―――場所は再び移り日本帝国。
その日本帝国第壱開発局の一室では、一人の男性が熱心にスクリーンを見ていた。
そのスクリーンに映し出されているのは鷹瀬が隠し撮りしたX-29とF-15A先行量産型の模擬戦だ。
その中、特に彼が気にかけているのはF-15Aの動きである。
と、その暗い部屋の中に、一人の男性が入ってくる。
「やあ、巌谷。またここにいたのかい？随分とその映像がお気に入りだね。」
その男性の名前は巌谷 榮二。
日本帝国が誇る戦術機、瑞鶴を作り上げたテストパイロットである。
そして、その彼に話しかけてきたのが、瑞鶴を作り上げた主任設計者、篁 珪である。
二人は、お互い協力し合って瑞鶴を作り上げた以心伝心の間柄である。
そして、そんな彼らが他国の最新鋭の情報を集めているのも当然といえる。
「ああ、アメリカはまちがいなくコイツかＦ－１４を帝国に売り込みに来る。
そうなった時には、俺たちの開発した『瑞鶴』で対抗するしかない。
そりゃ真剣になろうというものだろう？」
最近、アメリカは日本帝国に対して、最新鋭の戦術機の売り込みをかけようとしていると彼らの情報網に入っていた。
恐らく、８２年に開発されたばかりのF-14トムキャットか現在量産の最終段階に入っているF-15Aの売り込みに来るに違いない。
そうなれば、彼らが切り開いた純国産戦術機への道が閉ざされてしまう可能性が非常に高い。
それだけは、何としても避けなくてはならない。
「Ｆ－１４は高性能な機体だが、近接戦闘ではＦ－１５に一歩劣ると聞く。
となれば、Ｆ－１５が選定される可能性は高い。
だが、それでは俺たちが切り開こうとしている国産戦術機の道が閉ざされてしまう。
それだけは断して避けなければならない。」
「同感だ。向こうの傭兵部隊に潜り込んでいる草にもっと情報を仕入れるように情報廠に注文を出してみるよ。
後は……確か知り合いの武家がチェコスロバキアの駐在武官がいたな。
そちらにコンタクトを取ってみるか……。」
それが新たな運命の幕開けになるとは、彼らの知る由もなかった。
「……ふむ。傭兵部隊、ですの。」
チェコスロバキア首都、チェコ。
その首都の中、一件の館の内部では、一人の女性の駐在武官が書類を読んでいた。
ロングの波打った銀色のウェーブヘアに、切りそろえた前髪。
鋭利な中にも優美なイメージを持ったいかにもお姫様と言わんばかりのその容貌と、
その身に纏う軍服は、一見ミスマッチにも見えるが、奇妙な統一感を見せていた。
二條シオン。
ドイツのハーフの女性と武家の男性の間に生まれた彼女は、
ドイツのクォーターであり、同時に武家の家系にして政威大将軍を守護する斯衛軍の一員である。
特に彼女の家系は武家の中でも五摂家の中の一つ、九條家に近い有力武家の一員であり、
赤色の『瑞鶴』を与えられたほどの家である。
彼女が読んでいる資料には、チェコ軍ではなく、傭兵部隊トライ・マーセナリーズの情報が纏められている。
この傭兵部隊には、準第三世代実験機X-29が導入されたのをきっかけに、
F-15A先行量産型、そしてトーネードADVと最新の戦術機が次々と導入されている。
そんな最新鋭の戦術機が集まっている状況に注目しない勢力がいないわけがない。
どうやら帝国本土でもそちらに注目しているらしく、彼女の実家である二條家に、交流のある篁家から
直接情報収集を行なってくるように依頼があったのである。
「面白そうですわね……。これはわたくし直々に出向く必要がありそうですわ。」
にやり、と彼女はそう微笑んだ。
―――場所は再び傭兵部隊の基地、ネストオブギースに移る。
光線級の脅威に対抗するべく、山自体をくり抜いて作られたこの基地の演習場では、一機の戦術機が起動段階に入っていた。
それは、以前副司令が言っていた砲撃戦用に改修された複座型のF-5である。
この機体は通常の戦術機とは異なり、
背中の兵器担架システムを取り払い、戦車砲用の１２０mm弾薬と自動装填システムを組み込んだバックパックと戦車砲を装備した機体である。
そして、その複座に乗り込むのは、戦車兵から機種転換を起こった操縦手と砲撃手である。
「よし、それじゃ行くぜ。」
「あいよ！了解！！初の戦術機だからってすっ転ぶなよ！大恥だぜ！」
その言葉と共に、操縦手の手によって、ズシンズシンと起動音を立てながら砲撃戦用に改修されたF-5は歩行を開始する。
いくらシュミレーションで訓練していたからと言っても、やはり実機では勝手が違う。
ましてや彼らは元は戦車乗りで戦術機乗りではないのだ。
それは戦車乗りがいきなり戦闘機に乗れと言っているのと同義だ。
まずは、無難に歩かせただけでも上々と言えるだろう。
その状態を見ながら、ディートリッヒ基地司令は、彼らに対して通信で連絡を行う。
「よし、それでは跳躍ユニットを起動させろ。
地表面噴射滑走を行え。」
「了解！」
