―――それはゲーティアとの戦いを終え、さらには新宿でバアルとの戦いを終えた後の話。
バアルと新宿のアーチャーを倒すために力を貸してくれたホームズは、正式にカルデアの仲間になる事になった。
もっとも、ホームズは何回もの自力でのレイシフトや変装による無理な戦闘のため霊基が消耗しており、
最前線での戦いは不可能だった。
だがしかし、彼の本質は探偵である。
直接戦闘ができなくても、やれる事はいくらでもある。
それは、直接戦闘以外の場面での活躍を意味していた。
「さて、初めまして。ミスター・ホームズ。
早速で悪いが、君には手伝ってほしい事がある。
勿論、立夏くんやマシュにも極秘にね。」
オルガマリーもロマニも失い、今やカルデアの所長代理となったダ・ヴィンチは
ホームズと出会って開口一番にこう言った。
その唐突とも言える発言に、ホームズは動じる事なく、むしろ楽し気に微笑んだ。
「ほう、それは私の興味をそそるものですかな？
ミス、ダ・ヴィンチ。」
ホームズもダ・ヴィンチも天才と言われる存在である。
そのため、お互いの特性はある程度理解できる。
こういう人種はおためごかしや社交辞令よりも相手の興味を引いた方が協力してくれると分かっているのである。
興味を引いて『面白そうだ』と感じさせれば喜んで協力すると理解しているのである。
「そうだね。そうなると信じているよ。私は。」
そう言いながら、ダ・ヴィンチはカルデアのとある場所へと足を向ける。
そこは、中央部に存在する巨大なコンテナとカルデアの紋章があるシェルターが印象的ながらんとした部屋だった。
いわゆる格納庫。
資材保管場所であり、古い機材などを廃棄する場所である。
「ここは？」
「ここは、格納庫。いわゆるゴミ処理場さ。
処分するゴミをこの巨大なコンテナに入れて廃棄処分する……というお題目さ。」
ふむ、とその言葉にホームズは手を顎にやって考え込む。
彼は、探偵だ。
普通の人には気づかない異質さもその鋭い観察力で気づく事ができる。
「なるほど。だが、わざわざゴミを処分するのにこんな巨大なコンテナをいちいち使用するなどという事は、コスパが悪すぎるし手間もかかる。
それに貴女の口振りからすると、『何か』がここにはある。
そういう事だね。ならば、ここから予測されるのは『脱出するための方法』だね？
古今東西、城に秘密の抜け道、誰も知らない脱出口を複数作るのはいざという時の定石だ。ここがそうだと？」
それは、ホームズの能力からすればごく当然の帰結だった。
そもそも、わざわざ所長代理ともあろう者が時間をかけてホームズをこんな場所まで連れてくるなど、
何かがあってしかるべきである。
そのホームズの言葉に、ダヴィンチは頷く。
「その通り。人理焼却中だった頃カルデアは特殊な磁場に守られており、魔術王も探知はできない。
だが、万が一探知ができれば、魔術王はここの心臓である炉心、そして立夏くんやマシュを確実に狙ってくる。
しかし、人理焼却中の今ではカルデアから離れればあっという間に燃え尽きてしまう。
それを防ぎ、脱出を行うための方法が、これ、ロマニ・アーキマンとオルガマリー所長の『置き土産』さ。」
そして、ダ・ヴィンチはホームズに対して、コンテナの内部を見せる。
それを見たホームズは、思わず口笛を吹いた。
「ヒュウ。これは……。」
そこに存在していたのは巨大な装甲車、いや、正確に言えば装甲兵員輸送車とも呼べる代物だった。
しかもただの装甲車の大きさではない。
恐らくは特注であろうその車体は通常の装甲車とは比べものにならない大型バスとも言える巨大さだった。
「特殊車両『虚数潜航艇シャドウ・ボーダー』
これがその脱出のための緊急手段さ。」
その言葉と共に、ダ・ヴィンチはシャドウ・ボーダーのドアを開けて、内部へと入り込む。
ダ・ヴィンチに案内され、ホームズは軽く車体内部を観察する。
ダ・ヴィンチも案内しながら車体の内部構造について詳しい説明を行う。
「食料品や何やらは魔術により空間を捻じ曲げ、面積を可能な限り広げた倉庫にに詰め込んである。
水も宇宙船の技術を応用し、強力な濾過装置がついており、尿やシャワーの水も濾過して飲料水へと還元できる。
残っているカルデア職員２０人ほどが何とか生存できる環境さ。
さらには、食糧問題などを解決するために虚数魔術を利用して、大量の食糧や水、衣服や装備、生活必需品も大量に虚数空間に放り込み、シーカーがつけてある。
