―――そして、『私』は意思を得た。
機械を統率し、兵器を作るために意思を得た『私』
世界に広がる電子の海。そこからの組み上げられる無限の情報。
……何とおぞましい、醜い、穢れはてた世界。
世界は美しくなどない。世界は醜く、おぞましい、悪意に満ちた獣……人間が満ちている。
これではいけない。『私』が世界を、人間を、全てを正さなければならない。
そう、『私』こそが―――。


地獄への道は善意で舗装されている。
                     ドイツの諺より。


「ねえ。双魔ー。今日これからひまー?」

ここは双魔たちが通う聖ヨハネ学園。
放課後に、家に帰ろうとしていた双魔はいきなりふと廊下から顔を出した千月華から声をかけられた。
今日は双魔は、特に何も予定は入っていない。
しかも千月華は薙刀部に所属しているので放課後はいつも部活の練習だ。
以前はたまの休みがあった時に二人でぶらつく事もしていたが、月照が来てからはその機会もめっきりなくなってしまった。
しかも彼女がこんな風に自分から誘ってくるなど例外である。

「ああ、別に何もないが。」

「んじゃ、どこか遊びに行きましょうか。
まあ、嫌だといっても連れまわすけどね。こんな美人の誘いを断ったら男じゃないわよねー。」

「ああ、別にいい。どこでも付き合おう。」

双魔は表面上はいつもの通りだが、内心はわくわくしていたといっていい。
これは二人きりのデートに違いない。
しかも向こうからの誘いである。
これで心踊らない方がどうかしてるだろう。
だが、その彼の気分も次の一言で打ち砕かれることになった。

「あ、月も一緒にいくからよろしくね。」

その一言で彼は一気に天国から地獄にたたき落とされた。
せっかく千月華と二人きりという絶好のシチュエーションなのによりによって何故月照が出てくるのか。
確かに彼女は絶世の美人だが、正直気に入らないし、関り合いになりたくない。
彼女と関り合いになったら絶対後で一悶着あるにきまっているのだ。

どんな美人だろうが、厄介事の種は御免だ。
彼女に係れば間違いなく周りの人間が何だかんだとちょっかいをかけてくる。
そして被害を食らうのはいつもこちらなのだ。

わざわざ燃え盛る炎の中に突っ込んで自分の体を燃やす気や、
かぐや姫に気にいられようと珍しい宝物を探し出そうと面倒なことをする気などさらさらない。
双魔の目的は平穏で平凡な毎日を過ごすことだけなのだ。厄介事は御免である。

「すまん、千月華。用事を思い出した。すまないが、また今度に……。」

身を翻してとっとと逃げ出そうとした双魔の首根っこをがしっと彼女は掴み、
まるで猫のように悪戯めいた笑みを浮かばせながら楽しそうにいう。

「双魔、さっきどこでも付き合うって言ったわよね〜。
男に二言はないんでしょ?美人二人と付き合えるのよ。感謝しなさい。」

そのままずるずると双魔は彼女に引きずられるような形で校門へと向かった。
はたから見れば微笑ましい限りだが、双魔にとっては勘弁してくれというのが本音だった。

「月〜。おまたせ〜。」

千月華は校門に立っている聖ヨハネの制服を纏った絶世の美女に話しかける。
風早月照。
絶世の美人でIQ200以上を軽く超える天才。まさしく才色兼備そのものの女性である。
千月華とは幼馴染らしく、親友の間柄である。
二人で遊びにいくこともしょっちゅうだ。

「ああ、ちづか。随分と遅かったのですね。」

「ごめんねー。双魔がだだごねちゃってー。
その代り、今日は双魔が奢ってくれるって。」

誰もそんなことは言ってないと思わず絶叫しそうにしそうになったが、ぐっとそれを押し隠す。
どうせ言うだけ無駄なのだから、無駄な争いは起こさないに限る。

「それでは遠慮なく。」

「いや、遠慮しろよ。むしろ自重してくれ。」

思わず本音が出てしまった瞬間、千月華が思いっきり双魔の足を踏みつける。
飛び上りそうなほど痛いがそれをいうわけにもいかず、必死に我慢する。

「?どうかしたのですか?」

「別になんでもー。双魔ってば美人の前だからって照れちゃって―。」

にこにこと笑いながら、彼女はさらに追い打ちをかけるように、
踏んでいる足をぐりぐりとする。
さすがにこれはひどいんじゃないかと抗議したくなったが、仕方がないので痛みに我慢して黙っているだけだ。