このF-5は元々砲撃戦用に転用されたという事で、機動性自体は考慮に入れられていない。
だが、戦車の機動性に付いていくためにも、様々な状況に対応できるためにも
最低でも地表面噴射滑走だけは出来て貰わないと困る。
それまで主脚走行を行なっていたF-5の跳躍ユニットがカン高い唸りを上げる。
それと共に、砲撃戦用F-5は演習場内部を地表面噴射滑走を行う。
やはり通常の機体と比べて重いため、速度や機動性は落ちているが、戦車についていくには十分な速度だ。
それに、中の二人もこの程度なら問題はなさそうだ。
「よし、それでは次は砲撃準備。
目標に対して砲撃を行え。」
その司令の言葉に対して、F-5は地表面噴射滑走を止めると、ズシンと地面に降り立つ。
「砲撃用意！」
「了解！砲撃用意！！」
ウィーンと音を立てながらバックパックの真横に装備されている戦車砲が
可動式マウントアームによって自動的に動き、F-5の腰の横に固定される。
その取っ手を両腕でがっしり掴み、腰を落として腰だめに構えながら、F-5は擬似目標である土嚢の山に狙いを定める。
「距離１２００！！目標１２時方向！！撃ーーーっ！！」
次の瞬間、轟音が響きわたり、戦車砲から発射された１２０mmAPFSDS弾が音速で目標に命中する。
現地改修機としてはまあまあの出来だといえるだろう。
それを観測所で見ているのは、ブリジッドとエーシャの二人の女性である。
「ふむ、私が行なったF-5の改修は上手く行っているようだな。
やはり主腕にMIG-21の技術を流用したのは正解だったな。
MIG-21も戦車砲を発射するために主腕を強化してあるからな。」
「あれくらいで胸を張らないで下さい。
この程度は出来て当たり前なのです。」
ツン、とエーシャの微かな自慢げな言葉を一刀両断するブリジッドの様子を見て、
エーシャは思わず苦笑いしてしまう。
「やれやれ。相変わらず手厳しいな。
で、話は全く変わるが……貴様も聞いているだろう？
どうもこの基地にトーネードが来るらしいが、貴様はトーネードをどう見る？」
どんなに不愉快な相手でも、戦術機の話となれば話は別だ。
それが戦術機開発者としてはもはや因業とも呼べるものである。
エーシャにそう話を振られた彼女は、頬に指を当てて考えこむ。
「そうですね……。私から見れば非常に手堅い機体かと。
既存技術を昇華させて、基礎技術を全般的に底上げしているのは評価に値します。
ですが、元が第一世代ですので、やはり改修したと言っても機動性などではF-15に一歩劣るでしょうね。
最も、両腕のスーパーカーボンブレードなどの固定武装の導入によって、近接戦闘ではF-15に勝る部分もあります。
さらに小型で燃費の良い、しかも良好な推力を誇る跳躍ユニットにも注目すべき点です。
平野が多い欧州での戦訓に沿った機体と言えますね。
欲を言えばさらに軽快な機動性があるといいのですが。」
「なるほど。優等生な答えだな。
「古臭くてつまらない」と答えると思ったが。」
「本来、あちらのようにガチガチの手堅い技術で纏められた信頼性の高い機体の方が兵器として正しいのです。
新しい技術というのは不安要素も多いものですから。
熟練の兵士は新しい装備というのを非常に嫌がりますからね。
戦術機の進化としては正しい形といえるでしょう。」
彼女はちらりとX-29のハンガーを横目で見る。
そこには彼女が信じた新たなる戦術機のカタチ、X-29が整備中だ。
そしてその中には『可能性』を示す「貴婦人と一角獣」のコピーが飾られている。
衛士でも兵士でもない彼女は直接戦うことはできない。
若い女性でありながらX-29の主任設計者を任せられた彼女には色々とつらい思いもあったが、
あのタペストリーを心の支えとして頑張ってきたのだ。
「ふむ、だが既存技術の向上だけでは新たなる進化、さらなる可能性は生まれない。
戦術機の新たなる進化の可能性を探る。
そして、さらなる高度な戦術機を作り出す。
それが私たちの役目だ。そうだろう？」
「……まあ、不本意ながらその意見には同感です。」
不承不承ながらも、彼女はその言葉に頷いた。
戦術機の新たなる可能性と進化を見つけ出し、より強い戦術機を作り出す。
それが彼女たちの絶対的な目的だからだ。
再び場面は変わり、基地司令室。
そこでは、砲撃用F-5の視察を終えたディートリッヒ司令と、副司令が帰って来ていた。
わざわざ司令が様子を見に行ったのは、戦場でF-5のトラブルがあった場合、戦車隊の崩壊につながりかねないため、
直々に出向いたのである。
「ところで、補給の件はどうなっている？」
「は、オールドギースが再度補給物資を装甲列車で輸送を行うとの事です。
補給品は、主にドラケン二機、複座型のF-5二機、さらに大量のF-5の補給パーツと食料品と言った所ですな。」
基本的に欧州各国で使用されている戦術機はF-4やMIG-21などを除いて、
