――第四次聖杯戦争から後。
生き残ったウェイバー・ベルベットは、傾きかけたアーチボルト家を立て直し、
ロード・エルメロイ二世と名前を与えられ、講師としての才能を開花させ、弟子を増やしながらも、
何年もかけて第四次聖杯戦争の情報を集め、調べ直していた。
それは、ディルムッドを倒したあの黄金のサーヴァントについての情報についてである。
あれから幾星霜立とうとも、彼はあの無念さを忘れる事は出来なかった。
最後までは確認できなかったが、恐らくは第四次の最後で消え去ってしまったに違いないが
（彼は英雄王が聖杯の泥を浴びて受肉したなどとは思いもよらなかった）
もし、万が一、いや、億分の一の確率でも再び出会えたのなら、以前の雪辱を晴らさなければならない。
そして、調べ直した結果、召喚した時臣が時計塔のコネを使用して最古の蛇の抜け殻を手に入れていた情報を入手した。
最古の蛇の抜け殻。そしてあの無数の宝具。
ここから連想されるのは一つ。
―――英雄王ギルガメッシュ。
それ以外にはありえない。
そこまで調べ上げた彼は、英雄王を打倒する手段の模索を開始した。
……だが、それは容易な事ではなかった。
英雄王の前ではどんな英雄でも対抗することは難しい。
英雄を超えた『神』を召喚するか、もしくは宝具を模造する特殊な固有結界でもない限り対抗は難しい。
だが、聖杯戦争のシステム上、神の召喚は難しい。
さらに、宝具をコピーする固有結界の持ち主を見つけるなど大海の中から砂粒を見つけるような確率だ。
だが、そんな頭を抱えた彼に対して、運命はついに微笑んだ。
―――そんなある日。
講義を終えて、自分の部屋へと戻ってきたエルメロイ二世の耳に、電話の呼出音が響きわたる。
嫌な予感がしつつも、電話に出てみる彼の耳に予想通りの声が飛び込んでくる。
「やあ、私だ。ベルベット。」
「……またお前か、アオザキ……。」
蒼崎橙子。
第四次の聖杯戦争に彼が頼った魔術師である。
魔法使いにこそなれなかったが、封印指定にまで認定された
最高位の人形師であり、廃れかけていたルーン文字を復活させた超一流の魔術師である。
彼女から与えられたルーンストーンと情報がなければ、
間違いなく彼は聖杯戦争の途中で敗北していただろう。
だが、魔術の世界は等価交換。
ただで力が借りられるほど甘い話はない。
ルーンストーンなどで莫大な借りを作ってしまった彼は、
その分、彼女の協会から姿を隠すのに手を貸したり、
様々な情報を流したり、様々な厄介事の後始末に追われることになってしまったのである。
もちろん、これが協会の他の人間に知られれば、彼の失脚は間違いない。
高名な講師が封印指定の隠匿に手を貸していたなどとしれれば、
間違いなくスキャンダルだ。
そんな中平然と彼に直接電話をかけてくる橙子も大したものだが、
まさか封印指定が自分から時計塔に電話をかけてくるなど誰にも予想できないだろう。
「ああ、済まないがまたあのクソ妹の口座から金を引き下ろしてやったからな。
妹にバレるのは構わんが、協会に感づかれるのは厄介だ。
また証拠のもみ消しを頼むぞ。プロフェッサーカリスマ？」
彼女は、自分の妹の名前を使って協会から金を引き落とすという悪癖がある。
これは、自分の妹である青子に対する嫌がらせだが、協会に自分の居場所がばれる可能性も十分にある。
そのもみ消しは、このエルメロイ二世が密やかに行なっているのである。
そして、最近になって彼女に対して大聖杯の解体についてのアドバイスを求めているため、
さらに貸しが増える形になっているのである。
流石に天才と言われた御三家の大聖杯解体は自分と遠坂の娘だけでは手に余る。
それゆえ、超一流の魔術師である彼女にアドバイスを求めているのである。
「……恨むぞ。過去の自分……。」
「ふん？まさか貸しを踏み倒す訳ではあるまい？
第四次聖杯戦争でのルーンストーンの貸し、
そして大聖杯解体のアドバイス、両方ともまだまだ貸しは返しきれていないぞ？
魔術の基本は等価交換。まさか時計塔の講師ともあろう者が無視するわけではあるまい？」
そんな彼女の嫌味のこもった声に、思わず不機嫌そうに黙り込むエルメロイ二世だが、
彼女はそれにも関わらず言葉を続ける。
