悪性隔絶魔境新宿・異説『吼えよ剣』
悪性隔絶魔境新宿とぐたぐた明治維新に対する激しいネタバレ（物語のネタバレ・真名含む）があります。
未プレイの方はご注意下さい。
新宿に召喚された土方歳三が、立夏たちと共に新宿を駆け抜けて戦う物語です。
―――かくして、第七特異点を巡る旅は終わった。
黒幕は倒され、世界には平和が戻るはずであった……が、今だ人理修復は行われておらず様々な混乱状態が続いていた。
そして、その余波は外界と繋がったカルデアにも探知されていた。
「―――日本の新宿に特異点が？」
そう答えたのは藤丸立夏。
第七特異点を全て修復し、文字通りの意味で世界を救ったマスターである。
魔術協会……というかダヴィンチちゃんから「開位(コーズ)」の位階を貰ったマスターである。
もっとも、トップであるオルガマリー所長やロマニを失ったアニムスフィアは魔術協会の様々な勢力にとって格好のいい餌。
様々な勢力が美味しい所を取っていこうと様々な魔術師を送り込んでくる予定の沙汰待ちと言った所である。
「うん、まあ小さな物なんだけどね。
ただ今までの特異点とはまた異なった特異点のようなんだ。
どの道、放置もできないしね。悪いが言ってみてくれないか？」
「解りました。」
マシュはあの戦いの後、何故か魔術回路が閉じてしまい、デミサーヴァントになる事ができない。
そのため、ロマニの代わりにナビゲートを担当する事になっている。
そして、新宿へとレイシフトしようとコフィンに入って準備を整えていた立夏の元に、
慌ただしく駆けつけてくる存在がある。
「待った！待った待ったぁ！
日本にレイシフトするとなればこの沖田さんを忘れてもらっては困ります！
そう！この沖田を忘れてもらっては―――ゴボッ！！」
沖田総司。
かの新撰組の一員として幕末を駆け抜けたサーヴァントである。
その剣の腕は凄まじく、仙術にも等しいほどの縮地や全く同時に三連続の突きを叩き込む三段突きなどと言った
天才的な剣才を持ちながらも病に倒れた悲運の剣士である。
新撰組の羽織を脇に抱えて、刀を手にした彼女は慌てた様子でコフィンルームへと駆け込んでくる。
だが、その時に駆け込んできた彼女の病弱スキルが唐突に発動。
見事なぐらい血を吐いて倒れ込んだ際に、慌てた彼女が手にしていた新撰組の羽織が宙を舞い、
そのままコフィンの中の立夏の上にひらりと舞い落ちる。
「沖田さん！分かったよ！この羽織を沖田さんだと思って俺頑張るから！
沖田さんはゆっくり休んでね！」
「あーっ！違いますマスター！そういう事じゃなくて。
あーっ！違います！あーっ！あーっ！
気をつけて下さいねマスター！あーっ！お土産期待してますねあーっ！」
そんなこんなをしているうちに、コフィンの蓋が閉まり、レイシフトへのカウントダウンが始まる。
こうなってしまってはすでに一緒にレイシフトする事は不可能である。
レイシフトカウントダウンが始まってしまった立夏に対して、必死になって沖田は叫ぶ。
「マ、マスターッ！それ大切な物なんですから戻ってきたら返して下さいよー！
絶対ですよー！マスターッ！！」
そして、立夏は新宿へとレイシフトしていった。
妙に心配そうな沖田に対して、ダヴィンチは彼女に安心するように説得する。
「それにしても随分と慌てていたけど、なんかあったのかい。
わざわざマスターと一緒にレイシフトしなくても、
向こうに行ってからでもサーヴァントは召喚できる。
ピンチになったらすぐさま君でも誰でも召喚すればいい。
何も慌てる心配はないと思うけど？」
その冷静で的確なダヴィンチの意見に対して、沖田はうーんと唸り声を上げる。
「うーんでも……。なーんか嫌な予感がするんですよねぇ。
こういう時の私の予感ってよく当たるんですよね……。
何事もなければいいんですが。」
―――そして、彼女の不安は見事に的中して。何らかの干渉によって、立夏はいきなり新宿上空へとレイシフトしてしまった。
それを助けられる存在は誰もいない。
だが、そんな中でも見知らぬ老年……アラフィフのサーヴァントが立夏を救い出し、地面に着地する。
「あ、ありがとう。でも大丈夫？」
「あいててて、アラフィフが無理をし過ぎたようだヨ……。腰を打ってしまって……。
しばらくは身動きできないなこれ……。」
そして、次の瞬間、またもや異変が起こりダ・ヴィンチちゃんの声が響き渡る。
「―――ッ！何だいこれは！？」
「ど、どうしたの！ダヴィンチちゃん！！」
上空を見上げると、まるでドームのように新宿上空を不可視の何かが覆いつつある。
おそらく、あれは結界だろう。
これほどの巨大な結界を構築するなどどれほどの魔力が必要なのか。
だが、ダヴィンチが叫んだのはそこではなかった。
「結界だ！大規模な特殊結界が新宿全体を覆いつつある！
カルデアからのサーヴァント召喚と新規のサーヴァント召喚が妨害されている！
つまり―――カルデアからの救援のサーヴァントはそちらに送る事ができない！」
立夏が空を見上げると、確かに新宿全体の空が透明な何かに覆われつつあるのが感じられる。
そしてその術式はもはや完成しつつある。
今からカルデアのサーヴァント召喚を行っても間に合うまい。
幸いなのは通信自体までは妨害されてはいないという事か。
だが―――。
「つまり―――マスターはもうサーヴァントを召喚できないんですか！」
「その通りだ！その新宿内部にすでに召喚されているはぐれサーヴァントを味方につけるしか生き残る術はない！
立夏くん！何とかそのアラフィフを説得して味方に―――。」
そんな中、悪いタイミングは重なる物で、彼らに向けて数人のマスクをつけた男たちが現れる
チャキッ、とアサルトライフルを一斉に構えるフルフェイスマスクの存在。
彼らは『雀蜂』と呼ばれる存在なのだが、当然来たばかりの立夏にそんな事が分かる訳もない。
彼も礼装の力を借りればガンドは撃てるが、その程度焼け石に水でしかない。
傭兵崩れ、俗にいう『雀蜂』と呼ばれる存在である。
当然、サーヴァントである彼、仮の呼称として新宿のアーチャーとしよう、ならば戦う事ができる。
だが―――。
「いや、味方になるのは否ではないんだがネ。
さっき無理しすぎて腰をやってしまってネ……。動けんのよこれがまた。」
「君本当に英霊かい！？腰を痛めて戦えない英霊とか聞いた事ないんだけど！！」
「マスター！退避してくださいマスター！
ガンドではアサルトライフルを持つ彼らに対抗はできません！逃げてください！！」
立夏も礼装の力を借りればガンドを撃つ事ぐらいはできる。
だが、その程度では到底連射できるアサルトライフルに対抗する事はできない。
雀蜂たちが引き金を引こうといた瞬間、とある声が響き渡る。
「おい小僧。少し大人しくしてろ。」
剣閃一閃。
その言葉と同時に、疾風と共に何かが飛び込んできたと同時に、目の前の雀蜂の胴体が両断される。
「―――！！」
驚く雀蜂たち。予想外の乱入に彼らの引き金を引くのが一瞬遅れる。
それが彼らの命運を分けた。
続く刃の煌めきに、雀蜂たちの肉体は次々と切り裂かれていく。
それは荒々しいが、幾多の戦場と死地と掻い潜ってきた剣だった。
「さて、と。こんな所か。おい、爺さんに小僧。無事か？」
その男性は、雀蜂全てを斬り倒すと、立夏と立夏を救ったサーヴァントに声をかける。
鋭い眼光。鬼気めいた雰囲気を漂わせ、洋装に銃と刀を装備した男性。
その戦闘能力からして明らかにサーヴァントである。
だが、見たこともないサーヴァントがいきなり立夏の味方となってくれたのが全く不明だった。
「あ、ありがとう。あ、貴方は？」
「土方。新撰組副長、土方歳三義豊だ。小僧、お前が俺のマスターって奴か？それなら―――」
と、瀕死の雀蜂の一人が息絶え絶えになりながらアサルトライフルを構えて立夏に対して撃とうとする。
だが、その瀕死の彼は新宿のアーチャーの巨大な棺桶から発射されたミサイルによって粉微塵になった。
ミサイルが命中して粉々に吹き飛ぶ雀蜂を見ながら、土方はその雀蜂に突きつけていた銃を下す。
「チッ。おい。テメェ腰を痛めたんじゃなかったのか？」
「腰を痛めたとは言ったが戦えないとは一言も言ってないよ？
ましてや私はアーチャー…らしいからね。この状態のままでも十分戦えるさ。
いや本当の事を言うと、まさか、この棺桶から銃弾やミサイルが出るとは私もびっくりしたがね！！」
そんな風に飄々という新宿のアーチャーに対して、土方は舌打ちして立夏に提案する。
「おい小僧。やっぱりこいつ今のうちに斬り捨てておいた方がいいと思うんだがどうか。」
「酷い！日本にあるという敬老の精神はどこに！？」
「あぁ？ねえよそんなもん。お前がそこの小僧を救ってなきゃとっくの昔に叩き斬ってる所だ。黙ってろ。」
「アッハイ。」
まあそんなこんなで、何とか落ち着いた彼らはお互いに自己紹介を始める。
「ど、どうもありがとうございます。助かりました。ところでお二人は？」
「うーん、すまないんだけど……私は記憶が欠けているみたいでね……。
アーチャーである事は解るんだがそれ以外は……。」
そんなアーチャーに対して、刀と銃を持った男性は何のためらいもなく自らの真名を名乗る。
「―――俺の名は、新撰組副長、土方歳三。
俺はそれ以外の何物でもない。ただそれだけだ。
クラス？そんなことはどうでもいい。俺がある限り、ここが―――新選組だ。」
だが、彼は頭を掻きながらさらに言葉を続ける。
「とは言うものの、俺は今さっき召喚されたばかりのお上りさんだ。
おかげで右も左も分からん。一応は今世の知識ってヤツはあるが。
……っておい、そりゃ新撰組の羽織じゃねえか。何でアンタそんなもん持ってるんだ？」
