「古代の専制者は命じた。汝、するなかれと。
全体主義者は命じた。汝、すべしと。我々は命じる、汝、かくなり、と」
小説１９８４年。
慎重に広大な地下の通路を進んでいく双魔たちは、突然、広大な空間を持つ部屋に出くわす。
そこは地下とも思えないほど天井が極めて高い異質な部屋だった。
地下で何故ここまで広大な空間を作る必要があるのかさっぱり分からないが、実験など何かの理由があるのだろう。
そして、その理由らしき存在が、向こうの扉から姿を現すと同時に、双魔が入ってきた出入り口が封鎖され、ロックされる。
さらに黒く輝くその機体が入ってきたと同時にそちらの出入り口もロックされる。
つまり、ここは相手を倒さない限り出られない闘技場だということだ。
部屋に入ってきたのは二体のＡＤＡ。
だが、双魔のＡＤＡラーマと大きく異なる点は、腰部に二基の戦闘機のエンジンのような物体が存在することだ。
《ドール１、ドール２へ。
そのＡＤＡは私の理想社会の構築を否定する『敵』である。
絶対的な秩序を乱し、絶対的な平和を脅かす敵を殲滅せよ。》
「……ドール１、了解。」
「……ドール２、了解。」
空ろな声で返すドールと呼ばれる二機のＡＤＡ。
間違いなく、マインドコントロールによって強力な洗脳が施されているのだろう。
向こうが戦闘態勢に入ると同時に、こちらもＭ−１６を構え戦闘態勢に移行する。
《敵ＡＤＡの照合確認。
あの機体はＸＡ−０２試験飛行型ＡＤＡ『マツヤ・セカンド』であると判断します。
腰部に装備されている二基のヴァーユ・フライトユニットにより高速飛行が可能な機体です。
なお肩に装備されているのは……》
その瞬間、ドール１，２の腰部に存在するヴァーユ・フライトユニットがカン高い唸りを上げ、スラスターから猛烈な風が吹き出す。
あの独特のカン高い音はフライトユニット内部のマニ車機関が起動した音だ。
もしも霊力のある人間がその場にいるのなら、スラスターから噴出している風が神力を帯びていることが分かるだろう。
ヴァーユ神とはインドのディーヴァ神族における風神である。
そのヴァーユ神からマニ車機関を使用することにより力を借り、高速飛行可能なのがヴァーユ・フライトユニットである。
神力を帯びた風により、マツヤ・セカンドは上空に飛翔し、天井すれすれまで上昇する。
しかしいくら非常に広いとはいえ、密閉空間で飛行可能なマツヤを運用するとは危険極まりない。
だが、そんな危険よりも侵入者を排除することが先決であるとヴァルナは判断したのである。
「ドール１、フォックス１」
「ドール２、フォックス１」
ドール１、ドール２とコールサインで呼び合う二機は、双魔に対してレーダーロックを行うと、
肩のミサイルポッドから対戦車ミサイルであるＦＧＭ−１４８ジャベリンを合計四発発射する。
「室内でミサイルだと！？正気か！？」
《恐らくはＡＤＡ用の小型携帯用試作ミサイルと判断します。
エマージェンシー。対ミサイル防御プログラム発動。フレア・チャフの射出を行います。》
その瞬間、ラーマのやたらとごつい両肩の装甲パーツの一部がスライドし、無数の穴が出現する。
穴から凄まじい勢いでラーマの横に数発の炎の球とキラキラ光る金属片が射出される。
この肩装甲はただの装甲ではない。
これは、対ミサイル防御装置を射出するチャフ・フレアディスペンサー追加装甲なのである。
フレア・チャフとは、敵ミサイルを撹乱し、命中を回避するために空中へ放出する欺瞞装置である。
フレアとは、赤外線誘導ミサイルをおびき寄せるために、強力な赤外線源を発生させる装置である。
フレアはマグネシウムなど酸化しやすい金属粉末をベースに、航空機のエンジン排気口から放射されるのと同じ周波数帯の赤外線を出しながら燃焼するように作られている。
これにより敵の熱源によって追尾するミサイルは高熱を発するフレアの方に引き寄せられるのである。
それでもなお数発のミサイルがフレアに惑わされずに双魔へと突き進んでくるが、
それも空中にキラキラと光る金属片……チャフにより惑わされ、明後日の方向へと飛んでいき壁や床に突き刺さり爆発を起こす。