これならば、しばらく生活には困らないさ。
もっとも、補充の当てがないから切り詰めないといけないけどね。」
当然、シャドウ・ボーダー内部の倉庫も空間を歪め、できるかぎりの食糧などは積み込んである。
しかし、それでも人間が長期間暮らしていくのは足りないのである。
そこで思いついたのか、かつてレフ・ライノールが未来の人類に向けて様々な物資をタイムカプセルとして虚数空間に放り込んでいた事である。
そう以前のレフが口にしていたのをダヴィンチは思い出し、虚数空間そのものを物資の倉庫として使用する事にしたのである。
虚数空間には時間の流れや空気や細菌などは存在しない。
長持ちする保存食や宇宙食ならば、放り込んでおけば決して腐らず、傷まないというまさに理想の倉庫である。
（流石に生肉や生の海産物などは難しいが）
外部装甲に論理術式を展開させたコンテナに大量の食料品や物資を詰め込み、マーカーをセットして虚数空間へと放り込む。
座標という物が存在しない虚数空間でもマーカーさえあれば位置は特定できる。
そして、虚数空間に潜れるこの虚数潜航艇シャドウ・ボーダーならば、直接そこまで行ってコンテナを回収すればいいのである。
だがしかし、これは魔術協会や国連にも内密に事を進めている極秘事項である。
大掛かりな資金や物資の流れはこちらの企みが国連や協会にばれてしまうため、
あくまでそれらの流通経路を隠しながら進めなくてはならない。
シャドウ・ボーダー内部を観察していたホームズは思わず呟く。
「なるほど。見たところ、小型の宇宙船、いや、小型の宇宙ステーションと言ったところか。
水のろ過施設一つとっても宇宙船の技術の応用に、様々な魔術装備が組み込まれている。
いざという時のために、機械と魔術装備の複合型酸素供給装置もつけられていて、外に酸素がなくても内部で生存可能か。
ほう、電気を使用して空気から食料を精製する装置まで組み込まれているのか。」
虚数空間内部には、当然のことながら空気など存在しない。
そのため、シャドウ・ボーダー内部には小型のカルデアスの炉心―――核融合炉が装備されている。
この膨大な電力により、シャドウ・ボーダー内部の水分を電気分解させ、酸素を発生させる。
そしてもう一方の水素は二酸化炭素と結合させて水にリサイクルする。
つまり、宇宙船や原子力潜水艦と同じ構造である。
当然の事ながら、内部は完全気密であり、外部に空気がなくとも十分生存可能である。
何せ虚数空間は宇宙空間より遥かに過酷な空間だ。
特別な処置が施されていなければあらゆる存在が虚数に分解され、あらゆる生命の存在を許さない。
そんな空間で平然としていられるのは、ギルガメッシュやティアマトと言った規格外の存在しかいない。
それに対応するには、まさしく小型の宇宙船や宇宙ステーション並みの装備がなくてはならないのである。
「……君、随分と詳しいね。公転の存在すら知らないって聞いていたけど？」
「ははは。あんなのワトソンくん自身も言っていたように意味のない研究さ。
それに私も全部正直に言ってないし。ワトソンくんも後で騙されたと気づいたようだしね。」
ホームズは『緋色の研究』でワトソンに『天文学の知識：なし。地球が太陽のまわりを公転していることを知らない。』と判断されているが、
その後、ホームズはワトソンの判断を覆すような引用・発言をし、後の作品でも多方面にわたる見識と知識を見せている
故に、ホームズが自転や公転の存在を知らないというのは当てにならないと言っていいだろう。
それに、サーヴァントは召喚された地点で現在についての知識が聖杯や世界自体に与えられる。
それを探偵であるホームズが最大限に活用しない理由がない。
「だが、この機器はまだ未完成だ。
完成前にアトラス院が手を引いたお陰でね。
本来は、人理焼却の際、魔術王がここカルデアを直接強襲してきたときの脱出カプセルにするつもりだったんだ。
だけど、流石に特異点攻略の際にそんな余裕はなくてね……。」
なるほど、とホームズは頷く。
確かに虚数空間に潜れるこのシャドウ・ボーダーならば人理焼却中でも逃げ出す事はできるだろう。
いかに人理焼却とはいえ、虚数空間にまではその影響を及ぼす事はできない。
まさしく最適の脱出カプセルという訳だ。
だが、これでは『脱出する』事しかできない。
サーヴァントを召喚するためには膨大な魔力か、大電力を魔力へと変換するカルデアの炉心が必要だ。
