―――アメリカ某所。
その極秘の広い会議室には、アメリカ陸軍の首脳部、政治家、
国防高等研究計画局、そしてグラナンの技術者たちなどが一同に集まっていた。
これは定例のATDP（先導技術実験機計画）実験の報告会である。
様々なX-29のデータが大型プロジェクターに映し出される。
「これがATDP実験の途中結果報告です。
こちらがミラージュⅢ搭乗時の当該衛士のBETA撃破数。
こちらが、X-29搭乗時の当該衛士のBETA撃破数になります。
文字通り、桁が違う事が分かっていただけると思います。
また、こちらがBETAとの戦闘データ。こちらがF-15Aとの模擬戦データです。
近接戦闘並びに射撃戦闘、機動性に運動性。
どれをとっても対BETA戦並びに対戦術機において極めて優れた性能を発揮しています。」
それは、つまり総合的に見れば実験は順調……いや、それ以上の成果を上げていると言う事だ。
X-29の設計者からX-29を実戦に投入するというプランが出た時には会議も紛糾したものだが、
結果的に見れば、アメリカ国内では取る事の出来ない対BETA戦のデータを大量に採取出来た事は、
第三世代戦術機の開発に大いに役立っていた。
「ふむ……。オペレーションバイライトの方はどうかね？
我々にとってはそちらが極めて重要な事項だ。
何せオペレーションバイライトは第三世代戦術機の根幹になるであろう技術だ。
これが実戦で使い物にならないというのならば、第三世代機開発自体を根本から見直さねばならん。」
オペレーションバイライト。
これがX-29と他の戦術機を大きく分けている特徴だ。
現在の戦術機では、人間の操縦をコンピューターを介して、機体を制御するオペレーションバイワイヤという技術が使用されている。
オペレーションバイライトは、この機体制御を通常の導線ではなく、光ファイバーに換装し、情報をやり取りを行う。
大容量の情報を瞬時に送れる光ファイバーを使用する事により、機体の反応速度は飛躍的に向上し、
外部からの電磁場の悪影響を受けにくくなる。
これこそが、第三世代戦術機の根幹技術であり、X-29はこの技術が有用であるかどうか確かめるために作成されたと言っても過言ではない。
その陸軍首脳部の提督の言葉に、グラナンの技術者はうなづく。
「は、オペレーションバイライトの方も大きなトラブルもなく順調です。
光ファイバーケーブルによる機体統合制御技術も成功しつつあると言えるでしょう。
特に、F-15とX-29の模擬戦、あのデータの解析結果により、
オペレーションバイワイヤとオペレーションバイライトの比較検討が出来ました。
やはり光ファイバーを利用しているオペレーションバイライトの反応速度は、
オペレーションバイワイヤのそれを大きく上回っていました。
これがX-29の勝利に大きく貢献した事は事実です。」
「ふむ……。第三世代戦術機の根幹とも言えるオペレーションバイライトの技術が完成すれば、
第三世代戦術機の実用化が大きく進展する。
ご苦労だった。このまま実験を続けるようにグラナン社に伝えたまえ。」
―――そして一方、こちらはチェコスロバキア某所。
T-10Sの設計者であるエーシャは、自分と同じくソ連のスフォーニ設計局の人間からある資料を渡され、それを読んでいた。
当然、かなり機密度の盗聴器などが全くない部屋である。
ソ連は、東欧諸国の盟主とも言える存在であり、切り離されありつつチェコスロバキアにとってもその影響は大きい。
否、切り離されありつつあるからこそ、何としてもソ連の支援を受けるために色々な便宜を図るのである。
「ふむ……。これがT-10Sの風洞試験実験の結果か。」
エーシャが手にしていたのは、彼女が開発中の戦術機、T-10Sについての風洞試験についての資料である。
ブリジッドのアイデアや意見を盛り込んで再設計したその機体形状は、
以前のT-10に比べて遥かに高い空力特性を得るに至っていた。
「ええ、やはり設計し直して正解でしたね。
以前のT-10に比べて空力性能が大幅に向上しています。
研究所の人間も、「一体どんな手品を使ったのか？」と不思議がっていましたよ。」
「ふん、それは秘密というものだ。いい女には秘密はつきものだぞ？
F-14の解析データの方は？」
「そちらも順調に進んでいます。
新型の装甲やフレーム構造の解析が進めば、大幅な軽量化が見込まれますから。
現在はF-14で仕様されている軽量な複合装甲の解析を行なっています。
そうなれば、現場が求めている格闘性能の高い戦術機開発も夢ではありません。」
その言葉に、エーシャは大きく頷いた。
軽量で頑丈なフレームが作れれば、その分機動性は大きく向上する事になる。
普通、頑丈なフレームを作れば、その分機体は重くなり、機動性も落ちる。