「いやしかし、まさか貴様がここまでになるとは思わなかったな。
やはりお前は面白い男だよ。ベルベット。
面白い上に使い勝手もいいと来ては、到底手放す気になどならないな。」
橙子が彼に手を貸したのはただの気まぐれと、協会への連絡を恐れたためだが、
自らのサーヴァントを制御しきれないであろうという彼女の予測を裏切り、
ウェイバーは自分のサーヴァントを制御しきり、第四次聖杯戦争を生き抜いた。
そしてそれだけでなく、没落寸前のエルメロイ家を立て直し、
弟子を全て集めれば時計塔の勢力を変える事ができると言われるほど講師として大人気になったのだ。
当時のウェイバー・ベルベットを知っている人間としては、
彼がこれほどの勝ち組……波乱万丈の人生を送るとは予想もしなかっただろう。
そして、それは橙子の予想を完全に裏切るものだ。
彼女の予想を常に裏切るウェイバーは、彼女からしてみれば非常に面白い『娯楽』なのだろう。
「……まさかお前との腐れ縁がここまで続くとは……。
そしてここまでいいように使われるとは……。
「くくく。お前も言っていたが、恨むのなら過去の自分を恨むのだな。
……ああ、そういえば大聖杯だがな。
ようやく完全に解体できたようだな。
私のアドバイスがあったとはいえ、本来ならば十年近くかかるところをここまで短期間で解体するとは。
さすが、と言わざるを得ないな。魔術師としての貴様の才能はアレだが、こういった才能は認めてやる。
ああ、それと大聖杯解体の時のアドバイスの借りはきっちり返してもらうからな。」
大聖杯は主要な部分はすでに橙子のアドバイスをもらったエルメロイ二世の手によって解体が終了している。
後は操作された地脈の流れを変えたりする後始末なのだが、
指示だけを行なって、後は日本の魔術支部に始末を任せてある。
地脈の操作などといった部分は、こちらが下手に手を出すよりも現地の地脈・風水などといった専門家に任せておいた方がいいのである。
と、そこで何か思い出したように彼女は言葉を続ける。
「ああそうだ。一つ忠告しておいてやろう。
以前に購入したヴィジャ盤をいじっていたら変な結果が出てな。
試しにルーンストーンで占ってみたら結果は同じだ。
……どうやらアメリカで何か不穏な気配があるようだな。」
「……アメリカで？」
たかが占いと馬鹿にする二人ではない。
力ある魔術師による占いは魔術の一つであり、
ある程度未来を予測することすらできるのだ。
「ああ。どうやら地脈の流れが人為的に改造させられているようだ。
貴様から送ってもらった大聖杯のデータと照らし合わせてみたら……ビンゴ、という奴だ。
魔力波動が冬木の大聖杯と酷似している。
恐らくはこの地で大聖杯モドキが作られているのだろうな。
ま、精々注意を払っておくことだな。」
そこまで言うと彼女は電話を切った。
彼女の言っていた地域とは、アメリカ、スノーフィールドと呼ばれる地点。
聖杯戦争モドキが行われるというならば、注意しておかなければならない。
そう決断したエルメロイ二世は、その地の情報を集め始めた。
そして、その判断は正しかった。
聖杯戦争の再開。そして自らの弟子であるフラットの予想外の参戦。
これらを見て、エルメロイ二世は全てを見極めるために、直接現地へと飛んだ。
―――万が一にもあの黄金の王に会えるかもしれない、という偶然を求めて。
―――アメリカ、スノーフィールド。
フラットが触媒を利用し、ランサーを召喚した事により一つの運命が変換を迎えていた。
それは、ランサーとしての枠が埋まってしまったために、
本来ランサーとして召喚されるはずの存在がバーサーカーとして召喚される事になってしまったのである。
そして、それは、神代の神にも匹敵するほどの存在がこの地上に誕生するという事でもあった。
「―――♪」
人型の存在が息も絶え絶えな狼を抱きかかえて森の中を疾走していた。
否。それは人型ではあるが、ヒトではない。
人型をした泥人形。
バーサーカー、エルキドゥ。
まさしく文字通りの意味で神にも届く強大無比の存在である。
多くの力と神気を失う以前の姿、本来の泥人形としての姿で顕現した彼は、
まさにこの聖杯戦争で最強の切り札である。