と、土方がいぶかしげに言葉を放つ中、カルデアからの通信が入る。
それはいつものマシュとダヴィンチではなく、沖田だった。
恐らく土方を見て無理矢理通信に割り込んできたのだろう。
『ひ、土方さん！？土方さんじゃないですか！
何でそんな所にいるんですか！？』
「おう、沖田じゃねえか。さっきぶり……と言ってもお前さんたちには分からんか。」
『？』
首を傾げる沖田を他所に、ダヴィンチは土方に的確な質問を投げかけて状況を確認していく。
『なるほど。君は結界が閉じる前。
立夏くんがこの地にレイシフトした瞬間に召喚されたってわけだ。
まだ結界が閉じる前で普通にサーヴァントが召喚可能だったから沖田くんの羽織が召喚媒体になったという事かい？』
「まあ、そういう事らしい。
後はアンタらとは以前に縁があってな。……いや、これは言うべきじゃねえか。」
それは彼らにとっては未来の話（になるかもしれない話）だ。
魔神柱アンドラスが生存を求めて作り出した世界。
織田幕府やら何やらあったが、結果的にそれは彼らカルデアのメンバーによって倒される事となった。
そして、土方も彼らに倒され、アンドラスの最後の言葉を受けた後何の因果か召喚によってここにいる。
もっとも、土方はその事を彼らに話すつもりはない。
話した所で、全く理解されないだろうからだ。
クエッションマークを浮かべる沖田やマシュ、ダヴィンチを他所に、土方は新宿のアーチャーに向き直る。
「おい爺さん。ところでここの情報を教えな。
ここは日本……江戸でいいのか？」
「そうだネ。ミスター土方。そしてカルデアのマスター。
ようこそ地獄へ。見たまえ周囲の状況を。」
「魔術使い、魔獣、動く人形、
そして雀蜂と呼称される軍人もどき。
善人はほとんどが死に絶え、特級の悪人だけが生き残った正真正銘の世紀末。
すなわち、隔絶魔境新宿と我々は呼称している。」
その新宿のアーチャーの言葉を鼻先でせせら笑ったのは、土方だった。
「―――ハッ。笑わせるなよ。爺さんよ。
ここが地獄だと？本物の地獄、本物の戦場はこんな生ぬるい物じゃねえぜ？
俺から言わせればこんな所はただのぬるま湯でしかない。」
それを聞いた新宿のアーチャーは思わず苦笑いをして肩を竦める。
「……まあ確かに君はそうだろうね。ミスター土方。
新撰組。かの戊辰戦争を駆け抜けた君にとっては地獄は慣れ親しんだ場所、か。」
「だが慣れ親しんだ江戸の街がこうなっているのは気に入らねえな。
いや、変わるのはいい。それは仕方ない事だ。
だがこんな風に悪に侵されて捻じ曲げられたのは新撰組として許せねえ。
黒幕とやらは斬り捨てる。それだけだ。」
「なるほど。まあ確かに君はそうだろうね。君は解がシンプルな分、非常に解りやすい。」
その新宿のアーチャーの言葉に、土方はぴくり、と眉を動かす。
そして自らの刀に手をかける。
理屈ではない。本能、直観によってこの人物に不審な物を感じたのだ。
「……やっぱりテメエは胡散臭えな。斬るか。」
そのあまりの唐突な土方の言葉に慌てたのは立夏とアーチャーだった。
「ちょ、ちょっと待った！私は君のマスターを助けたいわば恩人だヨ！？
それを何の理由もなしに斬り捨てるって理論が跳躍しすぎない！？
ヘルプ！ヘルプミー！！」
「ま、待った！土方さん！その人は俺を助けてくれた人だ！
その恩人を斬り捨てるのは……！！」
いざとなったら令呪を使用してでも止めるしかない、と立夏は判断する。
カルデアの令呪は使用しても補充が可能な分、マキリが作り出したオリジナルの令呪に比べ効力は劣ってしまう。
それでも、一画を使用すれば攻撃を中止するぐらいならば十分である。
それを察したのか、土方は舌打ちをする。
「まあ……コイツの命を助けてもらった恩義もあるしな。仕方ねえか。
マスターが良心的じゃなかったら拷問で洗いざらい吐いてもらう事も考えたが…。」
刀の柄から手を離した土方は、立夏に向かって問いかける。
その土方の言葉に、アーチャーは思わず冷や汗をかく。
彼の言葉には一辺の迷いもなかった。
例えアーチャーに何の記憶がないと理解していても何のためらいもなく彼はそうするだろう。
それぐらいの苛烈さがなければ新撰組において鬼の副長と呼ばれたりはしないのだ。
「さて、どうやら俺はお前さんに偶然とはいえ召喚された身だ。
問おう。お前はこの世界で何を成すつもりだ。何をしにここに来たんだ？」
そう問いかける土方の瞳は真剣そのものだ。
少しでも妙な目的があるのならば斬る。
彼の瞳はそう言い放っていた。
自身こそが新撰組である、と思っている彼にとっては、その新撰組を汚す行為を決して許さないのだ。
立夏は冷や汗をかきながらも自らの目的を説明する。
その彼の言葉に、土方は頷く。
「なるほど。この世界を元に戻すつもりで来たのか。
ああそうだな。確かにここは気に入らねえ。
いかに時代が変わろうがここは日本だ。江戸の都だ。
そいつを自分の好き勝手にして日本を汚そうなんて輩は―――斬るしかねえな。
承知した。新撰組、土方歳三。貴様の刃となろう。」
その言葉を聞いた瞬間、立夏もアーチャーも思わずほっと溜息が出る。
彼が味方になったからには、この新宿を潜り抜ける大きな力になるからだ。
「やれやれ。安心したよ。マスター。
文字通り首と胴体が繋がった気分だ。」
そんなアーチャーに対して、土方はじろり、と彼を睨み付ける。
「おい、言っておくだが、俺は貴様に気を許した訳じゃねえぞ。
不審な真似をしたら即時に叩き斬るから覚悟しておけよ。」
「やれやれ。これだからバーサーカーは…怖い怖い。」
そんな事を言いながらも、二人は、新宿の悪辣な罠を切り抜け、乗り越えていく。
知略に長ける新宿のアーチャーと戦術眼と直観に長けた歴戦の戦士である土方の前では、どんな悪辣な罠も通じないからだ。
罠や襲い掛かる敵をものともせず、まるで我が庭を歩き回る二人だったが、
ふと土方は何かを思い出したかのように言葉を出す。
「マスター。ここは江戸なんだろう？見たところ内藤新宿辺りって所か。」
その土方の言葉に、立夏は驚いた顔をする。
「内藤新宿って……確か新宿の昔の名前だっけ。」
その立夏の言葉に答えるように、カルデアから沖田の通信が入る。
『そうですよ〜。四谷新宿とも言われてましたっけ。
いや〜。懐かしいですね〜。その辺はよく土方さんと一緒に遊び回った物です。』
「まぁな。元々内藤新宿は甲陽鎮撫隊として新撰組も宿泊した場所だ。
そもそも俺たちの試衛館も近くにあったからな。
……おい、マスター。少し寄り道していいか？」
そして、襲撃などを乗り越えながら土方は一つの場所で足を止める。
「……ここか。」
そこには『試衛館跡』と書いてある柱が残っている場所だった。
試衛館。
それは彼ら新撰組の初期メンバー、土方歳三、沖田総司、井上源三郎らが剣の腕を磨いた場所であり、
天然理心流の近藤勇が道場主を務めた剣術道場である。
色々あって結局道場は潰れてしまったが、そこのメンバーが後に新撰組の中核となったのである。
「ここが試衛館だった所か。
もう跡形もねぇな。あの稲荷神社があるだけか。
諸行無常の響きあり、ってやつか。」
その普段の土方とは異なる声に、思わず立夏は彼に問いかけてしまう。
「土方さん、後悔してるの？」
その立夏の言葉に、土方は淡々と言葉を返す。
「いや、思う所はあるが後悔はしていない。
近藤さん、永倉、斎藤、どいつもこいつも最後にはいなくなった。
だが、試衛館がなくなろうが、幕府がなくなろうが、俺はここにいる。
俺がいる限り新撰組は不滅だ。」
そう、それが土方歳三だ。
最後の最後まで己が新撰組であろうとした人間。諦めの悪さの極致。
その信念、あるいは狂気は魔神柱ですら解除できなかった。
敵に回せば恐ろしい。だが味方にできればこれほど頼もしい存在はいない。
「土方さん。ウチのカルデアに来れば沖田さんに会えるよ。
また沖田さんと色々話そう。」
『そうですよ土方さん！私だって土方さんに会えて嬉しいんですから！
また色々話しましょう！あ、それとアイチューンズカードお願いしますね！
アイチューズカード！！』
その二人の言葉を聞いて、土方の顔に思わず笑みが浮かぶ。
「ハッ！沖田か！そいつぁいいや！
アイツにゃ樽一杯の沢庵とその何とかカードとか送らにゃならんからな！！」
そんな風に談話しながら歩いていると、彼らは新宿の比較的大きめの道路へと脚を踏み込む。
その瞬間、どこかから遠吠えが彼らの耳に飛び込んできた。
それを聞いて、焦った叫びを上げたのはアーチャーだった。
「しまった！ここは……『奴』の縄張りか！逃げるぞ二人とも！いやもう遅いか！」
そのアーチャーの叫びに応じるように、道路の向こうから『何か』が凄まじい勢いで疾駆してくるのが目に飛び込んでくる。
流石に幾多の戦いを潜り抜けてきた立夏もその異常には目を見張る物があった。
「アレは―――狼！？しかも、乗っているのが首なしの人間！？」
「チッ！狼に首なしだぁ？チッ、ふざけやがって。
安心しろマスター。五稜郭で狼狩りには慣れている。
化け物の類何だろうが斬り捨ててやるさ。爺さん、援護とマスターの護衛任せたぜ。」
土方はそういうと、和泉守兼定を振りかざし切りかかる。
だが、その一撃は巨大な狼にいともあっさりと回避されると同時に、上の首なし騎士の鎌の一撃が襲い掛かる。
土方はそれを刀で受け止め、そのまま後ろへと跳躍する。
逃さじ、と牙を向いて襲い掛かろうとした狼だったが、とっさに後ろに跳躍する。
その一瞬前まで彼がいた場所に、機関銃の連射が襲い掛かる。
さらに逃げる狼を追いかけるように機関銃の連射が襲い掛かるが、狼はそれを見事に回避する。
