「……はっ！！」
アーチャーの攻撃により、頭を矢で貫かれた瞬間、再びウェイバーは双子館で目覚めた。
まだ頭に矢が炸裂した感覚が残っている。
気分的には最悪だが、あのアーチャーの戦闘方法が残っているのが幸いだ。
あれを元に攻略方法を考えなくてはならない。
「ったく……。ランサー。話が……というか作戦会議をする。聞いてくれ。」
ウェイバーは最悪な気分のまま真剣な表情でそうディルムッドに話しかけた。
「……さてと。」
場所は変わり、再び冬木大橋。
恐らく、以前と同じように超遠距離からの狙撃が来るはずだ。
あのアーチャーはウェイバーにとっても謎の存在だが、以前の戦いで多少は手の内も見えてきた。
そして、それに対抗する策もすでにディルムッドと作戦会議をしてある。
まあ、相手が以前と同じ手でくれば、の話だが。
だがそんな心配は杞憂のように、大橋の向こうから何かがきらりと光を放つ。
そして、そんな事を警戒していた二人が気づかないはずがない。
「……ッ！来たぞランサー！見えるか！？」
「はい！しかと！」
次の瞬間、音速を遥かに超える衝撃波と共に、轟音を引き連れて、
凄まじい剣……いや、矢が橋の上のランサーとウェイバーに向かって襲いかかる。
「気をつけろ！その矢は軌道が変化するぞ！！」
そのウェイバーの言葉に応じて、ランサーは矢に向かって突撃し、軌道が変化する前に
ランサーは黄薔薇を横凪ぎに振るう事でその矢を弾き飛ばす。
「はあああッ！！」
そして、続いて破魔の紅薔薇を上から下に薙ぎ払う事によって、
柄の部分で弾き飛ばされた矢を下の水面に叩き落とす。
力を失って水面に落ちていった矢は、水面スレスレで凄まじい勢いで炸裂する。
本来ならばランサーと接触した瞬間に壊れた幻想を発動させても良かったのだが、
赤原猟犬（フルンティング）は以前ウェイバーがその身を持って体験したように軌道を変化できる。
一度打ち払われたかに見せかけて、その隙を見計らって再びウェイバーに襲いかかるというプランだったのだろうが、
それは前回ウェイバーが体験した事である。
いかに軌道が変化できると言っても推進力を加速できるわけではない。
二度打ち払われた赤原猟犬は完全に威力のないへろへろの状態だ。
あれでは軌道を変えても何の役にも立たない。
「……ランサー、見えたか？」
「はい、今の一撃で相手の正確な位置と距離が把握できました。
……ですが、『飛距離が足りません』
ですが、逆にいえば問題はそれだけです。
それさえカバーできれば……。」
「よし、想定内だ。
じゃあランサー、プラン通りで行くぞ。」
「了解いたしました。」
その言葉に、ディルムッドは深く頷いた。
一方、ビルの上に陣取っていたアーチャーはスキル：千里眼で状況を確認していた。
「ふむ、赤原猟犬が破られるとは。
やはり、接触したタイミングで壊れた幻想を発動させるべきだったか。
正体不明のサーヴァントに対して警戒しすぎたか……。まあいい。」
そう呟きながら、アーチャー……エミヤはさらに投影を開始して新しい宝具を作成する。
『―――投影・重層（トレース・フラクタル）』
『――――I am the bone of my sword．（我が骨子は捻じれ狂う）』
そして、エミヤが作り出したのは、一本の捻じ曲がった剣……いや、『矢』だった。
それは、ケルトの大英雄、クーフーリンのライバル、フェルグス・マック・ロイが振るった剣、カラドボルグだ。
だが、それは通常のカラドボルグとは明確に形状が異なる。
錬鉄の英霊である彼が投影によって独自にアレンジを加えた、カラドボルグⅡである。
「どうやらアレはケルト系の英霊のようだな。
ならば、赤原猟犬よりも、偽・螺旋剣の方が有効だろう。
かのクーフーリンですら苦しめたカラドボルグ。
それを打ち破れるものならば打ち破ってみるがいい。」
そう呟きながら、エミヤは投影したカラドボルグⅡを弓の弦にかけると、ギリ、とそれを引き絞る。
「行くぞランサー。
今度こそこの矢が貴様の……？」
そこで、エミヤは異変に気づいた。
彼らが『橋の上でじっとしている事』についてだ。
「……？とうとう諦めたか？
まあいい。どうせ私のやることは一つだけだ。」
一方、橋の上のランサー……ディルムッドは様々な状況をウェイバーと念話を交わしながら状況の分析していた。
―――風力計算よし。
―――風向きよし。
―――気温よし。
―――湿度よし。
―――対象の位置把握よし。
―――距離測定よし。
それらは、観測手(スポッター)となったウェイバーが
逐一、情報のルーンであるアンザスのルーンが刻み込まれたルーンストーンによって観測し、
それらの情報を正確にディルムッドに念話によって伝えていく。