ランサーではなく、バーサーカーとして召喚された彼は、
理性を失い、人格と心を失う代わりに、以前の力を失う以前のある意味完全な状態にある。
今の彼は、ヒトとしてのカタチを取る以前、多くの力を失う以前としての
まさしく神が使用した宝具として完全な状態であり、
その力は英雄というカテゴリーを逸脱している神にも匹敵する存在だ。
だが、その分、人間の策略に対して全く対応できないのが欠点だ。
マスターである銀狼も、野生動物ゆえに罠の感知などには敏感だが、人間の策略には疎い。
そして、もう一つの欠点としては莫大な魔力量が必要となる事である。
バーサーカー化したランスロットやヘラクレスが膨大な魔力を必要としたように。
バーサーカーと化したエルキドゥなど制御するにはさらに膨大な魔力が必要になるのは当然。
それに目を付けた他のマスターは、わざとバーサーカーを使用しなければならない状況に、
銀狼を追い込み、バーサーカーを多用させたのである。
人間たちの策略により、魔力不足で息絶え絶えとなった銀狼を抱え、バーサーカーは疾走しているのである。
バーサーカーであるエルキドゥに魔力回復の当てなどない。
とにかく水場に行って安静にさせる。それだけしかない。
だが、そんなバーサーカーは何かを感知したように突然戦闘態勢に入る。
「―――待て。私は君たちを害するつもりはない。」
「―――？」
そんな彼の前に、がさりと音を立てながら、一人の長身のロープを纏った男が姿を表す。
「聞こえるかバーサーカー。
私は君のマスターも君も害する気はない。
お前のマスターは魔力不足で苦しんでいる。
私ならば、君のマスターを救う事ができる。どうか私に任せてほしい。」
理性のないバーサーカーにそれを理解する事はできない。
だが、目の前の存在が無防備であり、こちらを救いたいというのは解る。
そして、銀狼も言葉は理解できないものの、野生の本能でそれは感じられていた。
野生動物というのは危機察知能力が非常に高い。
その本能が、目の前の存在はこちらを害する存在ではない、と告げていたのだ。
そして場面は移る。
聖杯戦争終盤、ランサーを召喚したフラットは大はしゃぎしながらも、
何とか戦い抜き、生き残っていた。
だが、そこでついに最強のサーヴァント、ギルガメッシュと戦う事になってしまっていた。
いかにフラットの才能により、ランサーのステータスが向上してるからといっても、
ここまでか、と覚悟を決めた彼らの前に、声が響きわたる。
「―――そこまでだ。」
彼らの戦いの前の姿を表した長身の男。
それは、時計塔で名高い講師、ロード・エルメロイ二世。
彼の姿を見て、弟子であるフラットは叫びを上げる。
「ｷﾀ━━━(ﾟ∀ﾟ)━━━!!
マスターVキタコレ！これでかつる！！」
「やれやれ……。君はどこまで行っても騒がしいな。」
そう呟くと、エルメロイ二世はちらりとディルムッドの方を見る。
サーヴァントの記録は、本体である座にも伝わる。
だが、それは本体からすれば数千数万冊の中から一冊の物語を読むような物だ。
それはランサーとて同じこと。
だが、自らが忠義を最後まで貫き、自らの望みを果たした物語を彼が忘れるはずはない。
「貴方との物語は覚えております。我が主よ。
……お久しぶりです。」
「ディルムッド。こいつの力になってくれて感謝する。大義だった。」
「……は。」
深々と頭を下げるディルムッドに頷きを返すと、エルメロイ二世は真正面からアーチャーをにらみ返す。
「……ふん、貴様の事は漠然とだが覚えているぞ。弱小の王よ。
だが今更何をしに来た？
我を倒したければ我以上の力を持ってこいと言ったはずだが？
ま、そんなことは天地がひっくり返っても無理だろうがな。」
これはエルメロイ二世にとって驚きだった。
先ほども言った通り、英霊の座に存在する本体の英霊には莫大な量の情報量が存在する。
そこから前々回の聖杯戦争の情報など、本体にとっては数万冊の書籍の中から一冊の本を読むようなものだ。
自らの願いを叶えた物語をディルムッドが忘れるはずはないとはいえ、
英雄王にとってはそこまで印象に残るものではなかったはずだ。
それを覚えているということは、あの英雄王の器が莫大なものか、以前の聖杯戦争が印象に残ったということなのだろう。