それを見て土方は思わず舌打ちする。まさかここまでの怪物だとは思っていなかったのだ。
「チッ。まさかここまでの怪物とはな。
さずがに五稜郭の近くにいた狼どもとは訳が違うか。」
「ミスター土方！これは一時撤退を推奨するがどうかネ！？」
「敵前逃亡は士道不覚悟。切腹だ、と言いたい所だがマスターは別か。
さて、どうしたものか。」
と、その時エンジン音とスキール音が響き渡る。
道路の向こう側から凄まじい勢いで疾駆してきたまるで装甲車のようなバイクが、
彼らの手前でスライドブレーキをかけてきたのだ。
「―――無事か。いや、聞くまでもあるまいな。」
そのバイクから降り立ったのはセイバーオルタ。
かの騎士王アルトリアがオルタ化した存在である。
「聞け。カルデアのマスターよ。
我が名はアルトリア。貴様らを助けに来た。乗るがいい。
言っておくが疑っている余裕などないぞ。乗らねば死あるのみだ。」
「仕方あるまい。立夏。貴様は私の前に。
デカブツ、貴様は後ろだ。文句は言わさん。」
「いや、そうなりゃ話は別だ。おいお嬢さん、アンタはマスターを連れて逃げろ。
俺とアーチャーは協力してヤツを撃退して撤退させる。倒せはできずとも、敵が撤退していくのなら士道的には問題ない。
敵前逃亡は切腹だからな。その掟に背くわけにはいかん。」
「やれやれ。武士というのは面倒くさい生き物だネ……。
仕方ない！こうなればそれでいこう！倒せはせずとも協力すれば撃退は可能なはずだ！！」
「ヤツのは極端だが、騎士として言い分は理解できる。仕方あるまい。
あのアーチャーには同情するだな。
まあいい！行くぞ！立夏！」
その彼女の叫びと共に、モータード・キュイラッシェ・オルタのエンジンが唸りを上げる。
このバイクは原型こそＶＭＡＸであるが、ニトロブーストなど様々な改造が施され、
さらにセイバーオルタの魔力放出スキルを応用し、バイクの全てに漆黒の装甲が纏っている。
それゆえ、このバイクはセイバーオルタの手足と言っていいほどの追随性能を誇る。
瞬時に加速したバイクは、新宿のアーチャーの足止めも瞬時に首なし騎士と狼の狩場から高速で離脱していく。
そしてその戦場から十分離れて安全圏に入ったらしい場所で、彼女はバイクを止める。
「さて、ここまで来れば安全か。
我が名はアルトリア・ペンドラゴン。
貴様の活躍は私も聞き及んでいる。グランドオーダー。あの長い旅路をよくその脆弱な脚で乗り越えた。
誇るがいい。私はその功績を認めている。
私と歩むか？歩むんだな。よし、ここに契約は完了した。」
かなり強引ではあるが、どうやら悪意はないらしい。
そして、何とか新宿のライダーを撃退した土方も疾走しながら二人へと合流してきた。
土方の方を見ても、彼の鋭い直観も彼女を味方だと感じているらしい。
この新宿で戦い抜くのなら戦力は必要だ。
「おいマスター。ありゃあ君主。しかも暴君の類だ。
気をつけな。機嫌損ねると無礼討ちとかしかねんぞ。」
「聞こえておるぞバカ者。
確かに、反転したこの身は冷酷な統治を良しとする身ではあるが、
多少の事で貴重な戦力を減らすほど愚かでもない。
それに、私のマスターになったからには強くなってもらわねば困る。
貴様の今までの人理修復の戦いを、私は極めて高く評価しているが、それでもな。
安心するがいいマスター。この街は悪鬼外道、おぞましい魑魅魍魎の巣窟だ。
強い敵には不自由せんぞ。」
「へえ、なかなか面白いじゃねえか。気に入った。
ありゃあ最後の最後まで諦めずに戦い続ける類だ。
いいね。どうせ仕えるんなら、ああいう類が―――ん？」
「わん！！」
そこには一匹の犬がいた。
この新宿には不釣り合いな綺麗な人懐っこい犬である。
名前はカヴァス二世。
本人は否定しているが、彼女が飼っている飼い犬同然の存在である。
「ふうん、ここがお前さんのねぐらか
何か色々変なのが置いてあるんだな。何だありゃ。」
「こらそこらへんをつつき回すな馬鹿者。
まあいい。貴様らはこの新宿の状況を理解できているか？
この新宿は幻影魔人同盟という四人のサーヴァントによって支配されている。
あのライダーもその類だ。
そして、それらを探る間に、私は一人の男と遭遇した。
エドモン・ダンデスと名乗る男。それが私にカルデアのマスターを助けてほしいと依頼してきたのだ。」
「なるほど。だが分からん事がある。
お前さんの目的は何だ？何故俺たちに味方する？」
「それはお互いの利益が一致しているからだ。
私にとっても、奴らは敵だ。だが、私一騎では奴らを倒す事は難しい。
腹ただしいことだがな。だが貴様らと協力すれば勝算は一気に上がる。
この地を救う事はこの地に降り立った王者としての義務だ。
まあそんな訳で戦力が増えるのは好ましいという事だ。
お前たちは、新宿のアーチャーと合流するのだろう？ひとまずそれを目指すか。」
そして新宿駅へと向かう立夏と土方とセイバーオルタたち。
まさか新宿がダンジョン化しているとは予想外だったが、何とか新宿のアーチャーと合流できた彼ら。
だあ、そこで以前新宿のアーチャーと交戦していたセイバーオルタは彼を問い詰める。
「さあ答えろ。お前は何者だ。」
「私は―――言うなれば分け身だよ。
残滓、あるいはガラクタだ。
姿形こそ同じであるが、真名を奪われ、力の大半を削がれた者だ。
まあつまりは本来の私は悪党で、私はその邪魔な廃棄物。
つまりは『良心』という奴なのだろうな。」
アルトリア・オルタの真名を推測した彼の言葉に、加えてダヴィンチの補足もあり、
その場のほぼ皆が納得する。
だが、一人だけ納得していなかった人物がいた。
「いいや、マスター。告げているぜ。俺の戦場での勘って奴がな。
こいつは善でも悪でも纏めて斬り捨てておいた方がいい輩だ。」
そう言い放つ土方の言葉に迷いはない。
土方は苛烈な人格と疑わしい人間は拷問でも平気でかけれる人格を兼ね備えている。
だが、そんな土方に対して立夏は真正面から反論した。
「いいや土方さん。彼は召喚されて真っ先に俺を助けてくれた人だ。
そんな彼をただ疑わしいという理由だけで斬り捨てるのは間違っている。」
新撰組の鬼の副長に真正面切ってここまではっきり言える人間はそうはいない。
いざとなったら沖田が口添えするつもりではいたふぁ、それでも冷や冷やものである。
そして、それを聞いて土方は舌打ちをする。
「チ、確かにな。新撰組は元は治安維持組織だ。
疑わしいでいちいち斬り捨てていちゃきりがねえや。
分かった。マスター。お前さんの指示に従おう。」
それを聞いて皆がほっとする。
何せ彼の苛烈さは皆が知っている。
やると言ったら必ずやるのだ。
いかにうさんくさい紳士とはいえ、貴重な戦力であり作戦担当である。
それを失ってしまえばこの新宿の攻略は難しいだろう。
そしてエドモン・ダンデスの助言に従い、エミヤオルタと交戦して傷ついたジャンヌオルタを救出。
戦力を増強した彼らだったが、黙っていないのは以前新宿のアーチャーと交戦したジャンヌオルタだった。
「アンタ！この前はよくも！」
「ストォオオオップ！
向こうは悪のアーチャー。こちらは善のアーチャーである！」
「本当に？胡散臭いわね…。あの脳筋の言ってたように斬り捨てた方がいいんじゃないかしら。」
だが、そんな彼らに襲い掛かってきたのは、新宿のライダーだった。
ジャンヌダルク・セイバーオルタ・土方・新宿のアーチャーと戦力の揃っている彼らはこれを撃退。
手傷を負った新宿のライダーは撤退していったが、その際の土方の苛烈な戦闘を見て、
ジャンヌオルタは眉を潜めながら立夏に対して言い放つ。
「アンタ……。よくあんなの飼いならしているわね。
アイツ、下手すれば私以上のアヴェンジャー属性あるわよ。」
「心配してくれてるのか？ありがとうジャンヌオルタ。
でも土方さんはいい人だよ。」
「べ、別に心配してるわけじゃないわよ。勘違いすんじゃないわよ。
あんなの飼いならしてるアンタの苦労性に同情しただけ。分かった？」
そんなこんなえ。ジャンヌオルタを救い出し、戦力としたが、交戦した新宿のライダーに逃げられた立夏たちは、
次は新宿のバーサーカーをコロラトゥーラを利用して撃破。
そして、呪腕のハサンの力によってエミヤ・オルタを退けた彼らだったが―――予想外の出来事が起きた。
それは、呪腕のハサンの正体は新宿のアサシンだと言う事だ。
ドッペルケンガーと融合した彼は、自らが倒したハサンを完全に変身する事が可能だったのである。
新宿のアサシンに攫われた立夏は、バレルと呼ばれる謎の塔へ監禁されてしまった。
焦るジャンヌオルタとセイバーオルタに対して、新宿のアーチャーは言葉を放つ。
曰く、彼を捕えさせたのはわざとである、と。
彼には手紙を持たせてあり、彼を救うであろう存在……エドモン・ダンデスも行動を開始するであろう、と。
だが、それに納得しないのは土方だった。
「なるほど。言っている事は理解できる。
その黒ずくめがマスターを助けてくれるであろう事も理解した。
だが―――気に入らねえ。
サーヴァントってのはマスターのために戦うもんだろ？
ましてや、俺の新撰組の一員となれば俺には奴を庇護する義務がある。」
「おやおや人道と説くかネ？戦争を潜り抜けた君が？」
「違う。俺の新撰組の一員を傷つけるのならば許さんという話だ。
もし少しでもマスターに傷でもついててみろ。
貴様のその胴体と首が離れるぜ。まあお好みなら拷問でもいいがな。
言いたい事はそれだけだ。じゃあな。」
その土方の言葉を受けて、冷や汗をかきながら新宿のアーチャーは、ふう、とため息をつく。
「……やれやれ。おっかないネー。
