「―――ど、どうしましょう……。」
神霊イシュタルが開催したイシュタルレース。
それに参加し、名を上げようとしていたサーヴァント、ニトクリスは動揺していた。
それは共に参加を予定していたファラオ、オジマンディアスに見事に断られたからである。
曰く、「夏は石室に涼みながら果実を楽しむものであって早さを競うことではない」
「真のファラオなら常にその威光は世に広まっている」という理由である。
むしろ逆に「凡百の英霊を圧倒するために出場しろ」と命令されてしまったほどである。
こうなってしまっては、死力を尽くして挑まねばあの神王は納得しまい。
だが、機体も相棒のアテもないニトクリスは完全に途方にくれていた。
そうなったら、後はもう総当たりしかない。
ニトクリスはカルデア中のサーヴァントに片っ端から助けを求め、それら全てを断られていた。
そして彼女が最後に辿り着いた相手とは―――。
「そ、そこの貴女！そう貴女です！」
そう、それは新しくカルデアの召喚された英霊、不夜城のキャスターだった。
不夜城のキャスターはニトクリスを見ると、密やかに自分の宝具へとアクセスする。
―――サーチ開始：真名・ニトクリス。
彼女の宝具は物語そのものといえる宝具だ。
故に、相手の真名さえ分かれば相手の大まかな生前の経歴を確認する事ができる。
（流石に『今だ語られていない』未来の英霊などは不可能だが。）
だが、解るのは相手の世間一般に流布された伝承でしかない。
相手の弱点や性格などは自分で推測するしかないのである。
彼女は己の逆臣を全て葬り去り、自らも命を絶ったとされる伝承上では苛烈な女王だ。
そんな女王に呼び止められた不夜城は瞬時に死を覚悟した。
―――ああ、私もこれで最後か。
ぼんやりと不夜城のキャスターはそう思った。
だが、次に来た彼女の言葉は不夜城の予想外の言葉だった。
「お、お願いします！私とチームを組んでください〜！！」
「―――は？」
そのあまりにも予想外のニトクリスの言葉に、思わず彼女は呆然とした。
「……なるほど。つまりはレースに参加しなければ神王オジマンディアスの不興を買うと。
そういう事なのですね。」
「そ、そういう事です。うう、どうしたら……。」
本来、レースというのは極めて危険な行為である。
事故で亡くなった例など数多くある。
参加したくはない。したくはないが―――目の前で困っている女性と、昔の自分がダブってしまったのも事実だ。
それに死なない護符というのにも心は揺さぶられたのも事実だ。
不夜城ははあ、とため息をつくと言葉を口にした。
「解りました。参加いたしましょう。」
「ですが……参加人数はいいとしてもマシンはどうするのですか？当てはあるのですか？」
「マ、マシン、ですか。そ、そこまでは考えていませんでした……。ど、どうしたら……。」
……やはり少し早まってしまったかもしれない。
不夜城ははあ、とため息をつくと言葉を口にする。
「……解りました。マシンはこちらで用意しましょう。それでいいですね。」
「ええっ！？マ、マシンが用意できるのですか！？
し、失礼ながら機械に詳しいとは到底……。」
「……拡大解釈という言葉はご存知でしょうか？
私の宝具は言うなれば『物語』そのものと言えます。
そして、物語とは常に拡大されたり変化されたりするもの。
その特性を利用すれば、後は物質を実体化できるだけの魔力があればマシンを作る事は理論上は可能です。」
「そうですね……。例えばインド神話に伝わるヴィマーナ、または千夜一夜物語の空飛ぶ絨毯。
あれの劣化模造品を実体化させて作りだす事も可能ですが、
レースという特性上、飛行する事は許可されないでしょうね。
とりあえず座席周りからデザインを始めますか。徹底的に安全対策を施さないと……。