「ならばこう返してやろう。英雄王。
有り得ないなどという事は有り得ない。
世界が貴様の物だというが、世界には貴様の想像を凌駕する『運命』が有りうることを教えてやろう。」
その彼の言葉と共に、彼の横に霊体化していた『何か』が姿を表す。
それは―――１言でいうなれば泥人形だった。
人としてのカタチは保っているものの、本来の人間とは到底かけ離れた姿。
そして、そこから放たれる膨大な魔力と神気。
「―――♪―――♪」
その姿を見た瞬間、フラットもディルムッドも戦慄する。
本能で感じ取ったのだ。
このサーヴァントは英霊などという器をすら凌駕した存在だと。
―――バーサーカー エルキドゥ。
かつて暴君であったギルガメッシュの圧政に耐えかねた人々の願いによって
神々が作り出した神造人間にして神造兵器。
ある女性と出会った事によってその多くの力を失う以前の本来の姿を取り戻した
彼の力はまさしく『神』にも到達する力そのものである。
エルメロイ二世は、そのマスターであった合成獣である銀狼を保護し、救う事によって
その令呪を譲り受け、エルキドゥのマスターとなったのである。
それを見た瞬間、ギルガメッシュは一瞬呆然とし、
次の瞬間、天にも届けと言わんばかりに爆笑する。
「ハ―――ハハハハハ！！
褒めてやるぞ！弱小の王よ！
よくぞ！よくぞここまで最高の舞台を整えてくれたものよ！！
まさかこの姿での親友と出会える事になるとは！
いや面白い！！これが神が我に与えた『運命』という奴か！！」
「しかし……解せぬな。
バーサーカーと化したあ奴を制御するのはそれこそ膨大な魔力が必要となるはず。
それほどの魔力をどこから……？」
エルメロイ二世のローブには今まで彼が教えてきた弟子たちの髪の毛の一部が編み込まれており、
それを通して弟子たちと擬似的なパスが作られている。
そのパスを通して、それぞれの弟子たちから魔力を汲み上げ、その莫大な魔力を収束させ
バーサーカーへと注ぎ込んでいるのだ。
彼は、講師として弟子たちの才能を開花させ、一流の魔術師として育てる代償として、
自らの弟子となった者たちと『契約』を結び、いざという時に対しての魔力バックアップを頼んでいたのである。
「なるほど。他の雑種の魔術師どもの魔力を束ねて力と成しているのか。
それが貴様がこの十数年で積み上げた力というわけか。
面白いぞ！まさかここまで楽しませてくれるとはな……！！
名を名乗れ！雑種……いや、弱小の王よ！貴様は我が全力で敵対するべき相手だ！！」
「ああ、名乗ってやるよ。
私は……いや、僕の名前は、ウェイバー・ベルベット！！
かつて貴様の手によって忠臣を失った者の名前だ！二度と忘れるな！！
行くぞ！英雄王！―――反撃開始だ！！」
かくて、彼らの最後の戦いは始まった。
ギルガメッシュは、いつものようにゲートオブバビロンから無数の宝具を彼らに向けて射出する。
「―――《万象輪廻す終焉の泥(シャプリシュ・アンマトゥム)》―――」
だが、それに対応するように発動されたバーサーカーの宝具。
それと同時に、ギルガメッシュが放った宝具が、ずるりとカタチを崩し瞬時に泥へ変化し、ばしゃりと地面に堕ちる。
「やはり……そう来たか！親友！！」
これが、エルキドゥの宝具《万象輪廻す終焉の泥(シャプリシュ・アンマトゥム)》の力である。
文明世界を否定する太古の世界の象徴。
つまりは、ありとあらゆる文明に属する機器の使用を一切禁止するという太古世界の再現である。
あらゆる道具、武具、防具の存在を否定し、それらを一時的に泥へと変貌させてしまうのである。
（あくまで一時的であり、エルキドゥが宝具を解除すれば元に戻る。）
それは、宝具であろうと例外ではない。
英雄の所有する宝具ですら使用を禁止し、一時的に泥へと変貌させてしまうその力は、
エルキドゥが最強の英霊である事の象徴である。
無数の宝具の力によって英雄の頂点に立っている英雄王にとっては、まさしく彼は天敵そのものと言える。
「―――！！」
次の瞬間、エルキドゥは大地を疾走し、かの英雄王に向かって拳を握り、殴りかかる。
「ぐ―――ふ！！」