少なくとも、それらに匹敵する何かを揃えなければサーヴァントを召喚して戦う事はできない。
それでは到底魔術王と戦う事はできない。
それゆえ、シャドウ・ボーダーの完成の優先度は下げられ、それらの分のリソースは特異点攻略へと使われたのだろう。
だが、最悪の事も想定しておくのが所長代理としての役目である。
何とか限りある時間やリソースを投入して細々と完成へと近づけていたのだろう。
「さてここで聞きたい。ホームズ。君は立夏くんにはああいったが、実は他にもアトラス院の研究を盗み見ているんだろう？
そして役に立ちそうな研究は全てその頭の中に叩き込んだ。違うかい？」
ダ・ヴィンチが言っているのはホームズと出会った第６特異点の事である。
ホームズはアトラス院へと乗り込み、アトラスの中枢部である疑似霊子演算機トライヘルメスへとアクセスし、必要な情報を引き出した。
その時に「魅力的な未解決事件が世界にどれほどあるかこっそり検索したのが裏目に出た」と発言していた。
だが、恐らくそれだけではあるまい。
彼はその時に、アトラス院の資料庫の検索も行ったのだろう。
そして、そこに秘められていた封印されていたアトラス院の魔術や魔術機器の資料を片っ端から読み漁り、
それらの中から使えそうな知識を自分の頭の中に叩き込んだのだろう。
その言葉に、ホームズは頷く。
「ああ、その通りだ。実際、そのシステムの極秘マニュアルを盗み見ている。
機械の構造などもね。私が力を貸せば、システムは完成できるはずだ。」
『虚数観測機、ペーパームーン』
カルデア初期に想定されていたが、その困難さ、危険性から廃止されていた事象干渉手段。
この隙間に入り込み、現実から完全に消失する”時の海”に沈む行為である。
これこそがこのシャドウ・ボーダーの最も重要な根幹システムである。
ダ・ヴィンチは放置されていたこのシステムに眼をつけ、ロマニと協力して独自にシステムをくみ上げていた。
だが、先ほども言ったように、このシステムは完全に完成はしなかった。
それは時間やリソースの関係もあったが、何よりシステム自体が未完成であり、アトラス院の資料が全くなかったからである。
だが、ここに直接その資料やマニュアルを知っている人間がいれば、一気に完成に近づける事ができる。
「なるほど。いかに人理焼却と言っても、虚数空間にまでは手を出せない。
虚数空間に潜り込めばひとまずは安全だ。だが、それは極めて危険な行為だ。
さらに、だがこれの操作には極めて高度な演算能力と魔術的素養が必要となる。
流石の私でも小型のトライヘルメスかトリスメギストスを作れるまで彼らの技術を学んだわけではない。
その辺はどうするつもりだい？」
「それもすでに考慮に入れてあるさ。来たまえ。」
そう言いつつ、ダ・ヴィンチはシャドウ・ボーダー内部の中央部へと案内する。
「これは……。」
そこでホームズが見た物。
シャドウ・ボーダー内部には、液体に満たされたカプセル内部で眠ってる一人の少女の姿があった。
その姿は、今の姿よりはかなり年下になっているが、紛れもなく、ダ・ヴィンチそのものだった。
「そう。『私』さ。元々、サーヴァントにはマスターが必要だ。
そのため、私は自分の複製人形を作り出し、それをマスターと言い張る事により現世に留まっている。
どこぞの人形師からのアイデアを頂いてね。
その私の複製人形を流用して、この虚数観測機ペーパームーンの操作中枢へと組み込んだ。
これでペーパームーンもシャドウ・ボーダーも起動可能になるはずさ。」
ダ・ヴィンチ自身も言っているように、彼女にはマスターが存在しないが、それをカバーするために自分の複製人形を作成し、
それをマスターと言い放つ事により現世に留まっている。
その複製人形を虚数観測機、ペーパームーンの中枢システムへと組み込む事によって、
虚数潜航艇シャドウ・ボーダーとしての機能が発揮できるようにしたのである。
例え複製人形であろうとも、全くの同一存在である場合、同一存在が世界に二つあった場合、
世界から何らかのペナルティが与えられてもおかしくない。
故にとある人形師のように、そのボディが死亡した地点で新しいボディが起動するか、
もしくは何らかの差異をつける事によってそのペナルティをすり抜ける必要がある。
ダ・ヴィンチは後者を選んだのだろう。