ミラージュⅢやドラケン、トーネードなどほとんどF-5の派生機と言っていい。
それゆえ、違う国の戦術機といえどパーツにかなりの互換性があるのである。
これは、様々な国の戦術機を使用する傭兵部隊にとっては非常にありがたい事だった。
「うむ、爺さんもよくやってくれている。
多少報酬に上乗せせんとな。
で、他にも何か厄介事があるのだろう？」
「は、まずはチェコスロバキアにいる日本帝国軍の駐在武官がこちらに査察に来るようです。
やはり狙いはX-29やF-15Aでしょうな。」
それを聞いて、司令は思わず苦笑いを浮かべる。
「全く、あの機体はいい釣り餌だな。
餌を狙ってどの勢力もこちらに食いついてくる。
まあ、それが戦力増加になれば文句なしだが……厄介事も引き連れてくるのが痛し痒しか。」
「その痛し痒しの部分も来ているようですな。
どうやら、国連がこちらに目をつけているようです。」
傭兵部隊は各国の共同出資により成り立っており、
その最大の出資国とも言えるのが、アメリカと国連である。
国連が国境に囚われない即時適応部隊としてこちらに出資するのは解るが、
アメリカが出資を行なっているのは、アメリカの影響を及ぼしにくいこの土地でも、
アメリカの手駒になる存在が欲しいという理由だろう。
「国連が、か。戦術機の件で文句をつけてくるつもりか？」
「いえ、正確にいうと……この基地の戦術機の技術交流などに興味を示しているようですな。
ここはX-29、F-15A先行量産型、トーネードADVなど最新鋭の戦術機が揃い踏みですから。
各国の最新の戦術機による技術交流と技術発展、東西の壁を超えたさらなる戦術機の開発。
確かに国連が好みそうな綺麗事のお題目ですな。」
それを聞いて、司令はふん、と皮肉げに唇を歪める。
「ふん、人を使い勝手のいい潰しのきく駒にしておいて、
都合が良くなれば掌返し、か。随分と調子のいい事だな。
まあいい。そちらがそうでるのならこちらもそれなりの対応をさせてもらおう。
資料を出す代わりに、さらに資金援助上乗せの請求をしてやれ。」
「了解しました。」
―――１方、基地内部のアルムの部屋。
中隊長としての書類と格闘し終えた彼は、妹から送られてきた手紙と彼女が書き上げたという自前の小説を読んでいた。
『兄さまへ。病院は暇ですので、また小説を書いてみました。
よろしければ感想を聞かせていただければ幸いです。』
《悲嘆の果て》と名付けられたバレオロゴス作戦の際の女性衛士の悲恋を主にした小説である。
娯楽に餓えている基地内部の人間にも好評で、特に恋愛物という事で女性陣に大好評を得ている作品である。
アルムも他人に見せるつもりはなかったのだが、ついうっかり置き忘れて他人に見られたのが運のつき。
原本が届くやいなや大量にコピーされて基地内だけでなく他の基地にまで届けられる始末である。
そして、こちらに来る大量の感想を妹のリューヌに送ってやるのが最近の彼の役目になりつつある。
と、そんな彼の部屋に誰かがトントンとノックをする。
それらの手紙などを机の中にしまい込むと、アルムは返事をしながらドアを開ける。
そこに立っていたのは、合成ウィスキーとコップを持ったラリーであった。
「よう、雑務お疲れ様。一緒に酒でも飲まないか？」
「随分といきなりだな。まあ、別にいいけど。」
そう言いながら、アルムはラリーを部屋の中に入れると、お互いのコップに合成ウィスキーを注ぐ。
それにちびちびと口をつけながら、何となく世間話が始まる。
「しかし随分とウチの基地にも女性が増えてきたな。
……で、アルム、お前さんはどの女性が好みだ？」
その言葉に思わずむせそうになるアルム。
何とか飲み込むと彼は呆れたように言葉を放つ。
「……いきなり何を言い出すんだ。お前は。
女性と言っても、お嬢さんは手の掛かる妹、魔女野郎はウザったいが背中を任せられる戦友。
これで恋愛感情なんか湧くと思うか？」
「ほう、それじゃあのソ連の技術者なんかどうだ？
魔女もそうだが、彼女もスタイル抜群だが。それかあの新入りとか」
「……何かまた厄介事になりそうだから絡みたくないんだよ。
新入りは俺がこてんぱんにやられる所を見ていただろうが。あっちに深入りしても厄介事になりそうだしな。」
「やれやれ。好みが高いな。この贅沢者め。」
そんな風などうでもいい与太話をしながらちびちびと酒を飲む二人。
だが、こういう馬鹿話が衛士の精神衛生上とてもいいのである。
人間は戦う機械にはなれない。
いかに熟練の衛士と言えど、２４時間常に戦場の緊張状態のままでいてはいとも容易くショックシェルになってしまうのである。
それを防ぐためにリラックスできるときはリラックスすべきなのである。
「それにしてもお前も物好きだな。
お前ほどの腕があれば傭兵上がりだろうが、どこの国でも引っ張りだこだろうに。