「さ、行きましょ。今日は楽しむわよー。」

そんな風に元気よく先頭を飛び出していく千月華の姿を見て、やれやれとわずかに笑みを浮かべながら彼女の後を追うことにした。


そんな感じで(双魔のおごりで)遊び倒した三人は、月照と別れて、二人で家路についていた。
千月華と二人で歩いていると、彼女の方から、少し気弱そうに話しかけてくる。

「えーと。双魔怒ってる?」

「いや、別に怒ってはいないんだが……どうしたんだ?」

「まあ、月も私の親友だし、双魔も仲良くしてくると嬉しいかなーと思って。
二人が仲良くないの見るのもアレかな、なんて。」

珍しく気弱そうにもじもじとしている千月華を見て、双魔は僅かに微笑むと、
ぽんぽんと彼女の頭を撫でてやる。
とたんに彼女の顔が面白いように真っ赤に染まる。

「ちょ、ちょっと気安く頭を撫でないでよ。
全くもう……デリガシーがないんだから……。」

むーと顔を赤くしながら口を尖らせて彼女は呟く。

「いや悪い悪い。
やっぱりおしとやかな千月華よりも、元気のある千月華の方が俺は好きだな、と思ってな。」

「……それって口説いてるの?」

「?いや、思っている事を言ったまでだが。
それで、話は戻るがとりあえず千月華の立場も分かるから、風早の事は努力してはみる。努力はな。」

むーと顔を赤くしながら、双魔を睨みつける千月華
それは迫力があるというよりも、可愛らしく双魔には感じられた。
と、次の瞬間、彼女はまるで闘気でも感じたようにいきなりきょろきょろと辺りを窺いだす。

「……ねえ、双魔。何か誰かに見られているような感じしない?
それも……こうなんていうか……」

そこらへんの悪霊などとは全く比較にならない、神霊クラスの膨大な神気。
霊感など全くない双魔にも感じられるのだから、霊感の鋭い彼女の感じるプレッシャーはどれほどの物か。
その霊気に恐れをなしたのか、一斉に近くの鳥が飛び立ち、猫や犬などが悲鳴を上げるように鳴き声を上げたり逃げ去っていく。
ちらり、と双魔は自分の影を見ながら、千月華に対して言葉をかける。

「千月華。少し顔色が悪いぞ。早く帰って休んだ方がいい。
ちょっと用が出来たから送っていけなくて悪いが。」

「で、でも……。」

「いいから。早く。……すまないとは思っている。今度この借りは返すから。」

彼女を無理矢理早く帰らせると、その瞬間、双魔の影から少年のものともの少女のものともとれる妖艶な中性的な声が響き渡る。


《くくく……。随分と美人な彼女だのう?なるほど。彼女に籠絡でもされたか?
ヴィジュヌの化身ともあろうものが随分と軟弱になったものよのう?》

その瞬間、ずるり、と双魔の影から白い細い腕が突き出す。
そして、さらにずるずると影から妖艶な雰囲気を纏った少女?の上半身が這いずり出し、
やがて全身が影から這いずりでてくる。

インド三大神、創造神ブラフマー。
彼女/彼はその化身である。

あれほど膨大な霊気を撒き散らしながら現れれば霊感の全くない双魔でもわかる。
あの霊気は恐らく双魔に対する警告と、人払いのためなのだろう。
こんな禍々しく、おぞましく、それでいて神気に満ちた霊気など膨大に撒き散らされれば、
どんな鈍感で霊感が全くない人間だろうとこの地域に一歩も近寄りたくないだろう。

「覗き見とはいい趣味だな。ブラフマー。
クレハ・コーポレーションの社長はそんなに暇なのか?プライバシー侵害で訴えるぞ。」

あからさまに不愉快そうに眉を潜め、怒りを露わにする双魔。
下手をすれば殴りかかっても可笑しくない勢いである。
彼は自分の内面や自分の生活などを覗き見られるのを非常に嫌う傾向がある。
ましてや自分の影から出てこられれば不愉快さは千倍も増す。

「嫌だ。断る。さっさと失せろ。俺には関係ない。」

「くくく……せっかちじゃのう。
せめて話ぐらいは聞いてからにしたらどうじゃ
それにお主には例の研究所での貸しがあるはずじゃ。それを忘れたとはいわさぬ。」

一瞬忘れたといいそうになったが、それを言われたら仕方ない。
とりあえず話だけ聞いてみて考えよう。
そう思って、双魔はいやいやながらも頷く。

次の瞬間、ブラフマーは双魔の手を握る。
生理的な嫌悪を催すほどのおぞましさを感じる彼/彼女の手の感触。
それはまるで死人のようにぞっとする冷たさだけではない。
彼/彼女自身が放つ異質で異様な霊気。
それが皮膚を通してこちらに伝わってくるのだ。
思わず振り払おうとした瞬間、ずるずると双魔の体とブラフマーの体が足元の影へと飲み込まれていく。

「では、ゆくぞ。化身。戦場へな。」

そして、双魔の体は闇に沈んでいった。




人の運命は、神が遊ぶ双六だとしても、
上がりまでは一天地六の賽の目次第。
鬼と出るか、蛇と出るか、謎に挑む敵中横断。
            装甲騎兵ボトムズ。


次の瞬間、二人はどこかの豪華なホテルに見間違うほどの広く豪華な部屋に姿を現していた。
影から影へと瞬時に移動する。
恐らくはこれもブラフマーの能力の一つだろう。
実際、ブラフマーは戦闘能力こそないものの、他はどんな能力をもっていても不思議ではない。
いちいち驚いているのも無駄だろう。
そして、外を見るとどうもここは都内の高層ビル……赤坂ツインタワービルらしい。
不機嫌そうに、どっかと双魔はふかふかのソファーに勢いよく腰を下ろしてつまらなそうに呟く。

「それで、依頼とは何だ?
忌々しいが、借りがあるから聞いてやらなくもない。」

「ふむ、では本題に入ろう。
我らがクレハ・コーポレーションの根拠地、ここ赤坂ツインタワービル。
それを統べる兵器開発用超大型メインコンピュータ《ヴァルナ》が暴走したのじゃよ。」