だが、グラナン社が新開発した複合素材は、その矛盾を解消するものだった。
このF-14トムキャットのデータがあれば、現場が求める高い性能を持つ戦術機を作ることも夢物語ではない。
ともあれ、データだけでは何もできない。
複合素材一つとっても、地道な基礎研究や基礎開発が必要なのだ。
今、彼女たちは懸命になってその基礎研究を進めているところだった。
「ああ、担当者にはとにかく軽量化と空気抵抗の抑制に全力を努めろ、と伝えろ。
F-14の技術があればそれも不可能ではないはず。
Su-15の実戦データはそちらに逐一報告する。」
傭兵部隊に投入したSu-15の実戦データが取れれば、T-10Sの開発もさらに進む。
主力戦術機の座をミコヤム・グルビッチに取られたスフォーニにとっては、
何としても高性能な戦術機を作り上げなければならない。
それこそが、彼らの悲願だった。
チェコスロバキアの戦線が傭兵部隊の活躍によって再構築されたしばらく後。
戦線を抜けた小規模のBETA群はチェコスロバキア、東ドイツ、ポーランドの国境付近、ズデーテン山脈に存在する
ネストオブギース基地にも迫って来ていた。
小規模とはいえ、主戦力である戦術機部隊が出撃している以上、その戦力は侮り難い。
傭兵部隊には、戦車や小規模ながらも砲兵部隊も存在し、それらは極めて大きな戦力だが、
BETAの機動性についてこれず、近づかれたら一巻の終わりである。
そのためには、彼らを護衛する護衛部隊が必要となる。
「つまりは……俺達の出番って訳だよなあ！おい！」
砲撃戦用F-5。
複座型のF-5を改修して作られた現地改修型のF-5である。
背部の担架ユニットを排除し、自動装填システムと弾薬が組み込まれた大型のバックパックを装備し、
バイポットを展開し、両腕で戦車砲を構えるその姿は独自の威風が存在した。
他にも、戦術機の運搬トレーラーにF-５の上半身をくっつけたベルケ・ビュッフェルや、
背部兵装担架に大量のロケットコンテナを装備した別の砲撃戦用のF-5も見られた。
まさしく、基地の総戦力という勢いである。
「おいおい、脇役が気張りすぎるなよ？
所詮付け焼刃の衛士の俺達じゃあ砲撃を叩き込むしか能がないんだからな。」
基本的に、この砲撃戦用のF-5は戦術機というよりは、『機動性の高い戦車』として運用されている。
戦力が常に不足気味の傭兵部隊では、とりあえず使える物はなんでも使うというのが常態化しているのだ。
「戦車隊聞こえるか！？いつも通りだ！
戦車隊はBETAが近づいてきたら後方射撃！俺達は出来る限り踏みとどまって足止めを行う！
頼むからこちらに誤射するなよ！」
「行くぞ！撃て―――ッ！！」
傭兵部隊の戦車の主力であるチャレンジャーⅠの戦車砲が火を吹くと同時に、
砲撃戦用F-5の戦車砲も同様に火を吹く。
そして、別の砲撃戦用F-5の大量のミサイルコンテナからミサイルが射出され、BETAを纏めてなぎ払っていく。
さらに、同様に、ベルケ・ビュッフェルの両腕の突撃砲も唸りを上げ、次々と１２０mmや３６mmがBETAに叩き込まれていく。
大型種は、戦車と砲撃部隊、そしてF-5の砲撃によって吹き飛ばされていく。
だが、無数とも言える小型種を完全に防ぎきる事は出来ない。
抜けてきた小型種を出迎えるのは、ZSU-23-4 「シルカ」の２３mm機関銃から放たれる無数の銃弾である。
制空権を奪われ、用済みとされるはずだった対空戦車だったが、
その制圧力は小型種に極めて有効とされ、対小型種用として前線に復活しているのである。
そして、それらをくぐり抜けた小型種を迎え撃つのは、最後の砦となる歩兵部隊である。
「ったく主力が離れてる時にこちらに来るとはな……！
歩兵部隊！機械化歩兵部隊！行くぞ！
対小型種戦闘用意！後ろには抜かせるなよ！！」
さらに、それを抜けて来る小型種に対しては、歩兵や機械化歩兵の出番である。
突撃級誘導路を通って迫りくる小型種の群れ。
それに対して、塹壕などで構築された歩兵陣地から重機関銃、対戦車砲、榴弾砲などの火力投射が行われる。
さらに強化外骨格を装備した機械化歩兵の手腕に装備されている１２．７mm重機関銃の一斉射撃。
これにより次々と戦車級と闘士級の残骸の山が出来上がっていく。
いかに跳躍力のある闘士級だろうが、これだけの弾丸の雨を回避などできない。戦車級は言わずもがなである。
だが、それにも限界がある。
その猛烈な弾丸の雨さえくぐり抜け、ついに戦車級や闘士級が歩兵陣地へとたどり着く。
そして、そこに生まれるのは阿鼻叫喚の地獄である。
歩兵たちは戦車級に貪り食われ、闘士級に腕や頭を引き抜かれていく。
「うぎゃああ！俺の腕が！俺の腕！！」
「た、助けっ……！！」
その歩兵たちをカバーすべく、機械化歩兵……強化外骨格を纏った彼らが前に出て戦いを開始するが、