「前にも言っただろう。
俺は、国や国境なんて下らない物には囚われたくないんだよ。
国境を飛び越えて人々を助ける。それが俺の理想だ。
国なんてものに捕らわれていては、救える者も救えない。
皮肉じゃあないか。他人から嫌われる傭兵稼業が俺の理想なんてさ。」
それを聞いて、アルムも皮肉げに微笑む。
「『オレたちはみんなドブの中にいる。
でもそこから星を眺めてる奴らだっているんだ。』
どうせこの世界はどこもかしこもドブだらけさ。
どうせドブの中にいるんなら、居心地のいいドブの方がいいだろ？」
「ま、その見ている星からBETAが来たとかだったら笑い話にもならないがな。
それに……まあ、俺たちは似たもの同士だしな。
ほら、俺たちの好きなセリフがあるだろ？乾杯の音戸はあれでいこうぜ。」
「「『雨の中、傘をささずに踊る人間がいてもいい。
それが自由ということさ』―――乾杯。」」
翌日、ネストオブギースに向けて補給物資を運ぶべく装甲列車が基地へと向かっていた。
本来ならばハーキュリーズで運ぶのが一番早いのだが、
やはり最前線ということで光線級で狙われる可能性が非常に高いため、
ハーキュリーズで運べる所まで運んだあとで、装甲列車で補給物資を運ぶのが通例となっている。
そんないつもの光景の中、一人の異質な姿があった。
小奇麗な軍服を纏ったまるで平安時代のお姫様のようなアンバランスな姿の女性。
チェコスロバキア駐在武官、二條シオン中佐である。
彼女はチェコ軍のコネからオールドギースとコンタクトを取って、補給物資の搬送に乗じて
基地まで運んでくれる事を頼んだのである。
そんな彼女に対して、オールドギースはやれやれと言わんばかりに肩を竦める。
「やれやれ。お嬢さん。あんたも物好きだねえ。
駐在武官様ともあろうものが、何を好き好んで傭兵部隊なんてゴロツキどもの巣窟に乗り込んでいくのか。
チェコ軍のお偉方も顔が引きつっていたぜ？」
「構いません。駐在武官たる者、情報収集に努めるのは当然の事。
帝国のため、征夷大将軍のために動くのは斯衛の勤め。
わたくしは当然の事をしているまでですわ。手土産も用意いたしましたし」
彼女のいう『手土産』とは日本で作成されたF-5の補給パーツである。
現在後方国の日本では、最前線である欧州への輸出目的としてF-5の補給パーツの大量生産を行なっている。
帝国の生産するパーツは品質が高いと評判なので、
二條のコネで格安で手に入ったのはありがたい。
「ま、格安でF-5の補給パーツを手に入れられたのはありがたいがね。
おっと失礼。貴族様の前で食事とは失礼だが、ワシも忙しいんでな。勘弁してくれ。」
そう言いながら、オールドギースは机の上に乗せられたカップラーメンをすすり出す。
手軽でお湯さえあればすぐに出来るカップラーメンは忙しい彼にとっては非常にありがたい食材である。
そんな彼を見て、シオンは興味深そうにカップラーメンをしげしげと眺める。
「それで……それは何ですの？」
「おいおいお嬢さん。こいつぁお前さんのとこが開発したカップラーメンじゃよ。
お湯さえあれば手軽に食べれるってんで整備班や衛士たちにも大人気だからな。
お前さんの国から大量に仕入れてきた所じゃわい。ワシらにもありがたい食品じゃしな。」
「ほう……これが「かっぷらぁめん」ですか。」
ずるずるとカップラーメンをすするオールドギースを見て、シオンは興味深そうに見つめる。
五摂家に並ぶ有力武家である彼女の家では、華美を禁じ、粗食を胸としているが、
このような物を食べるのは禁じられていたので、興味深いのだろう。
ちらちらとこちらを見てくるシオンに対して、彼は苦笑いをしながらもう一つの予備のラーメンを取り出す。
「やれやれ。しょうがないのう。ほれ、ワシのおごりじゃ。
お姫さんには、F-5の格安パーツの件で随分と儲けさせてもらったからのう。
これくらい安いもんじゃ。」
オールドギースはそういうと、彼女にほい、とカップラーメンを手渡す。
「で、ではいただきます。」
彼女は言われた通りに、お湯を注ぐとカップラーメンの上に箸を置いて、その前に正座をしてじっと待つ彼女の姿は滑稽というか微笑ましいものがあった。
「２分５８秒……５９秒……今ですわ！！」
その瞬間、彼女は箸を取ると、一気にカップラーメンを食べ始める。
優雅にラーメンを啜る彼女の顔に、幸福そうな僅かな笑みが浮かび上がる。
どうやら、このラーメンがよほどお気に召したらしい。
日頃は、このようなものを食べることができない、というのもあるのだろう。
「オールドギース様、至急この「味噌らぁめん」をわたくしの所まで届けてくださいまし。
しかも大量に。」
「……お姫さん。気に入ったのかい？そいつ。」
「ええ。この異国の地でも味噌という日本の味を味わえるなど最高です。
それにこのかっぷらぁめん自体もとてもいいですわ。