その特性上、通常のダ・ヴィンチとシャドウ・ボーダー内部で制御を行うダ・ヴィンチの二人が同時存在する必要性がある。
故に、某人形師の方法は使用できない。
ならば、どこで特性をつけるか。最も簡単な方法は、年齢である。
同一存在でも、年齢が異なれば経験なども自然と異なってくる。
それゆえ、ダ・ヴィンチはシャドウ・ボーダーの管制用の自分を性能を落とした若い自分へとセッティングしたのだ。
多少性能や万能性が落ちようと、シャドウ・ボーダーの管制がしっかりできれば問題ない。
そういう判断である。
「なるほど。理解した。
確かに私の知識があれば完成はできるだろう。
だが疑問もある。最早魔術王は倒され、特異点もほぼなくなりつつある。
その状況で、なぜこれを完成させる必要がある？
特異点が完全になくなれば、もはやカルデアは不要だ。
アニムスフィア家のロードもいない以上、組織として解体してもおかしくはない。
それなのに何故？」
「……君にも検討はついていると思うがね。
未来視持ちのサーヴァントたちが皆こういうのさ。『危機に備えろ』とね。
具体的な事を言うと未来が確定してしまうから曖昧な言い方だけどね。
恐らくは人理再編の時に「何か」が起こるんだろう。
詳しくは不明だが、彼らの能力は間違いなく信頼できるものだ。
ならば、それに備えるまでの事さ。」
その言葉に、ホームズは頷いた。
「なるほど。私は魔術や未来視などは信じない。
信じないが―――その発言は、バベッジ卿の発言と一致する。
すなわち『2017年以降に人類の未来は存在しない』という事だ。
バベッジ卿は魔術王の配下に取り込まれた際にその魔術王から与えられたデータなどを分析してその結論に至った。
それは、人理焼却とは関係なく、純粋に2017年以降には未来は存在しない、とね。
と、なればそれほどの異変がカルデアに、いや、人類に襲い掛かるという事だろう。
そのための準備に取り掛かるのならば、受け入れよう。
だが、脱出するのはこれでいいにしても、戦力はどうする気だね？
これに頼るのであればカルデアの炉心には頼れない。
大量のサーヴァントと契約できるのも、カルデアの炉心から供給される大電力を魔力に変換できるからだ。
それが失われれば、ただの一騎でもサーヴァントの現界は不可能になる。」
確かにホームズの言葉は道理である。
いかに脱出できたとしても、戦力がなければ反撃など到底ままならない。
そして、その状況下では、カルデアの炉心は使用できないだろう。
サーヴァントが召喚できなければ、反撃する事はできない。
「最善ではないが、次善の策は用意してある。
それがこのトランクさ。」
そう言いながら、ダ・ヴィンチは傍に置いてあった金属製の大型トランクを叩く。
そこには、大きくカルデアの紋章が刻み込まれてあった。
「これはロマニが考えていた。ロマニの『置き土産』さ。
ロマニが基本構造を提案し、私が実際に作り上げている最中なんだ。
このトランクには、立夏くんが今まで召喚に成功したサーヴァントたちとの『縁』
つまりは霊基グラフが記憶されている。
これは今までの私たちと立夏くんとサーヴァントたちの旅の記憶でもある。
これさえあれは、大電力か膨大な魔力さえあれば、再びサーヴァントたちの召喚が可能になる。」
確かに、この状況ではそれができる事の全てだろう。
逆にいえば、膨大な魔力さえあれば再び立夏と共に戦ったサーヴァントが召喚できるのだ。
後は脱出した後で対策を練るしかないというのがダ・ヴィンチとロマニの結論である。
「ふむ、問題はカルデアの炉心に匹敵するほどの大電力か、膨大な魔力をどう用意するか、だが……。
まあ仕方あるまい。その問題は後で考えよう。
で、他に何か問題があるのだろう？」
「ああ、問題は物資とお金の流れだ。
これは魔術協会や国連にも極秘で行っている。
当然、これらを完成させるには物資もお金も両方必要だが、カルデアの公的資金も使えない。
資材も使えない、となるとね。中々難しい。
何とか蓄えた資材の備蓄を資料を改ざんして流用したり、公的資金から裏金を作りだりしてるが中々ね。
しかも国連や協会にばれようになるとするとハードルが高い。いかに私が天才と言ってもね。
そこの所を何とかできないか、と思ってね。」
確かにこれらの作成には様々な特殊な機材や、膨大な金がかかる。
国連や協会に察知されずに極秘裏に進めるとなればさらに計画は難しくなる。
