最近モバマスにはまっているのと、とある同人誌で奈緒と蘭子がユニットを組んでいるのを見て、
面白そうだったのでつい書いてみました。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
それではー。
「……はあ。」
ここはアイドルの大手事務所のビルの屋上。
そこで一人のラフな格好のポニーテールの女性が溜息をついていた。
彼女の名前は、神谷奈緒
「凛や加蓮は順調にアイドルの仕事があるのにアタシは……。
はあ、やっぱりアイドルに向いていないのかなあ……。」
華のある凛や加蓮に比べ、彼女はいまいち地味で野暮ったいというのが世間一般の評判だった。
そのため、彼女たち二人が順調に上に上がっているのに対して、
彼女は全く人気が上がらないのが、彼女自身のコンプレックスだった。
「はあ、どーせアタシなんて何をやってもダメなんだ……。
そうだ、やっぱりアタシなんてアイドルには向いていないんだ……。
うん、やめよう。アイドルなんてやめさせてもらおう。
それでアタシは青春を謳歌するんだ！そうしよう！」
そう彼女は叫ぶと立ち上がった。
「奈緒ー！ちょっと来てくれー！」
そうプロデューサーが彼女を呼んでいる。
ちょうどいい機会だ。
今日こそ、アイドルをやめようとプロデューサーに言おう。
そんな風に階段をとぼとぼと歩いてプロデューサーの方に向かう彼女。
そしてプロデューサーの待っている部屋に入った彼女は、目を奪われる事になった。
「―――っ。」
瞬間、目を奪われた。
プロデューサーのとなりに静かに目を閉じて立っているゴスロリ姿の銀髪の巻き毛の女性。
その絵画を一つ切り取ったかのような非現実的な美しさは、
まるで何処かの妖精の国から出てきたと言っても過言ではないぐらいだ。
「（す、すげえ……まるでマンガやアニメのお姫様やドールみてえだ……。
私なんかとは……違う。）」
その美貌に見とれて、そして自分の野暮ったさに打ちひしがれながらも、
奈緒は、プロデューサーに問いかける。
「あ、あの、プロデューサー？
これは……？」
「ああ、来たか奈緒。
こちら、熊本から神崎蘭子だ。
よろしくな。それで、今日の話というのは彼女と……。」
その瞬間、今まで目を閉じて静かに佇んでいた彼女は、すっと目を開ける。
そして、その薔薇のような唇が微かに動き、そこから発せられた言葉は―――。
「くくく……。汝が我が闇の同胞か……。
我が名は神崎蘭子！
闇より出てて全ての存在を魅了せんと欲する存在！
同胞よ！今こそ我ら双翼となりて共に飛びたたん！！」
……厨ニ病だった。
全力全開の厨ニ病だった。
「ち、厨二病だ―――ッ！！
あ、アタシの感動を返せぇえええ！！
っていうかプロデューサー！まさかユニットってこの子と……！？」
「そのとおり！奈緒！お前には彼女とユニットを組んでもらおう！」
「な……。」
「何だってぇえええええええ！！」
奈緒の絶叫がビル全体に響き渡った。
―――それからしばらくの後。
奈緒と困惑と拒否をしづつけたが、プロデューサーと蘭子のゴリ押し。
そしてそれによる社長の快諾許可により、奈緒の意見はあっさり却下。
そして、ついに二人でユニットのための準備に入る事になった。
「こ、これって……！アタシにもこれ着れっていうのかっ！？」
奈緒の前にあるのは、やはりというか何というか、蘭子が纏っているのと同じ系列……いわゆるゴスロリ系の服だ。
しかも黒系でフリルをふんだんに使用したいかにもお姫様といった格好の服である。
元々、奈緒はラフな格好を好み、そういう可愛い系の服装はほとんど着た事がない。
こんなの気恥ずかしいにもほどがある。
「こ、こんなカッコ似合うわけないだろ！？おい、プロデューサー何とかしてくれよ！」
「……いや、似合うと思うよ俺は。」
そのプロデューサーの言葉を聞いた瞬間、奈緒の顔は一気に真っ赤になる。
「なっなななな！
いきなり何を言い出すんだよプロデューサー！！
……で、でもまあプロデューサーがそこまで言うのなら試しに着てみても……。」
「案ずるな同胞。我と汝二人が揃う限り無敵！
いざ行かん！至高の頂きへ！！」
「こ、こら蘭子引っ張るなってば！ひ、一人で着替えられるからやめろーーっ！！」