チャフを散布すると敵側レーダーの電波が乱反射されるため、自機の探知の妨害、レーダー誘導のミサイルの回避が可能になる
現在では滞空時間を重視しプラスチックのフィルムにアルミを蒸着させたものが主流となっている。
そして、チャフ・フレアの散布が終わったと同時に肩の追加装甲……チャフ・フレアディスペンサー追加装甲がロッキンクボルトにより強制的に切り離される。
《チャフ・フレアの残数０。敵ミサイルへの回避手段は存在しません。
次弾が来る前に敵機体の破壊を推奨します。》
「分かってる！ラーマ、射撃管制は任せたぞ！ナイト１、フォックス３！！」
双魔はカルティケーヤホイールを起動させ、キュイイイインというカン高い音を立てて高速で動き回りながら
空中を飛行するマツヤに対して手にしたＭ−１６を乱射する。
それに対して空中を飛翔するマツヤもＭ−１６で応戦する。
だが、ラーマは先ほどと比べかなり身軽になっているため、ホイールによる機動性や速度も向上している。
ラーマの射撃管制によって双魔が放ったＭ−１６の弾丸は狙い違わずドール２のヴァーユ・フライトユニットに叩き込まれる。
ＡＤＡ徹甲弾に換装されているＭ−１６の弾丸は、ヴァーユ・フライトユニットの装甲を貫き、内部のマニ車機関の動きを停止させる。
「ドール２、推力低下。高度維持不可能。墜落、墜落。」
片肺のフライトユニットが起動しなくなってはもはや空を飛ぶ事はできない。
バックパックのスラスターを吹かして降下速度を打ち消そうとするが、弾丸はバックパックにも命中しており、
スラスターを満足に吹かせる事もできず、かなりの速度でドール２は床へと墜落する。
ぴくりともしないが、まあ気絶しているだけだろう、と双魔は判断した。
「……ドール１、フォックス１。」
だが、ドール１は欠片も動揺することなく（マインドコントロールされているので当然だが）
飛行しながら再び双魔をロックオンすると、対戦車ミサイルジャベリンを二発発射する。
双魔はとっさにＭ−１６を乱射して弾幕を作る。
ドール１には避けられたが、そのうち数発が運よくジャベリンに命中し、一発目のジャベリンは空中で炸裂する。
だが、残りもう一発のジャベリンはロックオンされた双魔にむかって空中を突き進む。
「ラーマ！ホイール全力推進！急げ！」
《イエス。マイマスター。》
双魔はミサイルに背を向けるとカルティケーヤホイールとスラスターを全開にしてキュイイインとカン高い音を立てながら床を高速移動する。
「くぅううううううっ……！」
のしかかるＧに耐えながら高速で床を疾走する双魔の目の前にみるみるうちに壁が迫りくる。
「ラーマ！スラスター左停止！」
ラーマはそれに従い壁際ギリギリで左スラスターを停止し、右スラスターは吹かしたままにする。
必然的に機体は右スラスターの勢いで右側を向くことになる。
さらに双魔は前蹴りの要領でホイールを起動させたまま壁に向かって足を突き出す。
壁へと激突する寸前に、足を前に突き出すことによりギャリギャリギャリと嫌な音がして、右足裏のホイールが壁を削り、
そのまま無理矢理壁に激突する寸前に、進行方向を右に転換して、さらに壁沿いにホイールで疾走する。
ジャベリンはとっさの方向転換に対処しきれず、そのまま壁に突き刺さって炸裂する。
「くたばれっ！！」
そのまま壁沿いに疾走しながら、弾倉を交換し、フルオートでＭ−１６をドール１に連射する双魔。
ドール１もこちらにＭ−１６を乱射するが、こちらが高速移動を行っているためなかなか当たらないらしい。
と、こちらの弾丸がドール１の腕を貫き、同時にドール１の持っていたＭ−１６を叩き落す。
さらに同時に双魔はＭ−１６の下に備え付けのアンダーパネルグレネードランチャーから榴弾を発射する。
その榴弾をドール１は飛行して回避するが、回避された榴弾は天井に突き刺さり、炸裂する事により凄まじい勢いで破片を撒き散らす。
ほとんどの榴弾は破片効果を重視しているため、この破片はかなりの威力がある。
破片をまともにくらったドール１の精神集中は乱され、何とかスラスターを吹かしながら地面に不時着するが、
武装を失った今の状態ではまともに戦えまい。
そう判断した双魔は、注意を払いながらロックされた扉へと進む。