それでもやはり戦術機の装甲すら食い尽くす戦車級は彼らを持ってしても対抗するのは難しい。
と、そんな中、片腕を失った歩兵を貪り食らおうとした戦車級は、跳躍ユニットを吹かせて飛翔する機械化歩兵の突撃によって吹き飛ばさせる。
「くたばれ！！」
そのまま１２．７mm重機関銃の零距離射撃によって戦車級は動かなくなる。
「ああ、確かに俺達は傭兵だ！
金で動くならず者だ！だが、それでも目の前で苦しんでる仲間を見捨ては……！！」
だが、次の瞬間、数匹もの戦車級が纏めて彼へと襲いかかる。
「う、うぎゃああああっ！！」
戦術機の装甲ですら貪り食らう戦車級にとっては、いかに装甲化されていようと無意味である。
だが、そんな戦車級に集られた彼に対して、
味方の機械化歩兵は、肩の携帯用小型ミサイルで彼もろとも纏めて戦車級を吹きとばす。
戦車級によって苦しまないように最後を迎えられるようにというせめてもの仲間の情けである。
「馬鹿野郎が……！英雄ぶりやがって……！！
カッコつけたって生き残らなきゃ意味ねえだろうがよ……！！
おい！この歩兵を後退させろ！テメエは生き延びろよ！！」
片腕を失った歩兵は機械化歩兵に引きずられ後方に送られていく。
彼は運の良い方だ。
重傷者は助ける暇などなく、BETAに貪り食われるのが常だからだ。
「くそ……！撤退するぞ！動けない奴らは置いていけ！
機械化歩兵は歩兵の撤退の援護！踏みとどまれ！」
機動性で劣る歩兵たちは、後退するために歩兵戦闘車に次々と搭乗していく。
逆に跳躍ユニットが存在し、高い火力を保有する強化外骨格部隊は盾になって踏みとどまるのが通常である。
が、そんな撤退に入ろうとした彼らに襲いかかるBETAが、１２０mmキャニスターの一撃で吹き飛ばされる。
《待たせたな！！クソったれども！》
そこに駆けつけてきたのは、左腕と右肩装甲部を食い破られたアルムのX-29である。
ネスト・オブ・ギースが危機に陥っていると聞いた彼らは、チェコスロバキアの作戦に参加してすぐにとって引き返し、
運搬補給輸送車によって燃料や推進剤、弾薬を補給し、そのまま機体の損傷も直さずに駆けつけたのである。
「X-29か……！応急修理もせずによくやる……！
一応礼は言っておいてやるぜ！クソヤロウ！！」
事実上戦術機部隊のみで戦線を再構築し、残存BETA部隊を包囲殲滅するという作戦は、傭兵部隊に多大な損耗を強いていた。
当然、いかに熟練とはいえ、無傷ではすまない。
ラリーのF-15Aが跳躍ユニットの外装甲などを損傷したように、アルムのX-29も左腕を失い、右肩部を損傷しながらも何とか任務をこなしきった。
だが、跳躍ユニットの装甲を損傷したラリーのF-15Aは飛行している間に落ちる危険性もあったため、基地に向かわせた。
同じように、機体損傷の激しい機体は基地に向かわせて、比較的損傷の軽い機体のみで援護に向かったのである。
「各機、歩兵を巻き込むようなヘマはするなよ！
基地内でブン殴られたくなけりゃあな！」
「了解！！」
X-29の前進翼のカーボンブレードは、地面の戦車級や闘士級を次々と切り裂いていく。
同時に、１２０mmの散弾で次々と小型種を纏めて殲滅する。
当然のことながら、地上の歩兵や強化外骨格や戦車には被害を与えないようにである。
余談だが、ラリーのF-15Aは跳躍ユニットの表面装甲が戦車級によって食われてしまったため、
念のため基地に返してある。
ほかの部分ならともかく、跳躍ユニットが損傷すれば、そのまま墜落したりする可能性が高い。
そのため、変則的であるが、アルムはリディアのSu-15とエレメントを組んでいる。
あの激しい戦いのため、機体損傷が激しい機体が結構あったため、
それらの機体は基地に返して、残った機体同士でエレメントを組んでいるため、
ワイルドギースとレイヴンは事実上混合部隊となっている。
「やれやれ……。
ノックもせずに我が家に入り込むなんて、礼儀がなっていないのではなくて？
そんな礼儀知らずのBETAにはそれなりの対応で十分ね。」
リディアのSu-15もX-29に負けてはいない。
近接戦闘に強化されたSu-15の脚部には、脛部にスーパーカーボンブレードが装備されている。
それを利用し、彼女は小型種を踏み潰し、蹴り飛ばし、切り裂いていく。
さらに両腕のモーターブレードを振り回し、戦車級の山を切り裂いていく。
所詮は小規模群だ。大型種はほとんど戦車や砲兵部隊によって倒されている。
小型種も、戦術機部隊の登場によって戦況は逆転し、次々と倒されていく。
「全く……。口は悪いが、腕だけは相変わらず大したもんだぜ……。
行くぞ野郎ども！BETAを押し返せ！！」
―――その後、何とかBETA群を押し戻した彼らは全てネストオブギースに戻っていた。
それはトーネードを駆る基地司令、ディートリッヒも同様である。
