―――あの後、敵アーチャーを撃破したウェイバーたちはようやく冬木大橋を通れるようになった。
だが、令呪も使用してさすがにこちらも疲労している。
このまま連戦になればこちらが危険だ、と判断した彼は、ディルムッドに双子館に戻るよう提案する。
「これで新しい場所に行けるようになるはずだが……とりあえず疲れたし消耗もしている。
一旦双子館に帰還して態勢を立て直すぞ。」
「……はっ！！」
アーチャーを撃退したディルムッドとウェイバーは投擲した魔槍を回収すると
そのまま双子館へと帰還した。
いかにディルムッドが燃費がいい英霊と言っても、疲労しているところで連戦に持ち込まれれば、
負ける可能性は格段に高くなる。
慎重に動かなければならない。
そして、昼過ぎまで寝て多少なりとも魔力を回復させた彼は、
様々な食料品や日常雑貨の買い出しなどで
アパートに出かけていた。
「……よし、買い物は大体こんなところかな。」
やはり戦争には補給や兵站が大事。
特に双子館は放置されていたため、それの手直しで色々な資材が必要なのだ。
後は、魔力の回復用に様々な栄養ドリンクや精のつく食べ物を購入する必要がある。
それらの物資を大量に買い込みながらウェイバーはデパートをあちらこちらを歩き回っていた。
（ディルムッドはデパートの別のところに買い物に行かせてある）
「……っと。すみません。」
と、大荷物を抱えたウェイバーはデパート内を歩いていた近くの家族連れにドン、とぶつかってしまう。
そのぶつかった家族連れの男性を見て、ウェイバーは驚愕した。
「……ッ！？衛宮切嗣……ッ！？」
そう、それは以前ウェイバーと戦い、何とか撃退した事のある衛宮切嗣だった。
おまけに横には資料でしか見た事がないが、アイリスフィールとイリヤスフィールもいる。
と、ウェイバーはとっさに戦闘態勢に入ろうとするが、ぴたりと止まる。
その瞬間、イリヤスフィールがこちらに対して冷酷な笑みを浮かべていたからだ。
アイリスフィールも服のポケットに手を入れている。
資料にあった針金細工で鳥か何かを作ってこちらに攻撃を仕掛けるつもりなのだろう。
「へえ、どこの三流魔術師か知らないけれど、私たちに戦いを挑むとはいい度胸ね。
いいわ。バーサーカーを置いてせっかくの三人だけの家族団らんを邪魔した罪、その身を持って……。」
「待つんだイリヤ、アイリスフィール。僕はここで戦うつもりはない。」
「……ッ！？」
その言葉に最も驚いたのはウェイバーだった。
聖杯戦争に勝つためならどんな手段も用いる。民間人も平気で巻き込む。
こんな民間人だらけのデパートでも平気で攻撃を仕掛けてくる。
それがウェイバーの中の切嗣のイメージである。
「……君もここで戦うのは本意ではない。そうだろう？」
「あ、ああ、そうだ。」
「ならば少し話をしよう。」
「……ちょっと！五流魔術師！言っておくけどキリツグに何かしたらひどいんだから！
バーサーカーで肉片も残らないぐらいミンチにしてあげるわよ！！」
「……さて、と。君とは以前戦った事があるな。」
「あ、ああ。そうだな。」
ウェイバーは現在の切嗣の状況を見て愕然とした。
自分がみた第四次聖杯戦争の最盛期の頃の彼とはあまりに異なる。
魔術回路は８割ほどの機能を消失し、何らかの呪いによって侵されているのか、
身体機能の低下も見られる。
アレでは、魔術師としてはもはや死んだも同然だ。
だが、何故だろう。そんな彼の顔は、以前の彼に比べて凄く穏やかで――。
「ウェイバー・ベルベットだったか。君とは以前……第四次聖杯戦争の時に戦った事があるな。」
「……そうだな。」
そこで、切嗣は気付くべきことに対してスルーした……いや、気づけなかった事にウェイバーは気づいた。
それはお互いの容貌である。
切嗣がきちんと年を取っているのに対して、ウェイバーは第四次聖杯戦争のままの容貌である。
だが、切嗣はそれをスルーした。
確かに魔術師は魔術によって長寿や外見的不老を施している者は珍しくもないが、
あれはそれ以前の問題、『気づかせないように』されているに違いない。
この聖杯戦争の舞台が架空の物で、第四次と第五次が入り混じっているとなると、
非常に多くの矛盾が生じる。
それを気づかせないように何らかの心理捜査が働いているに違いあるまい。
そして、イレギュラーであるウェイバーにはその影響は働いていない。
それだけ大規模の暗示を魔術師たちに対して行えるなど想像もつかないが、
ここが聖杯戦争の再現世界なら何が起きても不思議ではない。