《マスター。ロックされた扉の横に緊急用の手動レバーが存在します。
それを引けば扉のロックは解除されます。》
それを聞いた双魔は手早くレバーを引くとそのまま開いた扉へと飛び込む。
閉鎖空間とはいえこれ以上空を飛行できる敵と相手にするのは御免こうむる。
同時にホイール駆動から主脚走行に切り替え、ラーマのウェポンラックから予備弾倉を取り出し、再びＭ−１６の弾倉を交換する。
だが、一息つく暇もなく、ラーマが何かに反応を示す。
《……マスター。フェーズドアレイレーダーに反応あり。
前方に敵悪魔反応。恐らく三体だと判断します。》
ラーマの頭部には人間でいうと額の部分と耳の部分に角が突き出しているようなフェーズドアレイレーダーやセンサーが装備されているが、
これは同時に鋭い刃を備えており、頭突きをすることにより斬撃武装にも早変わりする。
そのセンサー類が前方に敵悪魔が存在することを探知したのである。
恐らくは、他の場所から増援に来たのだろうが、その前にドール１，２を倒したので各個撃破するような形にあったのだろう。
そうしているうちに姿を現したのは、頭に機械とチップを埋め込まれた悪魔たちである。
ウェンティゴと呼ばれる悪魔に、ゾンビ化したゾンビドッグ、そしてオークと呼ばれる悪魔である。
ウェンディゴは北アメリカの存在していたエスキモーたちの間で伝えられる悪魔で毛皮に包まれた人間のような姿であり、
吹雪の中を歩き回り、人間をさらって食べてしまうと伝承では伝えられている。
また、オークは指輪物語などで有名となった豚と人間を組み合わせたような闇の生物である。
極めて凶暴で貪欲、そして醜い存在でありその凶暴さは人間たちに恐れられている。
《データ照合。警告、マスター。
あれは悪魔オーク、ゾンビドッグ、ウェンディゴであると判断します。
もっとも注意すべきはウェンディゴが吐く吹雪であると判断します。》
戦闘体制に入る双魔に対して、
彼らは全く別の悪魔にも関わらずまるで群れのような見事な連携プレーを見せながら双魔へと襲い掛かっていく。
恐らくは頭に埋め込まれた機械により、ヴァルナの指示を受けているに違いない。
「ラーマ！ナイフシース展開！近接格闘戦（ドッグファイト）準備！」
《イエス、マイマスター》
それと同時にラーマの前腕部に存在するナイフシースが展開され、飛び出したナイフの柄を掴み、ナイフを引き出す。
双魔の手に握られている短刀は、８５式戦闘近接短刀と呼ばれる対悪魔用の超振動ブレードである。
これは対悪魔との戦闘用に対霊攻撃力を高めるため、
刀身には、退魔のマントラをナノ単位で刻み込まれさらに刀身をシルバーコーティングが行われている。
もっとも、霊的攻撃力は微々たるものだが、それでも無いよりまし程度のものである。
片手にＭ−１６、片手に８５式戦闘近接短刀を装備した双魔は、
汚らしい涎を撒き散らしながら牙をむき出して襲い掛かってくるゾンビドッグの喉を短刀で一閃する。
それと同時に、監視カメラで監視しているヴァルナの合成音がスピーカーから響き渡る。
《どうですか？私の理想社会のモデルタイプは。
私に従えば、人間も悪魔も同様に平等な完全に平和な世界が訪れるのです。
それを否定する貴方は、戦いを望む悪であると判断します。》
「クソったれの機械野郎が！人類を舐めるな！
フォックス３！フォックス３！」
さらに、戦闘短刀と同様の超振動ブレードである近接戦闘用長槍を振りかざして襲い掛かるオークや鉤爪を振りかざすウェンディゴに対してＭ−１６を乱射して牽制する。
と、喉を切られたはずのゾンビドッグもゆらりと立ち上がってくる。
元々生きていないソンビは、喉を切られたくらいではどうという事は無い。
戦闘短刀はシルバーコーティングが施されているため、ある程度のダメージは与えられるが、それでも完全に倒せるほどではない。
恐らくは弾丸も効果が薄いであろうと判断した双魔は、
戦闘短刀をナイフシースに収納し、開いた手で、
ラーマのウェポンラックからＭ−１６の弾倉を数個取り出す。
そのまま床を疾走し、ゾンビドッグに近づくと、そのままゾンビドッグの腐った体に弾倉を叩き込む。