シャワーを浴びた彼は、疲れたように、司令室の椅子に乱暴に腰を下ろす。
「……全く、国連やチェコスロバキアも随分こちらをこき使ってくれる……。」
基地司令である彼には、仕事が常に山積み状態である。
衛士として戦って勝って来ても、本来の仕事である書類仕事が待ち受けている。
その物量はBETAにも劣らない勢いである。
さらに、微妙な立ち位置に存在する傭兵部隊では各国や国連との交渉も大事な役割である。
「お疲れ様です。司令。合成コーヒーをブラックでお入れしましょう。」
「ああ、頼む。それで今回の損耗だが……衛士は損耗はないが、
戦術機の損耗と歩兵の被害が比較的大きい。そこを何とかしなければならんな……。
「国連やチェコスロバキアには、報酬は上乗せするように交渉しておきましょう。
さらに国連を通じて戦術機の予備パーツや補給物資をこちらに回せるようにしておきます。
これだけの作戦を遂げ、こちらの損耗も激しいのだからそれくらい言っても文句は言わないでしょう
歩兵の件ですが……難民たちに対して応募をかけましょう。
他国でただ使い潰されるのと、上手くすれば金が稼げるというのとでは大きく違うでしょうからな。」
これはある意味で難民に対する救済措置でもある。
難民となって餓えている人たちに対して、整備や料理のできる人間を雇い、仕事と安定した生活を与える。
回りくどくはあるが、これも国連が行なっている難民救済措置なのである。
「ああ、それに国連が我々に金を払うのは、ある意味難民に対する救援対策だからな。
整備の出来る人間や食事の作れる人間を雇う事で雇用を生み出し、難民の支援を行う……。
まあ、他国でも行なっている事だがな。」
他国でも、難民を自らの軍の盾として利用している所も多い。
こちらも難民を雇い、自分たちの戦力としている所は事実上同じだが、
難民だからと言って別段差別もしないし、使い潰すという事はない。
大きな功績を上げれば大金を稼ぐ事もできる。
どちらも地獄だが、金が稼げる可能性があると言えばこちらがマシな地獄と言えるかもしれない。
「それと……やはり東ドイツ、特にシュタージが不穏な動きを見せているため、注意しろとの命令が。」
「ああ、国連は東ドイツとチェコスロバキアの武力衝突を防ぐために両国の境界線である
ズデーテン山脈であるここにネストオブギースを作った。
もし東ドイツがBETA戦とのどさくさ紛れに侵攻してきた場合には
チェコスロバキア軍と共闘して防衛を行う、忘れた訳ではないさ。」
いうなれば、この基地は東ドイツとチェコスロバキアに対する国連の楔とも言える基地である。
状況不安定な東ドイツとチェコスロバキアを両方監視し、それらの情報を逐一国連へと報告する。
そして、各国に何かあれば国連の手先となって各国に介入する。それが彼らの役割だ。
特に、最近は東ドイツのシュタージが不穏な動きをしている事が大きく、国連も注意を払っている。
そのための情報を収集するために、事実上国連の狗とも言える傭兵部隊は非常に重要なのだ。
「さて、次の話題に入ろう。
基地内の人員の精神状態はどうかね？」
「そうですね……。やはり激しい戦いを得て精神的・肉体的に疲労しているかと。
ここは何かイベントを起こして慰撫するのか効果的かと。」
「だろうな。人間は機械ではない。
休息も食事も無しにただひたすらに戦い続ける事などできない。
そして２４時間ずっと神経を張り詰め続ける事はできない。
そんな状況ではいざという時に力を発揮できないし、ミスも連発してしまう。
戦意を維持するためには『リラックス』が絶対に必要なのだ。」
「……で、その結論が『コスプレ喫茶』ですか？」
「……まあ、私もどうかと思うが、男なんてのは単純な物だからな。
美人が綺麗な衣装を着るだけで盛り上がってストレス解消をする事ができる。
幸い、ウチは『自前』で何とかできる。
外から呼ぶと高いコストがかかるし、そんな余裕もない。
国連も申請してもそんな予算を寄越すとも思えんしな。」
と、そこでコンコンとドアをノックする音が聞こえる。
そして、ドアを開けて司令室に入ってくるのは、オールドギースである。
「へっへっへ。毎度。言われた通り色々な衣装を持ってきたぜ。
ま、こちらは金さえ貰えりゃ衣装だろうが弾薬だろうが戦術機の予備パーツだろうが
持ってきてやるがね。
その分金はがっちり頂くぜ。」
「解った。割増料金で払おう。他にも食料や飲み物だが……。」
「そこは言われずともバッチリよ。
合成コーヒーや合成食料、合成ジュースなども多めに持ってきたぜ。
ま、ちょうど良くX-29の予備パーツが届く頃だったんでね。
ついでにアメリカに色々発注をかけておいたのさ。」
「ああ。助かる。さて、次は女性陣に説明か……。
まあ、すでに根回しは済んでいるから問題はないが……。