「……で、話したいことは？
言っておくが、ここで僕とお前が出会った事は本当に偶然だ。
こんな人前で戦う理由は僕にはない。
そちらが戦うというのなら話は別だが、そうではないみたいだしな。」
そう言いながら、ウェイバーは脳内で手持ちのルーンストーンの確認を行う。
以前行った魔弾迎撃用のルーンストーンはまだ所有している。
こちらの手の内も知られている以上、以前のようにはいかないだろうが、それでも無いよりマシである。
「話したいことというのは、以前の戦いの事。そして、お前の言った事だ。
……あの老人を撃って、すまなかった。」
「―――ッ！？」
その言葉に仰天したのはウェイバーだった。
彼の知っている衛宮切嗣は何があろうとも絶対にそんな言葉を言わない男だったはずだ。
「……あの第四次聖杯戦争。
私は恒久的な世界平和のために聖杯を求めて戦った。
だが、結果は汚染された聖杯によってあの有様だ。
多数の犠牲者を出して、■■■■を犠牲にして、結局僕には何も成し得なかった―――！！」
まるで、神父に対して懺悔でもするかのように、彼は悔恨を口にする。
それは、冷徹は戦闘マシーンであるというウェイバー自身のイメージとあまりにかけ離れた姿だった。
「何が世界を救うだ！何が恒久的な世界平和だ！
僕が行った事はただ無辜の人々に大きな被害を与えただけだった！
大事な人々まで切り捨てて……その結果がアレだ！
僕には―――何も成し得なかった！！
僕はこんなことのために大切な家族を切り捨てたわけじゃない！！」
まるで悲鳴のように、絶叫するかのように、
「……だから、僕にとってこの楽園は牢獄であり安らぎの場所でもある。
自分が与えた災害、今だそれに苦しむや失った人々を待ち続ける人たちを間近で見ながら、
それでいて自分は大事な家族であるアイリスやイリヤと穏やかに過ごしている。
……だが、これこそが僕が行った事に対する罰なんだろう。」
「ああ、そうだ。ウェイバー・ベルベット。
『他人を平気で犠牲にするような奴に、人類なんか救えるものか』
お前の言葉こそが多分正しかったんだ。
……もっと早くにそのことに気づいてさえいれば……。」
ウェイバーは口を挟むことができない。
これはまさしく懺悔だ。
自分自身の悔恨を他人に聞いてもらうための。
「……僕はこの楽園を壊したくはない。
だが貴様には色々気づかせてもらった借りがある。
だから、貴様が何をしようと僕は敵対しないし、干渉することもない。」
つまり、基本的なスタンスとしては、中立。
メディアとほぼ同じスタンスである。
どうやら、切嗣は薄々ながらもこの世界の真実に気づいているようだが、
大切な家族と平穏な暮らしをしている彼はこの世界を壊したくないらしい。
そこも、キャスターと同様である。
だが、こちらとしてはありがたい。いかに衰えたとはいえ、実際戦ってみたことあるウェイバーにとっては、
二度も彼と戦うなど御免こうむる。
それに、天涯孤独の状況から、マッケンジー夫妻の交流を知ってしまったウェイバーは、
多少なりとも彼の気持ちもわかるのだ。
「……ああ、解った。」
「僕の言いたいことはそれだけだ。
邪魔をして悪かったな。……それでは。」
それだけ言うと、彼は少し離れたアイリスやイリヤの元へと歩いていった。
「もー！キリツグおっそーい！
思わずバーサーカー呼んであの五流魔術師ミンチにしちゃうところだったよー！」
「はは、ごめんごめん。」
「もう、イリヤってばお転婆なんだから。
今夜は貴女の好きなハンバーグを作ってあげるわ。
それで許してあげてね。」
わーい！とアイリスフィールの言葉に喜んで飛び上がるイリヤ。
その三人はまさしく仲良い家族そのものだ。
それを見て、ふとウェイバーの脳裏にマッケンジー夫妻の事が蘇る。
……彼らに、何らかのプレゼントを送ってもいいかもしれない。
切嗣たちの後ろ姿を見ながら、ウェイバーは漠然とそんなことを思っていた。
こんにちわ。零です。
読んでいただいてありがとうございます。
スランプぎみでなかなか更新できなくて申し訳ありません。
短めですが、少しづつでも更新していこうと今回みたいな形になりました。
少しづつでも頑張っていこうと思っています。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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