美味な上にお湯さえあればすぐ作れるなど、保存食としても優秀。
このような物が自国で作られているのを知らなかったなど……この二條シオン、不覚という他ありませんわ。」
そんな風に幸せそうな顔をしながらラーメンをすするシオンに対して、
オールドギースはそこまで言わずともよかろうに、と苦笑いをしながら肩を竦める。
と、そんな中、キキキキといきなり装甲列車のブレーキがかかりだす。
何とかラーメンをこぼさないようにたららを踏むシオンやオールドギース。
「このタイミングで停車じゃだと……？
また厄介な事になりそうじゃわい……。」
そう彼は呟くと、状況を見るために機関車へと向かい、事情を聞いて帰ってくる。
「何でも機関車のトラブルだとさ。
嫌な予感がするぜ。こんな時にBETAに襲われた日にゃ……。」
と、そんな風になごんでいる中、突如、装甲列車に載せていた一匹の犬が狂ったように吠え始めた。
この犬は、いうなれば生きたBETA小型種センサーとも言える存在である。
異星起源種であるBETAに大して、犬や猫と言った野生の動物はその鋭敏な感覚から近寄ってきただけでも異常な反応を見せる。
大型種と異なり、小型種は少数ではセンサーや探知網を容易くすり抜けてしまう。
その対策として、生きたBETAセンサーとして軍用犬や猫などが飼われる事が多いのである。
「――――！！」
瞬間、彼女はカップラーメンを放り捨てると、そのまま列車内を疾走して、
装甲列車内の指揮車へと駆け込む。
「何だ貴様！ここは部外者が入っていい所では……。」
「それどころではありません！BETA警戒用の軍用犬が反応しました！
BETAが襲ってくる可能性が高い！即座に戦闘態勢に！！」
それだけを言うと、彼女は再び列車内を疾走して今度は警戒車へと駆け込む。
「申し訳ありません！現在の状況は……！！」
「や、やばい！センサーに感あり！BETAだ！BETAがやってくるぞ！！」
その言葉を聞くと、彼女は疾走し、
とっさに、装甲列車の銃座に飛び込むと、まだ誰もいない銃座に飛び乗り、
覗き穴から外を覗き、銃座の重機関銃のチェックを行い安全装置を解除する。
覗き穴からは、運悪くこちらに迫り来る小規模の戦車級や闘士級がこちらに迫るのが目に入る。
とっさに、彼女は重機関銃をそちらに向けると引き金を引き絞る。
ドドドド！！と発射される無数の銃弾は、容易く戦車級や闘士級を打ち砕く。
それに続いて次々と他の銃座の重機関銃が火を吹いていく。
その弾丸によって小型種は次々と打ち砕かれていく。
それを見ながて、さらに重機関銃を撃ちながらシオンは無線で指揮車に問いかける。
「指揮車！護衛の戦術機部隊は何をしているのですか！？」
「あ、ああ、近くに要撃級と突撃級が出ているという報告を受けたので、
そちらに迎撃に向かっている！！」
「護衛が迎撃に出てどうするのですか！
至急こちらに呼び戻して路線の確保と列車の護衛を最優先になさい！
路線がBETAにやられてしまっては列車は進む事も引く事もできないのですよ！？
工兵に連絡！機関車の修理と共に、歩兵と連携して路線の確認を！歩兵は周囲の小型種の確認を！
近くの基地に連絡して戦術機部隊の増援の連絡を行いなさい！」
「り……了解！！」
彼女には指揮権限はないが、中佐という階位、そしてその的確な判断は、
確かに現状では最良の手段であるように思えた。
そんな風に活躍している彼女の様子を見て、オールドギースはひゅーと口笛を吹く。
「さすがは中佐殿だな。助かるぜ。
この荷物がやられたらワシも大赤字もいいところじゃからな。」
「いえ、武家の家系として優雅さが足りませんでしたわね。
武家の末裔たるもの、いかなる時でも優雅さを失ってはならない。
これが我が家の家訓です。……わたくしもまだまだ修行が足りませぬ。」
そこまで言うと、彼女は顎に指を当ててじっと考え込む。
「しかし……護衛が戦術機四機とは心もとないですわね。
……オールドギース様。確かにこの列車には補給のための戦術機があったはずですわね？」
ちなみに、ドラケンは輸送してすぐ使用できるように組み立てられた状態で輸送されている。
さすがに弾薬や推進剤は入っていないが、それらを補給すればすぐにでも使用できる状態である。
「あ、ああ。F-5の複座型とドラケンがそれぞれ二機ほどな。
しかしお嬢ちゃん。お前さん、ドラケンに乗った事はないだろう？
アレはかなり癖のある機体じゃぞ？
機種転換訓練も受けていないんじゃあちときついぞ？」
それを聞くと、にやりと彼女は不敵に微笑んだ。
「わたくしを侮らないでくださいまし。
わたくしは……斯衛ですのよ？」
一方、列車外では護衛の戦術機隊とBETAとの戦いが開始されつつあった。
小規模とはいえ、足の止まってしまった列車を守って戦うとなると苦戦を免れない。
大型種のみならず、足の止まった列車では小型種も非常に脅威となる。