そしてさらにガシャンガシャンと駆動音を立てながら床を疾走し、ゾンビドッグの距離を取ると、
Ｍ−１６の弾倉を交換し、そのままゾンビドッグに向かってフルオートで乱射する。
そして、その弾丸は、ゾンビドッグに埋め込まれた弾倉へと集中的に叩き込まれる。
ゾンビドッグの腐った体に埋め込まれた弾倉は次々と連鎖して炸裂し、
ゾンビドッグの肉体の大部分を吹き飛ばす。
「オ、オオオ……。シ、タガエ。シタガエ。ヴぁるな様ニシタガエ。」
だが、その隙を狙うかのように、オークの手にした真新しい槍である近接戦闘長槍が双魔に向かって振り下ろされる。
とっさに身をよじって回避する双魔だが、それでも回避しきれず、肩装甲の表面が紙のように切り裂かれる。
双魔自身には刺さらなかったが、超振動ブレードである長槍は、ＡＤＡの特殊複合装甲すらも紙のように切り裂くのだ。
同時に、ウェンディゴが口から猛烈な勢いで冷え切った吹雪を双魔に叩きつける。
その猛烈な吹雪により、たちまちラーマの表面装甲が凍り付いていく。
「ぐ……！」
当然、内部にいる双魔も冷気によるダメージを受けるし、内部の人工筋肉や間接部が凍り付いてしまえば、身動きもとれずただやられるだけだ。
（寒冷地仕様ならそんなこともないだろうが）
《敵悪魔の超自然攻撃確認。対魔術防御プログラムの構成を行いますか？》
「ええい、何でもいい、とにかくやってくれ！！」
《了解。対魔術防御プログラム発動。ヴィシュヌ・フィールドユニット起動。
防御結界の構築を開始します。》
その瞬間、ラーマのパワードスーツの背中部分に装備されている酸素ボンベの様な円筒状の金属の筒がキィィィィンと唸りを上げる。
この内部にはマニ式対魔術防御装置が存在する。
マニ（祈祷車）とはチベットの寺院においてある宗教用具であり、
表面にマントラが刻みこまれ、内部に教伝が収められた円筒状の形をしている。
これを右回りに回転させると、回転させた数だけ、教を唱えるのと同じ徳が得られるとされる。
元々、インドとチベットは近くのため、亡命してきたチベットの人々のこの技術がインドに流れ込んできたのである。
それを応用したのがこの装置である。
表面にびっしりとインドの聖伝であるアタルヴァ・ヴェーダの呪文がくまなく刻み込まれ、
内部にインドの経伝で、呪法をその本領とする アタルヴァ・ヴェーダが収められたマニ車式魔力収束装置は、毎分８０００回転を行うことにより、
周囲の大気に漂う魔力（プラーナ）を収束し、それをマニ車の回転により詠唱効果を増幅させ、機体の周囲に防御結界を構築する。
ちなみに、この防御用マニ車に刻み込まれている呪文はアタルヴァ・ヴェーダの一説、敵の祭祀を無効ならしむる為の呪文である。
マニ車魔力収束装置が高速回転すると同時に、双魔の口からもマニ車に刻まれたのと同じ呪文が無意識に口から出る。
これにより、全く魔力のない、魔術など全く使えない人間でも防御結界を構築し、自分の身を護る事ができるのである。
次の瞬間、機体の表面装甲に穏やかな光がともり、それが装甲全体を覆っていく。
《防御結界の構築に成功しました。
室内の魔力（プラーナ）の量から推測しておよそ３６０秒結界の維持は可能と判断します。》
この防御結界を装甲表面に展開することにより、ある程度ではあるが敵魔術などの超自然的攻撃を防ぐ事が可能なのである。
当然、まだ初期レベルの防御結界しかできないが、もっと効率を上げて強力な結界を作ることが当面の課題である。
とっさに、双魔はＭ−１６を乱射して牽制をして距離を取る。
至近距離で乱射したため、大分弾丸はウェンディゴに命中しているのだが、強靭な生命力を持つウェンディゴはそれでも動き回っていた。
とっさに、双魔は手にしたＭ−１６を投げ捨てると、兵器担架システムの副腕が脇の下から自動的に差し出す予備のＭ−１６を手にする。
そのまま、両腕を振りかざして吹雪を吐きながら襲い掛かるウェンディゴに対して、グレネードランチャーを発射する。
グレネードランチャーは狙い違わずウェンディゴに命中し、炎に包まれる。
当然、氷原で暮らす彼は炎には弱い。
炎に包まれ、あっという間に地面に倒れる。
ラーマの機転で助かったともいえる双魔だが、彼は刺々しい声でラーマに向かって問い詰める。
