何とかバーサーカーから逃げ出せたウェイバーは冬木教会へとやってきていた。
何故ここに来たのかと言えば、とある人物に会うためである。
運よく、ランサーやカレンなどは出かけている時間帯に合わせて彼がここに来た理由。
それは―――。
「……まさか僕に対して直接青年体の弱点を聞いてくるとはね。
その度胸には流石にあきれ返るしかないよ。」
―――幼年体ギルガメッシュ。
英雄王ギルガメッシュが若返りの薬を飲んで子供の頃の姿になった存在である。
現代社会に彼が１０年間対応できたのも、この姿になっていたからである。
以前のアヴェンジャーとの会話により『英雄王ギルガメッシュをランサーを従えて打倒したい』という自らの望みに気づいた彼は、
本格的に英雄王を倒す手段を模索し始めたのである。
だが、通常の手段では最強の英雄たる英雄王を打倒できる手段など早々見つからない。
（武器を作り出す特殊な固有結界などなら対抗できるかもしれないが、彼にそんな魔術が使用できるはずもない。）
それゆえ、彼は思い切った手段を取る事にした。
即ち、『英雄王自身に英雄王を打倒する方法を聞く』という極めて無茶な方法である。
クーフーリンと一緒にアルバイトしたときに、現在のギルガメッシュは若返りの薬を飲んだ幼年体であり、
青年体の人格とは全く異なると聞いている。
しかも、幼年体である彼は青年体になった彼自身に対して色々思う所があるらしい。
あわよくば、という感じではあるが、もはや藁にも縋る思いなのである。
（最悪命を奪われてもまた四日間のループに戻るだけという計算もある。）
「……しかしまあ舐められたものだね。
いくら僕が青年体に対して思う所はあったとしても、彼も一応僕ではあるんだ。
そんな僕自身に対して弱点を教えるなんてあり得ると思うかい？」
にやり、と彼は邪悪に微笑む。
その笑顔に一気にウェイバーの背筋が総毛立つ。
人格が異なるとはいえ、やはり彼もギルガメッシュ。
礼儀正しい聖人君子とはいえど、その本質は変わっていない。
だが、彼はふむ、と顎に手を当てて考え込む。
「とはいうものの、それでは面白味が足りない、か。
せっかくなら面白くなる方がいいに決まっている。……ふむ、ではこうしよう。
青年体の僕も君も二人とも満足する答えを出してあげよう。
まあ、君にとっては極めてハードルは高いが今更だろう？
二人とも満足できるＷｉｎ−Ｗｉｎな答えってやつさ。それなら文句はないだろう？」
「そんな答えが……？」
そのウェイバーの言葉に、にやりと彼は微笑む。
「できるさ。ま、君へのハードルは高くなるだろうけど、そんなことまでは僕の知った事じゃないからね。
……まず、君はエルキドゥ、という名前は聞いた事はあるかい？」
「ええ、まあ、名前だけは。」
エルキドゥ。
それはギルガメシュ叙事詩においてギルガメッシュの相棒ともいえる存在である。
元はギルガメッシュを誅するために神々によって作られた神造兵装である彼の力は強大無比であり、
それこそ神にも匹敵するほどの力を有していたと伝えられている。
だが、聖娼と出会った彼は七日七晩彼女と交わう事によって、大きく力を失う代償として人の姿を得て、
そして英雄王と出会い、物語は流転する事になる。
「ふむ、流石に僕の逸話は調べていると見える。
その通りさ。神霊が作り出した神造兵装そのものとも呼べる存在。
その強さはこの僕とも比するものだろうね。」
「では……英雄王に対抗するにはエルキドゥを呼びだすことだと？」
そのウェイバーの言葉に、にやりと幼年体のギルガメッシュは笑う。
「結論が早いね。もう少し先がある。
さて、この僕の親友であるエルキドゥであるが。
……僕と出会った地点ですでに『弱体化』されていると君は知っているかい？」
ウェイバーは色々独自に調べていたギルガメッシュの逸話から記憶を掘り起し冷静に答える。