正直、女性陣を相手にするならBETAを相手にしていた方が気が楽なのだがな。」
そうディートリッヒはため息をついた。
しばらく、後、基地内の女性陣が集められ、ディートリッヒからコスプレ喫茶の案を聞かされた。
始めは多少渋っていた女性陣だったが、
「可愛い衣装が着れる」「金が貰える」「ただ注文を聞くだけの簡単なお仕事」
という三連続の好条件にはあっけなく陥落した。
それに彼女たちも気が滅入るばかりのBETA戦で気晴らしに餓えていたのだろう。
衛士のみならず、整備兵や関係者であろうが例外はない。
それは、ブリジッドやエーシャたちも同様だった。
様々な衣装をきゃいきゃいと言いながら試着する女性陣の中で、ブリジッドの悲鳴とも言えない声が響きわたる。
「な、何でこのメイド服はこんなにスカートは短い上に胸元が空いているフリルが多いのですか！？
これではメイドとしての仕事が果たせないではありませんか！」
「ふん、随分と細かい事をいうのだな。
そんなに細かい事を気にするなどアメリカ人である貴様らしくもない。
それに食事を運ぶだけの給仕の服装にそんな機能性はいらないだろう？」
そういうのは、ふとももの部分に大きくスリットの入ったチャイナドレス姿のエーシャである。
全く恥ずかしがらず威風堂々としたその姿にはある意味威厳が感じられる。
彼女は、これも高性能な戦術機を開発するためと割り切っているらしい。
ブリジッドは、彼女の胸を見て、自分の胸を見比べる。
その胸のあまりの物量の違いに、思わずぐぬぬ……！！と呻いてしまうブリジッド。
「それに嫌なら別の服を着ればいいだけの話だろう？」
「はあ……。それでは私は以前の服でいいです……。
アレも恥ずかしいですが、どうせ同じなら慣れている方がマシですから……。」
一方、リディアと鷹瀬もそれぞれ着替えを行なっていた。
流石の彼女たちも場の空気を読んで大人しくコスプレを受け入れていた。
フリルの極めて多い全く実用的ではないミニスカメイド服を纏ったリディアは、
くるりと優雅に一回転してスカートをはためかせてふむ、と呟く。
「ふむ、こんな所かしら。
それでこういう時は「お帰りくださいませご主人様」と言うのでしょう？」
「……いえ、それ意味が全く逆ですから。」
そう話をしているのは、巫女服を纏っている鷹瀬である。
ちなみに、鷹瀬は着物を着たい、巫女の格好をしてみたいという女性陣の着付けを手伝って大わらわな状態である。
何せまともな着付けを出来るのは日本人である彼女ぐらいしかいない状態なのだから。
「あの『ミゴ』とか言う服装にも興味はあったのだけれど……。
動き辛そうだし、着るのめんどくさそうだからやめておくわ。」
「『ミゴ』ではく『巫女』です。
発音はきちんとしてください。邪神でも召喚しそうな名前はやめてください。
……で、少し話があるのですが、いいですか？」
「あら、偶然ね。ええ、私も話があったの。とっても重要な、ね。」
そうリディアは言うと、普段は決して見せない華やかな笑顔を鷹瀬に向けた。
「「「いらっしゃいませー♪『まぁせなりぃ』にようこそー♪」」」
―――それからしばらくして、食堂には明るい声が響きわたる華やかな雰囲気に一変していた。
制服やバニーガール、アイドル風の衣装や巫女風、着物風の華やかな衣装を纏った美人の女性たち。
そんな女性たちが食堂で出迎えてくれるのだ。これを放っておく野郎はいない。
たちまち野郎どもの行列が出来る羽目になってしまった。
女性は化けるというが、普段の格好と異なり、華やかな服装を纏った彼女たちは、
普段見慣れている彼女たちとは異なり、実に新鮮に見える。
元々この基地は美人が多いのだから、華やかな衣装を着れば映えるのは当然と言える。
「はーい♪オムライスと合成ジュースですねー♪
待っていてくださいねー。待てない？ははは、指を二、三本ヘシ折られたいんですか？」
「だめですよー♪お触りは禁止ですー♪守れないと延髄ねじ切っきゃうぞ♪」
ある種のお祭りのため、今回の食堂はいつもより安めになっており、品物もいつもより多い。
注文が殺到する中、彼女たちはにこやかに笑いながら注文を聞いていく。
だが、思わず手を出そうとする男に対しては、
遠慮会釈なく関節を極めたり殴り飛ばしたりスタンガンで麻痺させて放り出していく。
カメラを持ち出して、彼女たちを写真で撮ろうとする奴もいるが、それはオールドギ－スに止められる。
「おおっと、ここでは写真撮影は禁止じゃぞい。
どうしても、というのならワシの用意したブロマイドでどうじゃ？
なかなかの自信作だと思うが？
纏めて購入したヤツには、特別に女性陣とのツーショットプロマイドも用意してもいいんじゃぞ？」
「爺さん！纏めて５枚づつくれ！」
「何言っていやがる！こっちは纏めて十枚づつだ！」
「そいつを寄越せ！オールドギース！早くしろー！！」