特に戦車級の前では装甲列車といえど容易く食い破られてしまうのだ。
そのため、大型種のみならず、小型種もできるだけ排除しなければならない。
「ちいっ！小規模BETA群とはいえ手が足りんぞ！
お、おい！貨物のコンテナが！！」
と、その時、ゴオンゴオンと音を立てながら、貨物のコンテナが左右に分かれる。
そして、そこから立ち上がって姿を表すのは一機の戦術機。
F-5FミラージュⅢの改修機、J-35ドラケンである。
これほど早く起動できたのは、ネストオブギースについたらすぐ使用できるように、
すでに組み立てられた状態で輸送されていたというのもあるが、
短期間で弾薬や推進剤の補給・整備ができるように作られたドラケンの特性のためでもある。
スウェーデン自体はすでにBETAによって支配されているが、
山岳基地というネストオブギースの特性、さらに傭兵として流れ込んできた元スウェーデンの衛士たちは
相変わらずドラケンを好む傾向にあり、他にも腕の立つ衛士の中にはドラケンに乗る人間もいる。
「なっ……！ド、ドラケンだと！？誰が動かしてるんだ！？」
と、そんな中、護衛の戦術機隊に、ドラケンから通信が入る。
それは、自前の強化装備に身を包んだシオンからの通信だった。
「こちら、日本帝国斯衛軍チェコスロバキア駐在武官、二條シオン中佐。
皆様、申し訳ありませんが、緊急事態のためわたくしの指示に従っていただきます。」
「何だと！？てめえ、いきなり出て来て指示に従えって何様……ち、中佐だと！？」
彼女の階級を聞いて、戦術機部隊の人間は思わず驚く。
こんなに若い女性が、佐官クラスの人間でしかもこんなところにいるなど普通思わないだろう。
彼らは少尉であり、彼女とは階級が大幅に異なる。
不承不承ながらも、彼らは彼女に従う事を決意した。
「……いいだろう。だが、何かあったら全てあんたの責任だからな。」
「了解しましたわ。陣形、菱壱型へ移行！！工作兵が路線の確認を終えるか、
基地から支援が来るまで持ちこたえます！
多少陣形が乱れても構いません！列車に近づけないようにしてください！」
その彼女の指示と共に、戦術機隊はBETAとの戦いを開始する。
３６mmの散弾で小型種を仕留め、１２０mmで要撃級など大型種を仕留めていく。
だが、やはりシオンは初めて乗る機体の特性に戸惑いを感じていた。
ドラケンは元はF-5。
それに比べ、彼女の愛機である瑞鶴はF-4の改修機。
F-4とF-5とでは全く機体特性が異なる。
その全く異なる機体特性に、彼女自身も戸惑っていた。
慎重に機体を操作しながら、ドラケンの機体特性を少しづつ把握していく。
「なるほど……。さすが軽戦術機とも言えるF-5改修機。
F-4と比べて遥かに機体が軽いですわ。
機体のコンセプトとしては瑞鶴に近いですが……瑞鶴よりさらに軽量とは。
欧州各国がF-5に高い評価をつけたのも頷けますわね。」
まだ慣れていない点もあり、彼女の操縦も自然に慎重になる。
主に主脚走行で移動し。少しづつ噴射地表面滑走や噴射跳躍を使用しながら、
機体の特性などを掴んでいく。
そして、両手の突撃砲の３６mmによりこちらに近づいてくる要撃級や突撃級の脚を止めていく。
いかに近接戦闘を強化したミラージュⅢの改修機であるドラケンといえど、
今の状態でBETAに近接戦闘を仕掛けるなど無謀もいいところである。
となれば、必然砲撃戦主体になるのは当然といえるだろう。
左右の噴射地表面滑走を行いながら、３６mmの連射で次々と要撃級を倒していく彼女のドラケン。
これで光線級が出てくれば護衛ではなく、光線級を倒すために迎撃にでなければならないが、
幸いに今のところセンサーには光線級の存在は確認されてはいない。
だが、いかに強化されているとはいえF-5のセンサーは元々簡略化されたものだと聞く。
瑞鶴の新型のセンサーがあればまだ正確な情報を把握できたのだろうが、
さすがにこの地に瑞鶴を持ち込むことはできなかった。
と、そんな中、斜め前から襲いかかる要撃級に対して、
ドラケンの機首を急速に上げる事にして攻撃を回避する。
だが、急速な機首を上げることにより、ドラケンは縦スピンを起こしかけてしまう。
「―――！！」
だが、そこはさすが近衛。
両手両足を振り回す事により空力を操作し、何とか機体を立て直し、
要撃級の上を飛行しながら上から３６mmを浴びせかける。
「NOEに特化された戦術機と聞きましたが……意外と飛行安定性に難ありですわね。
瑞鶴と比べてスーパーストール癖があるのはマイナスポイント、と。
あとは小型ゆえに航続距離と燃料の少なさがネックですか……。
さすがは竜の名を冠する戦術機。
なかなか簡単には手懐けられませんのね。」
森や渓谷を遮蔽物として利用するというその案自体は、日本と共通する部分もあるが、
やはり日本のドクトリンとは合わない、と彼女は自分の身でそれを実感した。