「……確か元は泥人形そのものだった彼は聖娼と七日七晩交わる事でその姿を模したのだとか。」
こくり、とウェイバーの言葉にギルガメッシュは頷く。
「そうだ。その膨大な神威とほとんど失うのと引き換えに、彼は美しい姿と自分自身の意思、そして我々とコミニュケーションする能力を得た。
そう、その膨大な力と引き換えに、だ。
つまり、逆にいえば、力を失う以前の泥人形の状態の彼を召喚できれば、僕を上回る力を手にできる…かもしれないね。
実際に僕も泥人形状態の彼と戦った事がないから何とも言えないが。」
そういいながらも、彼は顎に手を当てながらさらに言葉を放つ。
「僕の推測だが、通常の状態で召喚されたエルキドゥではそこまでの力は発揮できない。
……恐らくは、バーサーカーのクラスで召喚された状態でのみ、彼は彼本来の力を発揮できるだろう。
ただ問題はいくつかある。
一つは魔力量だ。バーサーカーと化したエルキドゥの維持には極めて膨大な魔力が要求される。
宝具を使用するとなればなおさらだ。
宝具を使用するとなれば、神秘の劣化したこの時代の魔術師ならば数十人は必要になるんじゃないかな？
そしてもう一つは触媒だ。
僕を呼び出す触媒はまだいくつか残っているだろうが、彼を呼び出せる触媒は残っているかどうか…。
……まあ、そこらへんは君が苦労すべきことだ。僕には関係ないね。」
そこまで聞いたウェイバーは幼年体のギルガメッシュに大した深々と頭を下げる。
少なくとも英雄王に対する突破口の一つを発見できたのだ。
それだけでも大きな収穫である。
「どうもありがとうございます。
ですが、どうしてそこまで僕に……？
青年体の貴方も、別人格とはいえ貴方のはずだ。
貴方が僕にそこまで肩入れする理由はないはずでは？」
それを聞いた幼年体のギルガメッシュは、軽く肩を竦める。
「何、言っただろう。これはｗｉｎ＝ｗｉｎの関係だ、ってね。
僕もね、力を失っていない泥人形状態のエルキドゥには興味があるのさ。
果たしてあの頃の彼はどれほど強いのか。果たしてこの僕よりも強いのか。
僕も、恐らくは青年体の彼もそれを知りたいんだろうさ。
幾たび戦おうと、僕たちの間の友情が揺るぐ事は……いや、言葉が過ぎたね。
君は青年体の僕に勝てるチャンスが増える。僕は最盛期のエルキドゥと戦う機会を得れる。
ほら、誰も損しないだろう？」
そこまで口にすると、彼は口元を歪ませて笑みを作る。
「ま、青年体の言葉を借りれば『やれるものならやってみせろよ雑種』ってところさ。
できるものなら、ね。
その方が僕も楽しいし、青年体の彼も楽しいだろうさ。
人生に楽しみは大切だしね。
ほら、もうじきランサーにシスターも帰ってくる。もう帰った方がいいよ。」
その言葉にウェイバーは再び深々と頭を下げる。
「はい、どうもありがとうございました。
色々と助かりました。それでは失礼します。」
ウェイバーは再び頭を下げるとドアを開けて教会から出ていく。
その彼の後ろ姿を見ながら、ギルガメッシュは口端に笑みを浮かべる。
「さて、かの広場の戦いの果てに向かうのも一興か。
もしも彼が狂戦士として顕現していたらあるいは……いやこれ以上は言っても意味がないか。」
「さて、楽しみにしているよ。
ウェイバー・ベルベット。果たして、君は英雄王を愉しませる事ができるのかを、ね。
こんにちわ。零です。
読んでいただいてありがとうございます。
アイデアが急に来たのでついカッとして書いた。
反省はしてない。
というわけでFate嘘予告『王の決戦』に繋がる伏線を導入してみました。
時間軸的には、Fate/-→Zero/hollow→Fate嘘予告『王の決戦』という流れになる予定です。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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