そんなこんなで更衣室でしばらくドタバタした後で、ようやく着替えが終わった奈緒がおそるおそると姿を表す。
「ったく……。こんなカッコアタシに似合う訳ないっての。
な、何だよプロデューサー！
変な目でこっち見るなっ！！」
顔を真っ赤にしながらゴシックドレスを身にまとい、髪には大きなリボン、
そしていつものポニーテールではなく、ウェーブのかかったロングヘアーにした彼女の姿。
それを見て、プロデューサーは大きくうなづいた。
「いややっぱり似合ってるぞ奈緒。
うん、これならトップアイドル間違いなしだ！」
「プ、プロデューサーっ！
へ、変なこというんじゃねえよ！！」
それに対して、奈緒と対になるような普段とは異なる白いゴシックドレスに身を包んでいるのは、やはり蘭子である。
「ククク……やはり我の真実を見抜く魔眼に衰えはなし……。
同胞よ！これがそなたの真実の輝き！魂の煌きなり！
これよりそなたの真実の名前をシュバルツ・フローレンと名付けよう！」
「そして、下賤の者に汚されぬ清浄なる白き衣を纏いし我は、ヴァイス・フローレン……。
我ら二人が揃いし前に敵はなし！！」
ノリノリで言葉を放つ蘭子に対して、ふと奈緒は気になった言葉を放つ。
「……シュバルツ・フローレンとヴァイス・フローレンって確か某アニメに出ていなかったっけ？」
「（ぎくっ。）」
だが、その彼女の動揺は幸いなことに誰にも知られることはなかった。
「……ユニット名？」
そんなどたばたがあった後、奈緒と蘭子、そしてプロデューサーは机に向き合って会話をしていた。
内容は、二人のユニット名の事である。
インパクトがなすぎても問題だし、奇をてらっても単なる色物扱いになるだけだ。
「確かに……真名は魔術界において極めて重要……。
我らにふさわしい高貴なる名前をつけねば……。」
「いや、アタシ派手な名前はちょっと……。」
「こういうのは上から決めるよりも、二人で決めてもらったほうが思い入れが沸くからな。
できれば二人で相談して決めてほしい。」
そのプロデューサーの言葉に、二人はうーんと考えこむが、不意に蘭子がくくく……といきなり勿体つけて言葉を放つ。
「ククク……思いついたぞ。
我ら二人の真実の真名が。
跪け！そして畏怖し恐れ讃えよ！
我と我が同胞の真名は……ツヴァイ・フローレンと名付けよう！！」
「ツヴァイ・フローレン…ドイツ語で『二人の令嬢』か……。
うん、いいんじゃないか？」
「ま、まあそれならまだ……あれ？
でもツヴァイ・フローレンって確かどこかのアニメで聞いた気が……。」
「（ぎくぎくっ）」
……まあそれはともかく、ユニット名も決まった彼女たちはさっそく歌や踊りなどのレッスンなどに入る事になった。
単なる色物ではなく、しっかりとしたアイドルとして活躍するために、
歌や踊りのレッスンは厳しい物はあったが、それでも二人は力を会わせてメキメキ上達していった。
「ハッ！どうしたよ蘭子！闇の眷属とやらはその程度か！？」
「さ、さすがは我が朋友……見事よ。
だが、我とて負けはせん！！
（さすがです奈緒さん！でも私も負けません！」）
「あー、蘭子。今のところだけど動きが大きすぎ。あれじゃ後が続かないしバランス乱れるから。」
「ふむ……。なるほど道理よ。承知した。改善するようにしてみよう。
（分かりました。直してみるようにしてみますね。）」
そんなこんなで、何となく奈緒も蘭子の言う事が解るようになってきた。
言う事は大げさだが、根は実に素直ないい子である。
奈緒も照れ屋ではあるが面倒見はいいし、先輩として相手に分かりやすく教える事も長けている。
一方の奈緒も蘭子の破天荒な言動に突っ込みを入れながらも、今まであまり得意ではなかった歌のスキルや、
野暮ったいと言われていた雰囲気も段々と変わっていった。
そして、始めてのTV出演やCDデビュー。
始めは細々とした物だったが、二人の非現実的な美しいビジュアル、本物の歌唱力を持った二人の歌、
そして厨二病のボケと常識的な突っ込みという要素が重なり二人は一気にヒットするようになった。
「奈緒！蘭子！喜べ！
今度は大きい歌番組に出れるぞ！
ここで成功すればさらに勢いに乗れるぞ！」
「ほ、ほんとかよプロデューサー！」