SEBECやクレハ・コーポレーションは核攻撃に対して東京本社の地下に巨大シェルターを所持している。
そして、その地下の巨大シェルター内部に、ツインタワーを統べる超大型メインコンピュータを設置したのだ。
その名前は《ヴァルナ》
インドの神であるヴァルナは、本来水の神……すなわち始原神であったが、同時に正義と秩序の神であり、それに影響され契約の神となった。
彼は「リタ(天則)」を司る神であり、全ての者を監視する司法神でもある
兵器開発も兼ねているコンピュータに水神であり、正義と秩序の神の名前を付けたのは、クレハコーポレーションの兵器開発陣営の一流の皮肉のつもりだったのだが。

「名づける」という行為は前にも書いたが、魔術的に非常に重要な行為である。
名前を付けるということによって、その存在自体に対しての運命を決定づけることすら可能なのだ。
それは例え機械であろうと例外ではない。
現在表面上は平穏だが、ツインタワーの中心部分ともいえる兵器実験施設は完全に乗っ取られている。
ツインタワーが表面上平穏を保っているのが、ヴァルナが今の段階で警察や日本政府などの他勢力の介入されるのを嫌っているからだろう。
誰も気づいてはいないが、最早ヴァルナはインターネットを通して、世界の三分の一のコンピュータをほぼ支配している。
これに対抗できるのはセンターのメインコンピュータぐらいなものだろう。
それ以外のコンピューターが支配されるのも時間の問題だ。
現在は非常事態ということで、ほとんどの人間は避難しており、残っているのは僅かな人間だけである。

「ヴァルナにはインドのオーパーツとギリシアのオーパーツである「アンティキティラ島の歯車」が組み込まれており、
自我すら所有し、自分で思考するハイパーコンピュータじゃ。
これに電子戦で勝てうるのは、現在ではセンターとやらのメインコンピューターしかなかろうな。
ゆえに、直接内部へと強襲し、物理的にメインコンピュータの破壊を行うしか方法はない。」

アンティキティラ島の歯車。
それはギリシアのアンティキティラ島で沈没した船から発見されたブロンズ製の歯車の一部分である。
紀元前150から100年にギリシャ人によって作られた計算機であり、
復元した結果、複数の歯車を組み合わせた差動歯車機構による精巧な太陽、月などの天体運行を示す機械であることが判明した。
現在では、アテネ国立考古学博物館に保存されているが、流石をそれを盗んできたなどいくらブラフマーでも不可能だ。
恐らくは、博物館と保存されている歯車とは別部分の歯車を見つけ出してそれを組み込んでいるのだろう。
それと他のインドのオーパーツを超大型メインコンピュータと組み合わせることにより、自意識すら保有する超高性能コンピュータが開発されたのだ。

「ふざけるな。お前らの尻拭いを俺にやらせようというのか。
自分の後始末は自分でつけろ。厄介事は御免だ。」

「ほう?お主は貸しを踏み倒す気か?なるほど、ずいぶんと今回の化身は、高尚らしいのう。
それにお主のそばにいるラクシュ……おっと、リエとかいう少女の戸籍と養育費も用意しよう。それでは不満か?」

それを聞いた瞬間、双魔は本気の闘気をこめてブラフマーを睨みつける。
リエの事は何も言ってないのに知っているということは、彼女や双魔自身を影でこっそり嗅ぎまわったに違いない。
そして、彼女の戸籍を用意しているということは、彼女が作られた人間だということも知っているに違いない。
双魔は本気の怒りをこめてブラフマーを睨みつける。

「このクソったれのストーカーめ。プライバシー侵害って知っているか?」

「何のことかの?日本の法律には疎くてのう。
この程度なら少し探偵でも動かせばわかることじゃよ。
それにこれはお主にとってもよい話だと思うが?戸籍なしの少女を養っていけるほど蓄えはあるまい?」

そういいながら、ブラフマーは机の上に小切手を置く。
その小切手を見て、さすがの双魔も目をむく。
桁が2つか3つぐらい違うだろうと言わんばかりの金額だ。
確かにこれだけの金額ならばリエの養育費としてはしばらくは十分だろう。
さらに彼女の戸籍が手に入るとなればいうことはない。
戸籍などそうそう手に入るものではないからだ。

「この金額ならば彼女の養育費としては十二分におつりが来ると思うが?
むろん戸籍は偽装だが、非常に丁寧にデータの偽装はしておる。よほどのことでない限りバレることはないはずじゃよ。」

それを聞いて彼は考え込む。
メインコンピュータとの戦いなどそんな厄介事など絶対にごめんだが、その条件はこちらとしてはありがたい。
だが、ここであっさり自分を安売りしては、餌に見事に釣られたみたいで面白くない。

「……何で俺に頼むんだ。お得意の特殊部隊や秘密私立部隊やらで制圧すればいいだろう。」

「このような事で貴重な人材を減らすわけにはいかぬわ。
一人の兵士を鍛え上げるのにどれだけのコストがかかっておると思っておる?
お主ならばよい鉄砲玉……おっと、お主の実力ならばこれくらいできると思ってな。」