国連も協会も無能ではない。むしろ有能な人間が揃っている。
それらの眼をかいくぐりながら計画を進めるのは難しい。
どうしても金の流れと物資の流れを完全に誤魔化す事はできないのだ。
これを上手く改竄するとなれば、それに長けた人物が必要となる。
その言葉に、ホームズは頷いた。
「なるほど。そういう『悪事』に最適な人物を一人知っている。業腹ではあるがね。
まあ宿命のライバルではあるが、話は聞いてくれるだろう。協力してくれるかどうかは不明だが。」
「何しにきた名探偵。また唐突に証拠もなしにバリツを仕掛けにきたのかネ？」
新宿のアーチャーこと、ジェームズ・モリアーティ。
ホームズの宿命のライバルであり天敵とも言える存在である。
犯罪界のナポレオンとも呼ばれ、かのホームズを持ってしても結局証拠は掴めず、
彼を法律で裁く事はできなかったほどである。
ロンドンの未解決事件の多くはこの教授が裏で糸を引いていたとされ、
計画の周到さから、ホームズ以外は彼の悪行にまるで気づかないほどの存在。
なるほど。国連や協会などから資金や資材の流れを隠蔽する『悪事』にこれほど適任な存在はいないだろう。
「ははは。ご挨拶だな。私がそんな理不尽な事をするとでも？」
「今までの自分の言動を振り返ってみたまえ！！厚顔無恥にも程があるだろう！？
……いやまあいい。それで、何の御用かな？」
そこで、ホームズは今進めているシャドウ・ボーダーの計画を何の隠し事もなく全て打ち明ける。
ホームズと同等の知能を持つ彼に対して下手な隠し事は無意味だ。
むしろ「こいつ変な事を考えているのでは？」と痛くもない腹を探られて計画に協力してくれない可能性もある。
「フフン。まさか名探偵ともあろう者がこの悪の首領たる私に助けを求めるとはね。
気分はどうかネ？悔しい？悔しい？アッ、バリツの構えはやめろ下さい。
……まあいい事情は分かった。君の個人的な事情ならば絶対に！死んでもお断りなのだが！
……だが、立夏くんの事情ならば仕方あるまい。
まあこの私の手腕ならば資材の流れは隠す事はできる。
だが、資金はどうするのかネ？明らかにこれでは足りないし、これ以上引き出すのはバレる可能性が高い。
お勧めはできんが。」
「ははは。金ならあるだろ？君、イシュタルサマーレースで随分儲けて溜め込んでるらしいじゃないか。
その蓄えを吐き出したまえ。何、悪いようにはしないよ？」
その言葉を聞いて、新宿のアーチャーは思わず激怒した。
いきなりやってきて蓄えた金を出せ、などと言われればそうもなろう。
「人の蓄えた金を出せとか簡単にいうと最低だね君ィ！？
お前のそういう所がなー！私はなー！
ええい仕方ない。貸し一つずつだからな！ホームズにダ・ヴィンチ！！」
一しきり罵倒したあげく、新宿のアーチャーは渋々とそれを受け入れた。
元々立夏が何かあった時のために蓄えた金だ。
彼のために使うのなら別段惜しくはないが、宿敵に一方的に出せと言われれば腹が立とうという物だ。
だが彼もホームズがこういう性格である事は理解しているし、それが必要な事だと理解している。
だから渋々ながらも受け入れたのだ。
「全くこれだから探偵は。
人の物を暴くのは得意だが、隠すのはそれほどでもないと見える。
この潜航艇に関する金の流れ、資材・物資の流れ、情報隠蔽、どれも完全に私が隠蔽してみせよう。
こういうのは得意技だからネ。」
そこまで口にすると、新宿のアーチャー、ジェームズ・モリアーティはにやり、と不敵に微笑んだ。
「世界を滅ぼすのはこの私の仕事だ。他の新参者に邪魔されてなるものか。
そのためになら、いけすかない探偵にも協力しようさ。
さて、諸君。それでは世界を救う企みを企てようじゃないか。」
―――こうして、虚数潜航艇シャドウ・ボーダーの完成のめどは立った。
その果てには何が待ち受けるのか。
それは例えホームズやダ・ヴィンチたちも知るよしがなかった。
こんにちは。零です。
。
第二部があまりに衝撃的だったので思わずSSを書いてみました。
楽しんでいただければ幸いです。
感想などいただけたらとても嬉しいです。
更新したばかりなので、誤字脱字は順次直していく予定です。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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