やはり土方歳三。敵に回したら恐るべき『敵』だな。
いやしかし、新撰組と言ったら治安維持部隊。つまりは今でいう所の警察という所か。
……なるほど。私と相性が悪いわけだ。」
記憶こそないが、自らの推理力で自らの正体を薄々気づいている新宿のアーチャーは思わず苦笑いした。
そう彼の名はジェームズ・モリアーティ。
かつてホームズと死闘を繰り広げ、犯罪界のナポレオンと言われた男である。
そんな人間に良心があったのか、と新宿のアーチャーは自分自身でも驚きを隠せなかった。
だが、エドモン・ダンデス……に変装したホームズによって救出された立夏は、そのままバレルから脱出。
新宿のアーチャーがモリアーティである事や様々な情報を得て再び合流した。
そして反撃のため、新宿のアサシンが開く豪華なパーティーへと乗り込み、彼の正体を暴き戦いを挑んだ。
「チッ、まさか、俺の正体が分かるとはな。
まあいい。ここからが本当の戦いだ。
もはや真名を隠す必要もなし。百八魔星が一つ、天巧星燕青とは我の事よ！
いざ来たれい！我が秘宗拳の冴え、見せてくれるわ！」
それに真っ先に反応したのは土方だった。
「ほう、まさか水滸伝の魔星と戦えるとはな。
面白い。こいつは俺に譲れ。王様にお嬢ちゃん。」
すらり、と刀を抜く土方に対して、セイバーオルタは冷静に、ジャンヌオルタは皮肉げに笑いながら答えた。
「―――許す。だがならば必ず勝て。
敗北は許されぬぞ。新撰組。」
「ったく野蛮人はこれだから。
まあ私が楽できればそれに越した事はないわね。
せいぜい気合い入れて戦いなさい狂犬。」
その二人の言葉に、にやりと不敵に微笑みながら土方は呟く。
「やれやれ。厳しいお嬢ちゃんたちだ。
まあいいさ。俺はやりたいようにやるだけだ。」
そんな土方に対して、燕青も油断なく構えながら不敵に微笑んで言葉を放つ。
「ほう、挑むというのか？貴様が？
影すら踏ませぬという我が拳に？」
「あいにくこちとら沖田のような天才じゃねえ。
せいぜいが目録止まりの剣の腕さ。
だが、今回はこの台詞を使わせてもらうぜ。
―――新撰組、天然理心流が土方歳三。いざ参る！！」
新宿のアサシン、燕青が用いる中国拳法『燕青拳』は彼が開発したとされる拳法である。
この拳法の最も特徴としては、その動きである。
複雑な歩法を用い、いきなり急回転したり、姿勢の高低を急激に変化させる事により
相手の攻撃を回避したり、いきなり相手の懐に飛びこみ強烈な一撃を叩き込む事ができる。
文字通り影すら映し出さぬ彼の凄まじい攻撃を土方は何とか紙一重で乗りきる。
だが直観スキルによる物ではない。そもそも彼は直観スキルを所有していない。
大気を切る音によって相手の位置を把握し、攻撃が来る位置を予測し、紙一重で燕青の攻撃を回避する。
それは、幾多の戦場を潜り抜けた彼の膨大な戦闘経験によるものである。
「ほう、我が拳を凌ぐとはな。
よほどの激戦を潜り抜けたと見える。
だが無傷とはいくまい？その左腕、痺れて動けまい？」
「………。」
その通りだ。
燕青拳の特徴としては、相手の急所である関節や経穴(ツボ)を攻める攻撃を用いて
ツボや急所を突いて体を痺れさせたりする檎拿術にある。
それは、例えサーヴァントと言えど例外ではない。
エーテル体で肉体を完全に再現されているサーヴァントにも人体である以上経絡は存在する。
そこを突かれれば動けなくなるのは道理である。
拳こそ何とか回避したものの、拳での攻撃に織り交じられた檎拿術の攻撃までは回避できなかったのである。
「なるほど。実戦上がりの剣か。
荒削りではあるが我が動きを捕えるとは……。
その鍛え上げられた実戦経験こそ貴様の強さか。」
相手が油断できない敵だと思い知った新宿のアサシンは、油断なく構え直す。
「次は左半身を痺れさせる。
いかに貴様が強かろうと左腕左足を痺れさせればもはや戦えまい。
その後で血脈（血管・神経）を攻撃し分断させる「截脈法」で貴様は確実に仕留める。」
そう呟くと、彼は再度疾走を開始する。
凄まじいその速度、いかに歴戦の戦士とは言え、影すら踏ませぬ、と言われる人外の速度にそう何度も対応できる訳ではない。
燕青の指先は、確実に土方の経絡を捕えた。
『―――捕えた！！』
だが土方の行動は彼の予想を超えていた。
土方は回避するのではなく、さらに一歩踏み込んだのである。
「―――！！」
予想外の動きにより、ほんの少しだけ土方への経絡への攻撃がずれる。
だがそれは致命的だ。
人体の経絡は緻密に構成されており、経絡への攻撃、点穴法は正確無比でなければならない。
ほんの少しポイントがずれただけで攻撃は無効化されてしまうのである。
攻撃を受けたダメージこそあるが、その程度では土方は止められない。
土方は痺れた左腕をそれでも無理矢理動かし、新宿のアサシンの右腕を掴む。
当然の事だが、痺れている左腕ではまともな握力など発揮できない。
だがそれでいい。一瞬でも動きを止められればそれでいいのである。
「オラァッ！！」
動きが止まったその瞬間、土方は右腕に握っている和泉守兼定を新宿のアサシンの脇腹から斜め上に向けて突き刺す。
深々と突き刺さった刃は、新宿のアサシンにとっても致命的である。
「が―――は！！」
そのまま深々と突き刺さった刃を力づくで引き抜くと、血まみれのままの刃を構え直し、
平突きの体勢にすると、鋭い突きを新宿のアサシンへと叩き込む。
流石に胴体を刺し貫かれて、霊核も貫かれては消滅するしか道はない。
口から血を吐き出しながら、燕青は言葉をぽつり、と呟く。
「く、そ。ここで終わりか……。
ああ、侠客の最後なんてこんな物さ。それはそれでいい。
誇り高い梁山泊の侠としてここで死ぬさ。
だけど―――ああ、誇り、矜持……。俺の誇りは何処に消えたんだっけなぁ……。」
血のついた刀を一振りすると、消滅した燕青に向けて、土方は一言だけ呟く。
「簡単な事さ天巧星。てめぇはてめぇ自身で諦めちまった時から誇りを投げ捨てていたのさ。
まあドッペルケンガーなんて物を付与して自分自身が揺らいでいたのは同情するがな。
それも自業自得だ。諦めろ。……お前は諦めるなマスター。己の『誠』の元で戦い続けろ。」
だが、主がいなくなったにも関わらず、残った雀蜂たちは駆けつけて立夏たちに向けて銃を構え、弾丸を叩き込む。
それらの雀蜂たちを見て、土方は凶悪な笑みを浮かべる。
「チッ―――！主はいなくなったというのに逃げ散らないとはいい度胸だ！
いいぜ、片っ端から斬り捨ててやらぁ！おい！さっさと撤退しろマスター！
ここは俺が引き受ける！」
「ああ！頼んだぞ土方！行こう皆！」
そして、雀蜂たちを土方に任せて彼らはビルから脱出した。
だが、そうは容易く彼らは逃げる事はできなかった。
響き渡る遠吠え。
そう、傷ついた新宿のライダーがついに復活したのだ。
否、彼らの前に姿を見せたそれは―――。
「な、何だ！？見えるけど……見えない！？透明化しているのか！」
「マスター！気をつけてください！その霊基はもはやライダーではありません！
これは―――復讐者、アヴェンジャーのクラスです！！」
そのマシュの声に答えるように、ライダー、否、新宿のアヴェンジャーは咆哮した。
半透明の彼の攻撃に加え、背中に乗っている首なし騎士の攻撃もさらに激しさと凶暴さを増している。
その正体は、全く異なった幻霊が融合した
それに対してジャンヌオルタが足止めを試み、彼らはその場を脱出する。
そして、捨て身の攻撃で何とかアヴェンジャーを退けたジャンヌオルタだったが、足元が崩れ
「おい、聞こえてるか？―――よくやったなあんな怪物相手によくやった。頑張ったな。」
「ちょっとアンタ、聞いてるの？私は霊核ももうボロボロで助からない。消滅を待つばかりの身よ。
足手まといは置いていけってーの。そうすれば合流も楽になるでしょ？」
「ふざけるな。士道不覚悟ならともかく、あんなに立派に戦った新撰組の同士を俺が見捨てていけるか。
それは、士道ではない。それだけの話だ。」
「ったく、誰が新撰組だっつーの。相変わらず頭の中バーサーカーね。
まあ好きにしなさい。通常の回復魔術なんかじゃこの傷は癒せない。それこそ完全回復する宝具でもないと―――ん？」
「よく戦ったな。反転した聖女よ。
それは称えられるべき勇気であり美徳だ。胸を張るがいい。」
下水管の暗闇の中から、漆黒の光が迸り、次の瞬間そこから漆黒の炎を纏ったコートと帽子を被った男性が姿を現す。
どこからどう見ても通常の人間ではない。
サーヴァント。しかも、それは特殊なエクストラクラスのサーヴァントである。
その男を警戒しながら、土方は口を開く。
「アンタは……確かエドモン・ダンデスとかだったか？」
「巌窟王だ。エドモン・ダンデスとは―――いや、今はそんな事を言っている場合ではないな。
狂戦士よ。その女を渡してくれるか？今ならば間に合うはずだ。」
じっ、と土方はその男の瞳を見る。
彼とて組織の副長だった男だ。人を見る目はある。
恐らく、コイツは自分とは正反対の人間だろう。
あくまで治安組織として活動していた自分とは真逆。
例え闇に手を染めても自分の意思を貫き通す。犯罪者……とまではいかないまでも自分とは相いれない人間だ。
だがこの一点において、コイツは信用できる、と彼は直観した。
「……いいだろう。だが、妙な真似をしたら。」
「斬り捨てる、というんだろう？分かっている。全くこれだから東洋の戦士は短気で困る。
さて、では行くぞ。解放せよ。我が第三宝具。
『悪逆と絶望と後悔に満ちた暗黒に在って眩く輝く希望。
人間の知恵は全てこの二つの言葉に集約される。すなわち―――。