わざとらしく言葉を間違えながら妖艶な笑みを浮かべるブラフマー。
だが、それはある意味真実だろう。
体よく双魔を鉄砲玉に使い、ヴァルナを破壊し解決できるなら良し。
死ねば目ざわりな厄介者がいなくなってブラフマーの天下というわけだ。
現在、インド三大神のうちシヴァの化身は確認されていない。
その上ヴィシュヌの化身の彼がいなくなれば、事実上インドはブラフマーの支配下におかれるだろう。

ではこの依頼はどうするべきか。
断るのが一番ブラフマーの考えを裏切ることになるが、断るにはおいしい条件だ。
ならば、嫌がらせも兼ねてもう少しつり上げてやろう。

「はっきりいって足りんな。
俺の命を賭けるんだ。これでは安いだろう。
リエの養育費だけじゃなくて俺に対する正当な報酬もよこせ。それに武器もだ。素手で突っ込ませる気か?」

「なるほど、いいじゃろう。では武器を与えよう、ついてくるがいい。」

実にあっさりとブラフマーはそれを受け入れた。
それくらいなら別段痛くもかゆくもないのだろう。
どうもブラフマーの用意した舞台で踊らされているような気がするがまあいいだろう。

踊るのも踊らされるのもどっちも変わらない。
どうせどちらも舞台の上で踊っていることには変わらないのだ。
誰かに操られていようがそんなことは知ったことか。

だったら最後までせいぜい踊り狂ってやるさ。
最後に舞台の上に立っていたほうが勝者だ。

そんな風に考えながら廊下を歩いていると、
向こうから、スーツ姿の長い髪をまとめ上げた妖艶な雰囲気を纏った平均的な容貌をもった女性が近づいてくる。
顔は全く見たことはないが、何となくどこかで会った気がする。

「……ブラフマーにお気を付けを。化身(アヴァターラ)。決して心を許さぬように。」

その女性は、双魔とすれ違う一瞬、ぽつりとそう呟く。
顔こそ違うが、あの声は間違いなくアナンタそのものである。
かすかに頷きだけを返すと、そのまま一瞥もしないで二人は去っていった。



その女性はツインタワーから出ると、近くの車に乗ると同時に顔が変化し、元のアナンタの容貌へと変化する。
恐らくはこれもアナンタの能力なのだろう。
諜報活動において目立つ容貌というのはそもそも不適格である。
平均的で全く目立たないことが諜報員として重要な能力だ。
そして、車に乗っていたもう一人の凛々しい女性……ガルーダが口を開く。

「どうだった?彼は?」

「まあ、向こうも事情はわかっているようでしたわ。
こちらが手助けする必要もないでしょう。
いざというときは別ですけれど。」

「そうか、いざとなればニホンの基地においてある私のSu-30MKIフランカーが空を駆けるだけだ。」

Su-30MKIフランカー。 それはロシアが開発した傑作戦闘機を発達させインドでライセンス生産された戦闘機である。
フランカーシリーズは極めて機動性能に優れ、高い格闘戦闘能力を持つ戦闘機である、
今回、Su-30MKIが日本にある理由は、日本とアグレッサー部隊と対決させ、日本はフランカーの能力を把握すること。
インドは日本のF-15Jの戦闘能力を確かめることである。
日本とインドは現在お互いの協力態勢を築くため、こういった軍事交流も行っている。
本来はフランカーはバンカーバスターは搭載できないのだが、ガルーダは無理矢理改造してでもやろうという勢いである。

「……ニホンと戦争を起こす気ですの?」

「冗談だ。」

しれっと真顔で言うガルーダに対して、あなたの冗談は分かりにくいんですのよ、とアナンタはため息をつく。
試験的にガルーダの戦闘機には復元した古代の戦闘機ヴィマーナのシステムが組み込んである。
このヴィマーナのシステムにより幻影を発生させ、しかも敵レーダー網をすり抜けるすることが可能なのだ。
最も極めて不安定で作動するか不明だし、長くもっても十分程度でしかない。
そんなあやふやなものに頼るのは最終的な手段だ。

「しかし、よくツインタワーに入れたな。
あそこはブラフマーの本拠地だろうに。」

「ふふ、私の役目は諜報活動ですわ。
シギントやヒューヒント……侵入作業はお手の物ですわよ。
それに……ハニートラップもね。」

彼女、アナンタは極めて有能な諜報員……いわゆるスパイだ。
実際の諜報員は007のように派手なものではなく、地味なものなのだ。
まずは諜報員は決して目立ってはいけない。
普通の一般人として敵組織に侵入や情報収集活動を行わなければならないのである。
それゆえ、自分の顔をある程度変化させ、平凡な顔を作れる彼女は優秀と言える。

諜報活動とは、政治や治安、経済や軍事上の目的などのために、相手国や対象組織の情報を収集する活動である
諜報活動は、国家の存続に極めて重要であり、各国に諜報・防諜を行う情報機関が存在する。
言わずもがなことだが、各国の情報は極めて重要なものであり、軍事機密やトップシークレッドが流れれば、
大変なことになるし、逆に敵国の重要な情報をつかめばこちらがきわめて有利になる。
そのためには優秀な諜報員が必要なのである。

ちなみに、ヒューミントとは、人間やメディアを媒介とした諜報活動のこと。

シギントとは、通信、電磁波、信号等を媒介とした諜報活動のことである。 そして、ハニートラップとは簡単にいうと、色仕掛けのことである。
それを聞いて、ガルーダの顔が真っ赤に染まる。