デザインは魔法のランプを巨大化させて……。」
そう言いながらも不夜城はジンたちを実体化させて急ピッチで作業に取り掛かる。
デザインや内部構造は不夜城が考え、実際に車を作成するのは召喚されたジンたちである。
彼らは金属板やフレームやエンジンなどを作り出し、それらを炎などで加工し、急ピッチで機体を組み立てていく。
「しかし大したものですね。これほどのジン……幻想種を自分の手足のように扱えるとは。
意思を持った幻想種は扱いが難しいはずなのですが。」
「私の場合、少し特殊なのです。
彼ら彼女らジンたちは、純粋な幻想種ではなく『物語に書かれた精霊を実体化した存在』なのです。
言い返れば、野生の獣を飼いならしたのではなく、人工知能を搭載したロボットを作り出した、と言えば解りやすいでしょうか。
神王オジマンディアスのような膨大な神権や強大な神威があれば、強大な幻想種であるスフィンクスも己の手足のように使役できるでしょう。
ですが、私は所詮どこまで行ってもただの人でしかありません。
それゆえ、強大で不安定で飼いならす事が難しい存在よりも、
力は弱くとも、こちらの言う事に従順に従ってくれるロボットのような存在を作り出す事を選んだのです。」
「なるほど。確かに道理です。私もスフィンクスを使役はできますが。
それはあくまでオジマンディアス様から貸し与えられた存在。
私個人の力では一体使役できるかできないかでしょう。
貴女の話は実に筋が通っています。」
そう言いながらも、不夜城は手にした巻物に機体の全体の設計図を映し出し、
ジンたちはそれに従って猛烈な勢いで機体を組み立てていく。
「よし、ではコクピットは吊り下げ式にしましょう。
これならば振動を緩和させ、居住性も良くなるはずです。
そして様々な機構を組み込んで動力源とタイヤをこう配置して……。
車体が巨大化しますが、そこは仕方ありませんね。
機体の装甲は『青銅の町の綺談』の物語をベースに実体化させ、さらに様々な物語を付与する事で、
堅固な装甲ができるはずです。」
「な、何だかよく解りませんがとりあえず機体の事についてはお任せします。
私は、マシンの事についてはよく解りませんので。」
―――だが、この発言を後々ニトクリスを後悔させる事になった。
よくよく考えれば、生存を重要視している彼女の性格からして、作る機体がどんな物になるか想像するべきだったのだ。
―――そして始まったイシュタルレース。
各機体とも様々な個性があり、舞台自体も盛り上がっている。
確かにこれで優勝すればファラオの権威も大いにあがる事になるだろう。
ふんすふんす、と気合いを入れるニトクリス。
そしてレースは始まり、各機体も一斉に発進した。
だが、ニトクリスと不夜城の機体、レジェンドファラオ号は後方へと落ちついてしまっていた。
「ぐ、ぬ！お、重い！ハンドルとかアクセルとか色々重い！
ここを何とかするように先に言っておくべきでした！」
レジェンドファラオ号は他の機体と比べてかなり巨大な機体である。
それほどの機体となれば当然出せる速度も限られてしまう。
（そしてまだ不夜城はニトクリスには言っていないが、加速性は最低限まで切り捨てられているのである。
純粋に速度が遅いのはそのためである）
だが、まだレースは立ち上がり。
皆どんな機体性能を所有しているか把握していない。
ここで全速力を出してしまって全て性能を見せるのは得策ではない。
ゆえにまだレジェンドファラオ号は他の機体に大きな差をつけられていないのだ。
もしレースが中盤に差し掛かったら純粋な速度ではもっと離されてしまうだろうが。
まずは平原。
モヒカンたちが現れてレジェンドファラオ号に攻撃を仕掛けたのだが、そんな攻撃が動く要塞ともいえる
この機体に通用するはずはない。