《待て、しかして希望せよ。（アトンドリ・エスペリエ）》』
その言葉と共に、ジャンヌオルタの全身が眩く輝く。
それは攻撃的な力ではなく、全てを癒す優しい光だった。
その光に包み込まれたジャンヌオルタの消滅間近の全身の傷がみるみるうちに回復し、霊核すら修復される。
岩窟王の第三宝具《待て、しかして希望せよ。（アトンドリ・エスペリエ）》
それは瀕死に陥っているサーヴァントすら完全回復させる力を持つ宝具である。
この宝具によって、ジャンヌオルタの傷は癒され、彼女は完全に回復した。
「さて、こんな所か。後はそこのバーサーカーに任せておけばよかろう。
ではさらばだ。俺は忙しい身でな。後は任せたぞ。
―――フッ、まさかこの俺が警察の類に力を貸すとはな。まあよかろう。さらばだ。」
その言葉と共に、巌窟王は消え去っていった。
なんとかねぐらへと帰って来た彼らは土方と合流し、新宿のアヴェンジャー、ヘシアン・ロボを倒すための計略を練る。
そして出された結論は、セイバーオルタの飼っている（本人は否定しているが）犬、カヴァス二世を囮にして罠にかける事だった。
当然、セイバーオルタは強く反対したが、カヴァス二世本人の意向により、作戦は決行される事になった。
そして、セイバーオルタと立夏がキュイラッシェ・オルタで囮になるために道路を高速で疾走する。
そして、それを猛スピードで追跡する新宿のアヴェンジャー。
調達し、魔術などで偽装した虎ばさみで罠を仕掛けようとするが、アヴェンジャーは高速で疾走しながらそれらを見事に回避する。
最後の一つ、カヴァス二世が囮になって一瞬動きが鈍った所に、見事に罠は起動し、虎ばさみがアヴェンジャーの前足を挟み込む。
これでアヴェンジャーの機動性は封じられた。
だが、以前彼の脅威が衰えた訳ではない。
決着をつけるのなら今しかない。
無言の同意の中、キュイラッシュ・オルタから降りたセイバーオルタと隠れていた場所から飛び出してきた土方とジャンヌオルタは、
一斉に新宿のアヴェンジャーへと襲い掛かる。
「ハッ！見えねえっていうんなら―――こうするまでだ！！」
そう叫ぶと、土方は地面を蹴り飛ばして砂を舞い上がらせ、その砂によって新宿のアヴェンジャーのシルエットを確認する。
「昔ながらの喧嘩刀法。舐めるんじゃねぇ！！」
ミニエー銃の弾丸ではアヴェンジャーの堅い皮膚で防がれてしまうと判断した土方は刀を抜くとアヴェンジャーに切りかかる。
だが、アヴェンジャーの首を狙ったその刃は上に乗っていたヘシアンの刃によって防がれてしまう。
「この首なしがぁ！邪魔するんじゃねぇ！！」
土方はヘシアンの胴体部にミニエー銃の銃口を突きつけるとそのまま引き金を引き絞る。
接射―――いわゆる零距離射撃である。
流石のヘシアンも胴体部に零距離射撃を叩き込まれては回避しようがない。
「―――――！！」
ヘシアンの声なき声が響き渡る。
腹部に深々と弾丸が突き刺さっているのだ。
これは流石のサーヴァントでもつらい。
怒り狂ったヘシアンは猛烈な勢いで両手の鎌を振り回すが、土方はそれを回避し、刀で受け止め、
再度ミニエー銃をヘシアンに突き付けて接射を行う。
二発目の零距離射撃の弾丸も同様にヘシアンの胴体部に深々と突き刺さる。
そのあまりに苛烈な戦い方に、さすがのジャンヌオルタも呆れた声を上げる。
「ああ怖い怖い。あんなヤツがアヴェンジャーになったらと思うとぞっとしないわね。
ま、私は私のやるべき事をやるだけよね。どきなさいヒジカタ！
《吼え立てよ、我が憤怒（ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン）》！！」
土方が回避すると同時に、煉獄の劫火が地面を伝いアヴェンジャーに襲い掛かり、地面から数本もの槍が付き出し、
アヴェンジャーを串刺しにする。
通常野生動物は炎を恐れるものだ。
だが、アヴェンジャーは炎を恐れる事なく、肉体を焼き尽くされ、串刺しにされながらもなおも周囲に攻撃を仕掛ける。
「呆れたしぶとさだな。流石野生の生命力か。
ここでエクスカリバー・モルガンを叩き込む訳にはいかんが……我が剣、その皮膚すら切り裂くぞ！！」
そう叫びながらセイバーオルタはアヴェンジャーに向かってエクスカリバーの一撃を叩きこむ。
かつてセイバーは魔猪トゥルッフ・トゥルウィスと真正面から戦った事もある。
魔獣や獣相手の戦いであろうとセイバーの剣筋は衰えない。
アヴェンジャーの堅い皮膚であろうと、エクスカリバーの刃は容易く深々と切り裂く。
だがそれでもアヴェンジャーの攻撃は衰えない。
虎ばさみで前足をがっちりと捕まれ、回避すらできないアヴェンジャーだがそれでも英霊三騎を相手に立ち回る。
だがそれにも限界がある。
回避すらできない状態に多勢に無勢では、流石のアヴェンジャーも少しづつ抵抗が弱まっていく。
もはやアヴェンジャーもヘシアンもズタボロの状態だ。
「止めだ！！」
最後にセイバーオルタの刃が深々とアヴェンジャーに突き刺さる。
あれは致命傷だ。
あれではもはや助かるまい。
カン高い叫びを上げるアヴェンジャーに対して、三人は油断なく襲い掛かる。
「これで終わりだ！！」
だが、その三人の攻撃を自らの体で受け止める存在がいた。
ロボの上に乗っていた首なし騎士、ヘシアンだ。
セイバーオルタ、ジャンヌオルタ、土方の三人の剣と刃に貫かれながらも、彼は自らの武器である鎌を捨て去った。
「どういう……ことだ？」
その瞬間、肉を食いちぎる嫌な音がした。
アヴェンジャーは、自ら虎ばさみに挟まれている前脚を噛み千切ったのだ。
よたよた、と前脚を失い血を流しながらも逃げようとするアヴェンジャー。
それを追撃しようとする土方だが、それを止める声がする。
「待ちなさい。最後は好きにさせてやりなさい。ミスター土方。
アレはもうすでに終わっているのです。
せめて最後ぐらいは好きにさせてやるのが、武士の情けという奴だ。」
そのホームズの言葉を聞いて、土方はふと遠い目をして呟く。
「武士、武士か。仕方ねえな。その言葉を出されちゃ仕方ない。
それに、あいつの末路には思う所がない訳でもないからな。」
そして、新宿のアヴェンジャーを倒した彼らはセイバーオルタのねぐらへと戻ってきた。
セイバーオルタの飼い犬とも言え、今回の功労賞であるカヴァス二世にはより上質なドッグフードが直々に与えられる事になった。
そんな風に皆がカヴァス二世などとじゃれている中、唐突に土方は口を開く。
「おい、王様とやらよ。
こっちだって働いたんだ。それなりの報酬って奴を賜ってもいいんじゃねえか。」
その言葉に、む、と眉を潜めるのはセイバーオルタだ。
確かに、土方のいう言葉は正論ではある。
だが―――。
「む、確かに。それは正論だ。
だが、見ての通り今の懐具合は端的に言うと寂しい。
大きな報酬など求められても困るぞ。」
「何、大したことじゃねえさ。ちょっとした物だ。多分な。」
そうして土方は自らの望みを口にした。
それを聞いたセイバーオルタは彼女にしては奇妙な表情を浮かべた。
「……貴様もよく解らん男だな。まあいい。その程度なら大した報酬ではないが……本当にいいのか？」
「ああ、構わねえさ。元より俺にはよく解らん物さ。
よく解らん物だから他人に買わせりゃ多分合ってるだろうさ。」
「ふむ、まあその程度なら別段かまわんが……。」
そして、新宿のアヴェンジャー、バーサーカー、アサシンを排除した彼らは、ついに最終決戦へと至る。
銃身塔バレルエミヤオルタと雀蜂たちに厳重に守られた敵拠点。
それらを奇策で潜り抜け、頂点へと目指す彼ら。
そして黒幕であるモリアーティとの対決。
四騎のサーヴァントにより、悪のモリアーティは打ち倒された……はずだった。
「バカな！こんな事はありえない！何故この反応が……！？
皆、気をつけて！その反応は……魔神柱だ！」
魔神柱バアル。
ソロモン序列第一位。かつて神霊バアルとしてウガリットの地で活躍していたが悪魔として零落させられた存在である。
ゲーティアが滅ぶ際、彼はゲーディアを見切って滅ぶ前に逃走を図ったのだ。
「待っていた……待っていたぞ！3000年この時をな！
カルデアのマスター、藤丸立夏！貴様を倒すためにな！
我らゲーティアの完全な計画、全てを台無しにした存在。
憎悪だ！もはや貴様には憎悪しかない！
何故だ。何故英雄でも魔王でもない平凡な貴様に！貴様ごときに！
八つ当たり？逆恨み？構わぬ！何とでも言うがいい！
だが貴様は、貴様の命だけは奪う―――！！」
3000年の時を得て、バアルは幻霊と英霊との融合技術を身に付けた。
幻霊とは英霊になれるほどの力がない、歴史の奥に打ち捨てられたガラクタ。
だが、彼はそこに、無数の可能性、途方もない価値を見つけたのだ。
「ならば問おう！キミとモリアーティはどこまで関わっている！」
「―――全てだよ。ホームズ君。」
その言葉と共に、善であったはずのモリアーティはホームズの脇腹を貫いた。
皆が呆然とするなか、ホームズはモリアーティに向かって叫ぶ。
「まさか……キミがそこまでイチかバチかの賭けに出るとは……！
確実性を捨てても勝利を望むとは……！アルトリア君！私を斬れ！そうすればまだチャンスは―――！」
「させんよ。我が仇敵。」
そして、ホームズは霧となってモリアーティの内部へと吸収された。
消え去ったのではなく、ホームズはモリアーティのエネルギー、その一部になっているのだ。
そしてモリアーティは語った。
曰く、彼とバアルは同盟を結んでおり対等な関係だと。
そして、それぞれ決して勝てない宿敵を倒すために手を結んだと。
さらにモリアーティは記憶を消し、ホームズ側につくために善のモリアーティとなり、