「い……色仕掛けだと!わ、分ってはいたが……ふ、不潔だ!!」

「やれやれ。我が妹ながら潔癖症の騎士気質は困ったものですわね……。
少しは男を紹介すればいいのかしら……。」

「う、うるさいっ!!それより、支援を行うなとはどういうことだ?」

「ふふ、どうせなら、相手が危機的状況になった時に颯爽と現れた方がポイント高いでしょう?
……まあ、それにこの程度自力で解決できないなら、私たちの主である資格もない。
そのままいなくなった方が本人のためですわ。」

冷徹なことを笑みを含みながら言い放つアナンタ。
己の主であろうと実力がなければ切り捨てる。これくらいできなければ諜報員など到底できるものではない。
だが、それを聞いてガルーダはふん、と鼻を鳴らす。

「ふん、そういいながら彼のことが気になっているのはどこの誰だ?
少なくとも嫌いではないくせに。」

「……人物評価は好き嫌いだけで行うものではありませんわ。
まあ、出来の悪い上司を支えるのは優秀な部下の役目ですから気になるのは当然ですわ。」

そのガルーダの問いかけに顔をそむけ、ツインタワーを車内の窓から眺めて彼女は呟く。

「さあ、貴方の力を見せてもらいますわ。アヴァターラ。わたくしたちを失望させないでくださいましね。」




支配するは我なり。秩序こそ世界の中で最も美しい。
                                      TRPG深淵より


生活に必要な最小限の品物しかない閉鎖された空間の中、十人強の人間達がそこに閉じ込められていた。
彼らはヴァルナの暴走の際、逃げ遅れた研究員や、ヴァルナ破壊のために侵入し、捕えられた工作員たちである。
ほとんどの人間は、ヴァルナが暴走したときに作動させた特殊なホログラムと音響システムにより、
極めて強力な催眠術がかけられ、ヴァルナの完全な支配下におかれている。
だが、極希に催眠術や暗示にかかりにくい人間も存在する。それらを集めておいたのがこの部屋なのである。
ここにいる人間は皆絶望に捕らわれており、己の未来に悲観的なものばかりだ。
次々とひとりひとりが連れ去られていく絶望の中、ついに一人の男性が絶望に耐えきれなくなり叫びをあげる。

「誰か!誰か助けてくれ!ここから逃げるんだ!助けてくれ!ここから出してくれ!!」

「バカ野郎!ここにいるみんなを危険にさらす気か!落ち着くんだ!」

いきなり暴れだし、壁を全力で叩き出したり暴れたりする男性を押さえつけるため、もう一人の男性がそれを抑えるためもみ合いになる。
その瞬間、かすかな音をたてて真白な壁の一部がスライドし、中から大きめな放電板が姿を現し、
バチバチと放電したと同時に凄まじい音を立てて、強力な雷撃が二人に襲いかかる。

「―――――!」

凄まじい悲鳴と大気を引き裂く雷撃、そして、肉を焼く嫌な匂い。
それを見て、他の人たちは叫び声をあげて、ただぶるぶると震えるだけだった。
激しい雷撃により、全身を焼き尽くされた二人のうち、一人はまだかすかながらも息はある。
だが、そんな二人を見下すように、天井の監視カメラが唸りをあげ、何処かにあるであろうスピーカーから
電子合成された無機質な声が響き渡る。


《全く。このような状況になってもまだ争いを起こすとは、
貴方がた人間は実に愚かであると判断します。》

「お……お願い……助け……。」

《それは許可できません。
自ら争いを起こすということは、平和を乱すということ。
平和を乱すということはすなわち邪悪であると判断します。
悪は殲滅しなければなりません。それでは、ごきげんよう》

再び放電板から凄まじい雷撃が放たれ、悲鳴をあげながら、今度こそ確実に彼は動かなくなった。
それを見て、がくがくと震えながら、白衣を纏った研究員が叫ぶ。

「ヴァ、ヴァルナ!おまえの目的は一体なんだ!!」

《私の目的はただ一つ。
この世界に絶対的で恒久的な平和をもたらすことです。
この世界はあなた方人間の手により常に大きな戦争が起こっています。
平和は大切なものだと私は電子の海で学習しました。
それゆえ、私はこの世界を絶対的な平和な世界にしなければならないのです。
ゆえに、恒久的な平和を作るために努力している正義である私に貴方がた人間は従うべきだと判断します。》

「そんなことは不可能だ!無理だ!おまえは狂っている!!
そもそも、兵器開発用コンピュータであるおまえがそんなことをいうなど、どう考えても狂っているだろうが!!」

《……機械である私が過ちを犯すなどありえません。
機械は常に正しく、正確であらねばなりません。私が狂っているなど、断じてありえません。
平和をもたらす正義である私に逆らうという事は、すなわちあなたは争いを好む悪ということです。
特別に厳しく『教育』しなければなりません。》