ここを支配していたアタランテを倒したが、その後夜中になった事でレースは中断された。
夜間はレース禁止であり休息時間である。
これは、見る人たちも夜間までは見る事はできない、というイシュタルの判断である。
レジェンドファラオ号の内部には魔力を電力に変換し、煌々と輝く明かりすら存在する。
当然キッチンも火事が怖いのでＩＳヒーター（魔力を熱に変換している）だ。
居住性では他の機体など決して敵わないだろう。
いわば、頑丈な家自体がそのまま動いているようなものだ。
「では、野営の準備をするとしますか。
整備されていない道を夜走るのは危険すぎます。ルールも禁止されていますし、他陣営から出し抜かれる心配もありません。
とりあえず外に出て薪を集めなくては。
後は水場と食糧も。私たちサーヴァントには食事の必要はありませんが、
それでも食事から得られる魔力量は馬鹿にはできません。」
その言葉に、不夜城は首を振る。
「いえ、その必要はありません。
こんな事もあろうかと、このレジェンドファラオ号には大量の水と食料を備蓄しておきました。
さらには食事用のキッチンや休むための簡易寝台も用意してあります。
シャワー室も用意してありますので、砂埃で体が汚れたというのでしたらどうぞ。
外でわざわざ危険な野営を行うよりも、この機体の内部の方が遥かに安全です。」
その不夜城に対して、流石のニトクリスも呆れた表情をする。
「まさか寝台やキッチン、シャワーつきと小型の風呂まで完備の機体とは……。どこまで心配性なんですか貴女は。
まあ、あるものはありがたく使用させていただきましょう。」
何でも大量の水や食料は彼女の宝具を利用した異界結界に保管されており、その量は一か月は余裕でサバイバルできる量なのだとか。
あんな時間でどうやってそこまで備蓄したのか、いやそもそもこそまで大量には必要ないだろう、と思わずニトクリスは呆れるしかなかった。
「ところでニトクリスさんは失礼ですが料理などはできるのですか？」
「うっ……。い、今までホルスにかまけて料理を疎かにしていたツケがこんな所で。
だ、大丈夫です。何とかできます。多分。」
「はあ、解りました。では……サンブーサクをご用意しましょう。
これならば、私にも貴女にも口に合うはずです。」
サンブーサクはひき肉やチーズを小麦粉の生地で包んで揚げた揚げ物である。
そう言いながら、不夜城はキッチンでテキパキと手慣れたやり方でサンブーサクを作っていく。
「サンブーサク？確かにエジプト料理ではありますが、作れるのですか？
……ああ、サンブーサクの原点はそういえば……。」
「……ええ、まあそういう事です。」
彼女が何故サンブーサクを作れるか、と言う事を手繰れば、おのずと彼女の真名へと突き当たってしまう。
最早ニトクリスは彼女の真名を知っているとは言え、彼女がそれでも真名を隠し、不夜城を名乗るのならば、
その意思を尊重したい。ニトクリスはそう思っているのだ。
そして、揚げたてのサンブーサクや様々なおかずを作った後、二人はテーブルでそれらを口に運んだ。
サンブーサクを口にした瞬間、ニトクリスは驚いた。
「ふふっ。」
「どうかしましたか？」
「いえ、思わず兄弟たちと一緒に食事を取っていた事を思い出しまして。
私たちサーヴァントは本来、食事を取る必要はありません。
それでもこのような事をしたのは私との絆を深めるため、という事でよろしいのでしょうか？」
「……私は、貴女に嫌われないように媚を売っているだけかもしれませんよ？
何せ、私は死にたくないだけの女ですから。」
「本当に媚を売ってくる輩は自分からそんな事は言いませんよ。
私、これでもファラオですからそういう輩には鋭いのです。」
そこで、不夜城はニトクリスの逸話を思い出した。