そのエルキドゥのボディーブローをまともに受けて、かの英雄王は大きく空中へと吹き飛ばされる。
本来ならば彼を護るであろう彼の黄金の鎧も、ずるりと形を崩し、すでに泥へと変貌してしまっていたのだ。
エルキドゥの一撃をまともに受けた彼は空中に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。
口から血を吐き出しながらも、鎧を失い、上半身が裸となったギルガメッシュはよろよろと立ち上がる。
「ハ……ハハハ……ハハハハ！！
この我に膝をつかせるとは、流石だな親友！！
これほどまで我を追い込むとは……どうやら我も本気を出さなければならないようだな。
何、退屈はさせんぞ親友。我とてこのような気まぐれは一生に一度あるかないかでな。」
上半身に何も纏わず、髪を下ろした今のギルガメッシュは、
完全に本気モードである。
それも当然だ。このような最高の舞台で本気を出さずしていつどこで出すというのだ！！
「さあ出番だ。エア。やはりこのような晴れ舞台は、貴様でなくてはならん。
この最高の舞台を与えてくれた弱小の王に感謝を。
そして―――これで幕引きだ！！親友！！
出し惜しみは無しだ！我の全ての力を持って、貴様を打倒する！！」
《天の鎖（エルキドゥ）―――！！》
乖離剣エアを取り出したギルガメッシュは、同時に天の鎖を取り出し、
親友であるエルギトゥを束縛する。
神が作り出した神造人間であり、神の宝具そのものであるエルキドゥは、
力を失う以前は莫大な神気を有しており、当然ながら高い神性を所有している。
女性と出会う事により、多くの神気と力を失ったため、人間形態では神性をほぼ失ってしまった彼だが、
だが、バーサーカーであり、本来の姿を取り戻した今の彼は失ったはずの高い神性を有しているのである。
しかし、彼を縛り付ける彼自身の名前の冠したその鎖もやはり少しづつ泥へと変貌しつつあった。
これは、対神宝具であるエルキドゥによる神の宝具への耐性のためである。
「―――チ！！」
エルキドゥの宝具は任意の対象を指定外にする事ができ、ランサーはすでにウェイバーが命じて指定外に認定してある。
つまり、ランサーは問題なく宝具を使用できるというわけだ。
それを見たランサーはとっさに地面を駆け、ギルガメッシュに襲いかかろうとする。
だが、横凪ぎに払われた鎖……天の鎖の一撃で、大きく吹き飛ばされてしまう。
「我と親友同士の戦いに横槍を入れるな！無礼者め！
しかし……親友自身に親友を使うとは……ここまでの皮肉もそうそうあるまいて。
だが……これで終わりだ！！
《天地乖離す開闢の星（エヌマ・エリシュ）―――！！》」
本来ならば、エルキドゥの力が働いているため宝具の使用はできないはずなのだが、
そこは規格外である星造兵装である乖離剣エアと対神兵装である天の鎖。
今だエルギドゥの力に逆らいつつその力を発揮することができるのである。
その本来の力を発揮した乖離剣は、
擬似的な次元断裂を引き起こし、万物全てを引き裂き無に還してしまう。
この力を喰らえばさすがのバーサーカーと言えども耐えられはしまい。
ありとあらゆる万物全てを塵に返す暴威を受けながら、
だが、バーサーカーのマスターであるウェイバーは感じ取っていた。
彼……バーサーカーの力はこれだけではない。『まだその先がある』と。
それを本能的に感じ取った彼は、令呪を振りかざし無意識に叫んだ。
「バーサーカー！！令呪を持って命じる！！
オマエの宝具の真の力をここに示せ！！
《万象輪廻す終焉の泥(シャプリシュ・アンマトゥム)・全力起動最大出力（オーヴァーフルドライブ）―――！！》」
その瞬間、天と地の境界線が歪んだ。
ありとあらゆる万物の境界が歪み、ありとあらゆる存在が混じり合い、交わり合ってゆく。
それは天と地とて例外ではない。
切り離された範囲内の世界の天と地の境界線が歪み、ありとあらゆる存在が混じり合って泥……否、混沌へと変貌させていく。
「これは―――まさか！」
「切り離された天と地が再び融合し……混沌へと戻っていくのか！？」
―――混沌！混沌！混沌！！
天と地全てが融合し、ありとあらゆる存在全てが泥の……いや、正確に言うなれば混沌の海へと変貌していく。