そして、ディルムッドは双槍の片方である必滅の黄薔薇を橋の上に突き立てると、
ギリ、とディルムッドは手にした破魔の紅薔薇を握り締めた。
それに応じたように、ウェイバーもアーチャーのいる位置を強く睨みつけながら言葉を放つ。
「―――令呪、装填」
次の瞬間、ウェイバーの掌に存在する令呪の一画が赤く光を放つ。
「行くぞランサー……！
聖杯の誓約に従い、第二のマスターが命じる！
―――お前のその魔槍で、敵を撃ち払え！！」
「委細承知！！」
令呪が光輝いた瞬間、膨大な魔力がディルムッドに注ぎ込まれる。
令呪とはサーヴァントを束縛するだけの物ではない。
令呪の膨大な魔力のバックアップによって、サーヴァントは奇跡とも言える力を引き出すことができるのだ。
ぎり、とディルムッドは大きく破魔の紅薔薇を振りかぶると、ぎりぎりぎりと全身の筋肉を引き絞る。
「―――ッ！？」
異変を感じたビルの上のエミヤは、まだ魔力供給が不十分ながらも手にしたカラドボルグⅡを射放つ。
四十秒もの十分な魔力供給を行った魔矢の一撃は、セイバーですら十分打倒できるほどの威力である。
だが、あの奇妙な行動に鍛え上げられていた彼の心眼：真は危険警報を放っていた。
音速を遥かに凌駕し、マッハ１０もの高速で突き進むカラドボルグⅡ
それを見て、全神経を集中していたディルムッドの集中が僅かながら乱れる。
「（―――！？あの剣……もしやかのカラドボルグ！？何故奴が……！？）」
ディルムッドもケルト系列の英霊である。
かのクーフーリンの友人である宿敵ともいえるフェルグス・マック・ロイの宝具、カラドボルグは聞いた事がある。
だが、あのカラドボルグは聞いていた形状とはあまりに異なる。
そこは気になるが、今はそれどころではない。
我が主に勝利を。
それこそが今の彼にとって最も重要な事だ。
彼は再度全神経を集中し、振りかぶった破魔の紅薔薇に魔力をこめる。
「おおおおおおおおおおおおお！！」
その瞬間、ディルムッドは、破魔の紅薔薇を持って大きく振りかぶると―――それを投擲した。
―――槍投げによるカウンタースナイプ
ランサーは弓を構えてこちらを狙っているアーチャーに対して槍投げでのカウンタースナイプを狙ったのだ。
相手が遠距離攻撃をするのならば、こちらも遠距離攻撃で対抗すればいい。
それが二人の作戦会議の結果である。
令呪の補助を受けた槍投げの一撃は、容易く音速を突破し、偽・螺旋剣と同様のマッハ１０に到達する。
超音速の速度で凄まじい勢いで迫り来る偽・螺旋剣と、
それと同様の超音速でランサーが投擲した破魔の紅薔薇（ゲイ・ジャルグ）
お互いはまるで惹かれあうようにほぼ同じ直線上を疾駆し、
超音速でお互いの横をすり抜ける。
……だが、その瞬間、すれ違いざまに破魔の紅薔薇の切っ先がほんのわずかだが、
偽・螺旋剣の真横をかすったのだ。
「―――！？」
次の瞬間、驚きのあまりアーチャーは目を見張った。
破魔の紅薔薇の切っ先が偽・螺旋剣の横をかすった瞬間、
偽・螺旋剣は文字通りの意味で木っ端微塵に砕け散ったのだ。
いかに本物の宝具ではないとはいえ、あれぐらいで砕け散るほど、
偽・螺旋剣は脆くはない。
と、なれば考えられるのはただ一つ。
あの魔槍は魔力を打ち消す効果を持った宝具という事だ。
「……ッ！？偽・螺旋剣が……！？
そうか！あの槍、魔力で構築された物を打ち消す力が―――！！」
そして、その一瞬が命取りだった。
慌てて次弾を投影しようとしたアーチャーだが、
その一瞬に気を取られて投影速度が一瞬だけ遅れてしまう。
そして、次の瞬間、超音速で飛来した破魔の紅薔薇が、アーチャーの胸板ど真ん中を凄まじい勢いで貫いた。
「……ぐふっ。」
胸中央部に大穴を開けたアーチャーは口から血の塊を吐き出す。
「……ぬかったな。
私としたことが敵の宝具の性能を見落とすとは。
まあいいさ。さて、どこまでやれるかやってみるといい。」
それだけを言い残すと、アーチャーは苦笑いと共に、完全に消滅した。
それが、この夜の彼らの戦いの決着だった。
こんにちわ。零です。
読んでいただいてありがとうございます。
なかなか更新できなくて＆結構本編そのままのシチュで申し訳ありません。orz
何か最近スランプでfateの小説が書けなくて……。
破魔の紅薔薇で投影を打ち消せるかどうかは意見が分かれるところみたいですが、
自分の小説では打ち消せるという設定になっております。ご了承ください。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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