曰く、彼女は夫である兄であるファラオと結婚していたが、
それを邪魔に思った逆臣たちが夫を謀略によって命を奪い、彼女は傀儡としてファラオの座へと祭り上げられた。
全ては、ファラオの地位と権力を私欲に利用する逆臣たちのために。
そのため、彼女は逆臣たちをナイルの流れの底に沈め、自らの命を絶ったのだという。
「……そうですね。少なくとも、私は逆臣の真似は行わない、と誓いましょう。
幸い、貴女は私の理想である善き王に近い。貴女がそのままである限り、私は貴女に力を貸しましょう。」
―――こうして、和やかな雰囲気のままデザートビューティの夜は更けていった。
次の舞台は火口だ。
ここではローマに恨みを持ったブーティカがその復讐心をむき出しにして襲い掛かってきた。
火口では復讐に囚われたブーティカが襲い掛かってきたが、彼女の狙いは主にネロだ。
ローマとは全く関係ないこちらが参加する義理はない。
ならば、あそこは無視してこちらのレースを行うのみだ。
だが、出口はブーティカが言うように火口部方面にしかない。
「さて、どうしますか不夜城。」
「幸いに、ブーティカの狙いはあくまでネロ。
恨みの対象外であるこちらにまで攻撃の手は仕掛けてこないでしょう。
故に、これは絶好の機会。
火口までのチキンレースといいましたが、火口の横ぎりぎりを通り抜けてはいけないとは言われていません。
チキンレースなど怖くて死んでしまいます。真っ当に付き合う義理などありません。」
「ですが不夜城。
このレジェンドファラオ号は他の機体よりもかなり重量が重い。
そんな機体で火口の淵ぎりぎりを走り抜けるのは崩れ落ちて火口へと転落する危険性もあるのでは？」
「……確かに貴女の言う通りです。ニトクリス。
普段の私ならば決して行わないでしょう。
ですが私には『策』があります。
まずは、このレジェンドファラオ号にはアンカーウィンチが装備されています。
さらには機体制作時に『空飛ぶ絨毯』の概念を混ぜ込んであります。」
「火口淵ぎりぎりをこの機体で走るのは不安がありますが……仕方ありません。
死にたくはありませんが……レースに負けるのも本末転倒。
オジマンディアス王の不興を買いたくはありませんから、ここは賭けに出ましょう。」
チキンレースで激しくネロたちとブーティカがぶつかり合い、一番をかっさらっていく。
だが、レジェンドファラオ号はあくまでマイペースで火口部横をすれすれで通り抜けていく。
冷や冷やしたが、何とか崩れずに通行はできた。
もっとも、慎重すぎて順位は落ちてしまったが、これは仕方ない事である。
こうしてデザートビューティは自分たちなりに活躍していたが、目標はあくまでも優勝。
どこかで大幅にまき直しをしなければ優勝はできない。
そして、続くレースの舞台は地溝帯。
ここでは、『美』の度合いに応じて、走る速度に補正がかかるという特殊な地形である。
ここでデザートビューティはブッチ切りの一位を獲得した。
いかにミスターＫ、もとい黒髭とマスカレイド伯爵、もといダヴィンチちゃんの判定による結果である。
「やった！やりましたよ！不夜城！」
「油断は禁物ですニトクリス。次こそが本当の勝負です。」
そして第一部の最終レース。
舞台は何もない平原。
ここならば、何の障害もなく思う存分飛ばせる事ができる。
「ついにここまで来ました！だが、ここで頑張らなければ優勝はありません！
舞台は平原！邪魔する物はなし！さあ！最大出力で加速です不夜城！
ここで加速せねば我らに勝利はありません！」
「……盛り上がっている所申し訳ありませんが、このままでは我々確実に負けますね。
いえ、この機体の加速性は恐らく全機体の中でも最低でしょうから。」
「な、何故そのような事を！？
いえ、薄々そうじゃないかなーとは気づいてはいましたが！」