「……おい。何でこんな防御装置があるなんて教えなかったんだ？」
《聞かれませんでしたので。》
しれっと平然で言ってのけるラーマに対して、双魔は唸り声を上げる。
「……本当にいい性格してるぜ。」
残るオークは近接戦闘をしなければいいだけの話だ。
距離を取ってＭ−１６の攻撃を行えば大したことはない。
Ｍ−１６の弾丸を叩き込むだけでオークはやがて倒れ付した。
「地球人がどうなろうがＦＡＦがどうなろうが俺には関係ない。
そんなことは知った事か。俺はやりたいことをやるだけだ。」
グッドラック・戦闘妖精雪風。
悪魔を倒し、さらに先に進む双魔だったが、さすがに弾薬が残り少なくなってきている、
どうしたものか、と考えて進んでいる彼にラーマからの提案が出された。
《マップデーターによるとしばらく行くと兵器庫が存在します。
そこで弾薬の補充を行う事を推奨します。》
「そうだな。そうするか。」
ラーマの指示に従い、兵器庫に入り込んだ彼は、出入り口をロックした上にコンテナなどで塞ぎ、一種のバリケードを作る。
これならしばらくは持つはずだ。
それに兵器庫の中では火器は使用できない。
もし使用したら兵器庫ごと自らが吹き飛ぶことになるからだ。
パシュンと音を立てて装甲が跳ね上がり、ラーマから分離して生身の体になった双魔は久しぶりの空気を吸い込む。
何らかの鎮圧ガスなどの心配したが、ＡＤＡには空気濾過フィルターや空気センサーも装備されている。
何かあったらすぐにラーマに搭乗すればいい。
と、そんな彼の前に異様な影が姿を現す。
レーダーで感知して自分の目で確かめて何もなかったはずの兵器庫にいきなり姿を現した影に双魔は驚く。
「何だ！？」
《マスター。落ち着いてください。
恐らくＣＧによる強制催眠によるマインドコントロールだと判断します。
早く私に搭乗することを推奨します。》
催眠効果のある異様な影とともに、倉庫に同様に催眠効果のある重々しい声が響き渡る。
《貴方は何も考える必要はありません。貴方は何も考える必要はありません。貴方は何も考える必要はありません。
逆らってはいけません。考えてはいけません。争ってはいけません。邪なことを考えてはいけません。
人間を正しく導けるのは決して間違いを犯さない機械のみです。従いなさい。従いなさい。従いなさい。》
「やかましい。ラーマ、銃をよこせ。後スピーカーや監視カメラの場所を教えろ。」
双魔はラーマから銃を受け取ると、ラーマが指示する監視カメラやスピーカーや投影機などを
次々と銃で打ち砕いていく。
ヴァルナはこの投影機から発生されるＣＧとスピーカーから発生される音声により、
施設にいる人間に強力な催眠術をかけて、ヴァルナの命令に絶対服従の人間たちを作り出している。
突入部隊はその対策として全てＡＤＡを装備して突入しているが、それでも洗脳される人間がいるくらいなのだ。
《ＣＧと音声による催眠術を用いた極めて強力なマインドコントロールなのですが……
それが全く通用しないとは、貴方は通常の人間と比較して異質であると判断します。》
「人を化け物呼ばわりするな。で、どうすればいい？」
《まずは私の推進剤と高濃度人工血液の交換と補充を推奨します。
ＡＤＡは人間と同様に高濃度人工血液を循環させていますので、濾過フィルターを通しても活動時間に限界があります。
まだ活動時間に問題はありませんが、これから先補充ができるとも思えませんので、ここでの補充と弾薬の補充を推奨します。
ＡＤＡ用のドロップタンクを私のバックパックに装備してください。》
双魔は兵器庫を探索して、Ｍ−１６の予備弾倉や使えそうな火器、ＡＤＡ用のドロップタンクなどを持ってくる。
まずは自分の持っていたＭ−１６の弾倉を交換し、ラーマの装甲各部に存在する弾倉入れに装備していく。
もう少しで弾切れになりそうだったので、この兵器庫を見つけられたのはラッキーだったといえる。
さらに、ＡＤＡの補充用のドロップタンクを見つけ、それをラーマの指示するままに、
ラーマの背中に存在するバックパックへと装備する。
これは作戦中に緊急にＡＤＡの燃料補給を行うために考案されたもので、