「ですが……わたくしは赤を纏う斯衛ですわ！！」
そう叫び、彼女はさらに要撃級に３６mmを叩き込んでいく。
彼女たちの活躍もあり、大まかな大型種の掃討は片付きつつあった。
だが、ドラケンのセンサーはさらに小型種の増援を確認していた。
その中に数体でも光線級が混じっていたら厄介な事になる。
彼女は舌打ちすると、装甲列車に通信を取る。
「こういう時に小型種の群れとは……厄介ですわね……。
装甲列車の方、こちらに当たらないように援護をお願いいたしますわ！」
「ハッ、舐めるなよ！俺たちがそんな間抜けに見えるか！？
砲撃手！戦術機部隊にフレンドリーファイアしないように気をつけろよ！」
装甲列車に装備されているおよそ２０丁の重機関銃は、戦術機部隊をすり抜けて群がってくる戦車級に大して、
ぎりぎりまで引きつけて連射して小型種の排除を行う。
日本帝国の戦術機乗りに多いドッグファイターである。
だが、この状態でBETAに突っ込んでいくなどただの猪武者でしかない。
それに近接戦闘が得意だからといって射撃が下手などということはありえない。
だが、そんな風に順調にBETAの排除を行なっていたとき、まるで地震のようなズズズという不気味な振動と共に、
警戒車から説教のような通信が響きわたる。
「コ、コード９９１！コード９９１！
地下からさらにBETA群の出現！！よ、要塞級の存在も確認！！
も、もうおしまいだぁあああっ！！」
だが、そんな中、まるで狙いすましたかのようなタイミングで、複数のカン高い跳躍ユニットの音が響きわたる。
「待たせたな！クソったれのドン亀ども！」
それはネストオブギースから緊急発進したワイルドギース中隊とレイヴン中隊だった。
先頭のX-29のアルムの声に、抑えきれない喜びを秘めながら、それでも毒つく装甲列車の人員。
「ドン亀はお前だろうが！
遅いぞマヌケ！昼寝でもしていたのか！？」
だが、その彼らの増援により、絶望に囚われていた装甲列車の兵士たちの士気は一気に盛り上がる。
これで生き残れるかもしれない。
彼らの登場はそう思わせるには十分だった。
「ハッ、悪い悪い。どうやら舞踏会に遅刻しちまったようだな。
だがまあ、これくらいの遅刻なら許してくれ。
行くぜ野郎ども！BETAとダンスだ！最後まで踊りきれ！」
「「「「了解ッツ！！」」」」
そんな彼らを見て、白薔薇のエンブレムを付け、ミラージュⅢに乗ったリディアはやれやれ、と言わんばかりに深いため息をつく。
「やれやれ。アルムくんってば私のような美人を差し置いてBETAとダンスであんなに盛り上がるなんて。
美的感覚がマヒしてるとしか思えないわね。
まあいいわ。紳士のフォローをするのが淑女の勤めね。
レイヴン中隊、せいぜい壁の花にならないように華麗に踊りなさい！
無様ををさらすようなら、貴方たちに３６mmをプレゼントするわよ！！」
「「「「了解！！！」」」」
地中侵攻を行なってきたBETA群は中規模で、しかも光線級が僅かながら混じっているらしい。
匍匐飛行を行なってこちらに迫り来る彼らに対して、降り注ぐ数条の光線級のレーザー。
そのレーザーは彼らの頭上を掠めていったが、それくらいでひるむ彼らではない。
「第三小隊！列車の護衛のカバーに入れ！
第二小隊、第一小隊はBETAの迎撃に入る！
光線級吶喊の後で要塞級狩りだ！！陣形楔弐型で突っ込むぞ！」
「「「了解！！」」」
カン高い跳躍ユニットの轟音と共に、BETA群へと襲いかかる彼ら。
一方、ギースの第三小隊は列車の護衛に入る。
拠点防衛用のA-10二機は、まさしく小型種から列車を守るのはうってつけの役割だからだ。
二機にA-10のアヴェンジャーによって、列車に近づく戦車級は次々と倒されつつあった。
それを横目で見ながら、ドラケンを駆るシオンは小さく呟く。
「あれが……X-29.そしてF-15A。
さて、その実力、どれほどのものか見せてもらいましょうか。」
そして、その呟きに答えるように、列車の護衛として近づく小型種にアヴェンジャーの３６mmを叩き込んでいる鷹瀬も小さく呟く。
「あの機体……。まさかお嬢様が操縦を……？」
鷹瀬の家は、代々ニ條家の情報収集のために使える草、つまり忍者の家系である。
つまり、シオンは鷹瀬の上司であり使えるべき存在なのである。
彼女が傭兵部隊に潜り込んだのは、情報省の命令によるものだが、まさか彼女の仕えるべき存在が直接傭兵部隊に乗り込んでくるとは予想外だった。
だが、そんな彼女たちの事情は関わりなく、戦闘は進む。
少数の光線級をカバーするように、立ちふさがる要撃級たち。
そんな要撃級を彼らは次々と突破していく。
だが、そんな彼らに対抗するように、一体のみの要塞級がこちらに向かって侵攻を開始する。
光線級吶喊の邪魔をされては迷惑だ、そう判断したアルムはラリーと二機で要塞級を叩く判断を行う。
「ギース２！俺とついてこい！要塞級狩りだ！