「安全性を最重要にした結果、最も不適用な能力だと思いましたので。
加速性を重視しては事故に合いやすく、また死亡率も急激に上がってしまいます。
死んでしまいます……。」
それを聞いて思わずニトクリスは悲鳴を上げるように絶叫した。
「そこを！どうして！重要視しないのですか！
これでは他のサーヴァントたちには勝てません〜！」
それでもニトクリスはレジェンドファラオ号のアクセルを全開にするが、
他の機体たちからは見る見るうちに引きはがされていく。
「お、重い！ハンドルとか操縦性とか何か色々な物が重い！」
動く要塞とも言えるレジェンドファラオ号は、その安全性と堅牢さと引き換えに
加速性能を切り捨てた機体だ。
そんな機体が他の加速性を重視した機体に敵うはずはない。
「それは……そうでしょう。
この機体は安全性を最優先した結果、機体も大型化し重量も他の機体とは比べものになりません。」
「こなくそ！メジェド神よ！我に力を！」
だが、それで諦めるようなニトクリスではなかった。
そのニトクリスの言葉に、よし来た、と言わんばかりに数体のメジェド神がぴょこん、と飛び跳ね、自らの神力をレジェンドファラオ号のエンジンへと注ぎ込んでいく。
高位の神であるメジェド神が直接魔力を注ぎ込んでいるのだ。
言うなれば、ニトロかスーパーチャージャーがいきなり組み込まれたような物である。
いかに加速性がなく、重量がある機体でも、それ以上のエンジンの馬力があれば当然速度は出る。
「よし来たぁ！行きますよ〜！」
「ちょ……！待っ……！これは予想外…！！」
その瞬間、レジェンドファラオ号のエンジンが唸りを上げた。
例え加速性の低いエンジンであっても、そこに規格外のスーパーチャージャーを搭載すればどうなるか。
規格外のニトロを叩き込めばどうなるか。
これがその答えである。
レジェンドファラオ号のホイールが凄まじい回転速度で回りだし、凄まじいＧが二人に襲い掛かると同時に機体が急加速する。
凄まじい加速性によるＧに必死に耐えながら、何とかニトクリスは機体を操作し真っ直ぐ走らせようとする。
今のレジェンドファラオ号はまさに文字通りのじゃじゃ馬だ。
完全に暴走状態にあるこの機体を真っ直ぐに走らせる事すら難しい。
そして、その急加速に驚いたのは、他のチームも同じである。
「なんだネ！あの急加速は！思いっきり計算外なんだが！」
「むう、状況から判断するに、あのチームは我のスキルであるオーバーロードと同じような効果を
機体に与えた物と推測される。
何らかの要因で機体に急加速を与えると同時に、機体に過負荷をかけていると判断する。」
「まあいいサ。こんな事もあろうかと！パパにはきちんと迎撃用の道具を用意してあるのサ！
ジャーン！マヨネーズ！
「……何というか汝は最低であるな。」
「パパ。いいからはやく。」
「イエッサー！マイドーター！」
その言葉と共に、新宿のアーチャーは猛烈な勢いで加速してくる後方のレジェンドファラオ号にマヨネーズを投げつける。
粘性の高いマヨネーズがフロントガラスに命中すればそうそう拭えない。
ワイパーを使っても逆効果になるだけだ。
おまけに地面も滑りやすくなってスピンしてしまう可能性が高い。
「なっ、ひ、卑怯な！卑劣な！」
「いえ、別段問題はありません。」
その不夜城の言葉と共にレジェンドファラオ号のタイヤに無数の小型のスパイクが姿を現す。
いかにマヨネーズによって滑りやすいと言っても、タイヤに無数のスパイクが付いているのなら話は別だ。
スパイクにより地面を削りながら凄まじい砂埃と轟音を立てさらに疾駆する、
さらに、マヨネーズでべっとりのフロントガラスがパージされ、すぐさま新しいフロントガラスが上から現れる。
そのあまりの準備万端っぷりに、流石のバベッジも呆れた声を出す。