これが、エルキドゥの持つ宝具《万象輪廻す終焉の泥(シャプリシュ・アンマトゥム)》の真の姿である。
切り離された天と地を融合し、あらゆる万物を全て究極の太古の世界……『混沌』へと戻す。
それは天と地を切り離し、この世界に秩序を齎した乖離剣エアと対極の能力である。
それはいうなればORTの世界を異星に塗り替える浸食固有結界に近い。
異星に塗り替えるのではなく、範囲内全ての存在を融合させ、原初以前の状態『混沌』へと塗り替えていくのである。
他のクラスで召喚されたのならば、武具や宝具などあらゆる非生物を泥へと変貌させ、
その力を無力化させるその宝具の威力は、
バーサーカーへと変貌し、その真の力を発揮していた。
他のクラスで召喚されていれば、ここまでの出力を出す事は絶対に不可能だっただろう。
その混沌は、乖離剣エアが作り出している擬似的な空間断裂すらをも飲み込み、混沌へと変貌させていく。
乖離剣が作り出す全ての威力を周囲全ての混沌が飲み込んでいく。
本来ならば混沌を切り裂くはずの乖離剣が混沌に飲み込まれていくとは何という皮肉。
この剣の本来の所有者である大神エアが振るえば、この混沌も切り開く事ができるであろうが、
乖離剣は本来ギルガメッシュの物ではないので、そこまでの出力を出すことができないのである。
「これが……貴様の真の力か！？親友！
ここまでの力を誇るとはな……！！」
そう絶句する英雄王の腕にも混沌が巻き付き、さらに乖離剣にも混沌が巻き付き、乖離剣の回転を阻害し、封じ込めていく。
本来ならば混沌を切り開くはずの剣が混沌に封じ込まれるとは何という皮肉。
そしてそれを見逃す彼らではなかった。
「今だ！やれ！フラット！！」
「は、はい教授！令呪の名の元に命じる！
ランサー！ギルガメッシュを打倒しろ―――！！」
フラットの手に存在していた令呪が消失し、膨大な魔力がランサーへと注ぎ込まれる。
「おおおおおおおおおおおおお！！！！」
その莫大な魔力を元に、ランサーは大きく振りかぶると、手にしていた必滅の黄薔薇を凄まじい勢いでギルガメッシュへと投擲する。
膨大な威力を秘めたその必滅の黄薔薇は、瞬時に音速を突破し、凄まじい勢いでギルガメッシュへと襲いかかる。
「――――！！」
そして、その魔槍は、見事にギルガメッシュの胸を突き破り、霊核が存在する心臓を突き破る。
奇しくも、以前自らがしたことを自らに繰り返されたのだ。
これぞ、まさしく因果応報と言えるだろう。
「……見事だ。弱小の王、ウェイバーよ。
ここまで我の元へと駆け上がり、我を打倒するとはな……。
くくく、全くもって、神々の仕組む運命とやらは面白い。
ではな。大いに楽しませてもらったぞ。ウェイバーよ。」
その言葉と共に英雄王は消滅した。
これが、彼らの戦いの終焉だった。
《行くぞ！ペイバックタイムだ！！（挨拶）》
こんにちわ。零です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これは、以前予告したフェイト・マイナスの最終話の後日談になります。
あの話の後で、ウェイバーが英雄王に逆襲をする話は書きたかったので何となく書いてみました。
まあ、ギルガメッシュのあのセリフがフラグだったというわけですね。
我を倒したければ我と同等の力を持ってこい！→バーサーカーエルキドゥ連れてきたよー(｀・ω・´)ノ→なん……だと……という流れ。
うむ、見事なフラグの立てっぷりですな。
PGMはThe Liberation of Gracemeriaでお願いします。（嘘）
感想などいただけたらとても嬉しいです。
更新したばかりなので、誤字脱字は順次直していく予定です。
・１２月５日、ギルガメッシュとエルキドゥの戦いを追加更新しました。
なお、エルキドゥの宝具はみんなで考えるサーヴァントさまからアイデアをお借りしました。
どうもありがとうございました。
・１月１２日、橙子との会話を追加更新しました。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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