他の隊はそのまま光線級吶喊を続行しろ！
光線級の排除が終わったらBETA群の掃討を開始！
レイヴンや護衛隊と協力して列車を守れ！」
「「「了解！！」」」
そう指示すると、アルムのX-29とラリーのF-15Aは進行方向を外れて、噴射跳躍を行いながら要塞級へと接近する。
「俺が行く！相棒『鞭』の牽制は任せたぜ！」
「了解！行け！！」
その言葉と共に、X-29は牽制のために３６mmを叩き込みながら、要塞級の鞭のギリギリの範囲を飛行して惹きつける。
「こっちだ！デカブツ！！」
アルムのX-29が３６mmで要塞級の『鞭』を牽制している間に、
ラリーのF-15Aは要塞級の真横から急速に噴射跳躍して接近する。
「おおおおおおおお！！」
斜め下から突き上げるような形で、要塞級の顔の部分にベルセルガの先端の大型スパイクが突き刺さる。
だが、当然のごとくそれで終わりのはずはない。
次の瞬間、ベルセルガに装備されていたパイルバンカーが火を吹き、凄まじい勢いで射出され、深々と要塞級の顔面に突き刺さる。
まるで噴水のようにF-15Aに要塞級の体液が降り注ぐ。
頭部に大きな穴を開けた要塞級は、ぐらりと巨体を揺らすとそのまま前のめりにズシンと音を立てながら
小型種を巻き込みながら倒れ込む。
およそ二十体の小型種が巻き込まれて潰れてしまう。
要塞級は体内から光線級を出す事もあるが、前のめりに倒れてしまっては出すことはできないだろう。
念のため、アルムのX-29が胴体部に１２０mmを叩き込んでいく。
そして、重力に従い落下していくF-15Aは、ちょうど真下に存在する要撃級の背中に向けて着地をすると同時に
その勢いのまま追加装甲ベルゼルガの先端の大型スパイクを突き立てる。
さらに、再びパイルバンカーを起動させ、要撃級の背中を串刺しにする。
要塞級ですら倒したパイルバンカーの一撃に、要撃級が耐えれるはずもない。
一方、アルムのX-29もその能力を発揮していた。
要塞級の残骸に１２０mmを叩き込んだX-29は、逆噴射制動を行い、距離を取りながら３６mmを発射し、要撃級や突撃級を倒していく。
その隙を狙うように、背後から襲いかかる要撃級を、片方の跳躍ユニットを使用して機体をぐるりと回転させて、
そのまま遠心力を利用して振り向きざまに近接長刀で、要撃級を叩き斬る。
さらに、噴射跳躍で要撃級を飛び越す際に、前進翼のカーボンブレードによって要撃級を切り裂いていく。
だが、そんなX-29に向けて要撃級が真横から襲いかかる。
しかし、その要撃級は、１２０mmによって半身をズタズタにされてしまう。
それを行なったのはリディアのミラージュⅢである。
「あらあら、相変わらずアルムくんは反応速度が鈍亀並みね。
名前を亀に変えたほうがいいじゃないかしら？
せっかくの準第三世代戦術機が泣いてるわよ？」
「るっさい黙れ魔女ババア。
御託を垂れる暇があったら手を動かせボケ。」
そのアルムの言葉に、ぴきぴきとリディアの額に青筋が浮かび上がる。
「……アルムくん。前々から思っていたけれど、貴方って本当に乙女心を分かっていないのね。
女の子をババア呼ばわりとは……。私の乙女心は今深く深く傷ついたわ。
後で倉庫にいらっしゃい。話し合いましょう。主に拳で。」
「だ が 断 る。
お互い中隊長でそんなに暇じゃねえだろうが。
……まあ、今のは助かったから礼を言うがな。
後できちんと借りはかえさせてもらうぜ。」
―――それからしばらくして。
そんな彼らの活躍もあって、中規模のBETA群の掃討は完了する。
列車にほとんど被害がないというのは不幸中の幸いだった。
もしこれで何かあれば補給物資が輸送できないという最悪の状況になってしまう。
機関部の修理や路線の確保も完了し、BETAの増援も確認できないと判断した彼らは基地への帰還を行う。
「よし、こんな所だな。オールギース、基地へ一旦帰投する！！」
跳躍ユニットでの飛行を行い、エレメントを維持しながら華麗にバンクを行い、去っていくF-15AとX-29。
そして、それに率いられるようにして基地へと飛び立っていくワイルドギース中隊とレイヴン中隊。
その華麗な飛行する二機の姿を見て、シオンは小さく呟く。
「あれが―――X-29.そして、F-15A。」
「何て―――美しい。」
大空へと舞い上がる二体の戦術機を見て、彼女は純粋にそう思ったのだ。
こんにちわ。零です。
読んでいただきありがとうございます。
とても嬉しいです。
とりあえず思いついたアイデアを突っ込んだらさらにカオスになってきました。
どうしてこうなった。
ちなみに、シオンさんの元ネタはアイドルマスターの四条貴音さんですね。
アイドルマスターを見てつい出したくなって出してしまいました。
感想などいただけるととても嬉しいです。
これはフィクションであり、
現実とは一切関係ありません。