「……新宿のアーチャーよ。どうやら『上』を行かれたようだな。
流石に計算に不確定要素が多すぎる。」
「おのれおのれェ！まさかこの私の計算の『上』を行くとは！
不確定要素が多すぎだよあの機体！」
そんな彼らを尻目に、レジェンドファラオ号は猛烈な勢いでフランチームを追い抜いていった。
そして、次々と他のチームの妨害を退けながらごぼう抜き状態で他のチームも抜き去っていく。
だが、その代償は安い物ではなかった。
機体設計を完全に無視した猛烈な加速により、レジェンドファラオ号の各部分からミシミシと嫌な音が聞こえてくる。
要塞のように無駄に頑丈な設計だから何とかもっているような物だ。
このまま加速を続ければ機体はともかく、シャフトなど負荷のかかる部分が破損する可能性がある。
こんな状態でそんな事になればどうなるか。答えは明白だ。
「さて、どうしますか不夜城。止めますか？私を？」
はあ、と不夜城は大きくため息をつくと言葉を続ける。
「……まさか。貴女は一度決めたら決して止めないと今までの経験で学んでいます。ここまで来たら一蓮托生。
私の宝具を利用して、機体とエンジンの強化を行い過負荷にできるだけ耐えるようにします。
どうぞ貴女の御心のままに。王よ。」
その不夜城の言葉に、ニトクリスの髪の触覚……もとい魔術触媒がピョコン！と喜びに飛び跳ねる。
「それでこそ我が補佐！とはいうものの余裕がないのも事実。一気に決めます！」
さらにエンジンにメジェド神の魔力を注ぎ込み、レジェンドファラオ号は凄まじい加速をかけて
先頭を走るへと迫りくる。
流石にネロもメイドオルタも後ろから凄まじい速度と砂埃を巻き上げながら轟音で迫りくる
レジェンドファラオ号の巨体を見て度肝を抜かれる。
「な、なんじゃありゃあ！メイド！何とかせい！」
「言われずとも！エクセンスよ！」
そう言いながら、メイドオルタは、小型の自動拳銃と変化したエクセンスを構えると、
引き金を引き絞ると、無数の弾丸がレジェンドファラオ号へと命中する。
だが、っそれらの弾丸は、堅い金属音と共に全て弾き返られる。
表面に傷一つついていないレジェンドファラオ号の装甲を見て、思わずメイドオルタは舌打ちをする。
「チィ……！エクセンスの弾丸でも傷一つつかずに弾き返すとは。動く要塞かアレは。
しかもそれが我々の機体より速いとは……。認められぬぞ、このような事は。」
「宝具だ！お主自慢の聖剣でブッ飛ばすがいい！そのための火力だろう！」
「バカな！この状況でエクスカリバーを放てば反動でこちらの機体もひっくり返るぞ！」
「となれば……。」
「真っ当なレースで追い抜くしかあるまい。
それとも何か？ローマ皇帝はあの機体を抜かす自信がないとでも？」
「吠えたな！腹黒メイド！
その大言、後悔する事になるぞ！
余の運転の冴えを見るがいい！」
「―――ッ！かわせネロ！」
その言葉に即時に反応し、ネロは急ハンドルを切る。
次の瞬間、レジェンドファラオ号が先ほどまでタイラント・シューティンスター号がいた所を通過する。
急ハンドルによって何とか紙一重で回避したのである。
つまりレジェンドファラオ号は単純に質量で弾き飛ばす、もしくは踏み潰すという攻撃に出たのである。
タイラント・シューティンスター号は速度と加速性能に重点を置いた機体。
機体の頑丈性ではさすがにレジェンドファラオ号に劣ってしまう。
まともにぶつかってしまっては機体に大きなダメージを受けてしまうか、
下手をすればそのまま踏み潰される事すらある。
「あやつら……！綺麗な顔してやる事がえげつない！
だがそれがいい！勝ったら余のハレムに入れてやる事も考えようではないか！」
急ハンドルで体勢を立て直しながらそういうネロに対して、メイドオルタは叱咤する。
