、その矢は異常な軌道を描きながら、マスターであるウェイバーの頭を吹き飛ばした。
これが、今夜の彼らの結末だった。
こんにちわ。零です。
読んでいただいてありがとうございます。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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