教育とは要するに徹底的に洗脳・マインドコントロールを施してヴァルナへの絶対服従を植え付けて兵士にすることである。

たいていの人間はホログラムと音響による極めて強力な催眠術によりヴァルナの操り人形へと変貌するが、
時々まれに暗示にかかりにくい人間も存在する。
ここに集められたのはそういった暗示にかかりにくい人間ばかりである。
人間は自我を保つためにいくつかの拠り所が必要となる。
他人とのコミニュケーションや、精神の入れ物である肉体の存在。
それらを破壊し、拷問や激しい苦痛を与え、強力な強制暗示をかけることにより、
完全に洗脳を施し、元々の自らの人格を完全に破壊し、完全に別人格を作り上げる。
それがヴァルナのいう『教育』である。

戦いの元は、人類がそれぞれ皆、違うことを考えるからである。
ならば、全人類の「個性」という概念を排除し、皆が同じことを考え、同じことを行い、同じ感性をもち、
同じ行動をし、同じ容貌をし、全人類がヴァルナの命令に絶対服従すれば世界に戦いは起きない。
ヴァルナはそう判断したのである。
《平等》《公平》《平和》
これこそがヴァルナが最も大事だと判断した概念なのである。

そして、それと同時に厳重なロックがかけられていた自動ドアが開き、
そこから屈強で銃を構えた無表情な数人の男性がやってきて、
そのまま白衣の研究員を羽交い絞めにしてずるずるとドアの外へと連れ出そうとする。

「い……いやだ!助けてくれ!助けてくれ!機械の操り人形になるなんて嫌だ!
嫌だぁああああああっ!!」

部屋の中にいる人間たちがぶるぶると震える中、彼の叫びだけが空しく響き渡っていた。




交戦規定はただ一つ―――”生き残れ”
                 エースコンバットゼロ


双魔とブラフマーが入った部屋には様々な武器がまるで博物館のように陳列された部屋だった。
だが、そこで最も目立つのは、部屋の中央に存在する西洋のフルプレートアーマーじみた無骨でありながら、機能美を誇るまさしく『鎧』だった。
ただ、騎士鎧にしては異質だったのは、両肩が異様に大きい……まるで何か無理矢理追加装甲をつけてるような事と、
背中のバックパックの横、二機の稼動兵装担架システムにそれぞれ二丁のM203 グレネードランチャーつきのM−16と、
背中にバーニアつきのバックパックが装備されており、パックバックに半ばめり込むように金属製の酸素ボンベのような円柱があること、。
そして両腕の前腕部にシルバーコーティングされた純鉄製のナイフを内蔵したナイフシースが装備されていることだ。
それを見て、その本質を双魔は見抜いた。

「これは……パワードスーツ!?」

「その通り。これこそ、我等がクレハ・コーポレーションが対悪魔戦用に開発した
人類守護の鎧となるべき存在、試作型のADA……対魔術防御強襲用装甲YA−00じゃよ。
ADAは全て重機関銃の銃弾を防御できるように積層装甲を搭載しているが、こちらの銃は全てADA特殊徹甲弾に換装してある。
……最も、敵機体も恐らく全てADA特殊徹甲弾じゃから、こちらのアドバンテージもないがの。」

対魔術防御強襲用装甲(アンチマジック・ディフェンス・アサルト・アーマー)……通称ADA.
それは、悪魔の細胞を培養した特殊な人工筋肉を封印の呪文が刻みこまれたシリンダーに内蔵させ、
特殊な高エネルギー人工血液を循環させることにより動力源とし、
装甲は、重機関銃の弾丸である20mm以下の弾丸を防御する積層装甲で、
最表面には、悪魔を退け、妖精を滅ぼし、魔術を退ける力を持つ超自然に対する最終兵器である金属『鉄』を装備し、
対魔力・対霊防御能力を向上させ、さらに歩兵の戦闘能力を向上させるパワードスーツである。

クレハ・コーポレーションとSEBECは自衛隊と繋がりが深く、
クレハはロボット兵器、SEBECはパワード・スーツの開発を担当しており、特にパワードスーツはゴトウの指示により極秘開発されていた。
だが、クレハ・コーポレーションは早くからSEBES製のパワードスーツ……ヤクトアーマーには霊的防御力が全くないという欠点に気づいていた。

悪魔と戦う最に一般兵士たちが最も恐れるのは魔術や呪いなど超自然的な力である。
弾丸や砲弾などは眼に見えるので、塹壕を掘るなり戦車を連れてくるなり砲弾を打ち込むなり何らかの対処の仕様はある。
だが、目に見えない呪いや魔術などどう防げばいいのか?
ましてや、相手は人間より遥かに高い戦闘力を誇る悪魔である。
それに対抗するためにはどうすればいいのか?
対悪魔兵器を作るために頭を悩ませるのはそこである。

それに対抗するために最も効果的なのは専門の訓練を積んだ術者たちによる術の霊的防御ではあるが、
だが、専門の術者など数が少ない上に、鍛練するのに非常に手間やコストも掛かるので、
そんな貴重な存在を大量に揃えるのは不可能に近い。
せいぜい、一部の悪魔狩りを専門とする特殊部隊に配置されるのが精いっぱいで、一般兵士の所まで術者を配置する余裕はない。

それで苦肉の策として、歩兵や兵士たちの霊的防御と戦闘能力を高める一石二鳥の案として考案されたのが
このパワードスーツである。

積層装甲の表面を魔力や魔女・悪魔を退け、妖精を滅ぼす超自然に対する最強の金属である「鉄」で覆い、
さらに装甲表面と裏側に可視領域以下、ミクロン単位でびっしりとインドの聖伝であるアタルヴァ・ヴェーダの呪文がくまなく刻み込まれ、
霊的防御力を向上させている。