「我と朋友の力を以てすれば造作もない事……。
皆に我らの輝きを見せつけようではないか！
（やりましたね奈緒さん！頑張りましょう！）」
―――そして歌番組当日。
「うう……そうは言ったもののアタシにそんな大舞台務まるかなあ……不安だ……。」
何回かTV出演をしてきた奈緒と言っても流石にここまでの大舞台は始めてである。
自分がしっかりやれるかどうか不安は大きい。
だが、それを吹き飛ばすように蘭子は厨二カッコいいポーズを取りながら声を上げる。
「ふふふ……。震えているのか？我が盟友よ。
汝の不安はよくわかる。我とて同様なのだからな。
だが怯えるな！ここにはそなたの盟友である我がいる！
比翼連理たる我がいる限り、ツヴァイ・フローレンは無敵！
いざ行かん！至高の頂きへ！！」
だが、そう言いつつ蘭子の手が微かに震えているのを奈緒は目ざとく発見する。
それはそうだ。
彼女は奈緒より遥かに経験がないのだ。奈緒より遥かに緊張して当然だ。
それを見て奈緒は大きく反省する。
こういう時こそ先輩である自分がしっかりしないといけないのに。
「よし！アタシに任せておけ！
行くぞ蘭子！多少の失敗ならアタシがフォローする！
ツヴァイ・フローレン！行くぜぇええ！！」
「それでこそ我が同胞よ！いざ行かん！我らの飛翔の地へ！！」
あm
―――結果から言えば、番組は大成功だった。
蘭子の厨二病のトークと奈緒の常識的なハイテンション突っ込み。、
そしてそれに反するような二人のゴシックな衣装、蘭子の神秘的な雰囲気、そしてガチ曲が受けに受け、
彼女たちは一気に大ヒットに躍り出る事になった。
「奈緒！蘭子！ツヴァイ・フローレンのCDトップ１０に入りそうな勢いだぞ！」
「ほ、ホントかよプロデューサー！？
嘘じゃないんだろうな！？」
「くくく……。我らの力を持ってすればこの程度は当然……。
だが正当なる評価ならば受けるのが礼儀というもの。
ありがたく受け取ろうではないか。
（ほ、本当ですかプロデューサー！とっても嬉しいです！）
「ああ！本当だぞ二人共！！
この調子で、凛や加蓮に追いつけるように頑張るぞ！！」
「お、おう！！やってやるぜ！！
よーし、ようやく凛や加蓮と並べるんだ……！アタシも……！！」
「………。」
ようやく凛や加蓮と同じぐらいにまで並べる、その嬉しさに奈緒は嬉しさに隠そうとはしなかった。
自分では届かないと諦めていた友人とようやく肩を並べられるのだ。
こんなに嬉しいことはない。
だが、その嬉しそうな奈緒に比べて、蘭子はどこか少し寂しそうな顔を見せていた。
蘭子のその少しさみしげな表情の意味する所に気づくのは、もう少し先の話だった。
―――その後も、ツヴァイ・フローレンの快進撃は続く。
CDは大ヒット、二人の天然厨二病ボケと心労常識的突っ込みは人気を増すばかり。
その勢いは、現在若手の人気アイドルである渋谷凛と加蓮に匹敵するばかりになった。
「ユニット！？アタシと加蓮と凛で！？」
「ああ！とうとう三人で並んで歌を歌える機会が出てきたんだ！やったな奈緒！」
そのプロデューサーの言葉に、奈緒はまさしく狂喜乱舞する。
「やったっ……！やったやったやったー！！
これであの二人に並べたんだ！」
まるで火が付いたように喜ぶ奈緒。
正直、華やかでルックスもよく、才能に溢れているあの二人に比べて、
いまいちルックスで劣り、地味な自分自身が彼女にとってのコンプレックスだった。
それが彼女と肩を並べられたのだ。
こんなに嬉しい事はない。
「流石は我が盟友よ……。
ようやく愚衆がそなたの魅力に気づいたと見える。
実に喜ばしい事ぞ！！
（やりましたね奈緒さん！私も嬉しいです！！）」
だが、やはりその蘭子の表情はどこか寂しそうだった。
そして、その寂しそうな顔に奈緒もプロデューサーも気づく事はなかった。
―――それからはとんとん拍子に話は進んだ。
ユニット名はトライアドプリムス。
黒のゴシックを基本とした華やかな衣装。
大人気の新人気鋭の三人が揃って歌うというこのユニットは始まる前からファンの間では大きな話題となった。
そして、奈緒やプロデューサーもその準備に大わらわになっていた。
「ふ……同胞よ。今日は……。」
「悪い蘭子！これから加蓮と凛と打ち合わせなんだ！じゃあな！」