バアルも記憶を消して悪のモリアーティとなった。
そうしなければお互いの宿敵のホームズと立夏に勝てないからだ。
だが―――それに真っ向面から立ち向かう漢がいた。
「それがどうした。」
「―――何。」
チャキッと銃が構えられる音がする。
手にした銃を魔神柱バアルとモリアーティに突き付けて、土方歳三は吼える。
「それがどうしたと言ったんだ。
てめえらの因縁だの何だの俺には関係ない。ああ、全く関係ない。
だが、この国を日の本に害なす存在なら神だろうが魔神だろうが斬り倒す。
誠の旗の一文字の名の元に。それが俺たち、新撰組だ！！」
「笑わせるな！たかが近代の英霊ごときが！
たかが刀一本と銃一丁ごときで何ができる！何ができるッ！」
だが、そのバアルの叫びに反応したのは、カルデアにいるダヴィンチだった。
『魔神柱バアル。君は一つ忘れているようだね。』
「―――何？」
『何の力もない。何もできないはずの存在があがいてもがいてついには君たちゲーティアを打ち倒し人理を修復した。
そんな存在を君たちは知っているはずだ。
そうだ！目の前の存在！藤丸立夏！何の力もないはずのその彼に君たちゲーティアは倒されたんじゃないか！！』
そのダヴィンチの言葉に一瞬驚いたように沈黙した後、バアルは深く頷く。
「なるほど。そうだ。確かにそうだな。ダヴィンチ。貴様の言う通りだ。
ならばこの魔神柱バアルに油断なし。来るがいい。ゲーティア戦のようにはいかんぞ。」
「話は済んだか？なら―――。」
チャキッ、と音がした。
土方が自分の鞘から刀を引き抜いたのである。
和泉守兼定、二尺八寸。
それを片手に、銃を片手に構えながら土方は吼える。
「斬る。斬り捨てる。いかにこの国が変わろうと、ここが切り離されて本来の日本と関係なかろうと、
江戸に害なす輩は魔神だろうが神だろうが切り捨てる。
それが俺だ。新撰組の『誠』だ。この一文字を抱いて―――冥府へ行け！魔神！」
「堕ちたりとは言ってもかつては神霊だったこの魔神柱バアルを―――容易く屠れると思うなよ人間ッ！！
我が名は、ソロモン72柱が第一位、魔神柱バアル！」
「いいだろう。新撰組副長、土方歳三！いざ参るッ！！」
そして、彼らの戦闘は開始された。
エミヤオルタもバアルを倒すため味方になったが、それでも3000年の齢を得て、油断を全て捨てたバアルは手ごわかった。
「何故魔神柱の姿にならぬのかだと？
私を舐めるなよ。3000年の長きに渡り―――私が幻霊技術を開発しているだけだと思っていたのか！？」
バアルはセイバーオルタの一撃を紙一重で回避すると、彼女の胴体に蹴りを叩き込む。
その隙を見計らって攻撃するジャンヌオルタの攻撃を回避すると、彼女の胴体に今度は自らの拳の一撃を叩き込む。
ジャンヌオルタとセイバーオルタの腹部の鎧が砕け散り、内蔵に大きなダメージが入る。
並みのサーヴァントなら一撃で戦闘不能になる一撃だ。
「ぐ、ぬ！それは―――格闘術だと！？」
「然り！私は貴様らを倒すのならば使える物は何でも使用する……。
人間に変化するのも、人間と同盟を結ぶのも、人間の格闘技術を学ぶのもだ！
3000年鍛えた我が格闘術。そう簡単に打ち破られると思うな！！」
魔神柱の姿ならともかく、今のバアルは人化している。
ならば、人間の格闘術を扱えても全く不思議ではない。
見た所、打撃を基本とした、様々な格闘術を取り込んだ我流に近い格闘術である。
単純な拳の一撃でも魔神柱の力と魔力ならば、それは恐るべき威力を発揮する。
エミヤオルタによる銃弾の一撃も、バアルの強靭な外皮には通用しない。全て弾き返されてしまう。
彼の一撃は、相手の体内に食い込まないと意味がないものだ。
そもそも外皮によって弾かれてしまうのならば、『unlimited lost works』は発動しない。
「ハッ、大した執念だ。その執念は買ってやってもいいがな。」
刀を構えてバアルと対峙した土方。
だが、土方を見た瞬間、バアルは他のサーヴァントとは異なる反応を示した。
「貴様ァ……その微かな魔力！アンドラスの物か！？
何故だ！僅かながらもアンドラスの加護を受けた貴様が何故私に敵対する！！
ソロモン７２柱序列一位が魔神柱バアルが命じる！我に従え！」
今では微弱すぎて気づかなかったが、近くで真正面で対峙する事により、ようやく土方の内部にある
アンドラスの魔力にバアルは気づいたのである。
だが、そのバアルの言葉を、土方は一言の元で斬り捨てる。
「知った事かそんなモン！！
俺は俺自身のために戦う！俺の誠に従って戦う！！
バアルだかアンドラスだか知らねえが……斬り捨てるまでだ！」
そう吼えた土方は、地面を蹴るとバアルに上段からの渾身の一撃を叩き込む。
「ぬ、ぐ！？」
だが、渾身の力を込めたその一撃はバアルの強靭な外皮によって弾き返された。
堅く、強靭で柔軟性があり、強い魔力によって守られてる外皮は、いかに鋭かろうと神秘の薄い日本刀では切り裂くことが
難しかったのである。
鋭い切れ味を誇る和泉守兼定でも切り裂けないなど並大抵の防御力ではない。
その反撃と言わんばかりに、バアルの強烈な右ストレートが襲い掛かる。
だが、土方はそれをまともに受け止めず、当たる寸前で手の甲でバアルの右腕をタイミングよく殴りつける事で上手く攻撃を逸らす。
そしてそのまま相手の懐に飛び込む潜り込む様に体を沈め、おんぶする様な形で相手を背負い、そのままバアルを投げ飛ばす。
いわゆる柔道でいう所の背負い投げである。
まさか自らが投げ飛ばされるとは思いもよらなかったバアルは驚愕する。
「な―――！？この我を投げ飛ばすだと！？」
「半端に格闘術をかじったのがまずかったな……。
恐らくは、独学で鍛え上げたものだろうが、俺たち流派で学んだ者からすれば読みやすいんだよ！
お前さんの攻撃はな！！」
そう、バアルの格闘術はあくまで独学で練り上げたもの。
そこにはフェイントなど細かい対人技術まで学びとる事はできなかったのである。
名のある武術の師匠にでも学べばまた違ったのであろうが、そこで彼を無能と責める事はできない。
彼は立夏に勝つためにあらゆる計算を行い、あらゆる手段を検討し、あらゆる事を学び取ったのだ。
それを無能と誰が言えるだろう。
確かにバアルの一撃は強力ではあるが、繰り出す時に僅かに出る隙を読み取って攻撃を回避する。
元より、彼の学んだ天然理心流は極めて実戦向きであり、その極意は「千変万化臨機応変」である。
さらに、天然理心流は、居合、柔術、短刀、棒術などが合わさった総合武術だ。
その柔軟な彼の視点ならば、バアルの攻撃を的確に読み取る事が出来たのである。
人外の関節がどうなっているか不明なので関節技はかけられないが、
二本足で立っている人型の存在ならば、投げ飛ばせない道理はない。
土方はそう考えたのである。
だが、当然のごとくただ投げ飛ばされた程度ではバアルには髪の毛ほどのダメージも与えられない。
しかし、ほんの少し、起き上がるだけのほんの少しだけの隙ができたのは確かである。
そして、その隙を見逃す彼女らではなかった。
「ハッ！やるじゃない狂戦士！これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……！
《吼え立てよ、我が憤怒（ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン）》！！」
「なるほど。ご自慢の外皮のようだが……我が聖剣をも防げるか試してやろう！！」
生半可な攻撃では通じない、と判断したジャンヌオルタは、起き上がるために片膝をついたバアルに容赦なく宝具を叩きこむ。
地面を黒炎が走り、バアルを焼き尽くすと同時に無数の槍がバアルを突き刺す。
そして、その隙を逃さぬ、とセイバーオルタのエクスカリバーの刃がバアルの外皮を大きく切り裂く。
「ふざけるな……！ふざけるなふざけるな！
堕ちたりとはいえかつては神霊だった、3000年の齢を得たこの魔神柱バアルが！
このようなたかが近代の英霊に追い詰められるだと……！
ブリテンの黒き竜ならば解る！フランスの反転して作り上げられた聖女ならば不本意ながら納得もしよう！
だがたかが近代の英霊ごときが……この我を追い詰めるなどあってはならんのだ！」
「俺が知るかそんな事！さっさとくたばりやがれ！！」
起き上がったバアルは再度土方たちに攻撃を仕掛ける。
当然、何とか攻撃は回避しているが無傷とは言えない。
魔力を纏わせた彼の攻撃はかすっただけでも土方にダメージを与える。
土方に格闘術は通じづらいと判断したバアルは、攻撃を魔術攻撃へと切り替える。
元々バアルは神霊だった事は嵐や雷を象徴していた神だ。
魔神柱になってもそれは変わらない。
そして広範囲の嵐と雷撃の混じった攻撃魔術を回避する方法は土方には存在しなかった。
嵐は彼の肉体を切り裂き、雷撃は彼の肉体を焼き尽くす。
元より対魔力のない近代の英霊にとって魔術は天敵のようなものだ。
「チィ……！！奇怪な術を使いやがって！」
「止めだ！食らうがいい！！」
これは有効と見たバアルは再度攻撃魔術を土方に叩き込もうとする。
だが―――。
「私の事を忘れてもらっては困るな。魔神。」
その前に立ち塞がったのは殴られたダメージから復帰したセイバーオルタだった。
バアルの一撃によって鎧は砕かれているが、何とか魔力によって修復は行われている。
そして、何より彼女の対魔力はＢ。
闇に染まった事でランクダウンしたが、それでも三節以下の詠唱による魔術を無効化し、
大魔術・儀礼呪法など大掛かりな魔術を持ってしても傷付けるのは困難だ。