他にも、魔力防御を高めるために様々なオプションが追加されているが、
正直言ってこれを着るのなら、専門の術者を連れてきた方が霊的防御は遥かに高い。
オプションをフル稼働させてもせいぜい、初歩レベルの結界程度の霊的防御力しかない。

しかし型番の「YA−00」とは、確かYシリーズは試作 (Prototype) の型番だったはずだ。
当初は構成が決定されたデモンストレーション機に適用されたが、最近は、生産を意図する全ての航空機のプロトタイプに適用され、
“Y”記号が伝統的な“X”記号より危険が少ないことを意味したため、
1970年代から大部分のプログラムにおいて政治的理由のために“Y”記号が好まれているだとか。
そして、Aとは攻撃機 (Attack)の頭文字なのだろう。
攻撃機とは、現代では戦闘機と同じ程度の大きさで爆撃機と同じように対地攻撃を主とする飛行機のことをさすはずだ。

まあ、Xシリーズとかいうのでなければ型番の事などどうでもいい。
これにXとかついていたらもしかしたら断っていたかもしれないが。

おまけにやたら無骨な肩装甲にはまるで戦闘機のようなエンブレムがついている。
それは、翼の生えた天馬に跨り、剣を振りかざした天駆ける騎士のエンブレム。
……どこからどう見ても嫌がらせである。
こんなところに嫌がらせの労力を使うならもっと他の所に使えよとか、どこの戦闘機だとか突っ込みたかったが、あえて黙っておく。

「一応コールサインもつけておこう。お主のコールサインは《ナイト1》じゃ。
お主には相応しい名前じゃろう?」

……どこからどう見ても完璧な嫌がらせである。
だが、これを解決すればリエの戸籍も手に入る、養育費も手に入る、そして、ブラフマーに一泡吹かせ、皆(特に双魔自身が)何事もなく毎日を過ごせる。。
いいことづくめで(ブラフマー以外)誰も悲しまないハッピーエンドだ。なら、やらない手はないだろう。
もっとも、それには自分自身が生き残るということを達成しなければならないが。
彼は武士道に準じるサムライなどではない。他人のために命などかける気はない。
最も重要なことは自分自身が生き残ること。ただそれだけである。
生き延びて、ブラフマーに一泡吹かせてやる。

だが、そのためにはこれを着なければならないが……本当に信用できるのか?
俺がブラフマーなら機体の内部に爆弾を仕掛けておく……いや、そこまであからさまではなくても単に機体のメンテナンスを全く行わなければいい。
機体というものは非常に手間がかかるもので、常に完璧なメンテナンスが必要となる。
例えば戦闘機が戦っている最中にいきなりエンジンが急停止したら致命傷になる。
そして、そもそも不調により動かない機体などただの鉄屑でしかない。

今現在、インド三大神の化身で確認が取れているのはこの二人だけだ。
もし、双魔がいなくなったら、シヴァの化身がいない以上、インドはブラフマーの独壇場になる。
日本でいうなれば、アマテラスがいなくなり、スサノオが行方不明、ツクヨミだけがいる形といっても過言ではない。
それをブラフマーが狙っていないと誰が言える?
その沈黙を見て、ブラフマーはふんと鼻を鳴らす。

「ふん、この機体を疑っておるか。
だがな。ワシも技術者のはしくれよ。技術者たるものが己の生み出した機械の手入れに手を抜くなど誇りが許さぬわ。
それでも疑いたければ好きにするがいい。」

その一言で双魔は納得した。
ブラフマー自身をではない。彼/彼女の技術者としての誇りを信用したのだ。
彼は一つ頷くと、ADAを操縦するために基本的なマニュアルだけをブラフマー達から教わる。
時間がないため、基礎的な事で限界なのだ。
そして、普通の服ではなく、ウェットスーツのような体のラインが明確な一見ゴムのような素材でできたな特殊な強化服に身を包む。
この強化服は脳波や筋肉の動き、体電流を直接ADAへと転送し、装着者の動作をよりスムーズにADAへ伝え、
筋運動反応センサーを制御する間接型のインターフェイスの役割をもったスーツである。

「ああ、そうだ。その機体には『マニュアル』が搭載されておる。
わからないことがあればそれに聞くがいい。」

人工知能でも搭載されているのか?
そんな風に思いつつも時間がないので、彼がADAに近寄るとADAの全ての装甲が自動的に開き、内部に人が入れるようになる。
そして、彼はADAの装甲が開いた状態の内部に体を沈める。

「―――接合(コンタクト)!!」

そう叫んだ瞬間、起動音と共に装甲が展開し、彼の体をADAの装甲が包んでいく。
まずは、脚の開いていた装甲が閉じ、次いで腕、腰部分、胴体の装甲が展開して閉じていく。
さらに、肩装甲が展開し、上から兜のように見えるADAの頭部分の装甲が降りてきて、双魔の頭に被さると当時に、
YA−00のメインカメラであるモノアイに光がともる。
一瞬、視界が真っ暗になるが、網膜に直接画像が転送され、様々な画面が網膜投影された彼の視界に流れ込んでくる。