「ふ、我が下僕よ。これから……。」
「すまない蘭子。ちょっとあの三人の件で……あ、はい。すみません。すぐ調整しますので、はい。」
「………。」
そうして、プロデューサーと奈緒が忙しく走り回っている中、蘭子は一人で黙々とダンスレッスンに取り組んでいた。
「大丈夫ですか？蘭子ちゃん。ちょっと調子悪いみたいだけれど。」
そんな彼女に話しかけてくるのはルーキートレーナーである。
「ふ、ふふふ若き指導者よ。愚問よ。
朋友がいなくとも…いなくとも…。」
その瞬間、蘭子の目からぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「さ、寂しいよお……ひ、一人はいやだよお……。」
急に大泣きしだした蘭子を懸命にルーキートレーナーはなだめにかかる。
「よ、よーしよしよし。
全くもうプロデューサーも奈緒ちゃんも忙しいのは解るんですが
蘭子ちゃんほったらかしにしすぎですよねえ……。
大丈夫ですよ。蘭子ちゃんは一人じゃありません。
プロデューサーも奈緒ちゃんもちょっと忙しいだけですから。」
「ひっく……本当……？」
「ええ、本当ですよ。だから二人でしばらく頑張りましょう。」
「……うん。」
ルーキートレーナーに頭を撫でられながら、蘭子はそう素直に頷いた。
―――そして、トライアドプリムス、ライブの当日。
客は超満員。マスコミも大々的に取り上げられている。
さすがのこの規模に可憐な衣装に身を包んだ三人も緊張を隠せない。
「へへっ……。すげえ人だな。
さすがに緊張してきたぜ……。
だが問題ない！加蓮！凛！
何かあったときはアタシがフォローしてやるよ！
アタシたち三人のトライアドプリムスは無敵だっ！！」
どうも蘭子と長いあいだ付き合っていたせいで彼女の勢いというか度胸が奈緒にも感染してきたらしい。
そんな奈緒に対して、凛も加蓮もくすりと笑う。
そして、そんな三人の表情は先ほどの緊張していた顔より遥かにリラックスしていた。
「くくく……我が同胞よ。それでこそ汝よ。
（こんにちわ。奈緒さん。）」
「お、蘭子か。応援に来てくれたんだな。
ありがとよ。へへっ、見てろよ。
お前と一緒に鍛えた歌とダンス、思う存分発揮してやるぜ。」
「………。」
その彼女の言葉に、蘭子は思わず顔を伏せる。
今の奈緒はとても生き生きとしている。
やはり、この後もこの三人でユニット活動をしていくに違いない。
そうなれば自分とはもうユニット活動はできなくなる。
とても寂しいけれど、それは仕方ないことだ。
奈緒にとって大きなチャンスを自分の我侭で潰す訳にはいかない。
しばらく顔を伏せたままだった蘭子は決意を込めて顔を上げると言葉を放つ。
「な……奈緒さん……。
わ、私貴女とユニット活動できてとても嬉しかったです。
だ、だからこれからも応援してますので頑張って下さい。
私の事は……たまに思い出してくれるぐらいでいいですから。」
そう言いながらも、蘭子は何とか奈緒に向けて笑顔を向ける。
それでも目元に僅かに溢れ出る涙を抑えることはできなかった。
まるでお別れのようなその言葉を奈緒は笑い飛ばす。
「はあ？何言ってんだよ蘭子。
言っとくけど、ツヴァイ・フローレンは解散なんか全然してねーからな！
二人でガンガン歌ってヒット飛ばすぜ！
これからも一緒に頑張ろうな！！」
「―――ッ！！は、はいっ！！」
その奈緒の言葉に、蘭子は涙を浮かべながら頷いた。
そしていよいよ三人のライブの時間だ。
大舞台に飛び出していく三人の後ろ姿を、蘭子は眩しそうに見つめていた。
―――そしてライブ後。
「……あのな蘭子。
勘違いしているみたけど、トライアドプリムスは大きなイベントやライブ用だけだからな。
基本的には、今まで通りツヴァイ・フローレンで行くから。」
「そ……そんなの聞いてないです！
私の感動とか涙とか色々返してくださーい！！」
そのプロデューサーの言葉に、事務所に蘭子の叫びが虚しく響き渡るのであった。
こんにちわ。零です。
最近モバマスにはまっているのと、とある同人誌で奈緒と蘭子がユニットを組んでいるのを見て、
面白そうだったのでつい書いてみました。
よろしければ感想などいただけるととても嬉しいです。
それではー。