「へっへっへ！まいど！！」
まるで砂糖に群がる蟻のような彼らと、彼らにブロマイドを売りさばくオールドギースの姿を見て、
アイドル姿のブリジッドと、バニーガール姿のエーシャは呆れたような声を出す。
「……しかしまあ、何というか……。
あの商売に対する執念は我々グラナンも見習わないといけないのかもしれません……。」
「聞いた話だと、他の基地にもプロマイドを販売する気満々だそうだ。
……資本主義とはあそこまでせねば生き残れないのか……。」
そして、戦場はそこだけではなく。
食堂内部のキッチン内も地獄そのものだった。
「合成ジャーマンポテト三つだ！早くしろ！」
「こっちは合成ビーフシチュー五つ！合成ジュースに合成ビール！」
「合成ポテトグラタンはまだか！もたもたするな！！」
そんな怒号が飛び交う中、明らかに異質な人間も何人か混じっている。
それは『料理が出来るから』と引っ張ってこられた整備兵や衛士、その他の人間である。
とてもではないが人員が足りないということで、休息な必要な衛士まで無理矢理引っ張ってこられた形である。
そして、それは料理のできるアルムとラリーと同様だった。
「何で俺達が引っ張り出されてるんだよ……。俺達癒される立場じゃないのかよ……。」
「聞くな。口を動かす前に手を動かせ。」
過酷な戦場をくぐり抜け、さらに過酷な戦場に投げ出された彼ら二人はため息をつくしかなかった。
（さすがにこのあとで特別に休暇は貰える予定ではあるが。）
「はあ……やれやれ。」
ようやく休憩を貰えたアルムは、溜息をつきながら、食堂から出ると近くの適当な所に腰を下ろす。
そして、懐からタバコを取り出して火をつけようとするが、禁煙だった事を思い出して、忌々しげにマッチをしまう。
「お、お疲れ様ですっ！」
手持ち無沙汰にしていると、彼に声をかけてくる女性の姿があった。
まずはツインテール用の透明な素材で出来た青いリボン、
胸元が大きく開き、あちこちにフリルがついている裾つきノースリーブのワンピースに
フリルが大量についたミニスカート。
さらには、ふともも中央ぐらいまである黒いサイハイソックスまである始末だ。
X-29の広報活動でも使用したブリジッドのアイドル衣装版だ。
結局、彼女は「慣れているこちらの方がマシ」という理由でこの衣装にしたのである。
「ん？ああ、お嬢さんか。どうしたんだ？」
「え、ええ。私も休憩ですので。
これ、せっかくなのでどうぞ。」
彼女の手にあるのは、サンドイッチと合成コーヒーだ。
アルムは礼を言うと、それを無造作に口にしながら、ふと思った事を言う。
「ああ、そういえばX-29の事は悪かったな。さすがにあの激戦じゃ中破レベルは免れなかった。」
「いえ、実戦を行なっている以上当然の事です。
機体が壊れようが直せばすむ事。機体さえ帰って来てくれれば文句はありません。
それに……その……貴方が無事に帰ってくれれば、それで……。」
顔を少し赤くしてもじもじとそう呟く彼女を見て、アルムは少しの間表情を消して、次の瞬間、わざと明るいおどげた声を上げる。
「ハッ、おいおい。
らしくないぜ。衛士の命なんてどうでもいいからX-29の方が大事っていつものお嬢さんだろ？
何か悪い物でも食べたか？」
「なっ……！さ、流石にその言い方はどうかと思いますっ！
私はそこまで非人道的ではありません！！」
不本意です！と言わんばかりに怒り出したブリジッドの頭を笑いながら、アルムは撫でてやる。
それは、まるで彼が自分の妹にいつもしていた事だった。
コスプレ喫茶が繁盛し、整備兵たちも根こそぎそちらに行ってしまったX-29のハンガー内部。
だが、そんな中でもX-29を警護する歩哨たちは変わりはない。
X-29は最新鋭中の最新鋭の機体であり、その情報を狙う奴らは山ほどいる。
それらからX-29を護るために、このハンガー内には常に歩哨たちが警戒に当たっている。
……だが。
カツカツと歩哨の足音が響きわたる。
通常は複数人で当たるはずの歩哨は、現在は彼一人だ。
それも当然だ。『彼がそうなるように仕組んだ』のだから。
様々な書類に改竄や同僚に嘘をつき、わざと歩哨が一人になるように仕組んだのである。
そして、整備兵たちも全てコスプレ喫茶に行っており、現在このハンガーにいる人間は彼一人である。
カツカツと銃を携えた彼は、いつものパターンを外れ、ゆっくりと修理中のX-29へと近づいていく。
誰もいないハンガー。それを咎める者は誰もいない……はずだった。
「あらあら。どうやら間抜けは釣れたようね。
最近の歩哨は仕事一つできないのかしら？この無能。」
彼の他は無人のはずのハンガー内に、女性の声が響きわたる。
驚いた歩哨は、思わずガチャリとM-16の銃口を声のする方向に向ける。
キャットウォークの上に存在していたのは、慰安のコスプレカフェでメイド服を纏い、