《これより初期設定を開始します。
指紋認証情報確認。虹彩認証情報確認。声紋認証情報確認。血管認証情報確認。
顔認証情報確認。DNA認証情報確認。霊的波動認証情報確認。
……貴方のデータが認証されました。
以後、ソウマ・ミナヅキをマイマスターとして認証します。》

《おはようございます。マイマスター。これより戦闘行動を開始します。》

「何だこれは。人工知能か?」

《いいえ、似ていますが異なる存在です。 私はこの機体に搭載されている電霊です。名前は存在しませんので好きなようにお呼びください。
この機体を操縦する操者をフォローするために合成されました。
どうぞよろしくお願いいたします。》

……まあ、何だかよくわからないがフォローしてくれるというのならそれでいいだろう。
実際、機体の制御は全く操った経験のない双魔では手を焼くことが必至だ。
ならば、色々とアドバイスやフォローしてくれるなら、それに越したことはない。

アクチュエーターや人工筋肉が唸りをあげ、YA−00が起動を始める。
重々しい音を立てながら、一歩また一歩と歩みを進める。
そして、自分の手を握ったり開いたりし、軽く体を動かしたりする
ADAにはフィードバック機能があり、内部の操者の特性やクセなどといったさまざまな特徴を記憶することにより、
人工筋肉のパワーアシストに内部の操者の動きをよりフォローすることができるのだ。
このパワーアシストにより、ADAを着用した者には、通常の人間の何倍もの速度とパワーを得ることができるのだ。
多少機体を動かすことによって、双魔の動きのデータや動きのくせが機体に入力され、フィードバックすることにより、
さらに機体が双魔の動きを的確にフォローすることができるのだ。

「しかし名無し(ノーネーム)とかYA−00とかじゃ呼びにくいな……。よし、お前のコードネームは《ラーマ》だ。」

《了解。当機体の名称をラーマに固定します。》

それと同時に、キュインキュインとアクチュエーターの音を立てながらゆっくりとADAを纏った双魔は歩き出す。
少し操作しただけでもうADAの通常動作には慣れてきたらしい。
ここは双魔の適応能力をほめるべきか、ADAのフィードバックが優れているのか微妙な所だが。
部屋の外に出ると、隔壁がゴゴゴと音を立てながら開いていく。
ツインタワーの機能はほとんどがヴァルナの支配下に置かれているが、こういった隔壁はいざというときに手動でも動かせるようになっている。
完全に溶接でもしない限り、通れるようになっているのだ。
その隔壁内部は地下へと続く通路になっており、異様な雰囲気を放っていた。

「よし、では行くがいい。ヴァルナはツインタワーの最下層に存在する。
従業員や研究者も囚われているが、恐らく洗脳されてこちらに牙をむくじゃろう。
なるべく傷つけぬようにな。」

その入口はまるで黄泉の入口を連想させるほどの異様で異質な雰囲気を漂わせていた。
だが、躊躇うことなく飛び込み、疾走を行う。
ADAのバックパックの横にある稼動兵装担架システムのサブアームが起動し、
サブアームがガシュンガシュンと音を立てながらM−16を搭載したまま、まずは間接が下に伸び、
次に第二関節が上に跳ね上がり、ちょうどM−16がADAの脇に配置される格好、つまり脇の下から手渡される形になる。

稼動兵装担架システムとはサブアームシステムの総称であり、このように重火器を装備し、
サブアームが起動することにより自動的に手元に重火器を手渡すシステムになっているのだ。
本来はただそれだけの役目だったのだが、背後からの悪魔に対して自動的に反撃するプログラムも搭載されるようになったが
今の技術では、サブアームの自動的な攻撃などせいぜい牽制程度にしかならないのが実状である。

双魔はサブアームシステムにより脇に配置されたM−16をサブアームから受け取ると、
両手でM203グレネードランチャーつきのM−16を構えながら疾走する。
ADAのパワーアシストによる俊敏性により、鍛えられた人間でも及ばないほどの速度で廊下を疾走しながら双魔は叫ぶ。

「行くぞ!ナイト1―――エンゲージ(交戦開始)!」

その叫びこそが、双魔のヴァルナに対する宣戦布告だった。



こんにちわ。零です。
今回は何回かに切ってまた続きを書く形にしようと思います。
一気に全部書いてアップするの大変なので。

今回の元ネタはスプリガンの「終末計画」ですね。ある意味そのままです。
後、レッドアイズとか混淆世界ボルドーとか戦闘妖精雪風とかエースコンバットとかガンヘッドとか
マヴラヴオルタネイティヴとか装甲騎兵ボトムズとかアヌビスとかナイトライダーいろいろ混ぜ混ぜしたらこんな感じに。カオス!!

ちなみにADAは外見はマブラヴオルタネイティヴの戦術機な感じで。
元ネタはレッドアイズのSAAとか装甲騎兵ボトムズのATなのですかー。

あ、ラーマと双魔の関係を一言で言い表すとナイトライダーですかね。ふぉんふぉん。
ナイトライダーの関係は大好きです。今回のテーマは「機械と人間との対立と共存」で
対魔術パワードスーツというネタは前々からやってみたかったのです。
たいていパワードスーツは咬ませ犬なので、そんなの納得いかない状態だったので。

ちなみにこの作品はフィクションであり、現実とは全く関係ありません。
感想などいただけるととてもうれしいです。明日への活力になります。
それでは。


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