その高い対魔力ならば、いかに魔神柱の強力な魔術と言えど、彼女に致命的なダメージを与えるのは難しい。
その高い対魔力により、セイバーオルタは土方の盾となってバアルの嵐と雷撃を退ける。
当然、完全に防ぎきる事はできないが、この程度のダメージでは致命傷には程遠い。
「礼を言うぜ！王様！」
そう叫びながら、土方は再度和泉守兼定をバアルへと叩き込む。
だが、渾身の力を込めたその一撃は、バアルの外皮によって弾き返されてしまう。
エミヤオルタの銃撃を弾き返すほどの堅さと柔軟性を誇る彼の外皮は、神秘の薄い刀の一撃すら防いでしまうのだ。
「ハハハハハ！やはりな！貴様の刀はこの国では名刀というらしいが……いかんぜん神秘が薄すぎる！
それでは3000年を得た我が外皮が貫けぬわ！」
「そのために―――。」
「私たちがいるってのよ！これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮……！
《吼え立てよ、我が憤怒（ラ・グロンドメント・デュ・ヘイン）》！！」
そのジャンヌオルタの叫びと共に、再度、煉獄の轟炎が地面を走り、魔神柱バアルを焼き尽くす。
さらに轟炎から発生した無数の槍がバアルを貫き、彼を内部から焼き尽くす。
だが―――。
「無駄だ……！無駄無駄無駄ァ！
この程度で！この程度で我の憎悪を燃え尽せるものかよ！復讐者！！
復讐者の怨念、しぶとさは貴様が一番よく解っているはずだろう！？」
「そうね。けれど―――『足止め』には十分でしょう？」
にやり、と邪悪に微笑んだそのジャンヌオルタの言葉に、バアルは表情を歪ませる。
「―――！！」
チャキッ、とセイバーオルタが自らの剣を構え直す音が聞こえる。
そう、ジャンヌオルタが時間を稼いでいる間に、彼女は自らの魔力を練り上げ、エクスカリバーに注いでいたのだ。
エクスカリバーの刀身から解き放たれる膨大な漆黒の魔力。
それは神霊の魔術行使にも等しい力を持つ。
「卑王鉄槌。極光は反転する。光を呑め！ 《約束された勝利の剣（エクスカリバー・モルガン）》！」」
その凄まじい膨大な漆黒の光による斬撃は、いかにバアルと言ってもただではすまない。
おまけにジャンヌオルタの宝具によって足止めを食らっている状態だ。
回避すらできない以上、真正面から受け止めるしかない。
バアルは手をクロスさせて、魔力を纏わせるとエクスカリバーの漆黒の光の斬撃を防御する。
通常のサーヴァントならば防御すら不可能。
瞬時に消し炭にんるであろうその一撃にバアルは懸命に耐えていた。
彼は全ての魔力を防御へと変換してエクスカリバーの一撃に耐えているのだ。
「が……がああああああ！！」
膨大な魔力を消耗し、エクスカリバーの一撃を耐え、それを弾き飛ばすバアル。
だがその代償は大きかった。
バアルの両腕は消滅し、彼の胸元は深々と斬撃によって切り裂かれていた。
そしてそこに見える光り輝き脈打つモノ。
それこそ、魔神柱バアルの霊核に違いない。
そして、その弱点を歴戦の戦士と歴戦を潜り抜けてきたマスターが見逃すはずはなかった。
「マスター！！」
「応ッ！！令呪三画を持って勅命とする！バアルの霊核を切り裂け！バーサーカー！！」
その瞬間、立夏は全ての令呪を土方に対して使用する。
カルデアの令呪は補充が利く分効力が薄い。
何としても確実に仕留めるために、彼は土方に対して令呪を使用したのである。
そして、それに答えるように、土方も自らの宝具を展開する。
「承知ッ！！抜刀…突撃！ うぅぅおあああああああ！ここが！新！選！組だあああああ！！」
彼の宝具『不滅の誠（しんせんぐみ）』
それは多人数召喚による対軍宝具の様相を呈するが本質はまったく異なる。
そのすべてが「今も新選組はここにある」という彼の狂気の顕現だ。
彼の心象風景が外部に流出し、周囲は五稜郭を連想させる壮絶な銃弾飛び交う戦場風景へと変化する。
そして、その本質は、自らが傷つけば傷つくほど相手に多大なダメージを与える宝具である。
今までバアルの攻撃に傷ついてきた彼の肉体と令呪三画の力は、彼に魔神すら凌駕する力を与える。
狙うは、胸元の大きな傷によってむき出しになった霊核。
両腕を失ったバアルは防御もできまい。再生も間に合わない。
渾身の力を込めて、胸元の大きな傷によってむき出しになった霊核に土方は和泉守兼定を斬りつける。
令呪の力、そして彼の宝具の力によって、土方の和泉守兼定はバアルの霊核を両断した。
だが、その代償は大きかった。
その負荷に耐えきれず、和泉守兼定は真ん中からへし折れてしまう。
だが、確実にバアルの霊核は両断された。後は消滅を待つしかない。
「ハッ、人も神も同じだな。度胸さえあれば叩き斬れるもんだ。
つまりは……ただそれだけの話よ！！」
「ああ、せめもの情けだ。
あの金ぴか沢庵の最後の言葉を教えてやるよ。
「死にたくない。消えたくない。」だとよ。それにこうも言っていたぜ。
「我が灯火。我が彼岸。我が漂流の終わりを看取った狂戦士よ。
戦い続けるがいい。決して救われぬと知りながら、誠のために。
それが私という悪を一時でも救い上げた貴方への罰であり、私という命の最後の願いでもある。」とな。
「ハ、ハハハハハ！！全く、同じ魔神柱でありながらそのような結論に至るとはな！
そして我も消滅するか！だが藤丸立夏！貴様も終わりだ！ハハハハハ！！」
その言葉と共にバアルは消滅した。
そしてその言葉は事実だった。
モリアーティの魔弾の射手の能力の力を利用して隕石をバレルに落とし、この世界ごと粉微塵にする計画。
それはもはや確定された『運命』だ。
だがそれで諦める彼らではない。
セイバーオルタとエミヤオルタは隕石の破壊に向かった。
絶望的な状況下、それでも土方と立夏は諦めなかった。
「フン、小難しい事を垂れたが―――運命だろうが何だろうがてめえを倒せば解決するんだろ？
なら、そうするまでだ。」
バアルとの戦いによってボロボロになり、折れた刀を構えながら土方は言葉を放つ。
そんな彼を見て、肩を竦めながらモリアーティは呟く。
「いや実際君は恐るべき存在だよ。ミスター土方。
君の言っていたように、善の私と悪と私を両方纏めて叩き斬れば私とバアルの計画はその場で全ておじゃんだ。
研ぎ澄まされた直観は全ての論理や証拠を飛躍して真実へと辿り着く。
その獣のような直観は、私のような緻密な計画をいともたやすく狂わせる。
何せ論理性がない。どう行動するか予測もつかない。
アレと同じだネ。新宿のアヴェンジャー。」
そのモリアーティの言葉に答える事無く、土方は油断なく折れた刀を手にしながら、銃をモリアーティへと向ける。
「やるかネ？サムライ。
今や君はボロボロだ。君の愛刀すら折れている。
おまけに君の最後は銃によって打ち倒されている。
この新宿ではその末路がそのサーヴァントの弱点となる。
つまり、魔弾の射手でありアーチャーである私は君の最大の天敵だ。それでもやると？」
「局中法度一、士道ニ背キ間敷事。
敵前逃亡は―――士道に反するんでな！元より選択肢すらねぇ！！」
「フン、それだけ吼えらえるようならまだ大丈夫のようだな。
だが手助けはさせてもらおう。」
その言葉と共に、轟炎と共に漆黒の炎がモリアーティに向かって襲い掛かる。
それを紙一重で回避したモリーアティは思わず苦笑いを浮かべる。
そう、それはホームズの変装ではない。
れっきとした巌窟王その人本人である。
そして、巌窟王の宝具で完全回復したジャンヌオルタ。
そして、彼によって囚われの身から解放されたシェイクスピア。
巌窟王の宝具によって新宿を覆っていた結界をすり抜け、わざわざカルデアから連れてこられたアンデルセンの二人も姿を現す。
「驚いたな。囚われの身であるシェイクスピアはともかく、アンデルセン。君がこの新宿にやってこられるとは。
いや、確かに結界の要であるバアルが消失した以上、サーヴァント召喚不可の結界はすでに消失している。
それにしても早すぎる―――そうか。なるほど。巌窟王。君の宝具か。確かに君の宝具ならば結界のすり抜けも可能か。」
「いかにも！我が宝具《虎よ、煌々と燃え盛れ（アンフィル・シャトーディフ）》ならば時間、空間などあらゆる無形の牢獄すら脱する事ができる！
そして、それは結界と言えど例外ではないぞ犯罪界のナポレオンよ！
結界をすり抜け、カルデアに行き、アンデルセンをこの地へと送るのは多少手間だったがな！！」
巌窟王は立夏がこの地に降り立つ前からすでに召喚されていた。
そして巌窟王と出会ったホームズは彼と相談し、ホームズが活動しやすいように巌窟王に変装する事を許可を求めたのだ。
すでに召喚状態でカルデアに存在しているアンデルゼンならば召喚不可能な新宿の結界に引っかかる事はない。
そのため、巌窟王は彼自身も言っているようにまるカルデアに宝具を使用して転移し、
その後でアンデルゼンを連れて再度新宿へと転移したのだ。
「全く！もう二度とごめんだぞあんなのは！
霊体化していたとはいえ、絶叫ジェットコースターなんて比べものにならん！そんな生易しい物じゃなかったぞ！
まあいい。そら立夏。お前に贈り物だ。二次創作とはキャラ設定を考えなくていいから楽だが、縛りがあるのが面倒だな。
行くぞ。《貴方のための物語》！！」
「それでは某も！《開演の刻は来たれり、此処に万雷の喝采を（ファースト・フォリオ）》！！」
二人の宝具が展開された瞬間、周囲の空間が変化を引き起こした。
凡そ200ほどのぼんやりとした存在、幻霊たちが出現したのだ。
そして、その中の代表であろう丸顔の神父が言葉を放つ。
「我々は幻霊ですよ。カルデアのマスター。ですからこうして亡霊のように佇んでいるのです。