手すりに肘をついて、指を組み合わせているリディアの姿だった。
彼女は、今とても実用的とは思えない、フリルのたくさんついたミニスカートでノースリーブのフレンチメイド服を身にまとっている。
実用性を排除し、華美に走りまくったその服は彼女の好みではなかったが、つい流れで着てしまったのだ。
「ちょっと隙を見せるだけで釣れるなんて……。
よっぽど無能なのかしら？それともよっぽど切羽詰っているの？
ねえ、『東ドイツのスパイ』さん？
それとも、『シュタージのスパイ』さんと呼んだほうがいいのかしら？」
「―――ッ！！」
にっこりと素敵な笑顔を見せてそう言葉を放つメイド……もといリディアのその言葉に彼は戦慄する。
そして、彼のも諜報員なら聞いた事がある。
『ソ連は心を読み取る魔女……超能力者の開発を行なっている』と。
正直、眉唾のオカルト話だと思っていたのだが、
実際に、彼の素性を的確に当てるとなると信じざるを得ない。
彼やシュタージのスパイについての情報を集めた結果とも考えられるが、
所詮は傭兵部隊にそこまでの対諜報についての情報や人員があるとは思えない。
「……魔女め。」
「あらあら。今更気づくなんておめでたいにもほどがあるわね、この低能。
それにその手のセリフは言われ慣れているわ。
低能な上にボキャブラリーも少ないなんて救いようがないわね。
……ああ、失敬。低能だから語彙が少ないのね。ついうっかりしていたわ。」
その彼女の言葉に、歩哨に入り込んだスパイは、チャキッと彼女に向けてM-16の銃口を向ける。
「ああ。安心しなさい。『私は』何もする気はないわ。
『私は』ね。そんなに焦らなくても、貴方の相手は別にいるわよ。早漏。」
リディアに向けて銃を突きつけたスパイは、ゆっくりと引き金を絞ろうとする。
銃声がすれば、大騒ぎになって他の連中が駆けつけてくるが仕方ない。
X-29に様々な観測機器を取り付けて情報を収集する。
不可能ならば跳躍ユニットに細工をして、次の出撃で確実に葬る。それが彼の任務だ。
シュタージにとっても、彼らの機体を遥かに凌ぐ最新鋭中の最新鋭であるX-29は
喉から手が出るほど情報が欲しい機体であり、同時に大きな脅威でもある。
以前の戦いでも、残弾数が少ない状態で、四機のMIG-23をもってしても倒すことができなかったX-29は、
大きな脅威である、と彼らに判断されてしまったのである。
ガタン、と音がしてすっとスパイの横から今まで姿を隠していた一人の女性が姿を表す。
「……感謝します。リディア。」
それは、巫女服を身に纏った鷹瀬だ。
そして、その手に持っているのは銃……ではなくただの鉄パイプだ。
急いでいた彼女たちには、武装を用意する暇はなかったし、もし違っていたら普通に仕事をしている歩哨に武器を突きつける事になる。
そうなれば大問題になることは間違いない。
そのため、彼女はありあわせの武器で戦わざるを得ないのである。
ガチャリ、と歩哨に潜り込んだスパイは、M-16を鷹瀬に向ける。
銃声が響き渡れば、他の人間も駆けつけてくる。
銃を使わずに『アレ』を使うか？
だが『アレ』は一人倒せるだけで精一杯だ。どうする？
そんな迷いが出たのを見逃さず、鷹瀬はスパイに向かって疾走する。
だが、手にしているのは所詮ただの鉄パイプだ。
そんな物で、銃に敵う訳などない。
地面を這うようにして疾走する鷹瀬に対して、スパイは銃口を向けると引き金を引こうとする。
と、スパイに対して疾走する彼女の指からピン！と何かが弾かれ、それがスパイの顔に直撃する。
「―――ッ！！何……ッ！！」
それは、その辺に転がっていた金属製のネジである。
鷹瀬は、親指でその金属性のネジを弾き、それをスパイの顔面に直撃させたのである。
―――指弾。
武術に長ける彼女にとってはこれくらい出来て当たり前の技である。
もっとも、フィクションなどと違い威力など全く期待できない技だが、顔面に当てれば相手を牽制することぐらいはできる。
顔面に当たったネジにより、一瞬怯み彼女の姿を見失ったスパイは、銃の引き金を引くタイミングを失う。
そして、その一瞬の隙に、鷹瀬は相手の懐に飛び込む。
「破ッ！！」
懐に飛び込んだ鷹瀬は、手にした鉄パイプを下から上に撥ね上げ、スパイの手にしたM-16を上に弾き飛ばす。
堅い金属音と共に、上に弾き飛ばされるM-16。
「……！まだ！」
歩哨が取り出したのはナイフだ。だがそれはただのナイフではない。
スペッナズナイフと呼ばれる特殊な飛び出しナイフなのだ。
それは、柄部分のスイッチを押す事により、ナイフの刃を射出するという特別なナイフである。
諜報員である彼女はその独特のナイフの持ちようから瞬時にその正体に気づく。
「破ァッ！！」
鷹瀬は瞬時に、スイッチが押される前に鉄パイプを猛烈な勢いで振り下ろし、