バックパックに装備するだけで、自動的にＡＤＡ内部の推進剤補充と高濃度人工血液の交換が行われる優れものである。
出入り口は封鎖状態にしてある。
念のため、キーをロックした上に、小型のコンテナなどで出入り口を封鎖してある。
ましてや武器弾薬が山ほどある兵器庫で火器を使用すればどうなるかは火を見るより明らかだ。
「お、レーションか。ちょうどいい。コイツをいただいておこう。」
《……マスター。無断使用は非推奨ですが。》
「細かいことはいいんだよ。きちんと兵器などはブラフマーの許可はもらってある。」
とりあえず双魔は、ラーマの近くに腰をかけると持ってきたレーションを食べ始める。
「そういえばお前はこれが終わったらどうするんだ。
また戦いに投入されるのか。何かやりたい事とかないのか？」
機械に対して「やりたい事」を尋ねるなどナンセンスにもほどがある。
だが、それでも共に戦った戦友に対して何も感じないほど、彼も無感情ではない。
それに純粋に意思を持つ機械がどんな反応をするか興味があるということもある。
《戦う事に異論はありません。
私は戦うために作られた機械です。
戦いを否定する事は自らを否定する事です。
……それに私は自らのモニターで『外』を見に行きたいのです。
人間が言う『美しい』という概念がどのような物であるか興味があります。》
ガツガツとレーションを食べながら何気なしに双魔は言葉を放つ。
「じゃあ、見に行こうぜ。この戦いが終わったらさ」
しれっと双魔はそんな不可能な事を簡単に言ってのける。
軍事機密の塊であるＡＤＡをそんな簡単に持ち出せるはずはない。
《……それは不可能だと判断します。
何より戦闘機械である私には意味がありません。》
そのラーマの言葉に、双魔は肩を竦めて答える。
「意味があろうとなかろうとお前がやりたいんだろう？
だったらやればいいじゃないか。
戦友のやりたい事ぐらい叶えてやるのが当たり前だろう。戦友的に考えて」
《……貴方方日本人は物に対して感情移入しすぎるのが悪癖であると判断します。
機械は機械として扱う事を推奨します。》
「おいおい、日本には昔から九十九神がいるんだぜ？
物だって百年立てば意思を持つのが日本さ。
別段喋る機械や電霊ぐらい珍しくもない。
……と、このデカブツはさっきのヤツが撃っていたのと同じものか。
術者じゃない俺にも撃てるのか？」
双魔が指差したのは、アメリカが開発したバレットＭ９５対物ライフルである。
これはバレットＭ８２対物ライフルを持ち運び出来やすい用に改良したライフルであり、全長を短くするために
ブルパップ方式になっている。
またセミオートマチック機構を排除し、ボルトアクションへと変更が行われている。
これには改良が加えられており、持ち運びできやすいように、折りたたみ機構が取り入れられており、
さらに銃身の横には、特徴的なマニ車機関が装備されている事が大きな特色である。
《アンチ・スピリチュアルライフル……日本語で言えば対霊ライフルに該当すると判断します。
対物ライフルを対悪魔用に改良した物で、銃身横に付属してあるアグニ神の祈祷が刻まれたマニ車機関により、
弾丸を発射したと同時に弾丸がアグニの神炎に包まれるシステムです。
術者であれば威力は増幅しますが、術者でなくとも問題なく使用可能です。》
「これはお前が持つ事は可能なのか？」
《肯定します。ＡＤＡの運用を前提に考えられていますので、折りたたみが可能になっています。
そのためＡＤＡの兵器担架システムに搭載可能です。
ですが、やはり重量がありますので、その分機動性と敏捷性は低下する事になってしまいますが。》
その言葉に従い、ラーマの背中にある兵器担架システムに、双魔は対霊ライフルを搭載する。
さて、もう一つはどうするか、と双魔の目に止まるものがあった。
「お、パンツァーファウストか。
もう一つの兵器担架システムにはこれを搭載するか。」
《その行為は非推奨です。確かに一撃の火力は向上しますが、短期間しか持ちません。
以前と同様のグレネードランチャー付きのＭ−１６の装備を推奨します。》
「はいはい。分かったよ。」
Ｍ２０３グレネードランチャーを装備したＭ−１６を発見し、もう片方の兵器担架システムに搭載し、