シェイクスピアとアンデルゼンによりこの場に紡がれた無限無数の名探偵たち。
イギリスに限らず、あらゆる国のあらゆる探偵、それら全てが貴方に力をお貸ししよう！！」
「私を侮辱するつもりか謎解き屋ども！このジェームズ・モリアーティ
ホームズ以外の探偵なんぞに断じて遅れは取らぬ！来い！」
「すまんが、『アレ』をするには多少時間がかかるのでね。
それまでの時間稼ぎをお願いしたい。
何、君たちなら容易い事だろう？」
神父の幻霊に対して、ジャンヌオルタは舌打ちしながら前に出て、同時に巌窟王も戦うべく前に出る。
だが、それを止めたのはボロボロになった土方だった。
「いいや、コイツは俺が『やる』。お前らは支援に徹してろ。」
「ちょっと！アンタ正気なの！？武器も折れてボロボロじゃない！？
大人しく引っ込んでなさいっての！！」
そのジャンヌオルタの言葉をボロボロの土方は笑い飛ばす。
「ハッ、笑わせるなよお嬢ちゃん。
何が犯罪界のナポレオンだ。犯罪者なら、俺たち新撰組が捕えるのが道理って奴だろうが。」
「忘れてた……。アンタバーサーカーだったわね……。しかも筋金入りの。
ええい好きにしなさい！その代り、いざとなったら遠慮なく私が宝具叩き込むわよ！？」
ニヤリ、と土方は不敵に微笑むと、モリアーティに向けて銃口を突きつける。
それを見て、思わずモリアーティは肩を竦める。
「やれやれ。新撰組は元は治安維持組織だったと聞いたが……ここまでくると筋金入りだネ。
君の狂気は魔神柱でも解く事ができなかったのも頷ける。
まあいい。今の私に敵はいない。来るがいい。」
今の土方に武器は折れた刀と、手にしたミニエー銃しかない。
それではモリアーティの手にする超過剰武装多目的棺桶（ライヘンバッハ）とは火力が違いすぎる。
だが土方はミニエー銃の引き金を引き絞る……がその弾丸はあらぬ方向へと飛んでいく。
さすがにボロボロすぎて狙いを定める事もできなくなったのか、とその場の誰もが思った。
「外れだネ。君の敗北だ。ミスター土方。」
「いいや、『当たり』だぜ。お前さんお得意の計算でも計算できなかったようだな。」
「―――ッ！？まさか！！」
そう、土方の放った弾丸は狙いを外した訳ではない。
弾丸の放たれた先は―――地面に転がっていた真ん中から折れた和泉守兼定の切っ先の部分だ。
キィン！とカン高い金属と金属がぶつかり合う音が響き渡る。
弾丸の一撃を受けて、空高く舞い上がる兼定の切っ先。
それと同時に疾走する土方は空中に舞い上がった兼定の切っ先めがけて跳躍すると―――それをがちり、と口で咥え込んだ。
モリアーティはそれを見て、彼に向けて銃撃とミサイルの発射を行う。
無数の弾丸とミサイルの銃撃を回避しながら、彼は刀の切っ先を加え、ミニエー銃を撃ちながらモリアーティに突撃する。
弾丸が数発土方を貫くが、この程度彼の最後に比べれば何という事はない。
「ぐ、ぬ！？貴様！まさか―――！！」
そして、土方は、加えた刀の切っ先をモリーアティの所有する超過剰武装多目的棺桶（ライヘンバッハ）のミサイルの発射口に叩き込む。
その刀の切っ先が邪魔になり、ミサイルの発射口を完全に閉じる事ができない。。
さらに、折れた方の刀を発射口に突っ込み、無理矢理、てこの原理でこじ開ける。
そして、土方はその無理矢理こじ開けた発射口に自分の銃を突きつけると、零距離射撃―――接射を行い、後方へと跳躍する。
当然、発射された弾丸はモリーアティの所有する超過剰武装多目的棺桶（ライヘンバッハ）内部のミサイルに命中。
「――――！！」
とっさにモリアーティは超過剰武装多目的棺桶（ライヘンバッハ）を捨てて大きく跳躍する。
誘爆を引き起こし、その爆発のせいで超過剰武装多目的棺桶（ライヘンバッハ）内部の弾丸やミサイルなどが全て連鎖反応で誘爆。
凄まじい爆発を引き起こし、超過剰武装多目的棺桶（ライヘンバッハ）は粉々に砕け散る。
そして、その隙を見逃す『彼ら』ではない。
無数の幻霊探偵たちは叫びを上げる。
「―――結論は出た！ジェームズ・モリアーティ！
ここにその証拠を示す！
曰く！汝からの自白はすでに行われている！
曰く！汝の盟友である魔神バアルからの証言はすでに取られている！
曰く！このバレルを組み立てた事など無数の物理的証拠はもはや明らかである！
曰く！ここにいる全ての者たちが証人である！
これらの事からすでにこの事件の真相は明らかである！
今だ！カルデアのマスターよ！あの言葉を解き放て！」
無数の幻霊探偵たちの声に、立夏は答えて叫ぶ。
「ああ、分かった！ジェームズ・モリーアティ！！」
「――――！！」
「『貴方が犯人だ！！』」
立夏のその言葉に、モリアーティから膨大な力が消失していく。
今まで影で幾多の完全犯罪を成し遂げていた彼は、真正面から犯人だと指摘される事はなかった。
それゆえ、犯人だと指摘される事がこれほど大きく犯人の力を損なう物だとは知らなかったのである。
「ぐ……ぬ！まさかこの私がここまで力を奪い取られるとは……。
しかも、武器を失った今の私に抗う手段はない。
今ならば私の命を奪うのは容易いはずだ。何故そうしないのかね？」
その言葉に、皆が一斉に立夏を見る。
この場で、決定権があるのは彼だからだ。
「だって……楽しかったでしょ？正義の味方。
根っからの悪ならともかく、正義の味方を倒すなんてこと、俺にはできない。」
その立夏の言葉に一瞬呆然とすると、モリアーティは爆笑する。
「フ。フハハハハハハ！なるほどそうか！私の敗北か。
なるほど。君の指摘の通りだ。藤丸立夏。
私は悪の味は知っている。だが正義の味は知らない。
そして正義の味と来たら―――ふむ！存外悪くない！」
「そして、土方歳三。君は最後の最後まで私にとってのイレギュラーだったよ。
君の言う通り、君が善の私を斬り捨ててしまえば、私たちの計画はそこで全ておじゃんだ。
いやはや、今から振り返れば綱渡りで冷や汗が出るよ。
私にとって警察や治安維持組織など全く敵ではなかったが―――ふむ、考えを改める必要がありそうだ。」
そこまで言うと、彼の肉体はすでに消失を始めている。
もはや彼を維持する力すら失われつつあるからだ。
「それではアディオス・アミーゴ！さらばだ！
願わくば君のサーヴァントとして再び正義の味を味わいたいものだ！」
それだけ言い放つと、彼は消失した。
彼が消失すると同時に幻霊探偵たちも消失する。
事件が解決した以上、もはや探偵に出番はないからだ。
そして、モリアーティの力が失われた以上、ただの隕石と化したベンヌは見事にエミヤオルタとセイバーオルタによって打ち砕かれていた。
―――ここに事件は終了したのである。
「皆ご苦労様。力を貸してくれてどうもありがとう。
特に土方さん。ここに来てからずっと一緒に戦い続けてありがとう。感謝している。」
その立夏の言葉に、ボロボロの土方は肩を竦めて苦笑いを浮かべる。
「俺としちゃちと不満だな。ああいう輩は最後はひっとらえて牢屋に入れるまでが仕事だったが、
まあ、消え去ってしまった以上仕方ない、か。」
「そうか。忘れ去られがちだけど新撰組って治安維持組織だもんね。
そう斬り捨ててるばかりだけじゃないのか。」
「たりめえだ。何回も言ってるだろうが。
人を何だと思っていやがる。俺たちは単なる人斬りじゃねえぞ。」
そこまで口にすると、土方は晴れやかな笑みを浮かべる。
「さあ『俺たちの』新撰組に帰ろうぜマスター！
沖田のヤツにこのなんとかカードってヤツを渡さにゃならんしな！」
そう、土方がセイバーオルタから貰った『褒美』
これはこのアイチューンズカードである。
現代に召喚されたばかりの土方にはよく解らないので、現代に馴染んでいるセイバーオルタに褒美と称して買ってきてもらったのである。
新撰組は金策は禁止されているが、功績を上げた『褒美』をもらうならば何ら問題はないのである。
「……ん？」
むーっとこちらを睨み付けているジャンヌオルタを見て、土方は思わず苦笑いを浮かべる。
彼女のその顔だけで女性心理に長けている土方は一瞬で察したのである。
確かに、あの新宿のアサシンでのパーティでの際、立夏と踊ったのはセイバーオルタだけだった。
ジャンヌオルタは立夏と踊っておらずそれが心残りなのだろう。
「おっとマスター。俺はちょっと忘れ物をしたようだ。
席を外すぜ。しばしの間ごゆっくり。」
適当な理由をつけて土方はその場を離れた。
後少しだけ時間はある。
流石に色町に行く時間はないが、酒を飲む時間ぐらいならあるだろう。
幕末とはまた異なる酒がどんなものか。試してみるのも悪くない。
これから俺の―――否、『俺たち』の新撰組としての戦いがまだ待ち受けているのだから。
「ハッ、あの筋肉男。むさいくせに女性の心理がよく解ってるのね。
なるほど。認めたくはないけど色男と言われていたのがよく解るわ。認めたくないけどね。
さあ踊りましょうマスター。」
―――こうして魔境新宿での戦いは終わった。
だが、彼らの人理修復の戦いは終わったわけではない。
また新しい戦いが起こるだろう。
その戦いがどんな結末になるのか、誰も知るよしはなかった。
こんにちは。零です。
土方さんがめちゃかっこよかったので思わずSSを書いてみました。
（なお引けなかった模様）
感想などいただけたらとても嬉しいです。
更新したばかりなので、誤字脱字は順次直していく予定です。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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