―――話は、エミヤとディルムッドとの激戦の夜に戻る。
夜の闇の中、ディルムッドとエミヤが戦っているのを見ている一人の影が存在していた。
「ふふ、さすがディルムッド。やはり素敵ね。」
遠見の魔術でビルの上から陶然とエミヤを打ち破ったディルムッドを見つめる一人の女性の姿。
それはソラウ・ヌァザレ・ソフィアリである。
この世界でも、やはり彼女はディルムッドに対して執着しているらしい。
「………。」
それを不機嫌そうに見つめるのはライダー……イスカンダルだ。
何故彼らがここでこうしているのか？
話は少し前に遡る。
「……強行偵察だと？」
―――ケイネスとソラウ、そしてイスカンダル陣営の根拠地で、ケイネスは不審そうにソラウの問いに答えた。
現在彼女たちは、倉庫街のとある倉庫の地下を改装した場所を拠点にしている。
倉庫の地下という場所こそ不本意ではあるが、倉庫を纏めていくつか買取り、その地下全てを連結させて、
巨大な魔術防衛基地へと変貌させている。
広さも十分であり、内装なども貴族である彼らが満足する品のいい華美な豪勢さである。
さらに２４層の魔術結界、専用の魔術炉を５器、猟犬代わりに召喚した悪霊や魍魎たち、魔術的トラップも万全である。
さらに以前近代兵器などに手痛くやられたこともあり、一部だけではあるが監視カメラなど
現代の監視機器なども取り入れている。
（もっとも、彼自身には手痛くやられたという漠然とした記憶しかないのだが。）
一度失敗したミスをそのままにしておくほど、ケイネス・アーチボルトは甘くはない。
近代の技術に頼るのは魔術師としては凄まじい屈辱ではあるが、
それだけでは戦いに勝つことはできない、と彼は骨の髄まで思い知っている。
とりあえずはここに篭って使い魔など情報収集をしながら、礼装の改修などを行おうと思っていたケイネスだが、
そんな時、ソラウから予想外の提案が行われる。
「ええ、ケイネス。こんな穴蔵に篭っていては外の状況が分からないわ。
使い魔を飛ばすだけでは、全てをカバーしきれない。
そのため、直接戦場に出向いて状況を観察する必要があるわ。」
「……しかし、何故君が？
それこそ、私が……。」
「今貴方は月霊髄液の術式の改良で忙しいのでしょう？
ならば、手が空いている私が行くべきだと思わない？
大丈夫よ。大英雄であるイスカンダルがいれば問題ないわ。
彼は婦人を守ってくれる英霊だもの。」
そういうと彼女はにこりと花のような笑顔で微笑む。
「……解った。ただ使い魔はつけさせてもらおう。
何かあったらすぐ連絡してくれ。後は戦闘になりそうなら、可能なら早めに撤退してくれ。」
「ええ、解ったわ。」
そういうと、彼女たちは外へと出かけていった。
その後ろ姿を見ながら、ケイネスはぽつりと呟く。
「………やはり月霊髄液の改良を急がねばならんな。
これが完成すれば、ソラウの護衛につける事も可能になるはずだ。」
そう、今ケイネスは月霊髄液の術式を改造して、
人型のメイドゴーレムへと変形できるようにしているのだ。
月霊髄液を人型に変形できるように改造し、人として振る舞えるように擬似人格の入力を行う。
人型になるのは簡単ではあるが、問題は擬似人格の方である。
フレーム問題と同様に、有限の情報処理能力しかないゴーレムでは、現実の様々な問題に対して対応できないという問題が現れるのである。
「……だが、何とかしなければな。
これが完成すれば、ソラウの強い護衛になってくれるはずだ。」
そう呟くと、ケイネスは再び作業に戻り始めた。
―――そして、場面は現在に戻る。
陶然とウェイバーと共に去っていくデゥルムッドの姿を見つめるソラウに対して、
イスカンダルは冷静な言葉を放つ。
「ふむ。今回の偵察でだが余の天敵であるメデューサ……ゴルゴンがすでに倒されているという情報を掴めたのは重要だったな。
あの魔眼の前では、余の対魔力はほぼ意味をなさず、余の切り札である王の軍勢に全て悉く石化されてしまう。
……ああ、文字通りの天敵以外の何者でもないとも。」
「でも、すでにゴルゴンは倒されて存在しない。
……ふふ。これは天が私たちを祝福しているのではなくて？」
そんなソラウに対して、イスカンダルはうんざりとした表情になる。
「……ともかく帰るぞ。
偵察は果たした。これ以上は無意味だ。」
「ええ、解ったわ。」
そして。彼ら二人は神威の車輪に載ってその場を飛び去っていった。
こんにちわ。零です。
読んでいただいてありがとうございます。
相変わらずスランプで中々ネタが思いつかなくて申し訳ありません。orz
短めですが、少しづつでも更新していこうと今回みたいな形になりました。
少しづつでも頑張っていこうと思っています。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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