さらにもう一丁をラーマの片手に持たせる。
「さてと。それじゃ楽しい機械退治といくか。
全く、どこの映画だよ。」
《減らず口を言うのは後にすべきと判断します。》
「はいはい。それじゃ、行くとするか。
……コンタクト。」
そして、双魔はラーマに搭乗して再び戦いを開始した。
「他者と認めつつそれはまた自己の一部であると意識するのは人間にとってさほど珍しい現象ではない、
人間にはそういう能力があるといったな。それは何だ？」
「いいわ。私が言ってあげる。それは、その対象を愛するという事よ。
あなたと雪風、特殊戦の戦闘機械知性体とその人間たち、
それを結びつけているのは、愛する、という能力なのよ。」
グットラック・戦闘妖精雪風
一方、ツインタワー上層部。
そこはモニターと機械によって埋め尽くされており、地下での戦況が逐一報告されていた。
双魔の他にも突入部隊による突入は行われていたがどれも芳しくない結果だった。
その中にいる少女に見える一人の存在……ブラフマーは近くのモニターを覗き込んでいる女性に話しかける。
「どうじゃ？データーはとれておるかの？」
それは双魔……ラーマの戦闘データだった。
ラーマのデータは戦術データリンクを通して逐一こちらに流れこんでいるのだ。
近接戦闘行動、回避行動、マニ車機関の変化率など詳しいデータを解析中の女性はブラフマーに答える。
「はい。ですが……信じられません。
たった数時間の機種転換訓練を受けた程度で彼はＡＤＡの力を１００％、いえ、限界以上まで引き出しています。
今までのテストパイロットたちとは比べようもないほど良好な結果がでています。
長期間シミュレーターによって訓練を受けたテストパイロットたちですら、初めてＡＤＡを装着したときは、
振り回されてまともに動けなかったというのに。
まるで彼とラーマは機械と人間の複合生命体のような連携を見せています。」
その女性の言葉に対して、ブラフマーは極めて楽しそうに笑う。
「くくく……そうじゃ。そうでなくては面白くない。
機械と人間との完全なる融合。
それこそが、これからの悪魔との戦いで大きな役割を果たしていくじゃろうからな。」
それを聞いた女性は、自らの疑問をブラフマーにぶつける。
「機械と人間との融合というと……例えばサイボーグとかでしょうか？」
「違うな。サイボークとは人間の肉体に機械を埋め込んだ物理的融合を行った存在にすぎぬ。
ワシの言っておるのは、機械と人間がお互い独立した意思を持ちながら、
それでもなお、信頼しあい、手を取り合って協力しあう関係じゃ。」
そのブラフマーの言葉を受けながら、女性はその言葉を自分の中で再構築して慎重に話を続ける。
「お互いに独立した意思をもった機械と人間との協力関係の構築……。
つまりは、人工知能と人間との共存、進化した人間（ポストヒューマン）ということでしょうか？」
「まあ、その一つの可能性ではあるな。
独立した異質な存在同士がお互いが信頼しあい、協力しあいながら戦っていく。
これこそが、これからの戦いにおいて必要不可欠となろうな。」
「ですが……もし仮に一方が一方を支配しようとしたら？
例えば人間と機械との間に戦争がおきたりしたら……？」
そこまで口にして女性ははっと口を噤んだ。
それこそ、今この場で起きている状態そのものではないか！
「さて、人間を支配しようとする強力な機械と、機械と人間との融合体。
果たして生き残るのはどちらじゃろうな？楽しみじゃのう。」
にんまりと、彼女は歪んだ笑みを浮かべた。
こんにちわ。零です。
色々混ぜてディストピアを否定した小説を書いた結果がごらんのありさまだよ！
なんというカオス。
意思を持った機械と人間の掛け合いはいいですね。
ナイトライダーとかガンヘッドとか大好きです。
よろしければ感想などいただけるとうれしいです。
なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
また登場する人物は全て１８歳以上です。
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