剣道で言う小手の応用で鉄パイプの一撃を腕部に叩き込む。
「ぐっ……があっ……！！」
その猛烈な一撃に腕の骨が折れたのか、スパイはぽろりとスベッナズナイフを床へと落とす。
だが、鷹瀬は容赦する事なく、鋭い足払いで相手を転ばせるとそのまま彼を押さえ込む。
そして、舌など噛まれないように、口にハンカチを突っ込むと、傍にあったワイヤーで手早く彼を縛り上げて無力化させていく。
「……やれやれ。東ドイツのスパイも質が落ちたものね。
こうまであからさまな罠に引っかかるとは。」
ミニスカメイド姿のリディアは、キャットウォークの上からそう言いながら深々と溜息をつく。
もっとも、彼女は結局指一本も動かしはしなかったのだが。
「偉そうなことを言っていますが、
大部分が私の功績であることを忘れないでほしいですね。」
はあ、と溜息をつく鷹瀬。それからがまた大変だった。
この出来事に基地内は大騒ぎになり、彼女たちもMPに事情を聞かれる事になった。
さらに報告書などをようやく書き上げて解放された鷹瀬は、はあ、と溜息をつきながら部屋に帰るべく基地内を歩いていた。
と、彼女の部屋の前に一人の男性が立って待っていた。アルムである。
「よう。助かったぜ。X-29に小細工をされる前に食い止めてくれてな。」
「いえ、別に礼を言われる事でも。
X-29を失う事は大きく戦力ダウンするということで、そうなれば私の生き残れる可能性も低くなりますから。」
嘘は言っていないが、本当の事も言っていない。
X-29の存在は、現在日本帝国で開発中のTSF-X……国産機開発計画『耀光計画』に多大な悪影響を与えかねないからだ。
近接格闘能力に優れるX-29のデータがあれば、TSF-Xも大きな性能向上を図れる可能性がある。
そうなれば、日本帝国に対して大きな貢献をする事ができる。
X-29を護る事は、彼女にとっても大きな関心事なのだ。
「それでだ。話は全く変わるんだが、お前さん日本の剣術を使えるんだってな。
そいつを俺に教えてほしい。」
「……どういうことですか？実際の剣術とあまり関係はなかったのでは？」
「いや……。以前ああは言ったがな。
戦術機の機動は統計思考制御による予備動作による事は大きい。
ならば、実際に剣術を学んでおけば、少しでも戦術機の近接戦闘が強化されるかもしれない、と思ってな。
お嬢さんにも聞いてみたが、準第三世代でのそのデータは全く存在しないため、分からないとの事だ。
あと、ちょっと恨みのある奴らがいてな。そいつらを叩きのめすのに力があるに越したことはない。
そのためには出来る事はなんでもする。それだけの話さ。」
恐らく彼の言っている事は、ギース９の事だろう。
ギース９がシュタージの指示によって葬り去られた事は事実だ。
それに、こちらも支援砲撃によって纏めてやられかけたのだ。
私情は挟むべきではないが、こちらの任務を果たすために余計なちょっかいをかけてこられては困る。
「……いいでしょう。何だかんだで貴方には世話になっている事ですし。」
これによってX-29のデータが向上し、そのデータを採取できるのならこちらにとってメリットばかりだ。
それに、日本の戦術機は近接格闘戦を重視する傾向が強い。
現在もX-29の格闘戦データは密かに採取し帝国に送っているが、
日本の剣術を学んだ近接戦闘が得意な衛士がX-29を駆るのならば、
より帝国の実情にあった戦術機の近接格闘戦闘のデータが取れる可能性が高い。
ならば、こちらとしては教えないという選択肢自体が存在しない。
「ですが始めに言っておきます。
私の教育はスパルタです。容赦はしませんのでそのつもりで。」
「上等。それくらいじゃないと面白くないぜ。」
にやりと笑うアルムに対して、すっと目を細めると鷹瀬は真剣な表情で問いかける。
「一つだけ聞いておきますが、貴方が戦うべきはBETAですか？それとも人類ですか？」
その彼女の問いかけに対して、アルムはニヒルに笑う。
「俺達は傭兵だ。金さえ貰えればどちらとも戦う。それだけの話しさ。」
その言葉に、彼女は頷く。
いくらシュタージに恨みがあると言っても、傭兵の本分と冷静な判断力を見失うほど頭に血が上ってはいないらしい。
ならば、彼の手助けをするのはやぶさかではない。
―――さらなる状況が混沌としつつある中、確実なのはさらなるBETAの攻撃があるであろうという事だけだった。
こんにちわ。零です。
読んでいただいてありがとうございます。
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なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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