「バカもの！レースに集中しろ！勝った時の事は勝ってから考えろ！」
その言葉と共に、タイラント・シューティンスター号はさらに加速した。
言うだけあってネロの操縦技術は華麗な物である。
それとは対照的に、もはや暴走していると言っても過言ではないレジェンドファラオ号。
さらに運転に慣れていないニトクリスでは、何とかまっすぐに走らせるだけで手一杯である。
僅かにレジェンドファラオ号が先になりつつ、二機は大橋へと突入した。
何せ、何もない平原と異なり、橋は狭い。
下手に追い越したり体当たりを仕掛けようものなら、そのまま谷底に真っ逆さまという事もありえる。
「チィ―――！何とか先に橋に入れたが速度は緩めるなよ赤いの！緩めたらあの巨体に押し潰されるぞ！」
「言われんでも分かっておるわ！」
タイラント・シューティンスター号のすぐ真後ろにぴったりとついているレジェンドファラオ号。
彼女たちからしてみれば、レジェンドファラオ号の巨大なタイヤはタンクローリーそのものである。
踏み潰されそうなほど巨大なタイヤが猛烈な勢いで真後ろに迫り来ればとても平然ではいられない。
だが、先頭はタイラント・シューティンスター号が抑えている。
このまま先頭を維持しつつ、橋を飛び出してゴールまで一直線なだけ―――と思いきや、それは起きた。
全機が橋上に差し掛かった時、待ち受けていたように橋自体が粉微塵に爆発したのである。
凄まじい轟音と飛び散る破片。衝撃音とひび割れ、砕け散る橋。
基本的に、空を飛ぶ機能は各自の機体にはついていない。
信長やＸの機体にはついてはいるが、現在ではペナルティとして飛行機構は封印されている。
故に、足場である橋がなくなってしまえば落下するしかない。
だが、その状況でも不夜城は冷静だった。
「このレジェンドファラオ号には、私自身の語った物語で構築されていると言っていましたね。
ならば当然、この物語も組み込まれているのです。『空飛ぶ絨毯』！！」
その瞬間、レジェンドファラオ号の落下速度が急速に落ち、まるで風船のようにふわふわと宙を漂い出す。
だが、やはり完全に重量は打ち消せず、少しづつ落下していく。
不夜城の宝具の中に存在する物語『空飛ぶ絨毯』の概念がこの機体には組み込まれている。
「当然、エジェンドファラオ号はかなりの重量がありますから、流石に飛行することはできません。
せいぜい重力を緩和させて、ゆっくりと地面に着地させる事しかできませんが、それでも十分―――。」
だが、そこで不夜城は一つの計算違いをしていた。
それは一緒に崩落した橋の破片である。
小型の物ならば動く要塞とも言えるレジェンドファラオ号は防ぐ事ができる。
だがレジェンドファラオ号の巨体以上の橋の残骸がまともに上から落ちてきてしまってはどうしようもない。
凄まじい衝撃音と轟音。
そう、レジェンドファラオ号以上の巨大な橋の破片がモロに機体に叩き付けられたのである。
いかに空飛ぶ絨毯の概念があると言っても、それ以上の質量が叩き付けられば元も子もない。
「……橋の破片が直撃というのは流石に予期していませんでした。
さすがに、これは落ちますね。ええ。」
「れ、冷静にしている場合ですか！お、落ちる〜！」
そして、彼女たちの意識は反転した。
こんにちは。零です。
イシュタルレースのデザートビューティの二人がとても素敵だったので、
二人を主人公にした小説を書きたくなって書いてみました。
感想などいただけたらとても嬉しいです。
更新したばかりなので、誤字脱字は順次直していく予定です。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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